静かに、あたしを捕らえる瞳。
悲しげで、寂しげで、
目を逸らせないほど…――強い。
<story 9 〜接触〜>
「あなた…なの……? 本当に……?」
は、ゆっくり頷いた。
『あなたを…ずっと見ていたわ』
冷たい手の平が、あたしの頬を包んだ。
『私のせいで…あなたが生まれてしまった。そして、それが新たな不幸を呼んでいる』
「でもっ、…あなたがいなかったら…あたしはクロロに…!!」
言って、手で口を押さえる。
でもすぐに気づいた。
今、誓いを果たす必要は、無い。
「あたし…クロロを傷つけてしまった…」
『クロロが…好きなのね…』
そう言うを、あたしは見上げる。
はゆっくり、私を抱きしめた。
心地いいけど、何故か落ち着かない。
「…は、なして……っ」
『どうして?』
「どうしてって…」
『あなたは私を拒むのと言うのかしら。あなたは私なんでしょう?』
「それはっ…」
『あなたが…言ったのよ』
瞬間、
「…!!」
の腕が、あたしを貫いた。
『そうよ…あなたは私。私はもう自分の身体に戻ることができない…でも、同じ遺伝子を持つあなたの身体なら…』
「…や、だ……やめて…っ」
『聖を…倒す。そのために…――あなたは私へと還りなさい』
の声が頭に響いた瞬間、私の意識は飛んだ。
「――………」
最後に浮かんだのは、クロロの…
「!」
部屋の空気が変わった。
重々しい存在感。射抜かれそうな気迫。
そして、紅く輝く瞳が、そこにあった。
「成功…した…? 一体化の成功だ!」
そこにいる人物を見て、聖は声を荒げる。
しかし、その女はひとつとして表情を変えない。
「……君なんだね。…――」
「久しぶりね、聖」
顔を上げ、身体を起こす。
うな垂れていた前髪を後ろに流し、少し目を泳がせる。
どれも大人びた妖艶な雰囲気をかもし出す。
彼女はもうではない。――だ。
「素晴らしいよ…また君と話が出来る日が…」
「近寄るな」
聖が一歩踏み出た瞬間、2人の間に電気のようなものが走った。
「…あんたは…どこまで罪を生み出せば気が済むの…」
殺気めいたの瞳が聖を照らす。
それに当てられ、聖はうろたえもせず笑みを浮かべた。
「罪? 何が罪だと言うんだい? ただ君に会うためさ。…純粋な気持ちの表れだよ?」
「やっぱり、あんたみたいな変態には常識も何も認識できないのね」
は軽くため息を着く。
「…――!!」
次の瞬間には、2人は組み合っていた。
「相変わらず攻撃が早いね。安心したよ」
「相変わらず触れられるのも耐えられないわ。吐き気がしそう」
お互い距離を取り、見つめ合う。
最も、実際見つめているのは聖の方であって、にはそんなものは一切無い。
ただ殺気にかられる視線だけ。
「…覚えておきなさい。私はあなたを決して許さない」
言いながら、の足元に光が現れる。
「…嬉しいね。次は君から会いに来てくれるのかい?」
「ええ。…殺しにね」
そして、の姿は部屋から消え去った。
は。
「………」
は、優しくて明るい子だった。
仕向けたのは自分でも。
そうじゃなくても本来なら…そうなんだと思う。
だって彼女は…のクローンなのだから。
「………」
クロロは思いを巡らせていた。
その重苦しい空気を感じてか、広場にはクロロ以外誰も居ない。
「………」
との思い出を巡らせる。
始めて会った時に感じた思い。――への未練。
過ごした日々。居た堪れない気持ち。――自分への後悔。
貫かれた腕。冷たい瞳。残された言葉。
――…への、執着。
は確かに、に似ている。
それはそうだ。クローンなのだから。
だけど、全てがそうじゃない。
にはの、にはの。
互いに自分しか持っていないものが、あるというのに。
「…何を迷っていたんだ」
はだ。
はだ。
確かにへの未練はある。
もう一度側にいたい気持ちも、あの男への苛立ちもある。
でもそれより、
今は…――を取り戻したい。
「……」
クロロは立ち上がった。
前を見据えた。
もう、振り向かぬように。
そして足を踏み出し――…
「クロロ」
クロロは、
振り向いてしまった。
視線を捕らわれてしまった。
過去の想いに。
――…の姿に。
TO BE CONTINUED