お前のその背中は
今も奴を待ているのか?
<アンバランスでも、>
「……」
ひび割れた全身鏡の前に座り、はずっと鏡を見つめていた。
無表情に、光を失った瞳からは涙が止め処なく流れ続ける。
フェイタンは開けっ放しの扉から、の姿を見ていた。
「……」
誰を呼んでいるのか。
しきりに唇は動いている。
「…。新しい鏡、買てやるから、もうそれ捨てるね」
「……これがいいの」
力なく呟く。
フェイタンはの変化の理由を知っていた。
の元恋人が、殺されたのだ。
否――フェイタンが、殺した。
たまたま盗みに入った時、それを見られて殺しただけ。
だけどその人は、の元恋人だったのだった。
「また夜が来るね……今日は仕事……?」
今はフェイタンと共に暮らしているだったが、その元恋人の存在はにとってかなり大きいものとして残っていた。
「…今日はずと、ここにいるよ」
フェイタンはずっと鏡を見ているの側まで行き、後ろからぎゅっと抱き締めた。
「そいつがまだ好きか? だから泣くのか?」
「え……泣く………?」
「ずと泣いてるね。鏡ずと見つめて。……その鏡そいつに貰たやつだろう?」
「……そ、だけど…でも…っ」
――ばりんっ……!!
「きゃぁっ!!!」
フェイタンは鏡を思い切り殴り割った。
「な、に…するの……っ!!」
割れ落ちた鏡を見て、はさらに涙を溜め始める。
「はワタシだけ見てればいいよ。そいつでも、泣いてる自分でも無く、ワタシを見るね」
「フェイタ……っんぅ」
フェイタンは無理矢理の唇を塞ぎ、何度も何度も口付けた。
「ん……ふ、ぅ…っ//////」
「もう、の泣き顔なんて見たくないよ……」
離れた唇から、呟くような声。
「…ごめんね……ごめん…」
そして今度は、からフェイタンにキスをする。
「私が好きなのは…フェイタンだよ。フェイタンを愛してる。…心配かけて、ごめん……」
「――嘘ね」
「!」
「はまだ、そいつを愛してるよ」
「そんなこと……っ!! ……解んないよ…」
フェイタンは弱々しく俯くをもう一度抱き締めた。
「今はそれでもいいね」
「え……?」
「お前の涙も、その嘘も、ワタシが包んで消し去るよ」
そしていつか、がワタシを心から呼べる日まで。
同じ気持ちで抱き合えるまで。
少しづつ、愛に近付けていけばいいね。
end.