「…ま、放っておいていいかな」
「コルトピ、どうしたの?」
「…コピーから飛び降りそうな人がいる…」
「………は?」
<自殺防止キャンペーン>
「というわけで、向かってるわけですが!」
「何故ワタシも行かなくてはならないか…」
問題の仮宿のコピーに向かっているのは、とフェイタン。
「え、だって、面白そうじゃない?」
「…相変わらずいい趣味してるね」
そして問題のコピーに着き、屋上へ上がる二人。
「お、いるいる!」
「!」
びくっとして振り返ったのは、どこにでもいそうな中年親父。
「だ、誰だお前等!!」
「ここの管理者ですーw ほんでまた何で自殺なんか?」
今にも飛び降りそうに、端に座っている男に、笑顔で問う。
「はっ、お前らにオレの気持ちが解るものか!!」
「うんまぁ解りたくないわけですけれども」
さらっと言う。
「ひでぇ!!! ひでぇよこの姉ちゃん!! ちょっと、そこの兄ちゃんも何か言ってくれよ!!」
「勝手に死ねばいいよ」
「説得力ねぇ!!! つーか絶対説得する気ねぇ!!! 何なんだよ、お前ら!!」
「んー…ていうか、本当やめてください。迷惑だから、処理が」
「……っちきしょう、死んでやるーーー!!!!」
親父がキレるのも無理はないが、ついにその場を立ってしまう。
「あぁもう、だから危ないって…」
「、もう面倒ね。放置して、掃除はシズクにまかせたらいいよ」
「えぇ〜…殺すならともかく、勝手に死なれるの生で見るのって嫌じゃない?」
「ワタシは見慣れてるよ」
「そうね、拷問中に勝手に死ぬやつも…って、今はそういう問題じゃなくてね?」
「テメェらオレを無視しやがって!!! 飛び降りるぞ!!!」
「じゃぁ飛び降りればいいじゃん」
「!?」
「アンタ、構ってほしいだけでしょ?」
「な…っ」
「解るんだよね。本当に死のうとしてる人は、誰に何て言われても、速攻飛び降りるんだよ。……なんで、アンタはそこでずっと座ってたの? …そういう事」
の言葉に、男は成す術もなく厳しい顔をする。
「…別に、そういう考え否定しないよ? 中途半端な覚悟でも、飛び下りりゃ一緒なんだし」
何故か表情を曇らせる。
「…?」
フェイタンはその表情を読み取り、声をもらした。
「…でもやっぱ、飛び下りないでよ。あたし、自分で命絶つ奴が一番嫌いなの」
「お前の好き嫌いなんか知るか!!」
「例えどんな理由をつけられたとしても、止めてもらえるのは、幸せな事なのよ?」
「!」
「………少なくとも、あたしには、そうだったもの」
呟くような小さな声で言う。それをフェイタンは聞き逃さない。
「どうし…」
「ていうか飛び下りるなら飛び下りてみなさい? こっちには、世界最速の男がいるんだから!!」
「!」
声を遮られ、ぐいっと前に出されるフェイタン。
「あんたが落ちると同時、この人が引き上げちゃって、あんたは怖い思いしながらも死ねないのよ!!!」
「…何勝手な事言てるか」
フェイタンは肩に置かれたの手をのけると、ずいずいと男と距離を縮めた。
「ひっ……」
「…が嫌がる事するんじゃないね。もし飛び下りたら、が言た通りワタシが引き上げて、死より辛い拷問してやるよ」
「!!!!!!」
耳元で呟かれた男は、ダッシュでの後ろに隠れた。
「すんませんすんませんっ、もう死ぬなんて言いませんから命だけは……っ」
「えっとー、矛盾してますよ?」
「も、もう勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
男は泣きながら屋上を後にした。
「……これじゃぁあたし達がいじめてたみたいじゃない。もぉー」
二人は屋上から、逃げていく男を見下ろしていた。
「よし、んじゃ帰るか」
「」
手を引かれ、止まる。
「先刻の……何か?」
「さっきのって?」
きょとんとした顔で聞き返すに、フェイタンは口篭もる。
「……そうだね…フェイタンには、言ってもいいや」
やがて、急に苦笑いをすると、は全てを悟ったように話し始めた。
「あたしはね。自殺しようとしてた所を、団長に拾われたの」
「!!」
「まぁ、動機はさっきの親父と似たようなもんよ。…世界の全てが……何より、自分が一番嫌いだった」
フェイタンは、引きとめた手を放す事なく聞き続ける。
「死ぬ気なんて、本当は無かった。だけど、だれかに止めてもらえたら…それだけで、あたしには価値があるって思えたから…」
「……もし、誰も止めてくれなかたら?」
「…解んない。諦めて帰ったかもしんないし、……飛び下りたかもしんない」
は、でもね、と、小さく呟く。
「……団長は…団長だけは……声、かけてくれたから…」
頬を伝う、涙。
綺麗だけど、とても悲しくて。
「『何してるんだ?』って……『一緒に来るか?』って……あたしに、居場所をくれたから……」
「………」
「だから…こうして、フェイタンにも出会えたんだよね」
「!」
顔を上げたは、もう、ちゃんと笑顔で。
「……さ、帰ろうよ」
「……帰るか」
二人は、手を繋いで帰った。
途中、顔を洗ったの顔を見て、フェイタンは胸に何かを感じ、
今、隣にいる少女が、自分の死を考えていたのだと、
自分には、考えられない事を。
…いつから惹かれていたのか。
…いつまで惹かれ続けるのか。
ただ一つ思えるのは、
団長が、を止めてくれて、良かったという事。
end.