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朝、目を覚ますと、
「――姫……雫姫、起きて下さいませ……」
一国の姫になっていた。
<princess meets…>
「姫様、本日のご予定ですが…」
あの日から数日経った。
「大臣が次の会議の内容に、不服があると申しております。どうなさいますか?」
何が起こったのか、説明できる人など存在せず、
私はずっとそこに存在していたと言われ、
そこに存在することに、何の疑問も感じなくなった。
「そうですね…では、私が向かいましょう」
私はそこの皇女として、日々を過ごしていた。
「……」
侍女が部屋を出るのを待って、私は仮面の笑顔を脱ぐ。
「…あぁあ~、姫も中々大変だわねー」
ついこの間まで普通の中学生だった。
学校行って、友達と遊んで、テレビやマンガ見て……
「……」
私は大きなベランダに出て、一面に広がる城下町を見下ろした。
朝の市場は活気良く賑わい、広場では子供達が楽しそうに遊んでいる。
「いいよねー…私も遊びたいよ」
侍女がいうには少し前までは、こんな賑わいは無かったという。
父であるという国王が病で死に、母であるという女王は自殺したらしい。
私も…そんな事は知らないが、かなり泣き伏せったらしい。
私がこの世界の姫に成り代わる前だろう。
だから、何も知らない私を、皆『気が触れた』んだと言った。
しかし、それ以外におかしい所の見られなかった私は、公務を教えられ、皇女の気品を学ばされ、今では立派な『即席皇女』の出来上がり。
でも…
「ここに――あの人はいないのかなぁ…」
元の世界ならテレビで会えた。マンガで会えた。
ここにはそれがない。
「…会いたいよ…――シャル……っ」
涙で歪む視界の先。
「!!」
街の広場の中。
「うそ、だぁ……っ」
確かに映った人影。
「っ!!」
私はドレスを脱ぎ捨て、洋服を着、ベランダからシーツを吊るして下に下りた。
「間違いない…あの人は…っ」
警備に見つからないように城を抜け出し、一目散に広場の方へ。
「っはぁ、はぁ……」
広場に着き、辺りを見渡す。
どこにもいない。
「…見間違い…なんかじゃないよね…」
急に不安になり、辺りをキョロキョロと見渡した。
姫になってから、一度も城を出たことがない。
初めてこの世界に来た時と同じ恐怖が襲う。
「オラ、キョロキョロしてんじゃねぇ!!」
「きゃっ!!」
大男に突き飛ばされ、私はその場に倒れる。
「ガキが…オレ様の道を塞いでんじゃねぇぞ!!」
「はぁっ!? 私人探してるの!! 邪魔してるのそっちでしょ!?」
「うるせぇっ!! ん……? 親分、このガキ、中々綺麗な顔してますぜ」
男の子分が私の顔を掴む。
「ほう…、なるほど、高く売れそうだな」
「っ!?」
売る、という言葉に危険を感じると同時に、男は私の腕を掴み、持ち上げた。
「やぁっ!! 離してっ、嫌!!!」
「大人しくしてろ!」
その時、
「が…っ!!」
男の首が、飛んだ。
「痛っ!!」
男が手を離し、私は地面にしりもちを着いた。
「大丈夫?」
「!!」
目の前で、手を差し伸べる人物。
「う、そ……」
「…ったく…見苦しいもの見ちまったな…――シャル」
そう、――シャルナークだった。
「!!」
私は力の限り、シャルに抱きつく。
ちょっとおいしい状況だと思ってみたりしながらも、私はその安心感に泣き出してしまう。
「あ、フランクリン……どうしよう?」
満更でもなさそうな笑顔で、シャルはその状況を差した。
「どうしよう、って……オレに聞かれても…」
「んー、とりあえず周り騒がしいから、移動しようか」
そう言うと、シャルは泣き崩れていた私を軽く持ち上げた。
「!!//////」
「…もう大丈夫だよ。キミ、名前は?」
シャルは穏やかな笑顔で私を見つめた。
「えと、雫です//////」
「そう、雫ちゃんね。オレはシャル。で、あっちがフランクリン」
シャルは目線でフランを紹介する。
「シャ、シャルっ! …ど、どこ行くの…?」
「ここじゃない所。……って言ったら、どこでも良くなっちゃうかな」
シャルは苦笑いしながらも足を進めた。
やがて、街の出口に近づき、警備兵が見えてきた。
「ま、待って…私、あそこから出られない…見つかっちゃう」
街の人は私の…姫の顔を知らない。だけど、姫の顔を知らない警備兵はいない。
見つかれば、連れ戻される。
「大丈夫、って…言ったでしょ? でも、目は瞑っていた方がいい。…あ、耳もふさいでね?」
シャルの言う通り、私は目を瞑り、耳を手で塞いだ。
「! おいお前達、止まれ」
塞いでも多少聞こえる声。警備兵だ。
「お前が抱えているその方を、今すぐ解放しろ」
「その方? この子そんな偉いの?」
一番近くで聞こえるシャルの声。
「はっ、とんだ誘拐犯だな。……その方はこの国の第一皇女、雫姫だ!! 早く解放しろ!!」
警備長の声を合図に、全員が銃を構える。
「…フランクリン、頼むよ」
「了解」
少し目を開けると、フランは両手を前に上げた。
あれを使う気だ…。
私は状況を理解し、強く耳を塞いだ。
『――ダブルマシンガン!!!』
響き渡る銃声の音。
後は何も聞こえない。
「…完了」
「よし、行こっか」
そう言って、二人はまた歩き出す。
「耳はもういいよ。…目はまだ瞑っててね」
人々のざわめきと、血の匂いの中、
私はシャルに抱かれて、街を出た。
「雫ちゃん、もういいよ」
街を出て少ししてから、シャルの合図で目を開ける。
涼しい風の吹く丘の上だ。
私達は近くの木の下で休憩をとった。
「……」
私は城下町を眺めた。
知らない内に訪れていた街。
知らない内になっていた姫。
瞬く間に過ぎて行って…
「雫ちゃん、やっぱり、帰りたい?」
シャルはそんな私に声をかけた。
フランは少し離れた道の上で、追撃に備えている。
「…帰りたくない。シャルと一緒がいい!!」
必至の眼差しで私は叫んだ。
「そっか。まぁ、帰りたいって言っても、帰さないけどね」
シャルはにこっと笑った。
その顔を見て、私は不安になった。
「……私で、良かったの?」
「え?」
「私…多分、ニセモノだよ? 私で…蜘蛛は私でいいの!?」
シャルを始め、フランも私の叫びで振り返る。
「どうして…オレ達が、蜘蛛だって……」
「……」
私は全て話した。
知らない内にこうなっていた事。
どうして皆を知っているのかも。
「…私……だから、ここでは、誰でもないんだよ……」
誰でもない。
なら、
私は誰?
「私の存在価値なんて…――ない」
「キミの存在価値はキミが決める事じゃない」
「!」
顔を上げれば、微笑むシャルの顔。
「オレは雫ちゃんに来てほしい。……それじゃ、ダメ?」
「ダメなんかじゃ…っ、でも、私…」
「…蜘蛛が求めているのは、この国の皇女、雫姫。…だけどオレは、雫ちゃん自身が欲しい」
「!」
「雫ちゃんを、オレに頂戴?」
真剣な眼差しに、私は言葉を詰まらせる。
「…私ね……シャル、大好きなんだよ…」
返事の代わりに、想いを伝えた。
「…参ったな、オレから先に言いたかったのに」
シャルはちょっと苦笑いした。
「!」
そして、触れる程度の、キス。
「一目ぼれしちゃったんだよね」
恥ずかしそうに笑う、シャルの笑顔。
どこを探しても、あなたほど笑顔の似合う人はいない。
「大好き」
瞬く間に過ぎた、数日間。
きっともう、帰れない日常。
大丈夫、
またすぐ慣れる。
だって今度は、
「行こう、雫」
あなたが側にいてくれるから。
end.