教会――神の膝元










神に仕えし者、シスター






その傍らには―――盗賊の姿があった




































<神前ノスタルジア>





































街から結構離れた森の中。

シャルナークは仕事中、怪我をして、この森に一先ず逃げ込んだ。






「…うーん…油断したなぁ…」




大した怪我では無かったが、体制を立て直すために森に入り――連絡を入れた時には仕事は終わっていた。








「そろそろ帰るかな……」




適当に森をぶらつき、シャルは仮宿の方向へ足を進めた。






「…ん?」




道無き道を進むに連れ、月灯りに照らされた広い場所が目の前に広がった。


その中心に、教会が建っている。






シャルは何となく、その扉を開いた。
















「……主よ――……」







教団の前、月灯りの下。






「……」



薄暗い教会に、済んだ声が響いた。




シャルはその存在の強さに声を失った。













「どうか…………











……この世にはびこる自己中心的で利己的で協調性の欠片も何も無い下等生物に等しく値する人間どもをちゃっちゃと始末してください」



「!?」






済んだ声は一気にどす黒いオーラをむんむんと発し、その人から発せられたには思えないセリフを吐き出した。





「えぇ……」


どん引きしているシャルに、少女は気付く。






「きゃっ、誰!?」



跳ねるように立ち、振り返った少女は――







「…………」






月灯りの元、女神のように神々しかった。










「あ、オレ…? …シャルナークっていうんだけど…」





その雰囲気に、シャルの頭からはさっきのセリフは飛んでいた。








「シャルナーク、さん…? ……あの、つかぬ事をお聞きしますが……今の………」




だんだん声のトーンが低くなり、冷や汗をかく少女。






「……」



シャルも同じように、無言で頷いた。






「〜〜〜っ///  あ、あの…聞かなかったことに……と、ところでっ! こんな時間に、教会にどういったご用事ですかっ!?」



赤面しながらも、笑顔で少女は言った。







「いや、たまたま通っただけなんだけど……君は、何て名前なの?」



「わ、私ですか? …私は。この教会でシスターをさせて頂いています」



「ふーん・・・っていうんだ。…ねぇ、また来ていい?」




シャルは、何故かに惹かれた。






「ええ。いつでもいらして下さい。……って、シャルナークさんっ、そ、それっ」



は慌てた様子でシャルの服に付いたそれを指さす。






「血っ、血が付いてますよっ!? どこかお怪我でもあるんですか!?」




ぐるぐるとシャルの周りを回り、血の流出個所を探す






「あ、背中……っ」


シャルの背中には、血は止まっているものの、大きな切り傷があった。






「あぁ、大丈夫だよ。血は止まってるし、それに――」







――仲間に、簡単に治してくれる人がいるから……







「……」

「? どうかなさいました?」

「あ、いや…とにかく大丈夫だから」





説明が面倒なのか、何なのか。


何となく、言えなかった。


 





「……ちょっと失礼します」


はシャルの傷に手をかざす。




「!」




その手は青い光を放ち、見る見る内に傷を治していった。



シャルは慌てて“凝”で見てみると、念が発動されていた。







「…終わりました」


笑顔で言うの腕を、シャルは掴んだ。






……念使いなの?」



「念…? 何ですか、それ。――これは神様が下さったお力です。…内緒ですよ?」




はおどけた子どものように、人差し指を口の前で立て、ウインクをした。









「――では、また」




そのまま、はシャルを残し、教会の奥へ消えた。











「……




シャルはもう一度名前を呼ぶと、教会を後にした。







































その週は、仕事で仮宿を出られなかった。





、いるかな……?)



六日ぶりに、教会のある森に足を踏み入れる。

仮宿の方向から入ると、教会はすぐ近くだった。








「…?」




扉を開けると、シャルの声をかき消すように、賛美歌が響き渡った。








「…………」





シャルは自分とは無縁なその曲に聞き入った。









コーラス隊の中心に、がいたからだ。








その声は、初めて聞いた時のように澄み渡って――









…天に召します我等が神よ……






のソロに入り、教会の中は一層厳かな空気に変わった。






我等を守りし…偉大な……





そして、歌の途中にも関わらず――声は途切れた。









「何だ?」


「どうしたんだ?」



教会の中にざわめきが起こる。








「ご、めん…なさい……」



はその場を走り去った。



 






















「……?」



は教会を出て少し離れた場所にある花畑にいた。








「……申し訳ありません、変な所、お見せしました」




「気にしてないよ。誰にだって失敗は……」

「―――違うんです」






はシャルの声を静止した。








「……歌えなかったんです、続き」

「続き……?」














―――――天に召します我等が神よ



我等を守りし偉大な神よ



私はあなたを愛しつづけ



信じる事を誓いましょう―――――
















「…私は神なんて信じません」




「……え…」




「目に見える物しか信じない。――この手で生き抜いていくから」













振り向いたの瞳に、






涙。














「私……変、ですか…?」








「変じゃ、ないよ」


シャルはの涙をすくうと、を抱き締めた。





「シャ、シャルナークさんっ……」


「シャルでいい」


「え…?」





「シャルって、呼んで?」






少し身体を離し、目線を合わせるシャル。






「シャ、ル……?」


「そう」

























それからというもの、シャルは仕事のない日は必ずに会いに来た。




二人はお互いに惹かれあい、必然のように付き合い始めた。



関係も持った。



しかし、はシャルに、何故神を信じていないのにシスターをしているのか、





何故念が使えるのか、






何故それを“神の力”と言うのか、







「内緒ですw」








一度も明かしてはくれなかった。




























「シャル…」


行為の後、赤い頬では呟いた。






「んー…?」


シャルはの前髪を指で触る。











「愛してます…誰よりも、神よりも…」




「どうしたの? 急に。は神なんて信じてないんじゃなかったっけ?」






「そうですけど…シャル、信じてくださいね…?」




そっと、から唇を合わせる。









「お願いです…信じて…」




…どうしたの…信じてるよ? 大丈夫だから、不安がる事なんてないよ」










シャルはぎゅっとを抱き締めた。





の心に潜む、深い深い、思いと想いに、気付かずに。




 














そして事件は、シャルがに会いに行ったその日、起こった。

















……」





いつものように教会の扉を開ける。


中は暗く、電気もロウソクも付けられていない。





?」


今日は月が出ていないから、本当に真っ暗で、何も見えない。





「もう寝ちゃったのかな…  ――!!」




ふいに後ろから殺気を感じ、素早く後ろに跳んで携帯を手にする。



シャルがさっきまでいた場所にナイフの空振りの音がし、その隙にシャルはアンテナを飛ばす。





「!」


アンテナは敵に見事命中し、身体の自由を奪った。









「……誰?」


シャルは静かにライターで近くのロウソクに火をつける。






「! あなたは…」





ロウソクに照らされたその人物は、シャルも何度か目にしたことのあった――神父だった。








「…これはどういう事なのか、説明するんだ」




シャルは携帯で神父に命じた。









「…私は本物の神父ではない…ここを拠点に、暗殺家業を行っている…」



「オレが蜘蛛って知って…それでオレを殺そうと?」






神父はゆっくり頷く。


シャルはそこでもう殺そうと思ったが、それだけだとの事が解らない。










「…はどこに?」






「…もう――ここにはいない…」





「!」










シャルは一瞬耳を疑った。









「…は、…何者…?」




一番の疑問を、問う。

















「…私の娘、そして――――弟子だ………」






「っっっ!!!!」













そこまで聞いて、






シャルは、神父を殺した。






















呆然と、暗闇の中。



シャルの瞳に、影が映る。












騙されていた?









あんなにも愛し合っていたはず。






殺そうとされてた…?














「―――………」











 
























その後、シャルは教会の奥にあるの部屋に向かった。




少しの希望にもかけてみたかった。




彼女の言葉を信じたかった。









―――ぎぃ……







音を立て、の部屋が開く。


以前見た時より、中はすっきりと――何も無かった。







「……」




ただ机の上に、紙切れがおいてある。


シャルは飛びつくようにそれを手にし、開いた。











『―――ごめんなさい。』

一行目には、震えた文字でそう書いていた。









―――ごめんなさい。


シャル、きっと怒ってますよね…。


当然の事だと思っています。


私はあなたが旅団の方だと知っていました。


そして父様に言われ、あなたの監視役として側にいました。


だけど信じてください。


私はあなたを、本気で愛してました。


何度も殺せずにいました。








「……」









―――私は幼い頃から父様に暗殺の全てを教えられました。


本当は、私の力が“念”というものだとも知っていました。


だけどあの時は、あなたが旅団だと知らなかったから…






私は父様に、お前の神は自分だと、ずっと言われてきました。


だから父様に教えられたこの力を“神の力”だと、言っていました。







それが違うと思えたのは最近のことで、



シャル、



きっとあなたに出会えてから。








神なんていない。


ましてや父様でもない。


ただ一つ、神に誓える事があるならそれは…







あなたを愛しているという事。そして、――信じているという事。







私はもう、あなたの側にいる資格がありません。



だけど期待したい。



あなたが私を探してくれることを。



あなたが私を許してくれるのなら。



私を信じてくれるのなら。



シャル…愛してます。



だから…あなたを待たせてもらっても、いいですか………?―――

















は、ずるいよ……」










オレの答えなんか、解ってるくせに。



オレがを信じてるって、解ってるんだろう?



オレだって、がオレを信じてくれてるって、解ってるんだ。







オレは、盗賊だよ?














「……、待ってて………?」

















君が泣かなくて済むように、







君の笑顔が消えない内に。








どこに居たって























君を君から奪い去る。
















fin.






































 
††あとがきという名のいいワケ。††



一般ピープルくさぃ彼を書くのは難しいですね↓↓

さてさて二人はまた出会えるんでしょうか?

ちなみに、名前変換をしなかった場合、ヒロインは"アリア"というんですが、これは『G線上のアリア』という曲から使っています。

聞いたら案外皆さん聞いたことがあるんじゃないでしょうか?

何か皐月的イメージとしては教会にかかってても違和感ない曲なので。

BGM、つーかイメージソングです。



……というかこんな駄文をすいません。。。