例え様の無い痛みを負った。
心に響くそれに抗う術を、俺は知らず、
あの日、蜘蛛は蝶を捕らえられなかった。
<story 1 〜胡蝶〜>
――ねぇ、クロロ……貴方が欲しい物って、何?
『何も無いさ』
お前、だなんて…格好悪くて、言えるか。
――貴方が望む物…私、何でも取ってきてあげるのに。
『今こうしているのが一番さ』
本当は…今すぐにでも、抱きしめたい……。
――じゃぁ約束。何か欲しい物ができたら、私に言ってね?
『解ったよ』
俺は未だに、
本当に手にしたい物が解らない。
「団長ー」
「!」
本を読みながら、昔の事を思い出していたクロロに、団員が話し掛ける。
「あぁ……か…」
は、ウボォーの抜け番に入った、新しい団員だ。
「今日、団長髪下ろしてるね? カッコいいよw」
「そうか?」
クロロは微笑みながら、の笑顔を見つめた。
だが彼女という存在に、クロロは心に重いものを感じていた。
あの人に、似ているから。
「? 何か今日の団長、哀愁漂ってるよ? 何かあったの?」
丸い瞳が、真っ直ぐにクロロを捉えた。
「そうだな…ウボォーやパクノダの死で、感傷的になってるのかもしれない」
身内の死なんて…あの人以来で。
「ふーん…」
その言葉に何かを感じてか、の元気も落ちる。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
クロロはその空気に、本に視線を落とす事もできず、ただ空ろに前方を見つめている。
それに対しては、息苦しい顔をしてこの空気をどうにかしようと冷や汗をかいていた。
「そ、そういえば、団長の額の刺青、綺麗だよねっw」
明るい声で、額に手を伸ばす。
「――触るな」
「!!」
クロロはその手を払い、自分でもその行為に驚いたのか、気まずそうに本を閉じた。
「あ、いや……すまない」
呆然と立ち尽くすを置いて、クロロは自室へ帰った。
「あぁあ。団長、あんな態度無いだろうに…」
「マチちゃん…」
途中からその場面に出くわしていたマチが、の元へやってきた。
「あたし…団長、怒らせちゃった……」
「あの態度は団長が悪い。…は気にしなくていいよ」
マチはの頭を くしゃっと撫でる。
クロロは自室のソファーで溜め息をついた。
額に手を当て、あの人の事を思い出す。
彼女は自分の顔を知らなかった。
自分の顔が映すモノがある事を知らなかった。
流星街へ落ちてくるゴミの中からクロロが鏡を見つけ、彼女に渡した。
彼女は初めて見た自分の顔を見て、『これが笑顔?』と、嬉しそうに呟いた。
その笑顔をずっと守りたいと思った。
「――……」
クロロは、無意識に呟いた。
今も愛しき、あの人の名を。
――洋蘭の花の一種でね、胡蝶ってあるの。あの花、大好き。蝶みたいな花をつけるのよ。
今でも部屋の隅に飾ってあるのは――胡蝶の華。
それは、今はもういないを忘れないための、鎖なのか。
TO BE CONTINUED