「―― 光を目指して 明日に向かって 飛び立つ窓辺で 今日も待っていて……」






「綺麗な歌ね」


「フェイタン」





さっきまで風が吹き抜けていた窓辺に、フェイタンがいた。








































< 白拍子の唄い手 >











































「…当たり前じゃない。貴方を想って歌ったんだから」


「ワタシを?」


「ええ」




彼女は朗らかに微笑んだ。





「それにしても…政治家の愛人にしては、いつ来ても質素な家ね。お前本物か? 



「証明が欲しいなら歌いましょうか?」






が政治家のリドル氏の愛人だというのは、本人達が言わずとも有名な話だった。



は、『白拍子の唄い手』と呼ばれる声の持ち主なのだ。



毎年、リドル氏の生誕パーティーで歌わされる内、事実が噂で流れていった。







「白拍子……確か、美しい舞と歌声の…静御前、だたか?」



「ええ。静は義経の兄 頼朝の前で、義経を想う唄で舞を踊った……誇り高く気高い、素晴らしい女性よ」



「日本の歴史はよく知らないね」



「そう…残念ね」





はソファーから立ち上がり、フェイタンの座る大きな窓枠に一緒に座った。






「静は憧れだわ。私にはそんな勇気は無いもの。…まず彼に愛は無いしね」



はワタシ愛してるね。アイツはを愛してるから愛人にしてるんじゃないのか?」



「あの人は私の声が欲しいだけ。自分のものであってほしいだけよ。…私はお金で買われた愛人なのよ?」






の家は決して裕福では無かった。



の唄で何とか家族の生活をまかなってきたが、それでも苦しい生活のせいで、弟が病気を患ってしまった。





そんな時、リドル氏から融資の話をもちかけられた。





条件はそう、を差し出さす事。





当然、の家族は断ろうとした。



しかし、は条件を飲んだ。



愛する親兄弟のため、彼女はこうしてここにいる。






「入院費もろくに払えない…家計は苦しくなるばかり。私が我慢すれば、みんな幸せになれるのよ。」



「…何故が我慢しなくてはならないか」



「私が愛する人たちのためよ。…あの人は私を悪いようにはしないから、大丈夫」






どこか諦めたような瞳で呟く



フェイタンは自分に怒りを覚えていた。






「……まだあんな事考えてるの?」



「当たり前ね」






何度、リドル氏を殺そうと思った事か。



を自分だけのものにしようと思った事か。





その度に、






「…駄目よ。これは私だけじゃない。私の家族…特に弟のためなの」






諭される。






「決してつらくは無いわ。だって私の心はつねに貴方とあるのよ? フェイタン」









の強さの前に、




自分が出来る事は何なのだろうと。











の収入なら、家族を支えていく事は簡単だ。


問題なのは、弟の入院費と手術費。




リドル氏からを引き離すのに必要な、大金。









「……そろそろだたか。例の、パーティー」



「来週にあるわ。…毎年思うけど、私はマリリン=モンローのようね。最も、私は歌に心を込めて無いけれど」






隣でくすくすと笑うを見て、フェイタンは窓枠から降りた。






「もう行くね。……しばらく会えないよ」



「え……歌、聴きに来てくれないの?」



「何故、偽りでも他の男のための歌をワタシが聴かねばならないか」



「そっ…か……」



「……





フェイタンはの手を取る。





の想いは解るね。しかし、自分を偽り、此処に閉じ込められ、お前に何が残るか?」



「それは……弟の元気な姿を……」



「……よく考えるね。何故、お前の弟はまだ入院してるか?」



「!」





「政治家なら、すぐにでも手術費など出せるね。…アイツは入院費しか出してないよ」



「それはっ、急にそんな大金動かすと、あたしとの関係が危ぶまれるから…っ」



「お前たちが公表してないだけで、周りはもう解てるのにか?」



「それ、は……っ」





「…本当に金を出そうと思えば、気づかれずにできる方法など腐るほどあるね」




「何が言いたいのっ!!」







手を離し、窓枠に足をかける。






「アイツは手放したくないだけで……手術費など払う気、毛頭無いて事ね」



「……っ!!」






言葉を失う


フェイタンは視線を合わせず言う。






なら……もう、どうずればいいか知てるはずね」







言って、フェイタンは姿を消した。


















「…………」




は、広く広がる景色を呆然と眺めながら、





「……知ってたよ……」






呟いた。







「不安だったんだよ……私は、自分の歌に自信なんて無いから……」






本当に、大丈夫なんだろうか。





「…………」






今でも、まだ解らない。














































『―――本日はお集まり頂き、真に有難う御座いました』






白いドレスに身を包み、待機する



気分は浮かない。





まだ…気持ちが固まらない。







「…!」



その時、携帯が鳴った。






「…はい」



さん!? すぐに手術に取り掛かりますがよろしいですね!?』




相手は、弟の病院の院長だった。




「は…?」



『弟さんが手術費を持っていたんですよ! 黒いお兄さんが持ってきたって言って……とにかく、始めますからね!』




言って、携帯は切れた。







「……フェイ、タン……?」





思い当たる人なんて、





「………っフェイタン……!」





貴方しかいない。

















『―――では、宴の締めくくりに、恒例の彼女に歌って頂きたいと思います。



 現代に舞い降りた静御前こと、白拍子の唄い手…です!』







歓声が巻き起こる。




「……」




は前を真っ直ぐ見据え、ステージへ歩みだした。








『……本日はこの目出度い日にお招き頂き、有難う御座います』








不安はまだ残る。








『親愛なるリドル氏へ……最高の、舞と唄を』










だけど、貴方は私が一歩踏み出すための道を埋めてくれたから。












『―――…光を目指して 明日に向かって 飛び立つ窓辺で 今日も待っていて……』









の声に、会場は静まり返る。








『―――…私の全て 捧ぐのはそう たった一人だけ あなたしかいない



    まだ夢を見てるのか ここは現か



    ただ 私を呼ぶ声だけ 包む声だけ 確かに此処にある……』







この唄は、フェイタンだけに。









『―――…鳥かごを抜け出して 偽りの愛から逃げ出して



    貴方の側にいられるような 強さ 私に下さい



    明日がどんなに辛くても 昨日をどんなに悔やんでも



    貴方が 好きだと 言える強さ 下さい……』











音楽が鳴り止むと、そこに歓声は無かった。



が歌ったのは、どう考えてもリドル氏に…ましてや、誕生日に歌うものではない。







切なく、激しい、




未来を切望する、唄。








『……』




ざわめきの中、はマイクを握った。






『…私は、皆さんがお察しの通り、リドル氏の……愛人でした』



「!!」





『しかし……今日でそれも終わりです』






リドル氏の慌てる様子を横目で見ながら、


は、もう戻れぬ昨日と決別するため、口を開いた。







『…リドル氏、お金では、私は買えません。…私は貴方に愛も情もない。これで終わりにしましょう?』






皆が呆然とする中、だけは、微笑んでステージから降りた。







「ま、待て!!」


「!」




腕を引かれ、止められる。


リドル氏だ。






「貴様…私に恥をかかせおって……!! 弟の事、どうなっても知らんぞ!!」




「あら、元々弟を助けて下さる気など無かったのではなくて? それに、その事ならもう解決しましたのでお気遣い無く」






「なっ……!! こ、これからどうするつもりだっ、芸能界に戻れると思うなよ…っ!?」





の眼光に、




「ひっ……」




リドル氏は恐怖を隠しきれなかった。






「……構いませんわよ? 貴方がここ数年、裏で行っていた汚職の全てを公表されても良いと申されるなら…ね」



「……っ!!」





リドル氏は震える手をから離すと、一歩後ろに引いた。







「許、さん…許さんぞ……? ははっ……私の、私だけの唄姫!!」



「私は貴方のものでは在りません。…私は…!!」






「―――ワタシのものね」






「!!」






瞬きをした瞬間に、





「フェイタン…!?」





とリドル氏の間には、フェイタンが現れた。








「お前…幻影旅団の…!?」



「ワタシを知てるか。なら話は早いね」





フェイタンはリドル氏の襟元を掴んだ。






「これから先、とその家族に一度でも手、出したら……お前の命無い思うといいね」


「……っひ…っ!!!」





リドル氏を突き飛ばし、フェイタンはの手を取って会場を後にした。












































「…フェイタンだよね…弟の手術費、出してくれたの……」



「団長に大半借りたね。…すまないよ、全部ワタシの金じゃなくて…」



「全然嬉しいよ!! …本当に有難う…」



「当分タダ働きよ。別に構わないね」







は我慢してた涙を流し始めた。







「…私…これから大丈夫かな…? ちゃんと唄っていけるかな……」



「……は立派な静御前ね」



「!」






「敵だらけの中で、ワタシを想て唄てくれたね。それはすごい事よ」



「……静みたいに…?」



「静みたいに」



「……」




は涙を拭い、フェイタンに抱きついた。








「これからも…私はフェイタンのためにしか唄わない。…じゃなきゃ唄えない」



「…それは嬉しい事ね」











































この歌声も






この涙も
















心も身体も全て



















貴方以外、響かない。








































end.








■あとがき■

久しぶりにフェイタン夢書きました。

なので雑な点もあると思いますが、その辺は目をつぶってやってください;笑

それにしても静御前いいですね。

義経の話大好きな皐月さんなのです。笑

まぁ今回はリハビリ作のようなものですので、

これからもちょくちょくフェイタン夢を書けたらいいなと思っています。