チョークの音が響く。
月明かりのみが照らす教室内は、充分に明るい。
決して、環境に不満は無かった。
だが。
「では次の問題を……――さん」
「……ちょっと赤屍センセ。さっきからあたしばっか当ててるでしょ」
こんな贔屓は、金を払ってもいらない。
<Dead or Study?>
「へっ、いいじゃねぇか!」
「うっさい! 蛮なんか教科書落書きだらけじゃんっ!!」
「俺より銀次怒れよ」
は銀次の方を振り向いた。
爆睡している。
「…起きろこの小動物ッ!!」
「んあっ!?」
スパーン!! と、いい音を立て、はスリッパで銀次を叩いた。
「何だよ〜、ってちゃんじゃん〜…」
銀次は叩かれた箇所を押さえながら言う。
「もうッ、授業中なんだから少しは集中しなよ!!」
「そう、授業中ですよ、さん」
「!」
振り向く、教壇の向こうには、
「私の…ね?」
メスを隠し持ち、微笑む赤屍。
「……ッぅわ……」
「さぁ、席に着きますよね?」
「…あぃ…」
がしぶしぶ座ると、後ろで蛮の堪え笑いが聞こえてきた。
(蛮の奴〜〜〜ッ…!!)
は振り向きたい気持ちを抑えていた。
「ではさん、この問題を…」
「ってだから!! さっきからあたししか当ててないってば!!」
「だって、辺りを見渡してごらんなさい」
「は?」
は振り向いて全員の顔を見渡した。
蛮、銀次、花月、十兵衛……
「ね? どうして私がむさ苦しい男を当てなければいけないのです?」
「うわっ…」
「おい教師、それは花月に対する暴言か? それならば俺が許さんぞ!!」
「十兵衛、気にしてないよ。僕よりむさ苦しいのならホラ、窓際の席にいるから」
「…おいオカマ、それって俺の事かよ?」
「美堂! 貴様一度ならず二度までも…!!」
「……十兵衛、構わないよ。…所詮ウニの戯言だから」
「あぁッ!?」
「…ちょっとみんな、いい加減にしようよ」
「銀次は黙ってろ!!」
「…………はぁ……」
は大きくため息をすると、懐から最終兵器を取り出し――
――スパーンッッ!!!!
「!!!」
皆の間を光速で移動し、攻撃したその手には――特大のハリセン。
「男ってやつは本ッ当に……!!」
「ま、待て、、落ち着け?」
「さんっ、お、抑えてっ!」
「…勉強する気がないなら…帰れッッッ!!!!!!」
は特大ハリセンを破り捨てると、ドスドスと足音を立てながら教室を後にした。
「ちょ、ちょっと蛮ちゃん…ちゃん帰っちゃったよ?」
「馬ぁ鹿。…演技だよ、演技」
「んぁ?」
蛮は机に足を乗せ、タバコに火をつけながら、校庭をスキップで駆け抜けるを見下ろした。
「だから、一番勉強する気が無かったアイツの、芝居だ。あれは」
「えぇ!?」
「ちっ、赤屍の授業なんておかしいと思ったんだ。俺たちはイケニエって奴……………」
蛮は自分で言って、そのセリフに固まった。
イケニエ。
対象は?
「……」
この部屋の中。
「…さんには後で罰を与えましょう…? それで、美堂クン…? それが私の授業を受ける態度と見なしてよろしいですか…?」
「……ッッッ!!!」
の罰など、蛮の頭の中では何の問題提起でも無かった。
むしろ、
そこにいる全員が、まず自分の身の安全を確保しようと必死になっていた。
それは一見穏やかな、
「さぁ…授業を再開しますよ…?」
命がけの授業。
end.