受験とか、勉強とか、
現実は何処までも私を追い込む。
それより私は、
あなたに会いたい――
<予感>
「は、どこの大学受けるの?」
聞かないで。
「頑張らないとね」
言わないで。
「ちゃんと勉強しなさいよ」
追い込まないで。
やらなきゃいけないって解ってる。
自分の希望を通すには、努力がいる事なんだって、
私だって解ってる!!
けどできないんだもん。
どうしても手につかなくなるんだもん。
どうすればいいかなんて、
そんなの解らない…。
「……」
目が覚めても、またベッドの中で目を閉じる朝。
何度目だろう、数えても無い。
夏休みって、何で宿題あるんだろう、とか。
それじゃ休みって言わないし、とか。
正論らしい事言うと、大人達はその芽を摘み取ろうとする。
『自由な発想を育てる』?
潰してるのはそっちだろうに。
「…新学期なんて、来なかったらいいのに…」
そんな事を考え、また眠りにつく。
夢の中、それは永遠の夏休みで――
「、起きるね」
「!」
誰もいないはずの自分の部屋に、突如声が響く。
「いつまで寝てるか」
朝日の差し込んでいた薄明るい部屋はどこへ?
鬱陶しいすずめの鳴き声は?
「何で…フェイタン……!?」
そんなものは皆無な空間、拷問室。――フェイタンの領域が目の前に広がっていた。
「『何で』て……、前から唐突に飛んで来てたね。『トリプした』とか言て…」
「トリプ……あぁ、トリップ…?」
でも前から、って、私知らないけど…
「そんないつも飛んで来てたの?」
「時々ね。は『眠て夢見ると、こちに来る』て言てたよ」
あぁ、それで覚えてないんだ……夢って見ても忘れるし。
(でもフェイタンの夢を忘れるなんて……!!)
「うん…ごめん、覚えてないや」
「……お前来る度忘れてるね」
やっぱりフェイタン怒ってる…
「どうせ、あれも忘れてるに決まてるね」
半ば諦めたような口調でフェイタンは呟く。
「あれって?」
「何でもないね。何故二度も言わなければいけないか。今度はに言わせるね」
「えぇ〜…気になる…」
「どうでもいいけど、お前、受験どうなたか?」
「へっ?」
私、そんな事まで言ってたんだ…?
「あ、まだ…だけど。…最近、勉強とか、手につかなくて」
「時間あるのか?」
「無いよっ、今が追い込みの時期……」
なのに、できなくて。
そんな自分が…大嫌い。
「…はやればできる奴ね」
「!」
フェイタンは私の頬に手を添える。
「ワタシはそう信じてるね」
「……ぃ、くせに…」
「?」
「何も…知らないくせに……っ」
私の頬を涙が伝い、添えてあるフェイタンの手の平に落ちる。
「……知らないのは、の方ね」
「何がっ!?」
「初めて会た時、が楽しそうに話してたのは、受験する学び舎の事だたね」
「!」
「ワタシは学び舎なんて行た事無かたし、が何故楽しそうに話すのか解らなかたけど…少なくとも、はその場所に行く事を楽しみにしてるとは解たね」
フェイタンは…
「ワタシも勉強は嫌いよ。だけどは今が頑張り所ね。今少し我慢すればきと、が望んでいた楽しい場所に行く事ができるよ」
どうしてそこまで私を見てくれてるんだろう……
「ごめん…そうだね、先に忘れたのは私の方だったのに…」
「そんな事はどうでもいいね」
涙を拭うフェイタンの手。
思っていたより、ずっと暖かい。
「…好き…」
「!」
…え、今私、何言った?
「えぇっ!?//////」
「自分で言て何驚いてるか」
「だ、だって何か無意識に言っちゃって……っていうか何でフェイタンそんな冷静なのよ…」
「…前にも言われたからよ」
「……え?」
「…さき言てた、『あれ』は、その事ね」
フェイタンは軽く溜め息をつくと、私を拷問室のベッドに乗せた。
「わ、私、フェイタンの返事覚えてない…っ」
「……(ここまで言て何故気付かないか不思議ね)」
ど、どうしよ…
もし前もフラレてて、今回もフラレたりしたら…
受験どころか、生きる気力さえ無くすんだけど…っ!!
「…が受験受かたら教えてやるね」
「はぁっ!?」
ひ、酷い。
余計自信無くすって…
「……でも結局は自身の事ね、他人のワタシは無責任な事言えないよ」
そう言ってフェイタンは、
「!」
私の頬に唇を落とした。
「多分、『頑張れ』はを追い詰めるね」
「……!!」
ほんとに、どうしてこの人は、
こんなにも私を理解してくれるんだろうか。
「やっぱり…私、フェイタンが大好きだなぁ……っ」
「泣きながら何言てるね」
本格的に泣き始めた私を、フェイタンはキリが無いとばかりに頭を撫でてくれた。
「……が受験受かたら、今度はワタシから会いにいくよ」
「でっ、できるの……!?」
「ワタシがの夢を見たらいいだけの話ね、きと」
「『きっと』ですか……。けど、フェイタンならできそうな気がするな」
私はその光景を想像し、笑った。
「泣いた思たらもう笑てるね…。まぁ、その時に返事はする事にするよ」
「だから何でそう気になる事するかなー」
「楽しみは残す方ね。それに……」
フェイタンはマスクを下げ、不敵に微笑んだ。
「その方が、やる気出してくれるんじゃないか?」
「……」
いじわる。
…でも、
「……『頑張れ』より頑張れる」
「ならいいね」
私は小さくガッツポーズし、フェイタンのそれと拳を合わせた。
―――――……
「………」
ふっと気付くと、そこはいつもの私の部屋。
「フェイタン………」
だけど、今度はちゃんと…覚えてる。
「…よしっ!!」
私はベッドを飛び出した。
何故だろう、もう、フェイタンの夢を見ることはできない気がした。
ならどうしたらフェイタンに会える?
答えは一つだけ。
「『やればできる』……きっとそうだよね、フェイタン」
フェイタンのかけた、言葉という魔法は、少しづつだけど、私の毎日を変えた。
決して、勉強にやる気が出たわけではないけど、
それでも教科書を読んだりする回数は増えた気がする。
フェイタンは、私の頑張りを見ているだろうか。
――――時は経つ。
「あ、桜…」
春になり、フェイタンとの約束の日を迎えた。
合格発表の張り出しまでの道は、やはり憂鬱だ。
「お願い……フェイタン………っ」
私は番号の書いた紙を握り締め、思い切り張り出しを見つめた。
「……………ぁ……っ」
そしてそれは、
「…あぁ……っ!!」
貴方にまた、会える、予感。
end.