『…こればかりは許さないね、ヒソカ』




『許さないなら、どうするんだい?』











『……殺すよ』





















<強奪戦>




















「何度言っても同じだ。フェイタンは単独。はヒソカとペアだ。…いいな」


あたしは団長の言葉に耳を疑った。



「団長…あたし、フェイタンと一緒じゃなきゃ仕事しないって…入る時言ったよね?」


「分かってる。…悪いが、今回は別に行動してもらいたい」






「どうしても?」




「……どうしてもだ」
























「あぁあ。やる気ない。ホンっトやる気無い」



、少し黙るね」




部屋でだれていたあたしに、フェイタンは後ろから声をかけた。




「いたの?」


あたしは振り返らずに言った。





「いきなり入ってきて『黙れ』はなくない? で、何か用?」


「ワタシ見て喋るね。ワタシ、の顔見にきたよ」




「振り向く気も起きない。やる気無い。ダルイ…  !」


言い終わると同時に、フェイタンはあたしの身体を引き、自分の方へ向かせた。






「…また泣いてるか」



「…だから振り向きたくなかったのよ」






フェイタンとあたしは、旅団に入る前からの付き合い。


……というか、付き合ってる。






だからあたしは旅団に入る事を進められた時、条件をつけた。







――――フェイタンと一緒に仕事させてくれる……?





――――ああ、いいだろう。













「……クロロのいぢわる。」



「でも団長、には『団長命令』て言わないね」



「口にはね。でも遠巻きに言ってるも同じだよ」




あたしが溜め息混じりに言うと、フェイタンは目線を合わせるようにしゃがんだ。







「ヒソカと一緒が嫌か?」



「当たり前じゃん! …あいつ、やっぱ怖いもん、雰囲気。…あたし弱いし」



は弱くないね。ワタシ、の力認めてるよ」



「そう言ってくれるのは嬉しいけど。…でもヒソカやフェイタンに叶わないのは分かってる」



「当たり前ね。がワタシより強かたら困るよ」



「あはは、…だね」




そう言うあたしの声は、だんだん元気がなくなってくる。








「……


「へ? …ひゃっ」



フェイタンは急に近づくと、あたしの首にキスをした。






「い、痛っ、ちょ、フェイタンっ」


「……証拠よ。はワタシのものね」



部屋にある全身鏡で見ると、首にはくっきりとキスマークがついていた。






「……何かあたらすぐ逃げるね。団長も事情話せば許してくれるよ」



「…ありがとっ」



あたしは微笑んで、拳を掲げた。









 









「良い天気だねぇv」


「ええホント。……夜ですけど」


「こんな日に仕事なんてついてないなぁv」


「ええホント。……初めからやる気ないけど」


「…そんなにボクが嫌いかい?」


「ええホント。……何よりも」






ついに、仕事の日が来てしまった。






「つれないなぁv ボクは君が好きなのにvv」


「え、黙って」







どうしよう。







「高っ……。こんなビルの屋上からターゲット見えるわけ?」








心臓、バクバク言ってる。




こいつからの威圧が、空気を伝わってくる。








「………ここからは、何も見えないよ」


「…え? それ、どういう――」




振り向けばもう、ヒソカはすぐ目の前にいた。




「!!」


すぐに離れようとするあたしの腕を、ヒソカは簡単に捕らえる。





「ん〜ダメダメ☆ 逃げれないよv」


「は、…なせっ…!! お前、何のつもり…っ、今は仕事中でしょ!!!」




「仕事なら今日はないよv さっき団長からメールが来て、明日に変更vvv」


「なっ……何で言わないのよっ!」



「せっかくの二人の時間を邪魔されたくないだろう?」




言って、ヒソカはあたしの首元に顔を埋めた。




「! ゃっ……」


「くくく……敏感だねぇv …ん?」




その時、ヒソカはあたしの首にあったキスマークを見つけた。





「やだ…っ、離してよぉ…っ」








「……―――君、ホントに彼と付き合ってるの?」




「!」



急に、ヒソカからは思いも寄らない言葉が飛び出した。






「……フェイタンのこと? そうだよ。だから離して!!」


「…だから? だから何だって言うんだい?」



ヒソカは不気味に笑いながらも、あたしの首から顔を離さない。





「何って……普通誰かと付き合ってる女にこんなことしちゃ駄目なの! いや、付き合ってなくても! 相手の了承がなきゃ駄目!!!」


「ボクに普通を語るのかい?」



嫌な笑い声を響かせるヒソカ。その手があたしの胸元へ移動した。






「!! やだっ、駄目!!!!」


壁に押し付けられて、動けない。






「君を見てると、ぐちゃぐちゃにしたくなる…vv 身も、心も、……何もかも…vv」



あたしの抵抗なんて、ヒソカには何の意味もない。

暴れるあたしの上着、シャツのボタンをヒソカは簡単に外していく。





「や、やめてってば!! 嫌っ!!」


そうこうしている内に、ついに服は前開きにされ、下着が丸見えになっていた。





「やだぁぁぁっっ!!!」


「ちょっと黙っててくれないか、集中できないvvv」


「は!? 集中するなすぐに離れろっ!!!」


「ダメv」



ヒソカの右手があたしの背中に回り、ホックが外される。




「! やっ…!!!」



「白い肌だねぇ…惚れ惚れするよ」




露になった胸をまじまじと眺めるヒソカ。


その顔が、今度は吸い込まれるように胸へ近づいて――――









「やめてぇぇぇぇっっ―――!!!」









バンっ!!!





「――――!」







断末魔の叫びとほぼ同時。


屋上の扉が開き、そこには――…









「ヒソカ……から離れるね……!!」




「フェ、フェイタンっ!!!」





あたしは安堵したように、その人物――フェイタンに叫んだ。


そんなあたしの姿を見て、フェイタンは殺気たっぷりのオーラを漂わせた。








「嫌だ、って言ったら?」





瞬間、フェイタンは一瞬にしてあたし達のところへ移動し、ヒソカを攻撃した。




「おっとv」


ヒソカは軽く交わすと、後方に跳ぶ。






「フェ、イ……っ」



あたしは腕の拘束から逃れ、ずるずると壁を伝い、座り込む。




「団長からの連絡見て、すぐに来たね。……案の定よ」


フェイタンはあたしをちらりと見下ろした。




「……ごめ、んね……早すぎて…逃げれなかった……っ」




涙が次々と、溢れて。


真っ直ぐにフェイタンが、見れない。




ねぇ、だってあなたの瞳はきっと、あたしを軽蔑してるはず。









「…こればかりは許さないね、ヒソカ」


「許さないなら、どうするんだい?」






ぎゅっと目をつぶっていても、分かる。




肌が感じ取る――禍禍しいフェイの殺気。












「…殺すよ」





「!」




あたしが目を見開いたときには、すでにフェイはその場を跳び、ヒソカへ向かっていた。












「―――フェイタンっ、やめて!!!!」




「! …?」



フェイタンは思わぬあたしからの静止に、ヒソカと距離を取った。






「団員同士のマジギレはご法度……!!! ヒソカはともかく、フェイタンまでクロロの制裁をくらうことない!! ……あたしなら大丈夫だからぁ…っ」



涙を振り切って言うあたしに、フェイタンは溜め息を一つ吐いて、ヒソカを睨んだ。








「この事は団長に報告するね。明日、お前と絶対組ませないよ。―――今すぐ消えるね」



「…はいはいvvv」



ヒソカが屋上から消え、その場にはあたしとフェイタンの二人きり。






「……」


あたしはフェイタンと目を合わさず、前を隠すように、ぎゅうっと腕を組んだ。




「…


「っ!」


頬に触れたフェイタンの手に反応し、あたしは震え出した。





「フェイ、タン…ごめ、なさ……っお願い、嫌わないで……!」


「どうしてを嫌う必要があるか? 悪い事してないね」



言って、フェイタンはあたしをそっと抱き締めた。





「許して、くれるの……?」


は悪くないね」


「……」



やっと震えが止まりそうになって、フェイタンにぎゅって抱き着いた。






「フェイタン…寒ぃ……」


? しっかりするね、!」










何…? 



フェイタンの声、遠くなって――……




















「…知恵熱?」





報告を聞いて、クロロは呆れたように呟いた。





「ええ。……初めてのお熱、ってやつね」



あたしの症状をみたパクも、同じように言う。





「あの歳でか……? は確か、16だろう?」


「それだけには辛らい事だたということね」


不機嫌にしわを寄せるフェイタン。




「……ヒソカには罰を与える。それと、フェイ。お前は今日はに着いててやれ。仕事はいい」



「分かたよ。団長、感謝するね」




フェイタンは早足で広場を後にした。






「……ヒソカも困った奴ね、本当に」




「……は可愛いからな」





それを聞いて、パクは怪訝そうにクロロを見た。





「団長? …まさか…」



「フェイタンから奪うつもりなんてないさ。…が笑っていられるなら、それでいい」





クロロはパクにそう言い、ヒソカへの制裁を心待ちにしながら広場を出た。








「……本当、男ってやつは」


広場には、パクの溜め息だけが響いた。


















「……はぁ、…は…っ」


熱にうなされて、息苦しそうにしているあたしを、フェイタンは側についてずっと見つめていた。





「…やぱり、止めれば良かたよ」




フェイタンは、自分のつけた証の側にある、ヒソカのキスマークを眺めて言った。





「…ごめ……な、さ……」


「!」




小さく、あたしは呟く。


それが寝言と分かって、フェイタンはあたしの額にあった濡れタオルを水につける。







「……フェイ」


あたしの部屋に、シャルが現れた。




「……俺、待機だから見に来たんだけど…どう? の調子」


「ずとうなされてるね。起きる気配も無いよ」



冷たいタオルを額に置きながら、フェイタンは言った。







「……どうやたら、は笑うか?」


「え?」


急にそう言ったフェイタンに、シャルは思わず声を漏らす。






「倒れるまで、ずと笑わなかたね。……ワタシ、の笑顔が見たいよ」



そんなフェイタンに、シャルは優しく笑いかけた。




「簡単さ。…フェイがに笑いかけてあげればいい」


「ワタシがか?」


「そうだよ」








「……――ん…」



「…じゃぁ、俺はそろそろ行くよ」



あたしが起きそうな気配を感じて、シャルは部屋を出た。





 


「…



その声に、あたしは目を覚ました。





「…あ…フェイタ、ン……あの、あたし……」


息を小刻みにしながら、あたしは必死に声を出す。





「何も言わなくていいね」






そして、初めて見た、







「―――…ワタシは信じてるよ」









フェイタンの、微笑み。











「……ねぇフェイタン……大好きだからね……?」





あたしは涙をためながら、フェイタンに笑顔を見せた。


それを見て、フェイタンの無表情がやわらかくなる。







「分かてるよ。ワタシも愛してるね」










愛してる?





……初めて聞いた。








「愛……?」


あたしは顔を真っ赤にして言う。



「愛してるね」





聞き違いじゃ、ない。





「あたしも、…愛してるよっ」




顔の前で拳を掲げ、小さなガッツポーズ。


フェイタンも自分の拳をこつんと合わせてくれた。




拳と拳が離れる時、フェイタンの手があたしの拳を解いた。



「?」




離れた手をみると、薬指に光る―――指輪。






「フェ、フェイタンっ、これ……!!」


「かなり前に盗てきたものよ。に似合うと思たね。……ずと渡せなかたよ」



照れたように目をそらすフェイ。





「…フェイー」



そのフェイタンに、両手を広げる。





「ちゅぅ、して?」




熱か照れか、まだあたしの頬は赤い。


その頬に、


唇に、




フェイタンはキスをしてくれた。







何だか身体がふわふわしてる。


熱のせい?





違う。








―――フェイタンのせい。















あたしの熱は夜には引いて、知恵熱だったと聞かされて自分でも大笑いした。



そいえば、今まで熱なんてだしたことなかったよ。


























これは余談だけど。






団長の制裁に、特別にフェイタンが参加したことは、いうまでもない。
















end.