「……やっぱ…会いたかったな……」
目が翳む。
息苦しい。
何だ、この赤い液体は。
「…フェイ、タン………」
<個人という価値>
「次の仕事は、古代遺跡の秘宝だ」
クロロはにレンタルボートのチケットを渡しながら言った。
「あたし一人?」
「いや…――フェイタン」
クロロの声で、フェイタンが姿を現す。
「!//////」
「……? 顔赤いよ。大丈夫か?」
「何でもない…//////」
は俯きがちにつぶやいた。
「今回は二人だ。孤島の密林にある遺跡……手当たり次第に盗って来い」
「了解っ!」
「うぅ〜……」
「、少し黙るね」
フェイタンはレンタルのモーターボートを運転しながら、後ろのに声をかけた。
「エンジンの音で殆ど聞こえないでしょ〜……うぅぅぅぅ」
「全く…ここまで船酔い激しい奴初めて見たよ… !」
フェイタンは前方に影を捉える。
「、喜ぶね。島が見えたよ」
「たっ、助かった……」
「いっちばん乗り――――――!!!」
はボートを飛び下り、柔らかい砂浜に足を下ろす。
「あぁーっ、やっぱり人間は地に足つけて生活しなきゃ!」
「いいから行くよ」
「ま、待ってよー!!」
横を通り過ぎるフェイタンの後に続く。
「…ねぇフェイタン…この島、変じゃない?」
「も思たか」
鬱蒼としている森に比べ、踏み固められた立派な道。
「日常的に、誰かが歩いてないと…こんな風にはならないよ」
「だたら誰かが歩いてるていう事ね」
「やっ、やめてよ気味悪い!!」
は無意識にフェイタンの服を掴んだ。
「……ね、ねぇ…遺跡ってまだなの…?」
「遺跡より先に客が着たみたいよ」
「!」
増幅するフェイタンのオーラに反応して、は円で確かめる――複数の気配。
「は、早いっ!?」
「来るね」
フェイタンの声とほぼ同時に、両側の木陰から数十人の人間が現れた。
「、勝負ね。コイツら殺して、先に遺跡着いた方が勝ちよ」
「え!? ちょ、ちょっとフェイ…!?」
が振り向いた時には、すでにフェイタンは数人の敵を引き連れて遠くまで行っていた。
「もう! 勝手だなぁ!」
敵の攻撃を避けながら、は叫んだ。
フェイタンが引き連れていった数を考えると、こっちに残ったのはおよそ半数。
「はんっ、お化けは専門外だけど、目に見えて足付いてりゃね…!!」
は得意の足技で敵を蹴り倒す。
「あたしに怖いものは無いっ!!」
叫びつつ、不気味なその敵の姿を凝視する。
「……インディアン?」
訝しげに見つめ続けると、変な面を被った腰みのの集団は一歩引いて、の方を見つめ返した。
「…おい、お前等。殺されるのと逃げんの、どっちが利口か…解るな?」
が一歩出たその時、
「!!」
首に、刺激。
「ちっ……!! 吹き矢、って……」
後ろから刺された吹き矢の毒によって、は倒れた。
「…運べ。大事な生け贄だ」
ニ、三人の男に担がれ、は密林へと消えていった。
「…んっ……」
「目が覚めたか」
は何かの衝撃に目覚めた。
「……?」
左眼の上から、何かが垂れてきた。赤い液体だ。
絶え間なく流れるそれに、は左眼を閉じて辺りを見回した。
「…あれ。あたし縛られてるわけ?」
柱に括り付けられ、一同より高い位置にいる。
見下ろす先には、先ほどのインディアン達。
「あたしを縛って殴るったぁ…いい度胸してるわね……」
「はっ、幻影旅団も落ちたものだな」
「!!」
は目を見開く。
「お前は大事な生け贄だ。一緒にいたあの男をおびき出すためのな」
「フェイタンを…? どうして……」
頭がふらふらしてくる。
「我が一族は昔、あの男に襲われ……生き残ったのはたったこれだけだ」
「はっ、復讐ってか。大層な大義名分なコトで……」
「黙れ!!」
さっきから喋っていた男が、をもう一度殴った。
「…あたし達は復讐されても文句ないわよ。恨みなんか言うまでも無く買ってるからね。いちいち相手してらんないの」
「…あの男は来ない…とでも言うのか?」
「あたしごときがいなくなっても、蜘蛛には大した利害じゃないの。…立てるべきは蜘蛛。個人じゃない」
だけど……
「フェイタンは今頃、あんた達の宝物ぜーんぶ手に入れて、帰る準備でもしてるでしょうよ……」
あたしは期待してる。
「…とんだ食わせ物だな。蜘蛛というのは」
「でしょ? ってわけで、オツカレサマデシタ〜」
来て欲しい、だなんて。
「ふんっ、これでお前にも用は無いわけだ。――殺せ」
団体の先頭にいた男達が槍を構えた。
「………」
目が翳んで、フラフラして……何より血が邪魔でありゃしない。
「……やっぱ…会いたかったな……」
「――…殺れ」
「…フェイ、タン………」
「何諦めてるか」
声は、響いた。
「!!」
目を開ければ、事切れたインディアンの群れ。
そして、
「フェイタン……っ」
愛しき、待ち人だった。
「ひっ、ひぃ……っ」
フェイタンの足元には、腰を抜かした男。
「あ、フェイタン……そいつ、あたしの事殴ったの。それから、フェイタンが仇なんだってさ」
「……たっ、助けて……っ」
フェイタンは男を睨んで、言葉を放った。
「ワタシの女に手出しておいて、生きていられると思てるのか」
「!!!」
…ワタシの?
「……っぁ……」
が気を失うのと、男の首が跳ぶのは、同時だった。
「………?」
「……」
は目を覚ました。
「フェイタン…」
「出血多量ね。一応止血はしたよ。……平気か?」
はゆっくり頷くと、抱きかかえられているフェイタンの顔を見つめた。
「……『ワタシの女』って…何……?」
「!!」
フェイタンはの言葉に動きを止めた。
「言ったよ……? ワタシの」
「二度も言わなくていいね…」
の言葉を遮るフェイタン。
「あたし……ちゃんとフェイタンの言葉で聞きたい…」
「……」
フェイタンは少し空ろな目をしたを見つめた。
「……体調が戻てからね。…帰るよ」
「っえぇ〜…」
フェイタンはを抱えながら歩き出した。
「『えぇ』じゃないね。……ワタシ今言たら我慢できなくなるよ。がこんな調子の時にしてもいいのか?」
「す、するって……/////」
は顔を赤らめ、視線を逸らせた。
「じゃぁ、あたしは言っていい…?」
は少し身を起こして、フェイタンの耳元で囁いた。
「――好きだよ」
の囁きに、また動きを止めるフェイタン。
「フェイタン? …きゃっ」
フェイタンは近くの木陰にを下ろした。
「…自分で言うより我慢できなくなる事…何故言てしまうか……」
「えっ、それって……んっ」
フェイタンはと唇を重ねた。
「続きは帰てからよ」
フェイタンの不敵な笑みに、は頬を紅潮させた。
再びフェイタンに抱きかかえられ、はその幸せに浸っていた。
――立てるべきは蜘蛛。個人では無い。
しかし、
個人が個人を立てるのに、蜘蛛は関係を厭わない。
end.