「ただいま帰りました」
「!!」
私はその声を聞き、玄関へ走った。
<貴方の側が好き。>
「蔵人!!」
「やぁ、」
蔵人は、いつもと変わらない笑顔で、だけどボロボロのコートを羽織って帰ってきた。
「だ、大丈夫? 怪我、無い……?」
「平気ですよ」
おろおろとする私と対照的に、蔵人はにこやかに笑って返事を返した。
「外寒いでしょ、コーヒーでも入れるわ。入って!」
私は蔵人を中にいれ、お湯を沸かした。
「今回の仕事は、楽しめたの?」
「中々でしたよw」
「そうだよね、そんなボロボロで帰って来るんだもん。強い人と戦えたんでしょう?」
「ボロボロなのはコートだけですよ」
軽くため息を着く蔵人の前に、淹れたてのコーヒーを出す。
「どうぞ」
私は蔵人の隣に座り、コーヒーを飲む蔵人を見つめた。
「…のコーヒーは美味しいですねぇ」
「それは良かったw ソレ飲んだら、シャワー浴びるでしょ?」
「ええ。お願いできますか?」
「うん!」
私はお風呂のガスの元栓を開けに行った。
蔵人と付き合って、もうどれくらいだろう。
赤屍 蔵人。――通称、ドクタージャッカル。
私だって知っている。蔵人は、何のためらいも無く人を殺せる…殺人鬼。
でも、それなら掃除屋とかやるハズだし、蔵人がやってるのは運び屋だもん。
私は、『仕事の過程がいかに楽しめるか』、そう言っている蔵人を信じてる。
どれ程人を殺しても、どれ程それに快感を感じても、
蔵人は意味も無く人を殺すような通り魔とかじゃない。
仕事の中で、それこそ邪魔だから殺す。
それだけの事だから、私は蔵人を恐れたりしない。
「まぁ、かなり常識を逸脱した考えなんだろうケド」
しょうがないじゃん。
だって、好きなんだもん。
「どうかしましたか?」
「!」
考えてて、手が止まっていた私。
心配したのか、蔵人が様子を見に来た。
「ううん、何でもないよ。ガス栓開けといたから。…コート脱ぎなよ」
両手を差し出す私。
蔵人は無言でコートを私に渡すと――私を一気に引き寄せた。
「な、何っ…!?」
「……」
強く抱きしめられ、私は心臓が高鳴るのを感じた。
「…何でもありませんw」
「へっ?」
私の拍子抜けた声と同時、蔵人は手を離した。
「…一緒に入りますか?」
「はっ……入りませんっ!!!!」
私は赤い顔をしながら脱衣所を後にした。
「………」
私はリビングで、手にしたコートを抱きしめながら、その場にへたり込んだ。
「な、に…考えてるのか、解んないよ…」
たまに考える。
仕事でいない時のほうが多い蔵人。
それでも、大抵は無傷で帰ってくるし、今回みたいにコートだけ切れてたり汚れてたりする事はたまにしかない。
ていうか、怪我しても大抵ここに帰ってくるまでに治っている。
……だったら、もしも大怪我してしまった時……
蔵人は、ここに帰ってきてくれるのかな……?
「……」
シャワーの音が聞こえる。
蔵人はそんな長風呂な方じゃないから、すぐに出てくる。
今泣いたら、蔵人に見られてしまう。
「…コート…直そっかな」
私は裁縫箱を取り出し、床に座ったままコートを縫いだした。
針を通すたびに、蔵人が戦っていた事を実感する。
ふと香る、蔵人の匂い。
コートから香ってくる。
さっき、抱きしめられた時と同じ…優しい匂い…。
「針仕事は危ないですよ」
「!!」
ばっと振り向くと、いつの間にかすぐ後ろに蔵人が立っていた。
……しかもバスローブ姿で。
「代えならいくらでもありますから。が怪我をしたら大変ですからね」
そう言って、コートを私の手の中から奪う。
「これは捨てて結構です」
「じゃぁ私に頂戴!!」
「欲しいなら新しいものを…」
「それがいいの」
蔵人は首をかしげる。
「だって…それしか、蔵人の匂いがするの、無いんだもん。…寒い日は、蔵人に包まれていたいの」
貴方はいつでも、私の側にいられるわけじゃない。
いつでも帰ってくる保障は無い。
側にいて欲しい時、
貴方はいつもいないから。
「……」
「!」
うつむく私を、温もりが包み込む。
優しい匂いがして、私は抱きしめられている事に気づいた。
さっきより、ずっと優しく、抱きしめられていた。
「では、私自身が暖めて差し上げましょうw」
「…こうしてほしい時に限って仕事でいないんだよ、蔵人は」
私も蔵人の背に腕を回し、その温もりに浸った。
「…」
「ん…ぅ…」
急に顔を持ち上げられ、深く、キス。
「っはぁ……///」
顔を赤くする私を見て、蔵人は微笑んだ。
「…離れる度に愛は深まるものなんですよw」
「って計算!!??」
相変わらず、蔵人は解らない。
解らないのに、
蔵人は私を解っているようで、
…少し、ズルいと思う。
それでも、こうやって私が貴方の温もりを求める時、
貴方は決して、自分からは私を離さない。
そうしてる内に、私は腕の中で眠ってしまうし、
いつの間にか蔵人に連れられて、
今日もベッドの中、私は貴方の温もりに包まれる。
私は、
貴方の側が好き。
end.