マウハ ハカナキ チョウノムレ
ヒトリ ハグレタ コドクナル
ホカクサレシハ クモノイト
――ワタシハ チョウ
サイゴニ チラセ コチョウノ マイ
<胡蝶は揺れて>
「、何をしてるんだい?」
分かっているくせに、ヒソカはに問い掛けた。
「買い物に行くのじゃ。私とて、たまには外の空気も吸いたい。こんな所に監禁されていてはたまらぬわ」
「監禁じゃなくて、軟禁だよv それよりもいいかげん、その古臭い喋り方やめなよ」
「黙れ若造。お前こそいい加減、私を解放せぬか」
がこの、ヒソカの家に軟禁状態にされてから、早いものでもう一年。
「ダメvvv」
未だ、ヒソカはこの家からを出そうとはしない。
「何故じゃ? 答えてみい」
「君が思っているより、この世界は変わったんだよ。変な行動でも起こされたら迷惑だからねぇ」
「知ったことか。私はちゃんと勉強しておるぞ? あの、てれびとやらを毎日見ておる」
は鮮やかな蝶の模様の着物を翻し、テレビを指さす。
「どうじゃ? 文句は無かろう」
「ん〜、困ったなぁvv」
全く困ってなさそうに微笑みながら、細い瞳でを捕らえる。
「!」
その瞳に一瞬気圧された。そしてその瞬間、ヒソカは目の前に移動し、にトランプを突きつけた。
「錬でガードしないと、怪我するよ?」
「……ずるい」
は念の制約上、念を使うことを極力避けたい事をヒソカは知っていた。
「しかし、お前も共に来てくれるなら、外出もいいのだろう? 着いて来てもくれぬのか?」
「今日はトクベツな日だからねぇvv」
「トクベツ?」
首を傾げるに、ヒソカは何処からか一瞬で花束を取り出す。
「800歳、オメデトウv」
そう、彼女は今日で――800歳を向かえる。
事の始まりは、784年前まで遡る。
「父上? 母上…?」
辺り一面に広がる炎の色。
燃え盛る、人だったもの。
その中には、当然、肉親も。
「何故…何故…っ」
当時16歳だったは、地面にひざを着いた。
「私達は…ただ、静かに時を過ごしたかっただけなのに……っ!!」
その昔は、念使いなど、本当に少なくて。
の一族には、それが伝えられていた。
世界には、その力を悪用しようとする者も、わずかにはいたそうだが、
の一族は、決して人に向かってその力を振るわず、
ただただ静かに、山奥で時を過ごしていた。
――火をつけたのは、麓の村人。
山奥に住む、奇妙な力を使うという一族に、恐れをなした人間の、
傲慢な、炎。
「私達が…お前等に何をした……?」
憎しみが渦巻く。
「何も……何もしてはおらぬではないかっ!!」
まだ開花していなかった、の念能力。
憎しみによって、皮肉にもそれは芽を出した。
「制約と、誓約…」
力こそなかったものの、には念に対しての知識は充分にあった。
「――――力を使う度、寿命が伸びる――――――……」
それは、絶望の中、孤独に一人で生きるならではの、
生きる事を極端に恐れただからこその、強力な制約。
そして、誓約は…
「――自分の命を、自分で奪おうとしない」
大抵、誓約を破れば、念能力は消滅する。
しかし、それではが延ばした命は、簡単に終わらせる事が出来てしまう。
だから、この誓約を破れば…彼女の命は永遠のものとなる。自分でも他の誰かでも、彼女の命を奪うことはできなくなる。それはの、最大の恐怖なのだ。
幸福など何もない。
痛みは負っても死ねない。
そんな日々が、待っている。
――そして時は800を迎えた。
「…もうそんな年寄りになるか」
もちろん、の外見は昔から変わらない。
「君はいつまでも枯れない…いいねぇそういうのv」
「良いものか! ………」
「どうした?」
は、急に黙り込む。
「私が、念能力を必要としたのは…同族の仇を打つ為。しかしそんなもの、とうの昔に終えてしもうた。…私は、もう死にたいのじゃ…」
「うん、昔から言ってるねぇ。だがそれだと、君は死ねない身体になるんだろう?」
「そう、故に私はずっと待っていた」
ヒソカから受け取った花束を、床に落とす。
「私を、しくじらずに、確実に―― 一瞬で殺せる者を」
ヒソカは表情を変えずに、を見つめた。
「それが、僕かい?」
「お前以外に誰がいる、この虚け者」
は真っ直ぐにヒソカを見る。
「…一年前、流星街でうずくまっていた君を、どうして僕がここに連れてきたか……知ってるかい?」
「興味は無い」
「つれないなぁvv」
ヒソカはどこからか取り出したトランプを繰り、一枚取り出して表を見せる。
「…君が僕の闘争本能をくすぐったからv」
そのカードは、ジョーカー。
「…無抵抗の奴を殺しても楽しくない。僕は君と闘りたいんだv」
「…つまり、殺さぬと?」
「そういうことvvv」
クモノイトニ ツルサレテ
ミウゴキモトレズ タダ モガキ
クワレルワケデモナク
ハナサレルワケデモナク
コチョウハ サケブ
ソクバクヲ ノガレルゴトク
「何故…何故っ…」
の目に溜まり始める涙を、ヒソカはそっと拭う。
「いいねぇ、その顔v」
「黙れ変態」
泣きながらも毒づいた発言をする。
「…僕が正直に話したと思っているのかい?」
「は…?」
急に、ヒソカはそう言った。
「何の事じゃ…?」
「君をここに連れてきた理由。簡単なことさv」
「君が気に入ったんだよvvv」
の中で、何かが音を立てた。
「いいじゃないか、いつまでも生き続ける事も。僕は楽しいと思うけどなぁv」
「…それでも、お前は私より先に死ぬ。…自然な成り行きだ」
「僕がそんな簡単に死ぬと思うかい?」
「……あはははははっっ」
言われて、はふき出してしまう。
「お前が死ぬ? く…くくく……っ、あ、ありえぬ…っ」
「ひどいなぁv」
腹をかかえて大笑いするの横で、ヒソカはトランプを放り投げた。
「そうだねぇ…万が一、僕が死ぬようなことがあった時は……殺してあげようv」
ヒソカ。
私は初めて、生きていたいと思うたよ。
せめて、お前が側にいてくれるなら。
「ヒソカ。私はきっと、――お前が好きだ」
お前が側にいる間は、私は笑っていられるだろう。
お前に殺して欲しいけど
お前と生きたくも願っている
なぁ、ヒソカ。
お前は気まぐれだから。
その内私を捨てるかもしれぬ。
だからその時は、
私を殺してくれると、信じているよ――。
end.