ねぇ、そんなあなたも




だいすきなんですけど。











<愛着、執着、独占欲>












「ちょっとフェイ。話があるんだけど」


「何か?」


「あたし、またバイト、クビになったんだよね」


「それはいい事ね」




「…他に言う事は?」



「どういう意味ね」



そこまで言って、ようやくフェイはブラウンの画集からあたしに目を映す。





「そう? しらばっくれるんだ? …ネタはあがってんのよ?」


「…自分の失態を人のせいにするか?」


「…あのね、クビっていっても、あたしだけじゃなくてお店の人全員なの。つまりお店自体潰れてるの」


「それがどうかしたか?」




「……フェイが潰したんでしょ、また」



そして、あたしの身体から怒りのオーラが発せられる。

それを見て、フェイは画集を机に置くと、あたしの側まで近づいた。




「な、何よ、やる気!?」




フェイはあたしの名を呼ぶと、一瞬で背後に回り、そして―――あたしは意識を手放した。















「…………――んっ…」


「起きたか?」




ふと気付けばベッドの中。

隣には、フェイ。




「なっ…フェイ!! あんた何のつもりで…っ  !?」



身体が、動かない……?




「首から下、脳からの伝達止めてるよ。…動けるわけ無いね」




「……まぁいろいろ総合して意見するけど、…何なのホント」




あたしは呆れた顔でフェイを見つめた。



だけど、こうして見ると、












「フェイってさぁ…、可愛いよね」






「……殺されたいか?」




やっぱり、言うと思った。







「できるの? フェイにあたしが殺せるわけ?」





あたしは視線を天井に戻した。







「できないくせに。」








自慢だけど。そう、自慢なんだよ。



フェイは、あたしを殺さない。殺せない。



……多分。



だってほら、あたしら好きあってるし。








……ウヌボレ?









「今が考えてる事、手にとるように解るよ」




言って、フェイはあたしの上に乗りだす。



「! フェ、フェイ……?」







「…お仕置きね」






「……んっ…」





フェイの唇が、首筋に触れる。




「動けなくても、ちゃんと感覚あるよ。――――抵抗はさせないね」


「ちょ、ちょっと、待っ……」





「待たないね」




窓を見れば、外は真っ暗。



まだそんな時間じゃ、なんていいワケ、これじゃ言えないじゃん……。






「んっ、ぁ……」





「嫌か?」





「…きっ…聞くなっ……バカ……っ…!」





そして、行為は始まった。









 





―――――――……。




「…?」



行為の途中から、…いつからかは知らないけど、フェイはあたしの身体に自由を返した。



抵抗できたのに。




「なんか悔しい。あたし怒ってたはずだよね。そうだよ怒ってたんだよ」



ぶつぶつと呟きながらも、フェイの腕の中、




ちょっと、幸せ?







「…、途中から自分で求めてきたね」



「いぃぃ言うなぁっ!!」




ホント、ずるい。







はずと、ここにいたらいいね」






そんなこと言われたら、頷くしか……。







「――って、違うっ!!!!!!」



瞬間、あたしは全裸なのも気にせず、フェイと毛布を引っぺがした。




「そう! あたし怒ってんだからね!! 何のつもりか知らないけど、あたしはあたしなりに頑張ってたの! 次またバイト先潰したら、ほんっと縁、切るっ!!!」



あたしはそう言い残し、服を着てフェイの部屋を後にした。








「――勝手にしたらいいね」





フェイのそんなセリフに、気付かずに。












 





「じゃぁさん、新人ってことで、頑張ってね」


「は、はい…」






てかホント、あたし何やってんだ?






「今日も元気そうだね〜」


フェイにバイト先潰されて。


「お蔭さまでぇ〜vvv」


一方的にケンカして。


「ところで今日…空いてる?」


家飛び出して。


「やっだぁもぉ〜部長ったらvvv」


何で…。


「…ちゃん、どぉしたの? 表情暗いわよ〜?」





こんなところで新人ホステスなんてやってんだ?










「ちょっとちょっとちゃんっ! 駄目じゃない、お客さんの前であんな顔しちゃ…」



その辺のお店じゃ、あたしのいた店は潰れる、というジンクスが知れ渡っていて、どこも雇ってくれなかった。


まぁ、実際その通りなんだけど。




「はぁ、すいません…」


そんなジンクスを知らないからって、いくらなんでもこんな業界に入らなくても。

でも、フェイのトコ、飛び出して来ちゃったから、自分で稼がなきゃ生きてけないもん。





ちゃん、ご指名だよ」



そうだよ。



「かわいいねぇ〜vvv 新人さんでしょ? 初々しいじゃないかいvvv」


「は、はぁ…」





そう、だから…。



ちょっとくらいのボディータッチ、軽くかわさなきゃいけないんだよ…っ!!(汗)







「ねぇ…僕、お得意さんになってあげるからさぁ…」



「ゃっ…!?」




その時、その親父の手が、あたしの足の付け根の方へ移動した。

大胆にギリギリまで、両側スリットの入った赤いドレスなんか着てるから、その手は簡単に下着に到達する。







「今夜…いいでしょ…!?」


親父の息が耳元でキモチ悪く響く。










やだ、












やめて、













あたしにこんなこと、していいの…



















フェイだけなのに……―――――っっ!!!!











――――――――――――――――――――・・・



「な、何だっ!?」


突然、店の電気が全て消え、あたしの視界は閉ざされる。





「ぎゃぁぁぁっ!!」

「!!」


そんな悲鳴が所々に響き、最後には自分の隣に座っていた親父までもが倒れた。





次は、あたし……?





「………」


目の前に、生き物の気配。




「ゃ、め……殺さ、ない…で……お願…っ」





「……ワタシよ」


「ぇっ……」



その時、予備照明が作動し、薄明かりだけが着いた。





「…フェ、イ……?」



薄暗い中、それでも見えた人影は―――紛れもない、フェイだった。





「フェイ…あの、」


「何故……」


フェイはあたしの言葉を遮った。





「何故ワタシ以外の者がに触れるね…!?」





言って、フェイはあたしの隣に倒れているさっきの親父を、かなり遠くへ蹴飛ばした。







…てか、今、何て言った?







「フェイ…?」


に触れていいの、ワタシだけよ」




瞬間、あたしの胸ぐらを掴んだフェイは、そのままドレスを引きちぎった。




「き、きゃぁぁっ!! な、何するのよ!!」






「…ムカツクね」





そのまま、あたしは手首をつかまれ、ソファに押し倒される。





「や、やだっ、フェイ!!」


「…が悪いよ」


「そ、そりゃ、変態親父に身体触らせたのは、あたしが悪かったよ。それは謝るよ!? だけど…何で殺しちゃうの!?」



「そいつがに触れたからよ」


「ここはそういう店でしょ!? ちょっとくらい我慢しなきゃだめなの!」


「何でこんな店で働くね。は働かなくていいとワタシ前から言てるよ」


「あたしは自立してたいの! 何でもかんでもフェイに頼るのはやめようって思ったの!!」


「頼ればいいね」


「そういう問題じゃないでしょ!? …てか、じゃぁ聞くけど。あたしが前まで働いていた店は普通のお店です。客に触られたりそんなのは全くありませんでした。…さて、フェイタンは何故お店を潰したのでしょう? ……10文字以内で答えなさい」



あたしはフェイを見上げながら必死に言う。






そうだよ。


あたしが触られるのが嫌だってだけなら、前までの店を潰す必要はない。







「……全部、客との接触あったね」


「10文字以上ありますけど。……は? ないよ接触なんて」



「あったね」


「ドーナツ屋も?」

「金渡す時に触ってたね」


「あ、あんなの不可抗力でしょ!? …え、じゃぁホテルの清掃員の時は…?」


「…廊下で男と抱き合ってたね。あいつは即殺したよ」

「…て、あれはあたしが転びそうになって、それをたまたま通った客が支えてくれただけ!!」


「そんなこと知らないね」





手首をつかむフェイの手に力が入る。





「い、痛いよ……っ」




「どんな店でも、男はに触れたがるね。だからワタシ、に働かせたくないよ」









「……それって、嫉妬?」





「…悪いか?」






誤魔化すように、フェイはあたしと唇を重ねた。







「…ううん? …可愛いv」





「……、やはり懲りてないね」


「え」



しまった、ヤブヘビ…?






「今日はここでお仕置きよ」


「こ、ここで…!?」






「うるさいね」






そのまま、フェイが止まってくれる事は、なかった。







 












「……も、朝…?」



いつの間にか寝ていたのか、あたしはソファの上で、破れて肌が露になっているドレスを着たまま起きた。




「フェイ……  !」




フェイは、まだ眠っていた。

フェイの寝顔なんて、初めて見た……。





「……」


あたしはフェイの前髪をそっと触る。






「……あたしもね? フェイ以外に、触られたくないって思ったよ…?」





耳元で、小さく呟いた。


フェイはまだ起きない。







「……だから、フェイを触っていいのも、あたしだけにしてね…?」




「初めからそうね」



「!!」




ビックリして、フェイを見る。

フェイは確かにこっちを見ていた。




「い、いつから起きてたのよ……」


が起きる前からよ。…気付かなかたか? 鈍いね」




「…いいもんっ、フェイの寝顔初めて見れたしvvv」


「…………」





そう言ったあたしに、フェイは昨日の瞳を見せた。





もしかして、また、やっちゃった…?









「ね、ねぇ、待って? こ、ここんとこ、お仕置き続きだよ? そろそろ、身体しんどいなぁ、なんて…」




「……家に帰るよ」


フェイはカーテンを引きちぎって、あたしに巻きつけた。





「家に着いたらお仕置きね」


「て、やっぱやるんだ?」


「…嬉しそうね」







「フェイが大好きだもんっ」



「は、調子良い事言うよ」












……てか、やっぱり、









ただのバカップルなのかな?












end.