力を失くす三日間。









貴方が側にいることが、





















是ほど恐ろしく感じた事はありません――……











































第二章

  焉無きに馳せて













































「……兄上」


「なんだい?」





「…離して頂けますか」






ヒソカはに後ろから抱きついたまま離れない。


日が昇って少し腹の空いた頃、は我慢の限界を迎えた。





「だって、明後日くらいには元に戻っちゃうし…そしたら簡単に抱きつけなくなるじゃないかw」


「貴方が私に抱きついていい許可など出した覚えが御座いません」


「キミの意思は関係ないw」


「…最悪ですね」









もどかしい。


いつもの自分なら、これくらいは振り払えるのに。





後悔ではないけれど、疑問が残る。




あの村人たちは…力を使ってまで、助ける価値のある者たちだったのか。






「……」




は胸に手を当てた。


いつまで持つのだろう、この身体は。







「…


「え……?」




振り向くと、すぐ目の前にヒソカの顔。


いつもと違う、真面目な顔で。





「ど、どうかなさいましたか…?」


「……」




そしてふと、近付く距離。





「!」








カチャ。








「力を失っていようが、刀の切れ味は変わりませんが……?





後数センチの距離で止まる二人。


の左手からは愛刀、紅吹雪が顔を覗かせていた。





「ごめんごめん☆」




ヒソカは腕を離すと、の隣を歩いた。








「そろそろ街が見える頃ですね。目的地はそちらでよろしいので?」


「うんw 珍しく集合が正午でね☆」


「正午…」





そう聞いては走り出した。



当然、いつもより身体は重く、走ってもすぐに疲れるのだが。






「どうしたんだい?」




ヒソカは歩いても追いつけるそのスピードに合わせながら走る。










「兄上………、たった今……正午を過ぎました」
































































「――遅いな」




クロロが軽く息をつくと同時、ウボォーが怒りをふつふつと滾らせていた。






「おいマチ!! テメェちゃんと伝えたんだろうな!!」



「いい加減このパターン嫌になるね。アイツは遅刻常習犯だろ。アタシは伝えたっつーの」



「ちょっと二人とも、マジギレするなら殴るからね」





廃墟の中に嫌な空気が漂い出した頃、部屋の中に新しい気配が現れる。






「…やぁ☆」



「ヒソカ、テメェ30分も待たせやがって…!!」



「まぁまぁ、今回は客もいるし、見逃してよ☆」



「客……?」






その言葉に、ヒソカの後ろから顔を出すのは、






「!!」




その美しい容姿に、皆息を呑んだ。






「紹介するよ☆ っていうのw」







は辺りを見回した。



そして輪の中心にいるコートの男、クロロを一目見ると、一歩踏み出す。







「…と申します。……貴方が、此方の長とお見受け致しますが?」





凛とした声が、クロロを捕らえる。





「…そうだ」



「そうですか。…日々、我が愚兄がお世話になっております」







は柔らかな物腰でお辞儀する。




逆に、クロロたちは固まったままの言葉を頭の中で繰り返していた。







「い……」


「い?」



クロロの言葉を復唱する







『妹ぉっっ!!??』




「きゃっ」





ヒソカとを除く皆の声は、廃墟に響き渡った。









































会議らしいものの内容は、には解らなかった。




それでも、ヒソカよりずっと常識のある言動、落ち着いた雰囲気のクロロに、理由も無く心が惹かれていた。









「ねぇ、ちゃん幾つなの?」


「19歳です」




って念使いなのか?」


「ええ。今は訳あって使えませんが、明後日辺りから戻ります」




「ていうかヒソカは本当の兄じゃないんだよな?」


「当たり前です。血が一滴でも繋がっていようなら、私は迷わず命を絶ちます





会議が終わると、すぐにへの質問が始まった。



最も、群がるのは男連中。






「ったく……、おいで」




見かねたマチがを手招きする。






「あいつら飢えてるから、気ぃつけな」



「飢えている方なら日々付き纏われておりますので、もう慣れておりますわ」




微笑んで言う


同時に、冷たい視線がヒソカへ向けられる。





「ねぇ、血が繋がってないって…逆に危険だよ? 二人で旅なんかして大丈夫なの?」


「今の所、これと言った害も御座いませんし…それより今は、こうして常識ある皆様にお会いできた事が私にとっての救いとなりました」


「そうだよね、あんなのとずっと一緒にいたらつらくなるよね」




ため息と共にを抱きしめるマチ。


も微笑みながらその背に手を回すと、周りの男連中はブーイングをしだした。





「煩いね。アンタらもヒソカと同類にするよ?」




瞬間、止んだブーイングに、さすがのヒソカも口を開く。





「シクシク……みんなそんなにボクが嫌いなのかい?」



『勿論』




も含め、全員が同意すると、ヒソカは部屋の隅でいじけだした。





「兄上……」




のため息は、静かに部屋へ解けて行った。


















































夜中になるのは早かった。








「……」




は屋上に上がり、一人で綺麗な夜景を望んでいた。










「寒くないのか?」


「!」



振り向くと、クロロが上がってきていた。








「団長……」


「クロロでいい」





「では、クロロ様。…私に何か御用ですか?」




「いや…少し話しがしたくてな」





フェンスに並び、特に何を言うわけでも無く夜景を眺める。










「ヒソカとは、何処で出会ったんだ?」







クロロはふと口を開いた。



は視線で一度クロロを見ると、すぐに夜景へ戻す。








「……ほんの、最近の事になります」



「最近?」



「はい――…」






















































『もう、やめちゃうの?』










『残念だねぇ……キミも所詮、その程度って事かい?』













『行かなきゃ駄目なんだろう? それとももう諦めて、ボクに食べられちゃうかい?』




























『――立ちなよ』










































「………いえ、貴方のお耳に入れる程の情報でも御座いません」



「そんな際どく間を空けといて…」





クロロは苦笑いすると、空を見上げた。







、お前は欲しい物があるか?」


「欲しい物…ですか?」





「オレはオレが望む物全てを手に入れる。物も景色も、そして人でも」




クロロはを見つめる。





、オレは……」


「御座います」


「!」




言葉を遮るように、は呟く。







「私にも欲しい物が御座います。…欲しくて欲しくて……堪らない物が」








遠くを見つめるは、何処までも、美しくて。





…―――蜘蛛に入る気は無いか?」








「蜘蛛に…?」






「そうだ。ヒソカを疎ましく思うなら距離を取らせよう。……オレの右腕になるつもりは無いか?」






真剣な顔で言うクロロ。





「……」




は、その唇に人差し指を当てる。








「私は、何者にも縛られる事はできません。…一生、何かに属す事はありませんわ」










安らかな微笑みは、



その裏で、何かを諦めているような、







しかし、覚悟が垣間見えた。











「しかし…そうですね。此方での探し物が見つかるまでは…ご一緒致しましょう?」











「探し物? オレ達も手伝おうか」



「いえ、結構です。…私の使命ですから」



「使命…?  !!」






ふと見たの表情は、雰囲気は、








……?」







先程の穏やかさなど残してはいなかった。







それは、クロロさえ引きつるような、――殺気。











「私は……弱いのでしょうか」


「!」




殺気が収まり、は俯く。







「貴方には…色々とお話できてしまいます」


「……ヒソカには、言わないのか?」




「あの方は一を教えれば十を知りたがるでしょう。正直そこまで話す気など皆無です」





ヒソカの名を口にした瞬間、露骨に嫌な顔をする



それを見て、クロロは密かに微笑む。





「オレで良ければ、いつでも話を聞こう。…明日もここに来るか?」




「え……あ、はい」




















クロロの思惑と、


















「そうか。では、また明日会おう」


















の宿命。

























交わる、星空の下。






















「………」




クロロのいなくなった屋上は、急に静けさを取り戻した。










「…私は……躊躇っている暇等、無い…」









彼方を見つめる瞳は、とても、切なげで――…。




























































『もう、やめちゃうの?』












………。





















『残念だねぇ……キミも所詮、その程度って事かい?』












………。


















『行かなきゃ駄目なんだろう? それとももう諦めて、ボクに食べられちゃうかい?』







…………。



















『…面白くないな。キミ、そんな事で本当に使命を果たせるのかい?』















………。









煩い。



















『!! ……へぇ…ボクの頬に傷をつける元気はあるんだ?』












煩い。





煩い、煩い、煩い煩い煩い煩い。













私は行くんだ。お前等に邪魔立てされる余裕など無いんだ。










何故……



何故、我が使命に口を挟む?
















『キミに興味があるからw』
















私はお前のような輩に、興味など皆無だ。




それでも邪魔をすると言うのなら、斬り捨てる。

















『そんな力、もう出せないでしょ?』













…それでも。








この脚が引き千切られようが、



頭蓋が吹き飛ぼうが、












指一本、動くのならば、





私は……行く。















『…だったら尚更……こんなトコで、膝ついて刀構えてる場合じゃないよね?』












































『――立ちなよ』




























































支えてくれた腕は、










担いでくれた背中は、


























暖かかった。



















































「貴方は何故……私を乱すのですか…」










途端、ふと、呼びそうになる名を飲み込む。





















ねぇ、貴女は今、何処でどうしている?






















「…必ず探し出す」











は、屋上を後にした。




















空には、
















気味が悪いほどの、満点の星が煌いていた。