『寂しい』のだと白状すれば、
この距離は縮まるのだろうか。
『会いたい』と素直に言えれば、
あなたは応えてくれるのだろうか。
気持ちが知りたいだけなのに、
『あなたはあたしがいなくてもいいの?』と。
返答は、いつだって冷たくて。
< 焔色の想い >
「…はぁ」
周りは冷たい壁。手には重たい手錠。目の前には視界を遮る鉄格子。
一体何であたしが、牢屋に入れられなければならないんだろう。
時をさかのぼる事、数分前。
「ねぇアッシュvv」
「またお前か…」
「うん、またあたしvv」
「で、仕事は終ったのか」
「まだvv」
「じゃぁ何故ここにいる?」
「アッシュに会いたかったからvv」
「………」
アッシュは呆れたように椅子を立つ。
ここはアッシュの私室だ。
「、お前は誰だ? 言ってみろ」
「はいはいっ! 神託の盾騎士団、特務師団所属、・!!
アッシュ師団長の元、日々愛されるべく努力している健気な16歳でっすvv」
「そこまで聞いていない」
アッシュの返答に、あたしはすっかりむくれていた。
「…、お前がここにいるのは、神託の盾の一員として働くためじゃないのか」
「そう、だけどさ。だけどあたしは、アッシュの事好きなんだもん!」
「私情を仕事に挟むんじゃない。……俺はお前の腕を見込んでこの隊に入れたんだぞ」
「解ってるけど……!! …アッシュは、あたしのことなんてどうでもいいみたいで…」
アッシュはあたしの発言にため息を着くと、冷たい瞳であたしを見た。
「……しばらく頭を冷やせ。これじゃお互い仕事ができない」
その目をあたしは、忘れることができない。
「……今日くらい、仕事しなくていいじゃん」
ほんとは、今日のどころか明日分の仕事まで終わらせてる。
ほんとは、アッシュの仕事を手伝う気でいたのに。
ちょっとした冗談で、本気で怒られて、
挙句の果てに、牢屋に入れられるなんて…。
「今日は…あたしたちが出会った日。…アッシュが信託の盾に入団した日なんだよ…?」
あの日の、何かを決意したかのような、貴方の熱い瞳。
脳裏に焼きついて、忘れられなかった。
そんな貴方の側に行きたくて…ここまで必死に頑張ったのに。
「アッシュは……アッシュは、あたしのことなんて…ただの部下としか、思ってないんだね…」
「何一人でぶつくさ言ってんの」
「アッシュ!? あ……」
声が聞こえ振り返ると、そこには仮面をくるくると回しているシンクの姿。
シンクが人前で仮面を外すの、すっごく珍しいんだって。あたしの前じゃ、いつでも外してるのに。
「誰がアッシュだって?」
「あー何だ、シンクかぁ…返してよ、私の喜び」
「…折角、牢屋の鍵取って来てやったのに…いらないんだ?」
「うわーいッうわーいッシンクが遊びに来てくれたー!! ちゃん嬉しいなーっと!!!」
そんなあたしにシンクは軽く(鼻で)笑った後、鍵を鉄格子の鍵穴に差し込んだ。
「全く…どこにもいないと思ったら、こんなとこに閉じ込めてあったなんて」
「…何となく物扱いされてる気がするんだけど。とにかく有難うね、シンク」
「別に。それより、どこか遊びに行くよ。今日は特別」
「へっ? 何で?」
「何でって…」
シンクは怪訝そうな顔であたしを見た後、未だ牢屋の中で座り込んでいるあたしに近づき、手錠も外してくれた。
「今日、アンタの入団日だろ? お祝いしてほしくないの?」
「え、違うよ。今日はアッシュの入団日」
「そっちは知らないけど、確かには3年前の今日、入団したはずだよ」
「……嘘…あたしも、アッシュと同じ日に入団してたの…?」
「おい、そこに誰かいるのか!!」
「!!」
聞き慣れた声が聞こえ、あたしは ぱぁっと顔をほころばせた。この声は…
「アッシュ!!!」
入り口のほうからこっちに走り寄ってきたのは、紛れも無くアッシュだった。
「シンク…表で看守が倒れていた。…お前の仕業だな?」
「そうだけど」
「…もういい、さっさとそっから出ろ」
「何で素直に、から離れろって言わないかなぁ」
「なっ……」
へ…シンク、何言ってんの!?
「大体、が自分の仕事終わらせて自分のところに来てくれたのに、自分がまだ終わってないからってショックで怒るって、頭おかしくない?」
「…はい?」
「お、おいっ!!」
「しかも、僕から隠すみたいにこんな所に閉じ込めてさ。今だって僕がここにいなきゃ、に手ぇ出すつもりだったんだろ?」
「なっ…シンク!?///」
あたしは助けを求めるようにアッシュを向いたが……何故か、アッシュの頬が赤い。
「…ま、今日は大人しく身を引いてやるよ」
「ちょ、ちょっと待…!!」
「アッシュ」
シンクが牢屋を立ち去ろうとアッシュの隣を通った時、何か、アッシュに言った。
ここからじゃ何て言ったか解らないけど、アッシュがやられた、といった顔をしている。
「………」
「……」
「っは、はいっ!!」
急に呼ばれ、あたしは身を強張らせた。
そんなあたしの様子にアッシュは少し頬を緩ませ、牢屋の中に入ってきた。
「…本当は、全部解っていた。シンクの言った通りだ」
「え…」
「お前がどうして俺の所へ来たのかも、本当は仕事を終わらせて来たのも。…全部解ってた」
「えっ、え…!?」
「…いつもは忙しくて、ろくに話もしてやれないからな。…だが、ここでは叱られて牢屋に入れられた部下と、その部下の様子を見に来た上司だ」
「それって…」
「今は、お前と話すのが仕事だ。……何も気にせずお前の相手ができる」
「…そのために…あたしをここに…?」
「…すまんな…」
俯いて言うアッシュに、あたしは首をぶんぶんと横に振った。
「ううんっ、嬉しい……だから、謝らないで」
「ああ…」
アッシュは顔を上げ、徐にあたしの髪に手を伸ばした。
顔を赤くするあたしに構わず、アッシュはその一総を手に取り、眺めながら言う。
「……。お前、俺に言いたい事があるだろう?」
「……えーっと…」
「言ってみろ。…それを聞くために、この時間を作ったんだからな」
「……」
…『寂しい』のだと白状すれば、
「あの、ね」
この距離は、
「ああ」
………縮まりますか…?
「…寂しいん、だ…」
口から零れた、言葉。
一度口にしてしまうと、もう、止まらない。
「寂しくて、恐くて、辛いんだ。…アッシュに会いたいって思う度、アッシュの気持ちが解んなくて…」
気持ちが、ぐちゃぐちゃになって、うまく文章にならない。
「あたしは………アッシュに必要ないんじゃ無いかって…アッシュはあたしがいなくてもっ―――」
―――あたしがいなくてもいいの?って……
「………!!」
「馬鹿が…」
途絶えた言葉、
止まる思考、
聞こえるのは、どくどくと脈打つ、早い心臓の音。鼓動。
「ア、ッシュ…?」
「お前がいなきゃ…がいなきゃ、俺はここまで頑張れない」
「!」
「お前が好きだから……この気持ちを伝えれば、俺はお前と繋がることができて…満たされてしまうかもしれない。…俺にはそれが恐かった」
「アッシュ……」
「だけど、違ったな。…お前は俺を支えてくれる。俺に頑張れと言って叱咤してくれる。
……だから俺は、お前を手に入れても決して腐る事は無い」
アッシュはあたしから身体を離すと、じっと、見つめてきた。
「…俺はを愛している。……これからも俺の下で、俺のために働いてくれないか」
「アッシュ………」
あたしは嬉しくて、涙を流した。
何度も何度も、声にならない肯定の意を、頷くことで表した。
「……有難う」
「…うん…じゃぁこれからはあたし、どうしても会いたい時は、何か問題起こしてここにぶち込まれることにするねっ!!」
「…やめてくれ」
「何でー!?」
「……俺が困るからだ。…気持ちが抑えられなくなる」
「なっ…破廉恥な…」
「言ってろ、馬鹿」
アッシュはほんの少し頬を染めながら、あたしの腕を掴んで立たせた。
「もっと仕事が少ない日だってある。そういう時に会えばいいだろう」
「むー…」
「…今日は仕事は終わらせてきたから、好きな所につれてってやる」
「今日って、もう夕方じゃん!! 船無いじゃん!! ダアト限定じゃん!!!!」
「不満ならいいんだぞ」
「うわーいッうわーいッアッシュと一緒にデートだデート!! ちゃん超嬉しいなーっと!!!!」
何だか、アッシュといいシンクといい、あたしってそんなに扱いやすいかなぁ……。はぁ。
ん? シンクといえば……
「そいえばアッシュ、さっきシンクに何て言われてたの?」
「あ? ああ……あれか…」
―――これくらいしなきゃ、アンタ素直になんないだろ?
「し、芝居ってこと!!??」
「いや、あいつは本気でお前を……あ、いや」
「? …変なアッシュ」
「気にするな、馬鹿が」
「あ、また馬鹿って言うー」
あたしの大好きな人は、
信念を持っていて、
誰よりも強くって、
誰よりも優しくて、
そして、
丁度こんな夕焼けみたいな、暖かく強い光を帯びた、
焔色の想いを胸に秘めた、
それはそれはカッコいい人なのです。
end.
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久しぶりのアビス夢。愛するアッシュ様夢ですた。
ちゃんとシンクも出したよ!!サブだけど!!