「ねぇコルトピ」
「何?」
「何で髪伸ばしっぱなしなの?」
「面倒だから」
「…うっとうしくない?」
期待に満ちてキラキラと輝く目。
その手にはハサミがあった。
「それ、どうするつもり? …」
<狂愛。>
はコルトピにハサミを取り上げられると、むすっと怒って足を組み出す。
「何だよ、コルトピの貞子。テレビから出てくればいいじゃん」
「……意味が解らないよ。解りたくもないし」
コルトピはそう言ってその場を後にした。
「何で…」
何であたしを見てくれない?
何でそんなに冷たいの?
ただ構って欲しいだけなんだよ。
あたしはあなたの素顔を見たいだけなんだよ……
「っ!! …ごほっ、……がは!!!」
咳き込む口を抑える手に、――血。
「もう…駄目だね」
呟き、同じくその場を後にする。
瞳には、覚悟があった。
「――!」
コルトピは、同じく待機していたボノレノフに視線を送り、頷くと立ち上がった。
コピーした仮宿に、複数の気配。
二人はそのコピーに向かった。
そこにいる人物を、知らずに。
「…ここだね」
「弱い気配ばかりだな。…いや、一つだけ楽しめそうなものがあるか」
言って、建物に踏み入った瞬間、
「オラァっ!!」
単純な攻撃を仕掛ける、ストリートギャングのような子ども達。
「全く、お前等の相手等楽しめん」
ボノレノフは一人でギャング達を一掃すると、さらに奥に進んだ。
「……おかしいな、後一人いるはずだよ」
「さっきの、強そうなやつか。…ふん、何処から来るのやら」
ボノレノフはコルトピに背を向け、臨戦体制に入る。
コルトピも背を向け、手にしたベンズナイフを構えた。
「……」
「……!」
コルトピはボノレノフより若干早く気配に反応し、右方向からの攻撃に向かってナイフを振りかざした。
「ッあっ!!!!」
「!!」
聞き知った声が響き、二人は声を失った。
そこに倒れていたのは、
「どうして……?」
紛れも無く、だった。
「あなたに…殺して欲しかった…」
「どうして…」
「も、身体の時間が無かった…から…あたし、いつ死ぬか解んない…身体、だから…」
「そんなの理由じゃない!」
「大好きなあなたに…殺して欲しかったんだよ…? ねぇ、これが、愛するって事じゃ…ないの…?」
目に光が無くなっていき、声も細くなっていく。
「!」
「コルトピの素顔…一度だけでも見たかったな…ぁ……っ」
延ばした手が、一瞬だけコルトピの髪に触れ、落ちた。
「……」
コルトピはその手を取る事なく、立ち上がってその場を後にした。
「…コルトピ?」
ボノレノフも後に続き、コピーの建物を出た頃、口を開いた。
「何?」
「…良かったのか?」
「だから何?」
「お前…が好きだったろう」
「!!!」
「前髪…濡れてるぞ」
ボノレノフはグローブの付いた手でコルトピの頭を ぽふっと撫でると、先に仮宿へ戻った。
「……」
立ち止まったまま呆然とするコルトピに、強い風が吹く。
「……ッ」
風で捲れた前髪の奥、確かにその頬は濡れていて――
「………?」
コルトピは吹き去っていった風に、の名を呟いた。
愛の形とは何だろう。
人を愛するとは何だろう。
ただ、一つ、コルトピの脳裏に浮かんだモノ。
がいつも見せていた笑顔の、その奥にいつもあった――狂愛。
あなたはそれで幸せだったの?
end.