雨が降る。
ちらほらと、涙を隠すように。
紫陽花の咲き乱れるこの道は、
何処よりも美しく、穢れている。
<紫陽花>
何を間違えたんだろう。
『夜明け前、私は行くわ』
『どうしても行くか』
これが最善だったのかと。
『…うん。自分の人生は、悔いのないもので終わらせたいから』
『…そうか』
とめてほしかった?
解らない。
誰かに会いたい。
空が青すぎる。
どうしてこんなに涙が出てくるの?
まだ花もつぼみの季節。
心まで冷たくなってくる。
「何処で…死のうかな…」
私は、もう命がないらしい。
最期なんて、フェイタンに見せたくない。
宣告され、フェイタンの元を離れてから、三ヶ月経った。
短い時間でもいい。
私は、私が生きる意味を探したかった。
「…あぁ、くそ……寒いな」
春雨が、挫折のように降り注ぐ。
忘れてたなぁ、こんな気持ち。
「何処に…行ったらいいのかなぁ…」
振り返っても、誰もいない紫陽花の園。
こんな堕落だらけの世の中に咲き誇る。何を想って?
私には、解らないよ。
眩暈がする。
「やば……」
私はその場に倒れこみ、空を見上げた。
思えば、道なんてない道ばっか通ってきた気がする。
誰かが…目つき悪くて、いつも言葉足らずな誰かが…こっそり着いてきてるんじゃないか、なんて思って。
「ここで死んだら…春になれるかな…紫陽花になって、咲き誇れるかな……」
「何言てるか」
「!」
声が聞こえて、ふと目を開いた。
「嘘…フェイタン……!?」
「
…こんな所で何してるか」
久しぶりに聞く、自分の名。
あぁ、フェイタンが側にいる…。
「人間は死んだら終わりよ。春にも紫陽花にもなれないね」
「……これから死ぬ人間にそんなリアリストな事言わないでよ」
フェイタンは私を抱きかかえるようにして座った。
「それまでここにいてやるね」
「……ずっと、探してくれてたの?」
「気まぐれよ」
「だろうね…」
会話も、つらい。
息が苦しい。
「私…結構いい人生だったよ…フェイタンに、会えてさ…」
「は、戯言ね」
「…ホント、最期まで優しくしてくれないんだね」
私は少し笑い、目に涙を浮かべた。
「でも私……紫陽花になりたいよ…」
目が霞んでくる。
フェイタンが、見えない……
「本当にね…フェイタンが来てくれたから……私の人生、いい感じに終われるよ…」
「何言て……」
フェイタンはふっと言葉を途切らせる。
「
?」
触れる、首筋。
「…逝たのか」
言って、フェイタンは私を、紫陽花の土の下へ埋めた。
「……」
―――ここで死んだら…春になれるかな…紫陽花になって、咲き誇れるかな……
「……春になて、新しいつぼみが出来、夏になて……きと、ここには綺麗な紫陽花が咲き乱れるよ」
フェイタンはつぶやき、ゆっくりとその場を離れた。
夏、
そこに怪奇現象にも近い、美しく紅い紫陽花が咲くことを、彼は知らない。
end.