「……素無視はねぇだろぃ」



「はい?」






知ったような声が聞こえ振り返ると、そこには、










「…………何してんの?」











サンタの服を着た、ブン太がいた。










「今お前にチラシ配ったの、俺」


「え、あ、これ?」


「反応期待したのに全然気づかねぇんだもん、思わず引き止めちまったじゃんか」


「いや、引き止めなくて結構です」





どうして、こんな日にコイツに会わなきゃいけないんだろう。


私は大きくため息を付いたが、ブン太は開いた私の口にガムを放り込んだ。





「っ!」


「俺、これ配り終わったらバイト上がりだから。それ食って待ってろよな」


「……何言っちゃってんの?」





「どーぞー、お願いしまーす」






ブン太は私の事を無視してまたチラシを配り続けた。






「………私、お使いしに来ただけだから」






そう。関わらないことが一番。


今日は………誰にも関わらない方がいいんだ。





「…あんまりうろちょろしてっと、一番会いたくねぇ奴に会っちまうぞ」


「は?」






























「……氷帝の奴らが、来てんだよ」



























一瞬、何を言ってるのか解らなかった。






「何、それ…」


「立海との練習試合で来てる。明日までいるから…今頃その辺歩いてるかもしれねぇ」


「………」






今日は、何の日よ?



クリスマスって、何?






ただの………キリストの誕生日じゃない。





そうよ。こうやって浮かれる奴らのほうがおかしいのよ。


だって私には……いつだって、こんな日なんだから。





「………? 大丈夫か? 顔色悪いぞ…」


「…気持ち悪い…」


「悪ぃ、余計な事言っちまったな」





ブン太はサンタの上着を脱ぎ、私にかけると、そのまま配ってたチラシの店まで私を誘導してくれた。


そこは、最近出来たお菓子屋さん。店に入った瞬間、ブン太の好きそうな甘い匂いが漂ってきた。





「お帰り、ブン太君。配り終わったの………って、その子、どうかしたの?」


「店長! こいつ知り合いなんだけど、急に気分悪くなったって……休憩室借りていい?」


「ああ、もちろん。だったらブン太君も今日は上がっていいよ。その子を家まで送ってあげなさい」


「マジで!? 店長、感謝するぜぃ!」




どんどん気分が悪くなっていって、店長さんの顔すら見えない。


お礼を言おうとしても、口が動かない。


ブン太の赤い頭が目の前に見えるから、多分、おぶってくれてるんだろう。






、大丈夫か? ってか、声聞こえる?」





休憩室っぽい部屋に入ったのは解ったけど、ブン太の声はくぐもって聞こえてくる。


返事が返せないから、首を振って肯定した。





「とりあえず、俺着替えるから。ソファーで寝てていいからな?」





備え付けのソファーに寝かされて、私は目を閉じた。


どんどん気分が良くなっていくのが解る。口をパクパクと動かしてみると、今度はスムーズに動いた。





「ごめ、んね…?」


「お。喋った」






………そりゃ喋るよ。死んでないんだから。






「……侑士達に…会ったのよね…?」


「…ああ」


「あいつら、元気だった?」


「ウザイくらいにな」


「そっか」






「……あんな奴らのこと気にすんな、馬鹿」






怒りを含んだようなブン太の声が聞こえて、私は少し微笑んだ。


サンタの帽子を取るブン太の後ろ姿が、とても可愛く見える。






「…俺がお前の代わりに、あいつに一発食らわしといたから安心しろぃ」



「殴ったの?」



「…さすがに殴ってねぇよ。テニスで、だ。

 わざわざ幸村に頼んで、忍足のヤローと試合やったんだぜ?」

























「よくもの事、ズタボロに傷つけてくれたな」



「! 、立海に転校してたんか…!?」




「ああ、ちゃんに会えるだなんて思わないでね。そんな事、俺たちが許さない」


「お前さんがに会う権利は無か」


「またサンに手ぇ出すようなら、アンタ潰すよ?」






「…もうに関わるんじゃねぇぞ。立海全員が敵に回るぜぃ?」























「あいつらが……」


「だから、もうお前が気にする事なんて無い。俺たちが守ってやるからな?」





いつの間にか着替え終わっていたブン太が、私の頭を撫でてくれた。


…私服見たの、初めてかもしれない。





「さ、帰ろうぜぃ。家まで送ってやる」


「やだ…」


「!」





私は咄嗟にブン太のコートの端を掴んでしまった。


今帰れば、最強マザーが何て言うか。





「……?///」


「帰りたくない…まだ…」





ブン太の顔が何故か赤くなっている。





「…よっし! 今日はイヴだぜ? 俺がのお願い、何でも叶えてやるよ」


「別に何もいらないよ。家にさえ帰らなければ


「まぁまぁ、今日くらいに大人しくしろぃ」


「…あんまり外歩きたくない」






侑士に会ったら…私、どんな顔すればいいか解らない。


まともで居られるかすら、解らないのに。





「オッケー。じゃぁ俺ん家行こうぜ!」


「何でそうなるの」


「気にしない気にしない!」





そう言ってブン太は私をソファーから立ち上がらせると、自分の首に巻いていたマフラーを私に巻いてくれた。





「会いたくない奴に会った時は、マフラーで顔隠しちまうのが一番安全だろぃ?


 …まぁ、俺だと髪の色でバレるんだけど」





苦笑いするブン太を見て、私も笑みをこぼした。





「…そういえば、さっき『お使い』とか言ってなかった?」


「あ。…この先のケーキ屋さんで、明日家族で食べるケーキ、予約しないといけないんだった…」


「ケーキならこの店で予約しろって! その辺のケーキ屋よりよっぽどウマいから!」





甘いものが大好きなブン太が言うくらいだ。その通りなんだろう。


ソファーを貸して貰ったお礼もしたいし、私はそうすることにした。






「…あ、もう大丈夫?」





店に出ると、カウンターの向こうから店長さんが優しい笑顔を向けてくれた。





「すいません、ご迷惑おかけしたみたいで…」


「そんな事気にしないで。女の子は体調に気をつけないといけないよ?」


「はい、有難う御座います」


「店長! がケーキ予約してくれるんだって」


「え、本当に?」


「丁度、お使いに来ていた所だったんです。ブン太が、このお店のケーキはその辺のお店よりよっぽど美味しいって言ってたんで」


「ブン太君ってば、口が上手いんだから」


「店長のケーキが美味いのは本当だろぃ?」





ブン太の発言に、店長は照れたような笑顔をこぼした。





「有難う、ブン太君。…そうだ、ちゃん…だよね? ちゃん家用に、特別なケーキを作ってあげるよ」


「え? いいんですか?」


「まだこの店はオープンしたばかりだからね。思ったよりまだ忙しくないんだ。

 一つくらいならオーダーメイド作ったって何て事はないよ」


「わぁ…有難う御座います! 楽しみにしてますね!」


「こちらこそ。腕によりをかけて作るね。また明日取りに来てくれたらいいから」


「はい」





店長に一礼してから店を出ると、ブン太が左手を絡め取ってきた。





「ブン太?」


「いいだろぃ、今日くらい」


「もう…」




私はブン太に貸して貰ったマフラーに少しだけ顔をうずめた。


男の子と手を繋いで歩く、なんて、本当は初めて。






侑士とは……実は、デートなんてしたことがなかったんだ。






「…今、何考えてる?」


「!」






「余計な事考えなくていいって言っただろぃ?」






「…優しいのか嫉妬してるのか、ブン太って解らないね」


「解ってんじゃん。…正解は、両方」





少し強くなる手の結び目。


ブン太の顔を覗き込むと、休憩室の時のように顔がほんのりと赤くなっていた。





何となく、笑えてきた。








































































































ブン太の家は、街を挟んで私の家とは反対方向にあった。


大きめの一軒家で、庭も着いている。…しかも屋根の色は、赤。






「ぷっ………くく…っ…」


「…何笑ってんだよ」


「だって…色、一緒…っ…」


「いい色だろーが」





すねた様に玄関の扉を開けるブン太。


そのまま手を引き寄せられて、私はブン太の家に入った。





「…あれ? ご家族は…?」





玄関先には、靴が置かれていない。






「ああ、なんか全員、会社とか友達とかのクリスマスパーティーに行ってるけど?」


「…………はい?」


「それがどうかした?」


「…二人っきりなんて、聞いてない」


「そりゃ、言ってねぇからな」





私はとりあえずコイツをしとめなきゃいけないと思い、空いてる右手でアッパーを繰り出すが速攻で止められた。





「…何? 意識とかしてるわけ?」


「冗談。その嫌な笑い止めてよ」


「素直になれよ。…俺は意識してるぜぃ?」


「!」





気づけば、私は両手を拘束されていた。(左手は初めから繋いでたし、右手はアッパーを止められたし)


そのまま、すぐ側だった壁に とんっと押し付けられる。





「なっ何するの…!?」


「俺、ずっとに『好き』って言ってただろーが」


「それ、は…そうだけど…」






「…俺が二人っきりで、何もしないと思った……?」






そう言って、近づいてくるブン太の顔。


私は固く目を閉じて、身体を強張らせた。





「固まってんなよ」





ブン太は私の耳たぶにキスを落とし、唇を首に移した。




「っ……!」




触れる程度のキスに、私の身体は反応してしまう。


こそばゆい様な…歯がゆい様な、感覚。





「……っあははははっ!!」


「!」





いきなり笑い出したブン太に、私は ぽかんとした表情を浮かべた。





「嘘だっつーの! 俺がそんな酷い奴に見える?」


「…こんのエロガキ!!!」


「ごちそーさん♪」





逃げるように家の中に走り去るブン太。


姿が見えなくなっても、私はキスされた首を押さえながらその場を動けずに居た。






「………」







さっきの感覚は…何?







「おーい、入んねぇのー?」


「…今行くからっ」





中から聞こえた声に我に返り、私は靴を脱いで家の中へと足を踏み入れた。





「…お邪魔します…」


「おう」





リビングへ行くと、ブン太はすでにコートを脱いで、ソファーでテレビを見ていた。


…私はどうしたらいいんだと、その場に立ちすくんでいると、ブン太が徐に振り向いた。





「ん? 何突っ立ってんの? こっち座れば?」


「…………」





自分の隣をぽんぽんと叩くブン太。


私は警戒しながらも、コートを脱いで隣に座った。





しばらく二人でテレビを見る。


内容は、頭に入らない。





「……私ね、ブン太」


「おう?」


「三年前……あの日までは、本当に、…好きだったんだよ、アイツの事」


「…………」






顔を見なくても解る。一気に、機嫌が悪そうな雰囲気になる。


その証拠のように、ブン太はテレビをぶっきらぼうに切ると、そのままリモコンを机の上に放り投げた。





「…………なのに、さ。たった一度の裏切りで、こんなに、人を憎めるんだよ」


「一度なんかじゃねぇだろぃ。…アイツが何人と付き合ってたかなんて、知らねぇし知りたくもねぇけど」


「そんな事どうでもいいのっ…」





ブン太の声をかき消すくらいの大声で、叫んだ。







「あんなに好きだった人を、こんなにも簡単に憎めてしまう自分の心が……


 何より、そんな心を持つ人間が怖くなったの…」






人間みんな、きっと同じ感情を持っている。


それを知った今、どうして人に近づける?


どうして、心の奥に踏み込める?





「だから、私は人と距離を置こうと思った。…なのにブン太や雅治は…私に関わってきた。


 それまで一緒にいたグループが離れていっても、何とも思わなかった。だって自分から距離を置いていた人たちだったから。


 ………今の私には…友達って呼べるのも、友達だって思えるのも、…それくらい心を許せたのも、ブン太や雅治しかいないの」




……」










「だからお願いよ。








 いつか離れてしまうポジションなんかにならないで」











恋人、なんて。


付き合ってみて、嫌なところや、辛いこと、…裏切りが解るんだ。






そんなの、もういらない。





いつか崩れてしまうくらいなら……心を許せる友達のままでいい。













「………この大馬鹿」


「え……  !!」








どさっという音がして、いきなり世界が反転した。








「ブン…っ?  !?」








押し倒されていることに気づいたのは、






ブン太に、キスされてからだった。









「んっ…や、だ…!!」


「お前、馬鹿だろ」





離れた唇から、つぶやく様にそう言われた。


涙目で目を開けると、至近距離に、見たこともないような真剣な顔をしたブン太がいた。





「いつか離れるなんて、誰が決めた? 今街にいる連中は、みんないつか別れちまう事を前提に付き合ってるとでも思ってんの?」


「他人は、関係ない…っ」


「だったらお前も関係ねぇだろぃ」


「だって……私は、いつだって…っ!!」


「この被害妄想。

 …人間なんて±0でできてんだよ。悪いことがあれば、同じ分だけいいことが返ってくるようにできてんの!」


「………そんなの…解んない…っ」






それならこれからは、いいことが続く?


しばらく、悪いことは起きないとでも言うの?





保障の無いものを信じられる程、私は強い人間じゃない。






「…証拠、やろうか?」



「え…?」





そう言うと、ブン太は急に上半身だけ起こし、上着のボタンを外しだした。





「ちょ、っと…何してっ」


「ここ」





ブン太は襟を引き下げ、左側の首を剥き出しにした。





「何…?」


「ここにキスマーク、つけて」


「は…?」





問いかける私を無視して、手を引き私を起こすブン太。





「何、どういう意味?」


「キスマークつけてる男なんかに女は寄ってこねぇって事」


「だから、それが何?」







「俺は以外、誰も相手にしねぇ。その、証拠」






「!」


「いいことだろぃ?」





にやっと笑い、私の反応を楽しむブン太。


自分でも、顔が赤くなるのが解る。





「つけ方なんて、知らないし…」


「思いっきり吸えばいいだけ」





そんな適当な説明だけ聞かされ、私はブン太に腰を引き寄せられた。


体勢を崩しブン太に倒れこむと、頭をブン太の首まで誘導される。





「…………」





それ以上何も言ってこないブン太に私は少し むっとした。





「…お返し」


「!」





さっき玄関でやられたように、耳元で呟いてから耳たぶを舐める。


そして、首に触れるようなキスをした後、そこを思い切り吸い上げた。





「………あんまり、つかない…」


「もっと強くても大丈夫だぜぃ」


「ん」





何度も何度も、赤くなるまで吸い上げる。


次第に色づく首元に、私は微笑をもらした。





「…ついた」


「…………


「あっ」





ブン太の声を遮り、私はブン太の肩越しに見える景色に声を漏らした。





「雪! 雪が降ってる!!」




窓の外に、チラホラと白い雪が降り注いでいた。





「ねぇ、庭に出てもいい?」


「いいけど…」





何か言いたげだったブン太をスルーして、私は腕を抜け出し先に庭に出た。


遅れて、ブン太がやってくる。





「綺麗……ホワイトクリスマスだ…」


「ほら。いいこと、二つめじゃん」


「…本当だね」





私は胸の前で手を広げ、雪が降ってくるのを待った。




「…あれ?」


「…積もんねぇな」


「おっかしーなぁ…」


「俺はすぐに積もるけど」





隣で同じように手を広げるブン太。


ブン太は片手だけなのに、もう雪が積もってる。





「…お前、雪ヘタ


「そんな事言われたの初めてなんですけど」


「俺だってこんな事言ったことねぇよ」





私は少し笑ったが、コートを家の中に置いてきた寒さで一瞬震えた。





「身体、冷えちゃった。中入ろう?」


「………」


「ブン太?」


「…やっぱり、さっき言おうとしたの言っていい?」


「!」





するとブン太は、急に私に足払いをかけた。




「きゃっ…!?」




芝生がとても柔らかかったのと、ブン太が庇ってくれたのとで、痛みは全然無い。





「いきなり何するのよ!」


「スルーされたのがちょっとムカついただけ」





言いながら、ブン太は私の上着のボタンを外しだした。





「や、ちょ…ブン太!? 寒い…っていうか、こんなとこで何するの!?」


「俺にも、キスマークつけさせろぃ」


「は!?」









が俺のっていう、証」








ブン太はふいに微笑むと、恥ずかしさで声の出ない私の胸元に、ゆっくりと顔をうずめた。





「肌白いな」


「っ…!」





胸元に、チクリとした刺激。


ほんの数秒だけでそれは終わり、ブン太の唇が離れたそれを見ると、くっきりと赤く色づいていた。





「…ブン太、上手いね…」


「だろぃ?」


「私は見えるトコじゃなくていいの?」





「それは家ん中でたっぷりつけてやる。


 やっぱ一番初めは…心んとこだろぃ?」






よくよく見ると、キスマークは心臓の位置にある。





「…私もブン太の胸んトコにつける」


「……負けず嫌いだぜぃ…」





ブン太は笑いながら私の頭を撫でてくれた。












































雪が辺り一面に積もる頃には、








この気持ちを、言葉にして伝えよう。


























































Merry Christmas With Bunta!!


















如何だったでしょうか?

クリスマス企画『White Christmas Carol』ブン太編でした。



長いよ!!!笑

しかも中途半端に微々々裏というむしろ激甘でいんじゃね? な感じの話になってしまいました。。。うん、激甘でいいや。((ぉぃ



この話はキャラごとにヒロインのイメージや情景を変えて書いているんですが、


ブン太編は『未発達な心』、

仁王編は『気持ちを客観視』、

忍足編は『人間らしい感情』、な感じで書きました。



恋愛なんて十人十色。

同じケースでも、相手が変わればその数だけのエンディングが存在するんだと私は思ってます。



ブン太編は一番愛が篭った作品かも…。笑

よろしければ仁王編・忍足編もどーぞ!



では、皐月でした。     拝。