「おや…、どうかなさいましたか?」
部屋の隅で三角座りのまま背を向けている。
「?」
「うわっ!?」
蔵人はの肩を引くと、をその腕の中に収めた。
「は、離せ、馬鹿!!」
「怒っている理由を聞かせてもらうまで離しませんw」
「じゃぁ言ってやる!!」
は振り向き、蔵人の腕を握った。
「アンタこないだの23日が誕生日だって…何で教えてくれなかったっ!?」
<present for you>
は蔵人の腕から抜けると、今度はベッドの上に避難し、また背を向けた。
「誕生日、ですか…。それ程重要なものですかねぇ…」
「…この際、それはどうでもいい」
「?」
はわなわなと震えながら振り向いた。
「何で卑弥呼が蔵人の誕生日知ってて、彼女のハズの私が知らないのって事!!!」
と卑弥呼は仲がいい。
昨日も、二人で買い物に行っていた。
そして、卑弥呼の放った言葉に、は呆然と立ち尽くした。
『赤屍の誕生日、何かしてあげたの?』
『え…?』
『え、って……23日、あの人誕生日でしょ?』
『私……――知らない……』
その後、慌てて帰った家に、蔵人はまだ帰ってきていなくて。
はずっとふくれていたのだ。
「そういえば…前に仕事をご一緒した際に、依頼者から個人情報を登録させられましたね」
「あっそう」
は蔵人に背を向けたまま顔を合わせない。
「……すみませんでした。機嫌、直して頂けませんか?」
「今すぐ直る自信無い」
は組んでいる腕に顔を埋める。
「…ごめん……」
「!」
「私……ヤな女で……、ちゃんと顔見て、『オメデトウ』って、言えない……」
すすり泣く声が部屋に響く。
「…、泣けたんですか」
「どういう意味だ馬鹿」
「……」
ぎし……
「!」
蔵人がベッドに乗ると、ベッドは軽く軋んだ。
「こ、来ないでっ……!?」
声を掻き消すように、
「!!」
蔵人はを押し倒した。
「……」
「……」
やっと二人の視線が合う。
「や、やめ……離してよ…」
「離しません」
「離してってば!」
「…私は貴女を愛しています」
「!!」
は泣きはらした瞳を見開いた。
「…独りで、泣かないで下さい」
「……蔵、人…」
蔵人はの目元の涙を舐める。
「ひゃっ……///」
は、変な声を出してしまった、と口を抑えた。
「…」
その手を優しく包み、唇を合わせる蔵人。
「……プレゼント…何、欲しい…?」
唇が離れ、は呟いた。
「頂けるんですか?」
「なるべくお金かかんないやつね」
蔵人はすぐに微笑むと、迷う事無く言葉を繰り出した。
「では、一つだけ……――を頂けますか?」
「……え? っ!」
返事を聞く暇も無く、蔵人はの首元に顔を埋める。
「やっ、ちょ、ちょっと待っ……///」
「…駄目ですか?」
「…っ…///」
耳に吐息がかかり、身体が反応する。
「駄目じゃないけど……怖い、の……」
そう、今まで二人は身体を交わす事は無かった。
それというのも、が一線を越える事をひどく恐れたからだ。
「私が望むのは……だけなんですが、ね…」
「蔵人……」
は、顔のすぐ横に置かれた蔵人の手に、自分の手を重ねた。
「大好き、だよ……?」
の言葉に、蔵人は優しく微笑んだ。
「貴女だけは、決して壊しません……安心して下さい」
二人のキスを始まりに、夜は更けていった。
ベランダの窓から差し込む月明かりが眩しい。
「んぅ……」
蔵人は、腕の中で赤い顔をしながら眠るの髪を撫でた。
「……」
『――私、好きって気持ち…よく解らない。必要が無いもの』
『――運び屋なんでしょ? …私が好きって気持ちが嘘じゃないんだったら。
私の心にアンタの気持ち、運んでみせてよ』
「…あの強気な少女が……随分愛らしい顔をするようになったものですw」
「…くろぉどぉ……」
小さく呟くの口元を見つめる蔵人。
「…おめでとぉ……」
微笑みながら言う、寝言。
しかし、蔵人にはちゃんと届いた。
「…有難う御座います」
蔵人はにキスすると、優しく抱きしめて、自分も眠りに着いた。
誕生日は少し遅れてしまったけど、
初めて、身も心も一つになれた夜。
二人にとって、かけがえの無い、一夜の出来事。
Happy Barthday!!
end.