「ねぇイルミ、あたし、あなたのお家見てみたい」
「何もないよ?」
「そんな事ないわ。弟さん達にも会ってみたいし…」
「ふーん…いいけど、知らないよ?」
その時の、イルミの言葉の意味を、あたしはまだ知らない。
<battle brothers>
あたし達はその後、すぐにイルミの家に向かった。
イルミの言葉は気になったけど…よく解らないから、放置。
「ここ、オレの家」
「……門、大きいわね」
見上げると転げそうなくらい高い門が、目の前に聳え立つ。
「…開けてみる?」
「えぇっ!? だ、だって…こんな重そうなのにっ」
「なら大丈夫だよ」
「だ、大丈夫って…」
あたしはまた、イルミの悪い冗談だとばかり思っていた。
だけど…
「…へ……うゎっ」
あたしは思い切り手を引く。
ばんっ! と音を立て、扉が閉まった。
今、かなり高い所まで開いた……?
「…へぇ、Vの扉まで開いたか…流石だね」
「え、何なのコレ…」
「力に応じて扉が開くんだよ。まぁ、ならこれくらいはいくかな」
「……ちなみに、イルミはどこまで?」
「聞きたい?」
「いや、いいっ。早く入ろうよ」
あたしはもう一度扉を開け、イルミを押し込んでから自分も入った。
「……広っっっ!!!」
門を入ると、さらに森が広がっている。
「…屋敷はまだずっと奥だよ」
「まだ行くの!? あたしもう疲れたわ…」
「……あ、迎えが来たみたい」
「迎え……? !!」
急スピードで、何か大きい物の気配が近づいてきている。
イルミが普通にしてるから、危険なものじゃないんだろうけど、あたしは少し身構えた。
「!! …な、に……これ……」
「番犬の、ミケ」
そこに現れたのは、あたしなんかよりずっと大きな…それこそさっきの扉と同じくらいの大きさの…狼?
「ミケ……まさか、猫とか言わないよね?」
「…言わないよ」
あたしはミケに近寄り、手を差し出す。
「あんまり近づくと危ない…… !」
するとミケは、あたしの手に鼻先を押し付けた。
「え? 何か言った?」
「ミケが……ふーん、やっぱりってすごいね」
「…そんな人を異人みたいに……」
あたしは少しむっとしてイルミを見た。
「…てかさ、カルト。いるんでしょ? 出てきなよ」
「カルト…?」
急に視線をミケの背後に向けたイルミ。
「……お帰り、兄様」
そこからは、着物を着た女の子が現れた。
「……可愛い〜vvv イルミって妹もいたの!?」
あたしはカルトちゃんを抱き締めた。
「…カルトは弟だよ」
「……え?」
「兄様、この人が?」
「そうだよ」
「……」
カルトちゃんは抱き締めたままフリーズしてるあたしの服を掴み、上目使いであたしを見た。
「僕はカルト。兄様から話はよく聞いてる」
「え、よく……」
「…カルト、いいから屋敷に向かうよ」
いつのまにかミケの背中に乗っていたイルミが上から言う。
「の、乗っても平気なの?」
「ミケは家の人にしか懐かない。には懐いてるから大丈夫」
カルトちゃんはそう言うと、あたしを姫抱きにして一気にミケの背中へ跳んだ。
「きゃ…っ//////」
「……カルト」
イルミはその真っ黒な目で、自分の横に乗ったカルトちゃんを見る。
「……」
カルトちゃんは少しイルミを見つめた後、軽い溜め息と共にあたしを降ろした。
「…行くよ」
イルミの声を聞き、ミケはすごいスピードで走り出した。
「あ、りがとね…ミケ……」
ミケ酔いしてフラフラとするあたしの手を舐め、ミケは森へと帰っていった。
「大丈夫?」
カルトちゃんはそんなあたしの腰に手を回し、支えてくれた。
「あ、ありがと、カルトちゃん。大丈ぉっっ!?」
あたしは急に視線が高くなり、びっくりして言葉を失う。
「な…イルミっ!?//////」
視線の理由は、イルミがあたしを姫抱きにしていたからだった。
「早く入るよ」
イルミはあたしの言葉を無視して屋敷に入る。
「……」
カルトちゃんは、少しむっとした表情を見せながらも、その後に続いた。
「はい、オレの部屋」
「へぇ…結構普通だね」
もっと何も無い感じだと思ってたけど…普通だ。
「…何でまだカルトはいるのかな?」
「いたら駄目なの?」
二人がギスギスした空気を放っているのに、あたしはまるで気付かない。
「イルミ、帰ってるのか」
「あ、親父」
急に開いた扉からは、『親父』と呼ばれた、銀の髪の人。
「二人の、お父さん?」
「そう。…親父、こっちは例の…」
「!」
あたしの名前を聞いて、お父さんは反応する。
「例のって……?」
「ほう…お前がか。イルミから話は聞いている。オレはシルバだ」
「あ、です…」
シルバさんはあたしのすぐ前まで来ると、じっとあたしを見つめた。
「……」
滲み出すオーラに反応して、あたしも少しオーラを強張らせた。
「…なるほど、気に入った。なら問題ないだろう」
「でしょ?」
「…え、何が……」
「おいイル兄!! が来てるってマジかよ!!!」
「あ、あの子じゃねぇの?」
再び勢いよく扉が開き、今度は銀の髪の男の子と、少し太った人が入ってくる。
「イルミの弟さん達?」
あたしはとりあえず微笑みかける。
「お、おう。オレ、キルア//////」
「オレはミルキ! へぇ、って、本当に綺麗なんだな…//////」
「へ…?//////」
「…どうでもいいけど、そろそろに説明した方がよくない?」
「なんだ、お前が説明していたんじゃないのか」
「まだだけど」
「イル兄段取り悪ぃよ! だからもぼーっとしてたわけ?」
「な、なんですか…結局」
あたしは状況理解に追われて、何が何だか解らずにいた。
「…イルミから、お前の話はよく聞いていてな。…『ゾルディック家の嫁に相応しい人物』だと」
「…………嫁?」
「そう、嫁」
後ろで言うイルミをゆっくりと振り向きながら、あたしは必至に頭を働かせる。
嫁…お嫁…嫁ぐ…ゾル家に嫁ぐ…誰と…?…ってそれ以前の問題として、…結婚ッ!!??
「待って待って待って待って待って待って待ってよちょっとねぇ、…あたしいつ嫁ぐって言ったよ?」
「聞いた覚えないけど」
「じゃなんで結婚なんて…っ」
「この家に嫁げる人なんてそういない。はその価値のある人間だから」
「カ、カルトちゃん…そんな淡々と説明されても…」
「だから言ったでしょ。知らないよって」
「うっわ……すごいアバウトな事で」
「まぁ選択権はあるから、この中から選べ」
「って、拒否権は無しなわけね…」
この一家にはもう何を言っても通じない。
腹をくくり、あたしは溜め息を着いた。
「長男、イルミ」
「…うん」
「次男、ミルキ」
「よ、よろしくっ//////」
「三男、キルア」
「、オレのお嫁さんになってよ//////」
「アルカは都合により不在、そしてカルト」
「…」
「そして最後に、オレだ」
「「「は?」」」
「…冗談だ。…さぁ、選べ」
聞き流すには痛い冗談だけど、あたしはとりあえずスルーして、みんなの方を見た。
「……え、じゃぁ…カルトちゃん」
「「「早っっ!!!」」」
「え、ちょっとタンマ!! 何そんな簡単に決めてんだよ!?」
「えーだって…」
「、趣味悪いね」
「ひどっ!」
「でもまぁ…」
「よりにもよって…」
「何、何なのよ。一番まともで可愛いじゃない」
「「「「一番クセのある奴を……」」」」
「……え?」
その瞬間、後ろから、カルトちゃんが抱きついた。
「…先に言っとくけど…帰さないから」
「え、何、ちょっと待っ……カルトちゃん?;」
「僕を選んだのはだよ」
そう言うとカルトちゃんはあたしのひざ裏に手刀を当てる。
「きゃッ!?」
床にひざが付く前にカルトちゃんにすくわれたあたしは、また姫抱きにされていた。
「これで兄様達に文句言われないで済む。僕の部屋に行こう」
「え、待って待ってちょっと待とうよっ;」
「待たない。だってもうは僕のものだし」
そして、静かにイルミの部屋の扉が閉まった。
「…いいのか?」
「しょうがないでしょ。カルトは物持ちいいし、いいんじゃない?」
「物持ちって…兄貴、一番お気に入りだったんじゃ…」
「あぁあ、オレも欲しかったなぁ」
「…ふむ…おしい事をしたな…」
「「「……親父……?:」」」
まぁ、誰選んでも逃げればいっかぁ、なんて考えてたけど。
多分、……無理だッ。
end.