「んー……、あたしより背が高くてー…あ、10cm違うと嬉しいな。
それと、リードしてくれる人? 甘えられるより甘えたい方なんだよね。
で、大人っぽくて落ち着いてて、でもあたしの事は全力で守ってくれるそんな人がいたら最高」
「…………おい、それは彼氏の目の前でする会話か? 違うだろぃ、なぁ」
< 理想と現実 >
「まぁそう怒りなさんな、丸井ブン太」
「黙れ現況。んで、フルネームやめろ」
時刻は12時を回り、今は丁度昼休み。
を中心に、の友達の光、そしての彼氏の俺は、いつも三人で昼食を取っている。
机を二つ向かい合わせに並べて、と光が顔を合わせるように座り、隣に俺が座る。
俺はこの配置に不満があったけど、元々自分がこの輪に乱入してきたんだ。文句は言えない。
「も! 普通彼氏がいるのに…っつか、彼氏の目の前でタイプの男の話なんか普通するか? しねぇだろぃ」
「いいんじゃない? 何でもノリでやれば」
「…そうだな、お前はそういう奴だよな」
俺は軽くため息をつく。
ノリ、と言ってるんだから、内容は冗談だと思いたい。
「でもそれ、昔から言ってるよね?」
光の発言に、俺はパンを頬張る手を止めた。
冗談じゃなくて、本気?
だったら、こっちだって冗談じゃない。
「……なぁ、だったら何で俺なの?」
「え?」
背は、少しだけ俺の方が高い。けど、実際ほとんど変わらない。
リードなんてどうやったらいいかよく解んねぇし、俺は甘える方だし。
甘いもん好きだし嘘でも落ち着いてるなんて言えない。…仁王じゃあるまいし。
それに………に告白したの、俺だし。
当然、こんな性格のに対し、自分に自信なんか持てなくて。
「………理想と現実は、違うよ」
頭に、殴られたような衝撃が走った。
何? は、俺で妥協したって事?
「……お前、その条件通りの男が現れたらソイツに寝返るんだろぃ」
「…どういう意味?」
「…悪ぃ。俺、テニス部の奴らとメシ食うわ」
俺はそのまま、教室を飛び出した。
は、悪くない。
いい加減な奴じゃないから、それなりには、俺のこと好きで付き合ってるんだと思う。
だけど、俺はの好みじゃなくて。
もし、好みの男が現れた時、を引き止めることができないようじゃ……俺はそれだけの男って事。
「…ちくしょぃ………」
泣いてなんかやるもんか。
大人になってやる。あいつが甘えられるような落ち着いた大人に、なってやる。
「…私なんか怒らせるような事言った?」
「………ー、アンタのそのドライな性格好きだけどさー…」
俺はまだ、何も解ってなかった。
次の日に起こる、出来事にも。
結局、昨日はあれから何も話さなかった。
あまり人と喋らないは、用が無ければ彼氏の俺にも喋りに来ない。
俺は意地を張って、喋れなかったし。
何事も無かったかのように、は学校を後にしたから。
「……丸井が静かなんて珍しいの。今日は雨でも降るんじゃなか?」
仁王が俺の頭をクシャクシャと撫でながら笑った。
……いいよな、こいつは。背、高くて。
「なぁ仁王。どうやったら、背ぇ高くなる?」
「何じゃ、に何か言われたか」
「……言われたっつーか…」
仁王は俺の頭から手を離し、ラケットを握り直して背を向けた。
「はお前に何も求めてなか」
顔だけ振り返って言う仁王の目は、心なしか冷たいもので。
何で、コイツは色々知った口ぶりで話すんだよ。
俺は、こんなにも必死なのに。
「朝練中に呆けるとは……たるんどる!!」
「いっ!!」
後ろから、真田に頭を殴られた。
そうだ、朝練中だった。
「さ、真田! 今俺、仁王と喋ってて…!」
「仁王ならコートで柳生と打ち合いをしているだろう。嘘をつくなどあるまじき行為だぞ、丸井!」
もう一発殴られた。
コートを見ると、確かに仁王はラリーを続けている。
あ。今俺見て笑いやがった。
………なんかムカツクぜぃ。
「…………」
「…………」
「ちょっとちょっとー、暗いよお二人さんー」
を挟んで、前の席が光。の左隣が俺の席。
朝の挨拶は済ましたけど、それ以上の会話には発展しない。
いつも、話しかけてたのは俺だったから。
「…あのさ、丸井。実は私が…」
「」
光が何か言おうとしたのを遮るように、誰かがに声をかけた。
見上げれば、そこには、
「……何で仁王が来るんだよ…」
「丸井は口出しするんじゃなか。俺が何しようと俺の勝手」
むっとする俺を流し目で笑い、仁王はに視線を移した。
「おはようさん、」
「おはよう。私に何か用? 仁王」
「ん。ランチのお誘いにの」
「あー…お昼は悪いんだけど、あたしいつも三人で…」
「たまには悪くないじゃろ。それともは俺が嫌いか?」
「別に……」
「じゃぁ決まり。昼休み、屋上で待っとるよ?」
何事も無かったかのように教室の出口に向かう仁王。
その姿が廊下へ消える瞬間、仁王は俺を見て微笑んだ。
…解って、やってやがる。
「…何流されてんだよ…」
「そんな怒んないでよ」
「っあのなぁ…!!」
っていうか俺、何でに当たってんだよ。
俺が今無性に腹立ってるのは、が原因でものせいじゃない。仁王のせいだ。
「……好きにしろぃ」
俺はあからさまに顔を背け、ガムを一枚口に放り込んだ。
…なんか味、しねぇ。
何でこんな気持ちなんなきゃなんねぇんだよ。
「ねぇ、ブン太」
「んだよ」
せっかく、が声かけてくれたのに。
俺はまだ怒りの含んだ声で答えてしまった。
「……や、別にいいや」
せっかくのチャンスすら、逃して。
「いいのー? 行っちゃったよー?」
「………」
昼休みは驚くほどすぐにやってきて、は仁王の待つ屋上へ向かってしまった。
「あーあ。馬鹿だね丸井って」
「………」
「このままじゃ、仁王にぺろりと食されちゃうかもねー」
「縁起でもねぇ事言うな」
「お、やっと喋った」
ったく、何でこいつと顔合わせてメシ食わなきゃなんねぇんだよ。
ジャッカルんとこでも行くか…。
「…丸井。真剣な話していい?」
「…何」
光が急にまじめな顔をしたから、俺は席を立とうとしてやめた。
「こんな状況になると思わなかったから…一応ごめん」
「は? 何の話?」
「のタイプの話。丸井が気にするの解ってて、私、に話ふった」
「……どゆ事?」
何考えてんだ、コイツ。
「だって、私から見てアンタが頼りないから……」
「何が言いたいんだよ」
「私はアンタに危機感持って欲しかったの。
かわいいから周りの男がほっとかないし、あの子流されやすいしあんまり人に頼らないから、いざって時に傷つくかもしれない。
だから、アンタにはのあの性格に甘えないで、あの子を周りの男から守ってほしかったの。
……全部私の考えよ。あの子は何も望んでないし何も知らない。そのままの丸井に満足してる」
―――はお前に何も求めてなか。
「……アンタたち二人とも言葉足らずなの。お互いに肝心な事言えてないの!
早く行って。ホントに仁王に取られちゃうよ!? いいの!?」
「いいわけ、ねぇだろーが…!!」
俺は転びそうになりながら、教室から飛び出した。
そうだ。はいつもと何も変わらなかった。
態度を変えたのは、俺。
の話を聞こうとしなかったのも……俺だった。
「……いい天気…」
「…………」
空を見上げるを、仁王は満足そうに見つめていた。
「何? どうかした?」
「いや。…それよりお前さん、本当に俺と二人っきりで良かったんか?」
「何で?」
「には丸井がおるじゃろ」
そう言われて、は箸を止めた。
「…よく、解んない。彼氏がいるのって、男友達と仲良くしちゃ駄目って事になるの?」
「駄目とは言わん。ただ、あまり他の男と彼女が仲良くしとるのを見るのは、彼氏には辛いかもしれんの」
「男って面倒だね」
「女のほうが面倒じゃ。男より嫉妬深いのがたくさんおる」
仁王も手を休め、フェンスにもたれて座るの前へ移動した。
「…はその点、いいの」
「どういう意味?」
「ん? 程よくドライで。束縛とか嫌いじゃろ」
「まぁね。…するのも、されるのもあんまり好きじゃない」
「…そういうの、俺も好きじゃよ?」
カシャ、と音がして、は視線を仁王から背けた。
顔の横に、仁王が手をついている。
「……何のつもり? やめてよ」
「つれないの。嫌か?」
「嫌」
「何で?」
「何で、って………」
上手く、言葉が浮かばない。
「…残念、時間切れじゃ」
「!」
言って、近づいてくる仁王の顔。
止まる思考の中、浮かんだのは、―――ブン太の顔。
「! っやだ…!」
―――バン!!!
「!」
入り口を振り返れば、血相を変えたブン太が、そこにいた。
「仁王…!! に何してんだよ!! 離れろ!!」
「………はいはい。怖がらせてすまんの? 」
仁王はの頭を一撫ですると、ブン太のいる入り口へ歩いていった。
「……どうすればいいんか、解った?」
「…多分」
「なら、頑張りんしゃい」
「…って、まさかお前そのためだけに…!?」
ブン太の言葉を聞く暇も無く、すでに仁王は扉を閉めていた。
何となく気まずい空気の中、ブン太はちらりとを見た。
「………ブン太」
「…おう」
ブン太はに呼ばれ、彼女の元へ近寄った。
「…どうかした?」
「………んだよ、それ」
「え…?」
「何でそんな、何でも無かったみたいに言えるんだよ!!」
ブン太は思わず、を肩を掴んだ。
「!」
その肩は、かすかに、震えていた。
「……何とも…無かったんだよ…?」
「…?」
「何とも無いって思ってた…。だって仁王、友達だし、あたしにはブン太が、いるし……。
…何にも、解ってなかったね。…ごめんね」
「いや、俺こそ…ごめん…」
気まずくて、会話が途切れた。
ブン太はとりあえず、の隣に腰を下ろす。
「…俺さ、ちょっと焦ってた。ほら、仁王って、結構のタイプに当てはまるから」
「あー、そうかも」
「…そうかもって……少しも思わなかった?」
「言ったでしょ。理想と現実は違うって」
は少し身を縮こませながら、そっとブン太の指を握った。
「どんな人に好みを持っていようが、それは理想の話。
だって現実、あたしが好きなのは、…ブン太だから。
背の高いブン太はカッコいいだろうけど、それだけの事でこの身長差に不満は無いし。
リードはできなくても、あたし達は並んでやっていけてる。ブン太が甘えてくれるの嬉しいし、あたしだって甘えたいときには甘えるよ?
大人っぽくなくても落ち着いてなくても、それがブン太じゃない。
…それがあたしの好きなブン太なの」
きゅっと、握る力が強くなった。
ブン太はその手を取り、強く握り返す。
「俺、変わるから。
が自慢にできるような、男になるから。
いつか、本当に理想通りの男が現れた時、が全然そいつを気にしないくらいに。
……お前を全力で守ってやるから」
「ならなくていーよ」
「え!?」
思いがけない一言に、ブン太は目を見開いての方に顔を向け、
「!」
唇に、やわらかい感触。
「話、聞いてた? あたしは、今のままのブン太が好きなの。変わっちゃったら、それはもうブン太じゃない。…ね?」
「………おう///」
「それに……ブン太はあたしの自慢の彼氏。他の人なんて、気にならない」
「二人のために人肌脱いだか…あわよくば、を狙ったか。その辺どうなの? 仁王」
「………それは、秘密じゃ」
屋上に続く階段の下。
様子を見に来た光と仁王が鉢合わせになった。
「俺は騙すのが仕事じゃ。いつも、の」
そう言って、仁王は光に背を向ける。
「……あっそ」
「って、待ちんしゃい。何で携帯片手に屋上へ向かっとる」
「え? 逢引の様子を収めて、私の可愛いを奪った丸井に報復するダシにしようかと」
「………大人しく帰るとよ」
end.
*** あとがき ***
うわーい、書きたい事書いたらグダグダになったww
最近、ヒロインよりもサブのオリジキャラのが主人公ぽい、
とかいう、罠。 拝。