たまたま、目覚ましより早く目が覚めた。
しかも一時間も早く。
いつもなら二度寝するところだが、今日は何故かすぐに学校へ向かった。
早起きは三文の得………だっけ?
今日の俺は、確かにツイてるらしい。
< 赤い頬と髪 >
「ん?」
部室の前まで着くと、すぐ隣にあるマネージャー室の窓から電気の光が見えた。
俺たちのマネージャーをやってくれてるのは、同じクラスの。
俺が推薦して、しぶしぶだったけど承諾してくれて2週間。はよく働いてくれている。
「朝もこんな早くから来てんのか?」
一番に来て部室の鍵を開ける真田でさえ、来るのはまだ30分くらい先だ。
こんな時間からは何してんだ?
そう思って、俺はマネージャー室の扉を叩いた。
「おーい、。いるんだろぃ」
返事は無かった。
ただ単に、昨日電気を消し忘れただけかもしれない。
「いつも消して帰ってんのに……って、お?」
何となくドアノブを回すと、扉に鍵はかかってなくて、すんなりと開いた。
って無用心だろぃ! にしては珍しいミス。
そして、何気なく中を覗いて、
「!」
俺は一瞬固まってしまった。
奥にある机で、が寝ていたから。
「い、いるんじゃねーか……ビックリしたぜぃ……」
俺はゆっくりに近づく。
はキレイな寝顔をしていて、俺はガムを噛むのも忘れてそれを凝視する。
「…………ん?」
そして視線は、の手元に移動した。
日誌だ。昨日のページが開いてて、キレイな文字で活動記録が書かれている。
それを見て、俺は何か違和感を感じた。
そう、それは昨日………
「お、。まだ残ってんのか?」
「日誌書いてるんだけど、眠くって……5分くらいしたら……書くから………」
そう言って、だんだん身体を机へ倒していく。
数秒も経たない内に、寝息が聞こえてきた。
「って寝るんかい!
…………毎日頑張ってくれて、ありがとな」
俺はカバンからジャージを出して、の背中にかけて帰った。
そうだ、その時のの姿が、今のの姿とダブって見えるんだ。
昨日と同じところまで書かれた日誌。
昨日も握ってたシャーペン。
昨日と同じ姿勢で寝てて、
背中には昨日俺がかけたジャージが…………
「ま、さか……な………はは…」
その時、俺は机に置いてある携帯のランプが光っていることに気づいた。
何となく、ディスプレイを開けてみる。
「っな………!?」
着信 135件
新着メール 24件
間違いない。
コイツ、5分どころか今までずっと寝てたんだ。
「……ありえね『PIPIPIPIPIPIPIPIPI』
瞬間、手にした携帯が鳴り響いた。
表示された名前は『お母さん』。さすがにこれは出た方がいいと思って、俺はボタンを押した。
「もしもし……」
『や、やっと繋がった!? ちょっと大丈夫なの!?
拉致されたり身代金要求されたり身包み剥がされたりしてないでしょうね!!??』
「えぇ!? ちょ、お母さん落ち着いて……」
『は!? アナタ誰ですかうちの娘とどうゆう関係ですかむしろ娘は無事ですかっ!!??』
「あ、えっと俺は……」
『に一度でも手を触れてごらんなさいっ、私がアナタを地獄まで笑いながら追いかけてやるんだからぁっ!!!!』
「普通に怖ぇぇっ!!??」
『それとも黒魔術がお好み!?』
「ひっ…誰か助けてくれぃっ!!;」
初めて話したお母さんの第一印象、
呪われる。
『……『くれぃ』……? アナタもしかして、丸井ブン太くん?』
一気に口調が変わる。
「そ、そうですけど……何で、名前」
『やっぱりそうなのね! がよく話してくれるのよ、アナタのお話w』
「!」
が、お母さんに俺の話を?///
『一度会ってみたいと思ってたのよ〜w 是非、今度家に遊びに来てねw』
「あぁ…はい///」
『ところで、は?』
「あ、実は……昨日からずっと部室で寝てたみたいで……」
『あら、あの子ったらまたやっちゃったの? しょうがない子ねぇ〜』
またって……コイツ、今まで何回こんな事やってんだ。
あ、そういえば、たまに3時間目くらいになって来る事あるよなー………いかにも風呂上りみたいな雰囲気で。
…………何回学校に寝泊りすりゃ気ぃ済むんだよ!?;
『丸井くんがいるなら安心ねw のこと、シクヨロ☆』
「えっ!?; あ、はぁ……」
シクヨロまで……そう思ってすぐに電話が切れた。
あれだけ騒いでたのに、は全く起きる気配がない。
「つーか、そんな体勢で寝てたら身体痛くなるだろぃ……」
俺は携帯を机へ戻し、を腕に抱えた。
誰もいないからできた、俗に云う、お姫様抱っこ。
思ったより軽い。俺はそのまま側にあるソファへ移動する。
「ん、ぅ…………―――ブン、太ぁ…」
「……//////」
声が漏れ、心臓が大きく波打つ。
俺はを抱きかかえたままソファに座り、ごまかすように抱きしめた。
「や……苦し、……」
「!」
言われて、気づいた。
思わず、思い切り抱きしめていたこと。
力を緩めると、は目を開いた。
「…あれぇ、ブン太……帰んなかったの…?」
「……………帰らなかったのはお前だろぃ」
は俺のため息に首をかしげた。
「今、朝の、6時。朝練始まるまで、まだ、一時間、ある。………解った?」
俺は寝ぼけ気味のが理解できるようにゆっくり言った。
それでもはまだぼーっとして、目をぱちぱちさせている。
「今、ろくじ……朝練まで、一時間…………だったらまだ寝れるじゃないお母さん」
「頼むから起きろぃ」
どんだけ寝ぼければ気が済むんだ……。
「んー……後、10分だけ………」
「…」
「だからぁ、もう少し……」
「………っ」
そんなが可愛くて、どうしようもなくて、
俺は気づけば、その唇に自分の唇を重ねていた。
「ん…っ、やぁ………ちょ、っと…ブン……っ!?」
「……っ」
多分、もう完全に目が覚めてるだろうに、俺は構わず何度も口付けた。
お互いの吐息が漏れ、苦しそうなの表情で、俺はやっと我に返る。
「あ………わ、悪ぃ…」
「………はぁっ、は………」
は息を落ち着かせて、涙目で俺を見た。
目は覚めていても、この状況は理解できていないらしい。
「私……また、寝ちゃったんだよね…? で、でも、何でブン太が…こんな……//////」
「…好きだからに決まってんだろぃ……」
鈍感なのは可愛いけど、さすがにここまで来るとため息が出る。
俺は重要なそのセリフを、何故か簡単に言ってしまった。
「…で、お前。俺の事好きなの?」
「!」
の顔がどんどん赤くなる。
お母さんの話からかまかけてみたけど、まさか、本当に?
「?」
「なっ、何よ……好きじゃ、悪いの……!?///」
「…くくっ……も、駄目、笑う……っ」
面白いほど赤くなる。
俺の髪と、どっちが赤いだろうな。
「、こっち見て」
「え……?///」
顔を上げたに、もう一度、優しいキス。
「…朝練まで、寝てていいぜぃ。俺が起こしてやるから」
「………う、ん///」
俺に寄りかかりながら、は目を閉じた。
しばらくも経たない内に、また寝息が聞こえ始める。
「……だから、笑うって……」
笑うのを堪えて、俺も目を閉じた。
の身体を優しく抱きしめながら、いつの間にか、俺も眠りに落ちていた。
もちろん、朝練に集まったアイツらに発見され、茶化されたのは言うまでも無い。
end.
これはお母さんが主役だと思う。笑