こびり付いて 離れない



お前はどうして





ワタシから離れない?
























<かごめ唄>























――かごめ かごめ





かごのなかの とりは





いついつ であう





よあけの ばんに





つると かめが すべった





うしろのしょうめん だぁれ―――――


















「……」



その日、フェイタンは団長の知り合いのコレクターの所へ足を運んでいた。

ここは、その人の集めた本が集められた書庫だ。






「フェイタン…だったっけ? 気になる本は見つかった?」




本棚の影からひょこっと顔を出したのは、その人物 


まだ幼い容姿、フェイタンよりも背が低く、だが口調は強気な、10歳の少女だ。





「……お前の保管悪すぎるね。せめて作者順に並べるべきよ」


「はははっ。しょーがないって。あたしが分かればいいんだから」




腕組しながらは大笑いする。





「…だたらお前が探せばいいね。拷問全書第58巻、あるか?」



名前だけ聞いたら一瞬ギャグかとも思ってしまう本だが、これは裏でしか販売されていない、一冊ずつしか出版されていないシリーズ本なのだ。






「ああ、あの幻の……。悪いけど、まだ最新刊は手に入れてないね。目ぇつけてるけど。57巻までならあるよ? いる?」




それだけでも、の能力が疑いなきものだと解る。


団長と知り合いでもおかしくないだろう。





「1から24までは見た事あるよ。団長が持てたね。…25から57、借りるよ」


「1から24はアイツにもらったからね。…ん、解った。全部取ってくるから待ってて。……ああ、そうそう」





どこか他の本棚に行こうとし、ふと立ち止まって振り返る。





「そこの机に置いてある本、あげる。良かったらヒマつぶしにでも読んで」



それだけ言って、薄暗く広い書庫のどこかへは消えていった。







「……」


フェイタンは机に腰掛け、自分が持ってきていた本を読み始めた。




「……」



しかし、自分の隣にある本が、変に存在強く、おかしな気配を発していて集中できない。






(…妙ね)


目をこらすと、微弱だがオーラを発していた。







――ヒマつぶしにでも……







がこの本の事を知っててフェイタンに渡したのかは解らない。




「ま、ヒマつぶしにはなりそうね」




自分の本を懐にもどし、フェイタンは机の上の本に手を伸ばした。

表紙には何も書いてなく、分厚い革が張られていた。



「……」


フェイタンは、ゆっくりとその表紙を開く。







「――――!!」





すると、まばゆい光が辺りを包み、フェイタンの視界を白く閉ざした―――――



















急に、辺りは闇に包まれた。







――――――かぁごめ かぁごめぇ…――――・・・・・・







何ね?







――――――かぁごのなぁかの とぉりぃは…――――・・・・・・







誰かいるのか?




姿を現すよ









『お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ』


「!」




フェイタンの目の前に、急に着物姿の男の子が現れる。


手を振りかざすが、軽い身のこなしでそれを避けると、男の子はまた闇へと消える。






「何のつもりか? ささと出てくるよ」




指をぽきぽきと鳴らし、敵の出現を待つフェイタン。






「……?」



すると奥のほうで、子どもの集団が浮かぶように現れた。


全員着物を着ていて、うずくまる女の子を中心に、多数の子どもが手を繋いでその周りを回っている。






『ねぇ、遊ぼうよ』


『一緒に遊ぼうよ』



「!!」





いつの間にかフェイタンの両腕に、同じ顔の――双子の女の子が二人、抱きついていた。



振りほどこうにも、腕が動かない。






『一人足りないの』


『後一人なの』




ぐいぐいとフェイタンを引っ張り、双子は、輪の中にフェイタンを入れた。






『揃ったよ』


『揃ったね』





「…お前等、何者ね」


身体の自由を奪われ、輪の中に入れられたフェイタンは、両脇で自分と手を繋ぐ双子を睨む。







『――――かぁごめ かぁごめぇ…―――・・・』






デジャヴのように周り続ける子ども達。





『――――うしろのしょうめん、だぁれ?―――・・・・・・』






輪が、止まる。









『――――知らない人』





『ダメだよ、名前言わなきゃ』


『そうだよ、ダメだよ』




『だって知らないもの』




『だから前もこうなったんだよ』


『だから前も負けたんだよ』





観察していたフェイタンは気付く。


話しているのは、真ん中の少女と、両脇の双子。


周りは規則的な動きしかしない。






『あの子とお喋りしてあげて』


『あの子に名前を教えてあげて』




双子はフェイタンの背中を押し、うずくまる少女の側まで行かせた。








『――…言っちゃダメ』



「!」


少女は立ち上がり、フェイタンのほうへ振り向く。






『名前を教えちゃ、ダメ。あたしの代わりになっちゃうから』





赤系統の着物を翻し、少女は狐の面を被ったまま、フェイタンと対峙した。







「お前…何者か?」




『早く名前を聞いちゃいなよ』


『名前を聞いて、ここから出なよ』





(ここから?

ここは現実じゃないのか?)







『ここにいちゃダメ』



少女はフェイタンに手を伸ばす。









『――あたしを見つけて―――――』







少女は伸ばした手で、思い切りフェイタンを押す。


「!」



そのままフェイタンは、倒れるような、沈むような感覚に襲われ、






『行っちゃったよ』


『行っちゃったね』






双子の声が響く中、子ども達の姿が消えていった。





『すぐ見つかるよ』


『すぐ見つかるね』







―――――絶対、名前は言わないで。――――――・・・・・・












 










はっと気付くと、フェイタンは廃虚の中にいた。



「……」



暗く、板張りの廊下は歩くだけでギシギシと軋む。


まるで、和風のお化け屋敷のようだ。







「――――見ぃつけた」





「!」





急な殺気に避けきれず、フェイタンは腕に怪我をする。



振り向いた先には、さっきの双子。







「新しいイケニエ」


「代わりのイケニエ」



「イケニエ……? ワタシを食うつもりか、餓鬼が」






「ワタシって誰?」


「ワタシって何?」










「「ねぇ、教えて?」」




双子は声を合わせると、宙を飛びながらフェイタンに接近した。







「――煩いよ」



ざん……っ




フェイタンの刃のような手が、双子の腹を貫いた。


「!」




しかし、手ごたえは無い。





「効かないよ?」


「効かないね」



尚もフェイタン目掛けて飛んでくる双子。


フェイタンは一種の霊的なものと判断し、一先ずその場を離れた。





















双子を撒いたのに気付いたのは、二階に上がってからだった。


ボロい階段は、フェイタンが駆け上っただけで崩れ落ちてしまった。


それを見た双子に、場所を気付かれるのは時間の問題だ。







フェイタンは、何故自分がこんな意味の解らない状況にいるのかが腹ただしくなってきていた。













「―――かぁごめ かぁごめぇ かぁごのなぁかの とぉりぃは いついつでぇあう―――…」









どこからか、さっきの唄が聞こえた。










「―――こっちだよ」


ふと前を見ると、狐面の少女が突き当たりにいた。







「…何が目的か?」



「早く、あいつ等が来ちゃう。こっちだよ」





音すら立てず、少女は右に曲がった。




「……」

フェイタンはギシギシと廊下を鳴らせながら突き当りを右に曲がる。






「ここだよ」





少女は部屋の前で止まっていた。


「……」


フェイタンは無言でその部屋に入る。





「この部屋が何ね――――」



振り向くともう、少女はいなかった。





 
フェイタンはとりあえず部屋を調べてみることにした。



少女の被っていたものと同じ、狐の面が壁にかけてある。


後は何もない、殺風景な部屋だ。




「……」


フェイタンはその面に触ろうとし―――








「見ぃつけた」



入口を見ると、また双子がいた。






「ここまで来ちゃったんだ」


「ここはダメだよ」


双子はまたフェイタンに向かって飛んでくる。






「お前達、何者ね」



「人に聞く時は自分が先に名乗るんだよ」


「教えてくれたら教えてあげる」









――――絶対、名前は言わないで……





どこかで聞いた声を思い出し、フェイタンは答えずに双子の攻撃を交わし続けた。






しかし、一方的な鬼ごっこは、あっけなく終わるのだった。







「「!!!!」」







双子の動きが止まる。





「それを離して」


「それに触らないで」







明らかに動揺する瞳の先には――狐の面を持つ、フェイタンの姿。








「…これがお前達の正体か」








言って、簡単に、










「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」」









面は、割れた。







双子は割れるように、消えていった。












「―――よあけのばんに つーると かーめが すーべった……―――」










誰もいなかったはずの背後に、少女が現れた。












「――――うしろのしょうめん、だぁれ?」



























「――――











フェイタンはゆっくり、振り返った。










「……正解」






面を外した顔は、








だった。











「何のつもりか」



「…………」










は黙って笑い、涙を一粒、落とした。
















 






――――――――――――――・・・・・・




目を覚ますと、フェイタンは書庫の床に倒れていた。

手には、あの本を抱えて。



「……?」



夢でも見ていたのかと思い、を呼ぶ。




返事はない。


円を使ってみても、の反応は無い。





「……」


ふと横を見ると、拷問全書が大量に積まれていた。





フェイタンはそれを持って、仮宿へ帰った。





















「なるほどな」


クロロに事情を話し、本を渡すフェイタン。




は8年間、成長が止まっていたんだ。多分、10歳当時に、念をかけられていたんだろう」


「…その本か?」


「ああ。お前の話だと、この本に閉じ込められた者は、身体の成長を止められる。そして多分、念も使えなくなるのだろう。あいつは8年前から念を使わなくなった」


に、名を言うなと言われたね」


「きっとこの念は入れ替わりシステムなのだろう。捕らえられた者が、新たに捕らえられた者の名を口にする事で入れ替わる事ができ、元に戻れる。…そんな所か」



は“言うな”言たよ。入れ替わりたくなかたのか?」





「それについては、本人がメモを残している」



クロロはフェイタンに、紙切れを渡す。



「お前が持って帰った、拷問全書の中に入っていた」










『“かごめ唄”


この念を解くためには


唄通りに物事を運ぶ事


それは外部から新たに進入にて来た者が行う事


内部の者が命を捧げる事』






「この“かごめ唄”という念を、完璧に無効化するためには、中にいたが犠牲になる必要があったということだ。…あいつは、他の誰かに移らないように、自分で終わりにしようとしたんだな」






「そんな事どうでもいいね」


フェイタンはそのままクロロの部屋を出ようとする。




「フェイタン、また今度でいい。の書庫から本を全部取ってきてくれ」










「…悪いけど、もうあそこには行きたくないね」




そして、部屋の扉を閉めた。



















(何のヒマつぶしにもならなかたね)



自室のベッドに飛び乗り、天井を見上げる。







(つまらないよ)





フェイタンには、の最期の笑顔と涙の理由など、解らなかった。






(本の感想、まだ言てないね)







他人のために投げる命の意味など、理解できなかった。







は…ずるいね)












自分が何故、涙を流すのか、解らなかった。
















―――――うしろのしょうめん、だぁれ?








 













end.