「ここんとこ、ずっと雨だねー……」
「梅雨だからよ」
「じとじとするねー……」
「仕方ないね」
「やる気起きないねー……」
「やる時はやらなければ駄目よ」
「死にたくなるねー……」
「…………」
<六月の花嫁>
「嘘だよ。…ってかむしろ…やる気無さ過ぎて死ぬ気すら起きない…? って感じ」
「次『死ぬ』なんてワタシの前で言たら殺すよ」
「結果一緒じゃんッ!!;」
いつもこんな感じだけど、
二人は、付き合ってかなり経つわけで。
たまに不安になるのは、
解り辛い、フェイタンの感情表現。
「はぁ…早くやまないかなぁ……」
「……」
ただ只管続いてる雨が…物悲しくなってくるほどに。
数日経っても、雨はやむ気配を見せず。
「ねぇ…フェイタン知らない?」
「さぁ……いないのか?」
「団長も知らないの…? ……どこ行ったんだろう…」
最近に至っては、フェイタンが隣にいてくれる事も少なくなってしまった。
「独りは…やだよ……」
「」
「!!」
急に後ろから聞こえた声に、は反応する。
「フェイタンっ!!」
姿を確認した途端に、はフェイタンに抱きついた。
「どこに行って……――」
「ちょっとフェイタン、まだ終わってないでしょ……って、…?」
フェイタンの後ろからは、マチ。
「……マチと、ずっと…一緒にいたの……?」
「、それは違…」
「マチに聞いてない!!」
は声を張り上げ、怒りを露にする。
「あたしは…フェイタンにとって何なの…? 何だったのッ!!!」
そんな叫びを残し、はその場を走り去ってしまった。
「フェイタン…に、言ったほうがいいんじゃない…?」
「…仕上げが残てるね。…まだ言たら駄目よ」
そう言って、フェイタンは踵を返す。
「…ほんっと、不器用なやつ等…」
マチは溜め息をつくと、フェイタンの後に続いた。
「あたし…何してたんだろ…」
雨に打たれながら、は呆然と立ち尽くしていた。
「…」
「!!」
後ろから差された傘。そこにはマチがいた。
「…何?」
は冷たい瞳でマチを見る。
「準備が整った。後はアンタが来るだけだよ」
「準備…? 何の事だか知らないけど、マチはあたしがいないほうが楽しいんじゃないの?」
「…いつまでいじけてんの。あんなの誤解だってのに……主役は全部、アンタだよ」
そう言ってマチはの手を無理矢理引いた。
「や、やめてよ!!」
「皆待ってんだから、早くしな」
仮宿に入ると、黒い質素なドレスを着たパクとシズクが出迎えていた。
「もう、皆準備出来てるわよ」
「がいないと、全部無意味なんだからね」
「無意味…って、何その格好…」
「早くこっちおいで。後はアンタの準備だけなんだから…」
はまたマチに引っ張られ、一室に入れられる。
「ほら、コレ着て。着付けするから」
「!! マチ…これって…」
「言ったろ? 主役はアンタだって」
手渡されたのは――真っ白の、ウエディングドレス。
「…フェイタンが言ったんだよ」
「え…?」
「が最近元気ないから、って……あたしにドレスの作り方なんて聞いてさ」
「! じゃぁコレって…!!」
「あたしも手直ししたけど…フェイタンが、アンタのためだけに作ったんだよ」
それを聞いて、の瞳から涙が流れ出す。
「まだ着てないのに泣かないの。ほら、支度するよ」
次々と溢れる涙を抑えながら、はそのドレスを着た。
「化粧はパク担当ね」
「了解。…、アンタ泣いたりするから、目が赤くなってるわよ?」
「だ、だって…」
「用意できたか?」
部屋の外から、クロロの声。
「今終わったわ。入ってきていいわよ」
パクの許しで、部屋の扉が開く。
「っ!! え………?」
「団長、見惚れないの。今日はの父親役」
シズクのツッコミで我に帰り、クロロは咳払いをしてに手を差し出した。
「…綺麗だよ…」
「団長、今絶対、ホントに父親の気分なってるよね?」
「…どうする? 後で『娘はやらん』なんて叫ばれたら…」
「あ、じゃぁあたし、その時用にデメちゃん持って待機しときます」
「団長…」
「…泣くんじゃない。折角の化粧が落ちてしまうだろう?」
「団長、いいから早く行ってくんない?」
マチに促され、クロロはの手を取り、部屋を後にした。
「ここだ」
「広場でするの…?」
広場へ抜ける角を曲がると――
「!!」
赤い絨毯が敷かれ、
ロウソクに導かれた、ヴァージンロード。
周りを囲む団員。(一人デメちゃん装備)
そして――
「…」
その先に立つ、フェイタン。
「フェ…イ……っ」
涙が一粒落ち、堪えながらクロロと共に歩む。
「…、綺麗よ」
「フェイタン…あたし……いいのかな…」
「何がね?」
「みんなに迷惑かけて…心配してもらって…勝手に勘違いして怒ったりするのに…なのにっ」
「…が笑顔でいてくれるなら、ワタシ何でもするよ」
「フェイタン……」
「それはアイツ等も同じ事ね。…ま、ワタシの方が強くそう思てるけど」
「…うん」
「――生涯、愛し合う事を、誓いますか?」
「…誓います」
「誓うね」
心から相手を求めるから、
共にいる決意も固く、
「では…誓いのキスをw」
無意味に笑顔な、神父役のシャル。
周りを見れば、みんながニヤニヤとその様子を見ている。
「……//////」
「」
「んぅっ」
恥ずかしがるに容赦なく口付けるフェイタン。
「! ん、んぁ……ッ//////」
皆の前で、フェイタンは舌を絡め、数秒の間、と吐息を合わせた。
「フェイ…タン……//////」
唇が離れ、は呟く。
「……きと、を幸せにするよ」
6月の花嫁は、幸せになれるという。
迷信でも、信じる者の前では、全てが真実となる。
ジューンブライトに相応しい、紫陽花と雨の中。
end.