「ねぇイルミ」
「あぁ、。いたの?」
イルミは本を読みながら、振り向かず言う。
「ああいましたよ。ずっと敷地の森の中にね!!」
「兄貴が出てこないから、俺が代わりに迎えに行ったんだよ」
私の後ろから顔を出したキルアは、軽くため息をついて腕を組んだ。
「ちゃんと正門通って入ってきたのに、兄貴が迎えに行かないから迷ってたじゃん」
「の存在は使用人達も知ってるはずだけど。迎えに行ってあげればよかったのに」
「…兄貴が昔、『は自分で迎えに行くからいい』って、ゴトー達に言ってたんだろーが」
<愛のカタチo>
付き合ってもう何年経つんだろう。
こういうのを、マンネリとでも言うんだろうか。
「…はぁ……」
私は軽くため息をつくと、ソファーに座った。
イルミはベッドに座ってまだ本を読んでいる。
…呼ばれて来たハズなんですけど。
「ちょっとイルミ。人を呼んどいてその態度無くない?」
「…え? 呼んだの明日じゃなかったっけ?」
「……今日だ馬鹿野郎」
私は大きくため息をつき、ソファーにうなだれた。
「…で? 何の用があるっていうのよ」
「……何かタイミング、ミスったから今日はいいや」
「はぁ!? せっかく来たのに何それ!?」
「知りたいの?」
「そりゃ呼ばれて何もなく帰るってわけにはいかないわよ」
「そう」
言うと、イルミは本を閉じてこっちに向かってきた。
「」
「な、何…」
よく解らない、見えない重圧のようなものを感じ、私は少し身を拒めた。
そんな私に、イルミは手を差し出し、
「登山しよう」
「………はい?」
こんな事をのたまいやがった。
(なんでこんな事に……)
連れて来られたのは、登山家さえ登らないような険しい山だった。
もう日も落ちて、頭上には月が輝いている。
「イルミっ、どこまで行くのさ!」
「もう少し」
「もう少しって…さっきからそれしか言ってな…」
その時、イルミは軽々と私を抱き上げた。
「なっ…///」
「こっちの方が早い」
そのまま、イルミは鬱蒼とした山中を駆け抜けた。
「ここだよ」
無駄に長い草も木も無い、丸く開いた場所。
見上げれば、満月が頭上に輝き、その光が真っ直ぐにその場を照らしていた。
「…綺麗……」
「ここが何処だか、覚えてる?」
「え? 初めて、来たけど…?」
「……ちょっと痛いけど、我慢してね」
瞬間、目にも留まらぬ速さでイルミの手が私のこめかみへ、
そして、
「ッ!!!」
一瞬の、強烈な痛みが走る。
「な、何…っ!?」
涙目でイルミの手を見ると、血が付着した指の間に、一本の針。
「ここを忘れるように、これ刺してたんだけど。…思い出した?」
「!」
急に、頭の中に情景が流れていった。
まるで、針がその流れを塞き止めていたかのように、急激なスピードで。
「私…ここで、イルミと出会った…?」
「そう」
そうだ…私、暗殺者として命狙われてて…
それで、何処かから依頼を受けて私を殺しに来たイルミから逃げて…ここで捕まって…
「イルミ…私を助けるために、針、刺してくれたんだよね…? 『こいつは記憶を無くしたから、もう命を狙う必要は無い』って…」
「…覚えてる? 今日、その日から3年目なんだけど」
「…明日と間違えてたくせに」
私が怒ったように言うと、イルミは黙り込んでしまった。
「嘘だよ。ちゃんと解ってた。…ぼやーっとした記憶の中、一番初めの記憶は貴方だったから」
私が、初めて好きになれた人だから…
「……ん? ていうかさ、何か大切な事忘れてるよーな…」
「できればそのまま忘れてて」
「…何か、まだ内緒してるでしょ」
「………」
喋らないイルミを放置して、私は記憶を辿った。
『私、死にたくない。貴方の側にいたい…』
あぁ、こんな恥かしいセリフ、そういえば言ってたな…。
『…そんなの、初めて言ってもらったな。…いいよ、側にいさせてあげる』
どうして、イルミはこんな簡単に私を助けてくれたんだろう…。
『だけど条件』
『何!?』
『オレの奴隷になる事』
『はぁ!? 何だこの人最悪だッ、最も悪いと書いて最・悪・だぁぁぁッ!!』
『問答無用』
そうそう、確かこの後、すぐに針刺されて…
『こいつは記憶を無くしたから、もう命を狙う必要は無い』
『ふざけるな!! お前に払った前金はどうなる!?』
『倍にして返すよ。だから、はオレが買うって事で』
『な……お前、同業者だろう!? ライバルだろう!?』
『オレがコレに劣ってるとでも思うわけ? ありえないね。…それに………』
『人間のお持ち帰りって、面白そうじゃない?』
「……思い出した…ッ!!」
「あ、ヤバイ」
「奴隷って何だこの馬鹿野郎!! 私がいつそんなもんになりたいって言った!?
それよりアレだ、私がイルミより劣ってる!? どの口が発声した!? もう一回言ってみろコラ!!」
「オレがより弱いとは思えない」
「畜生ッ言いやがったーーーー!!!!!」
叫びつつ、私は はっとしてもう一度イルミに詰め寄る。
「…ちょい待て。……『お持ち帰り』って、何」
「……さぁ?」
ぶちっ。
それがもっとも相応しい効果音だろう。
「…〜〜私はあんたの物じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
今も昔も、
これが私達の、
…愛のカタチ?
end.