黒く、
黒く、
全てが、染まる。
ねぇ、
あたしは、誰?
<story 7 〜崩壊〜>
土の匂いが鼻をつく。
「……」
最後の一体を倒し終えたクロロの手には、細い、糸。
それは、林のさらに奥へと続いていた。
「これを辿れば、操り主の元へ着くはずだ」
クロロは糸を強く握り締め、走りだした。
心の中には、
まだ、迷う自分がいた。
マチの言葉は、とても重くて、そして、
何よりも、大事な事で、
を忘れる事など、きっと、無理だと思う。
に惹かれた理由も、始めはに似ているからだった。
だけど、
今は、
――――――自分にとって、は………
「っ団長!!」
「!」
シズクの声に我に返り、クロロは前から飛んできた何かを避けた。
「糸…!?」
避けた数本の糸は、後ろの木に絡みつき、木を締め付けた。
木はバキバキと音を立て、倒れる。
「! まだ来るよ!!」
「林を出るぞ! この糸の先は岩壁地帯のはずだ!」
何手もの糸の攻撃が襲来し、三人は全てを避けながら林を進んだ。
「!!」
薄暗い林を抜け、太陽が顔を見せた。
「お前は…!?」
高い岩壁が両脇にそびえ、そう狭くも無い道の真ん中に、微笑む少年が立っていた。
「くすくす……」
「何がおかしい!?」
「マチ、あいつ糸持ってる。…あいつが、のニセモノ操ってた奴だよ!」
少年は糸を玩びながら、こっちを一度見た。
「…わっかんないなぁ……何で君たち、聖様の邪魔するのさ?」
「聖…?」
「を連れていった奴か!?」
マチは念糸を生み出すと、少年と距離を縮め、首に手を伸ばし…
「…無理だよ」
「!」
次の瞬間には、マチは少年の糸に捕らわれ、地面にひれ伏していた。
「…僕に、君が勝てるわけないでしょ? ……ホント、解んない人だね」
「マチを離せ」
少年が視線を上げると、盗賊の極意を構えたクロロ。
「ふぅん…ソレ使うの? 別にいいよー…?」
少年が取り出したものを見て、
「!!」
全員が驚愕した。
「僕も持ってるしー……」
少年の手には、クロロと同じ、本。
「…何故……それを持っている…?」
「だってこの力……様に教わったんでしょ?」
「!!」
クロロの目が変わる。
「ていうか君たちってさぁ、様の仲間だったんでしょ? 何で様を聖様から遠ざけようとするの?」
「様…?」
「だって、様は様の……」
「喋りすぎですよ、――ロウ」
「!」
その声に、全員が岩壁の上を見上げた。
マチとシズクは、その声を覚えている。
「聖様!!」
ロウ、と呼ばれた少年は、顔を綻ばせて名を呼んだ。
「アンタ…あの時の!!」
「おや、先日のお嬢さんですね。…今日はまた、惨めなお姿で」
マチを見下ろし、微笑む聖。
「…をどうした?」
「………」
クロロの言葉に、表情を冷たくする聖。
「…気に食わないですね。…貴方、何故を自分の物のように発言するのです?」
「お前のものでもないだろう」
「……ふっ…」
聖は嘲笑うように目を細める。
その後ろから、
「彼女は…――今も昔も、僕のものですよ」
「!!」
の服を着た、が現れた。
「……!? お前何故それを…」
「……ロウ、おいで」
はクロロの言葉を無視し、ロウを呼んだ。
ロウはマチを拘束していた糸を解き、本を消して、と聖のいる岩壁の上へ跳んだ。
「様!!」
ロウはに抱きつき、安らかなまでに微笑んだ。
「………」
「………」
ロウに向けられていた微笑みは、クロロたちを見下ろす瞳には無かった。
「!! 早くソイツから離れて…!!」
「……何故?」
「!?」
マチの叫びに返ってきたのは、冷ややかな、一言。
「ソ、ソイツはアンタを誘拐して…」
「そうね。でもそれは、何も知らなかったあたしを連れ去ってくれたのよ。本来あるべき場所へ」
「何、言って……」
呆然とするマチに向かって、黒い微笑みを持って、は止めを刺した。
「……偽りのあたしとの時間は楽しかった? …『マチちゃん』?」
「……ッ…!!」
マチは地にひざを着き、俯いた。
「………」
クロロは呆然としていた。
表情も、格好も、声も抑揚も何もかも、
あれではまるで…――、そのもの。
「………」
そんな様子のクロロをみて、は憎悪の瞳で見つめる。
「貴方はまだ迷っているの? いい加減嫌気がさすわ」
はロウを離すと、岩壁から飛び降り、一歩一歩クロロに近付いた。
「貴方はまだに縛られているのね。可哀想に」
「……」
「気安く呼ばないでよ。あたしとを重ねているくせに」
「俺はっ」
「聞きたくない!! あたしはよ!!」
は真っ直ぐにクロロを見つめた。
「あの日……側にいてくれなかったくせに……」
「…何の、事だ…?」
「…―――『私』は、最期の瞬間までクロロの側に居たかったのに……!!」
その言葉に、は はっとして口を押さえた。
「くそ……まだ一体化が抜けない…」
「一体化…? ――!!」
クロロは目を見開く。
シズクがデメちゃんで、を後ろから攻撃しようとしていた。
「駄目だっ、シズク!!」
次の瞬間、
「きゃっ!!」
シズクは、岩壁に打ち付けられ、気を失った。
「……鬱陶しい」
先程までシズクがいた位置に手を翳している。
クロロはすぐに理解した。
「魔女の、力……!?」
「そうよ」
はついにクロロの目の前まで歩み寄った。
「あたしは、『』であり、『』でない……でもそれは貴方の側にいた頃のあたし」
呆然としたままのクロロの頬に手を伸ばす。
「……同時に、あたしは『』であり、『』で無かった。…解る?」
「………」
クロロは混乱していた。
どう見ても、目の前の少女は、
でしかなくて。
「あたしは……のクローン、なんだよ」
「!!」
急に、引き戻される現実。
「何……?」
「でもね、そんな不安定な関係も終わり。あたしは『』を取り込み、完全な『』になる」
はクロロを抱きしめる。
強く、強く。
「あたしは……になるんだよ、団長」
「……――!!」
鈍い音が、響いた。
「……ッ…!!」
苦痛に歪むクロロ、
目の前の状況を理解できないマチ、
そして微笑む、。
「――なぁんちゃって」
は、
クロロを貫いた。
「………」
視界からが消え、初めて、倒れたと気づく。
「……『』を拾ってくれて有難う、クロロ」
「………!」
空ろな意識の中、先程までとは違うトーンの声が聞こえた気がした。
しかし、消え行く意識の中で、そんなものは何の疑いにもかけられず、
「さよなら」
クロロの意識は、遠のいて行ったのだった。
TO BE CONTINUED