俺の彼女の好きなもの。
可愛いもの。
< キミの好きなもの >
「ー…腹へって死にそう」
「もー、ブンちゃんってば、さっきあげたお菓子もう食べちゃったの?」
「がくれるもん美味いからすぐなくなっちまうの」
「そう言ってくれると嬉しいvv 実はねー、こうなると思ってまだまだいっぱい持ってきてるんだーv はいっvv」
「お、サンキュー!!(ホントに食べたいのは菓子じゃなくてなんだけど、な)」
腹の中の黒いものに気付かず、はブン太に向かって締まりのない笑顔を向けていた。
「せんぱぁい…俺には構ってくんないんスかぁ…?」
「っ…!! ごめんっごめんね赤也!! 私がこんなに可愛い赤也を放っておくわけがないじゃない…!!」
「うわっ、ちょ…先輩っ、胸ッ…///(ホントはカッコいいって言われたいけど…これはこれで役得vv)」
見た目はそう可愛くないくせに、仕草で確実にポイントを稼ぐ赤也。
抱きつかれたくらいで顔を赤くして、それがまたのツボを刺激する。
…毎日毎日、飽きもせずこんなことの繰り返しだ。
「…お前さん達、いい加減離れんしゃい」
「のわっ、ちょ、雅治、離してよ」
猫の首根っこを掴むように、の制服の後ろ襟を引っ張る。
二人と明らかに違う態度にむっとしながらも、仁王はその手を離さない。
「もうすぐ部活が始まるじゃろ…真田が来たらお前さん達全員殴られるぞ?」
「う…それは勘弁」
「そっすね、俺先にグランド行ってるっス!!」
「あっずりぃぞ赤也!!」
「もう、そんな走らないの!!」
急いで部室を出て行く二人の後を追うように、も走り出し、
「っおわ!?」
思わず、その腕を取る。
「…雅治? 早くしないと、いくら雅治でも今度こそ真田に殴られるよ?」
「……………」
「あの人多分女でも殴れるよ。幸村がいたら『女の子に手を上げるなんて最低だよね?そんな事まさかしないよね?』
…とか言って真田止められるんだろうけどさ」
「……………」
「…ねぇ、私の言った意味、解る? 私もね、このままじゃ、殴られるよ? …って言ったんだけど」
「………お前さんは」
「へ?」
「……何でもなか」
すっと腕を離す。
いまいち状況を理解できていないは、物食わぬ顔をして、
「…先、行くよ?」
「……おう」
そのまま、部室を出て行った。
「…なんか勘違い、しとらんか?」
誰もいない部室に、もらす本音。
「俺はただの中学生じゃ。…大人じゃない」
嫉妬だって、ちゃんと、する。
――― 、三年生。
テニス部マネージャー。
可愛いものが大好きな、
俺の、彼女。
「――…王、…仁王!!」
「……ん…」
考え事をしていたら、いつの間にか休憩時間だったようで、ブン太が話しかけてきていた。
「遅刻したと思ったら練習中ぼーっとしやがって…真田が家の都合で休みだからって府抜けすぎなんじゃねぇーの」
「そう言うお前さんは、当て付けとばかりに人の彼女にベタベタくっつきすぎ」
「羨ましいだろぃ?」
「…お前さん、俺が本気で怒らん人間だとでも思ってるのかの?」
「おお怖ぇ。そんなんじゃもっとの理想から遠のくぜ?」
…そう。実際はブン太の言う通り。
仁王から告って付き合いだしたものの、未だに、仁王はどうして自分なのかよく解らなかった。
自分は特に、可愛いといったところはないはずだ。
その証拠を言ってもいいくらい、実際の仁王に対する扱いはブン太たちに比べてどこか冷たい。
「…なぁ仁王。勝負しねぇ?」
「勝負?」
「そ。俺が勝ったら、今日は俺がと帰る」
仁王とは、これでも毎日一緒に登下校はしている。
その時だけは学校と違ってブン太や赤也はいないし、も本当に仁王だけに笑ってくれる。
そんな時間を、簡単に渡すわけにはいかない。
「…なんでそんなふざけた勝負を俺が受けんといかん?」
「俺は別にいいんだぜ? わざわざ勝負なんかしなくても、俺が可愛く頼めばは絶対OKしてくれるからな。
ほんで、俺んち連れ込むの。……振り向かせる自信、あるぜぃ?」
可愛く頼めば、OK…。
……否定できない。
「…そんな馬鹿な事、させん」
「ならやるんだな? じゃぁ…テニスじゃ面白くないし、…アレでどーよ?」
ブン太が指をさしたのは、中庭にあるバスケのコート。
「フリースロー対決。面白いだろぃ?」
「ま、俺は何でも良かよ」
「なになに、ケンカっすか?」
そこにタイミングよく赤也が口を挟んできた。
「お、赤也もやるか? …争奪フリースロー対決」
「えーっ俺バスケ苦手なんすけど!? 駄目駄目ッ種目変更っス!!」
「お前が後から入ってきたんだ、んなの無理に決まってんだろぃ?」
いつのまに下校権争奪が自体を争奪することに変わったのだろうか。
「ちぇー…まぁ、への愛で何とかしてみせるっスよ」
「しかし、赤也の一方的な愛という名のシュートは、の心という名のカゴにはじかれるのであった…」
「ちょっ、仁王先輩! 変なナレーション入れないで下さい!!」
「つーか、気安く呼び捨てにするんじゃなか」
「なにー? 休憩時間使ってバスケするの?」
「「「!!」」」
振り返ると、そこにはタオルを持った。
一人ひとりにタオルを手渡しながら、興味津々に聞いてくる。
「だったら私審判してあげる! えーっと…3on3やるの?」
「いや、フリースロー対決すんの。だから審判はいらねぇや。…ごめんな?」
「あ、それなら私も見たい! 見学してていいでしょ?」
「やっりぃ! 先輩が見ててくれるなら俺、超頑張っちゃいますよ!!」
コートの隅からボールを拾ってくると、ブン太はこっちを見てにやりと笑った。
「じゃぁ行くぜ? …じゃーんけーん…!!」
勢い良く出された手。
順番は、
@ブン太
A仁王
B赤也
となった。
「よっしゃぁ! 俺いっちばーん!」
「ちぇっ、最後って…ついてねぇなぁ…」
そんな二人を見て恍惚とした笑顔を浮かべる。
「…ほれ丸井、さっさと始めろ。休憩時間が終わる」
「へいへい。…よっと!」
ラインに立ち、放たれたボールは真っ直ぐにカゴに吸い込まれる。
「へへっ、天才的ぃ♪」
「ブン太かっわいー!!」
「…どうせなら綱渡りでもすればよか」
「この真剣勝負にそんな危なっかしいマネしねーよ!」
「自信ないならそう言えばいいんじゃ」
「…だったら次、やってやるよ」
「ケンカは後にしてほしいっス!! ほら、仁王先輩!」
赤也に仲裁されボールを手渡される仁王。
無言で受け取ると、間髪いれずにその場からカゴに向かって投げ捨てた。
ボールはバックボードから跳ね返ってカゴに落ちる。
「うわ、こっちもやる〜…」
「フリースローじゃねぇじゃん。場所はここって決まってんだぜぃ?」
「入ればよか」
丸井に言い返し、同時に拾ったボールを赤也に投げつける。
赤也はそれをため息をつきながら受け取ると、足取り重くラインまで移動する。
「…赤也、頑張って!!」
「!! …先輩…」
「…おいおい、何だよあの空気…」
「赤也の周りに花が飛んどるの…」
気に食わない。
仁王と丸井の背景がどんどん黒く染まっていく。
だがの声援ですでに周りが見えていない赤也。二人のブラックオーラに気付かずにボールを放つ。
ボールは枠に当たり、一瞬止まって……カゴの中へ。
「あっぶねぇ〜……、先輩!! 俺やったっスよ!! …っ!!」
笑顔で振り返る赤也の正面に、笑顔の仁王と丸井。
めちゃくちゃ笑顔の仁王と丸井。
背景が限りなく黒い笑顔の仁王と丸井。
「良かったなぁ〜赤也?」
「の応援のおかげじゃのう〜?」
「えっ!? あ、いや、その…!!」
赤也、ご愁傷。(合掌)
そして、勝負は30ターン目を迎えた。
「中々やるじゃねぇか」
「お前さんもな」
二人の黒い笑みにやられたか、2ターン目で敗退(さらに逃走)した赤也を放置でついに30ターン。
その只ならぬ気迫が漂っていたのか、休憩中の部員やら通りすがりの生徒やらでギャラリーが出来上がっていた。
「はぁぁ…頑張ってるブン太めちゃ可愛い…vv」
「…………」
初めから今まで、ずっと仁王の応援なんて聞いていない。
その瞳に映っているかすら怪しくて、仁王は軽くへこんでいた。
なんかそういう意味では、自分に勝ち目なんてないんじゃなかろうか。
「おい、次は仁王の番だぜぃ?」
「!」
すでに丸井は投げ終わったようで、仁王にボールを手渡してきた。
ボーっとしてて気付かなかったようだ。
「…………」
俺は、本当に、から好かれているんだろうか。
ここまで扱いが酷いと、そう疑わざるを得ない。
「……雅治…?」
独り言に近いのつぶやきも、今の仁王の耳には届かない。
「なんだよ仁王、投げねぇの?」
「…うるさいの…」
俺は…―――の彼氏でいていいのか?
「……!!」
「…あーあ、外しやがった〜。じゃ、俺の勝ちって事で♪」
手元が…狂った…。
負けた、という感覚が、じわじわと湧き上がってくる。
「……っ雅治」
「ー!! 俺勝ったぜぃ!!」
「そ、そうだねっ、おめでと」
何だか、情けなくなってくる。
「………」
「…、俺が言うのもなんだけど…今は一人にしてやるもんだ」
「…でも」
「そーだ! 今日は俺と一緒に帰らねぇ? な!」
「あ、ちょっと待ってブン太っ…!! ―――雅治!!」
「!!」
その声に、すっと、重たいものが晴れていった。
「……?」
振り返ると、すぐ後ろに、。
「…あの、えっと…なんていうか…ごっ、ご愁傷様でした」
「、それ違う」
「そっ、そんな冷静なツッコミ求めてないッ!!」
「…笑いにきたなら笑えばいいじゃろ」
「そんなんじゃないし!! ……っていうか…私も混乱気味かも。なんて言えばいいのか解んないまま声かけちゃったし」
「…どういう意味」
「こんな消えそうな雅治…見たことなかったから」
「!!」
その瞬間、
「きゃっ!?」
仁王はを肩に乗せ、荷物を運ぶかのように担いでその場を離れた。
「まっ、雅治ちょっとぉぉぉッ!?」
「!!」
丸井の声に反応して、俺はを担ぐ腕に力を込めた。
若干、スピードも速くなる。
「………。ブン太ごめんっ、一緒に帰るの、またいつかね!!」
自分を優先してくれたことすら、今の仁王には嬉しくて。
頭のどこかで『末期だな』なんて思いながらも、走るスピードは落とさない。
「…っく…ふふっ…」
「……?」
「っあはははははははは!!!」
「!?」
放課後の、ひと気のない校舎裏。
そこに着いた途端、堪えてたかのように笑い出すに、思わず仁王は足を止めてを下ろした。
「…何笑ってるんじゃ」
「だ、だって…ここまで解りやすい展開になるとは思わなかったし…っ
何? 何この展開? 嫉妬ですか? 嫉妬ですよね? ……っぶふー!!
あっはははははははははははは!!! 駄目っ、駄目お腹痛……っはははははははは!!
可愛いっ超可愛いんですけどぉぉぉッッ!!!」
息継ぎするまもなく喋り倒したと思うと、今度はいきなり抱きついてきた。
未だに小さく笑いながらも、その腕はしっかりと仁王の背中に回されていた。
「…可愛いって言う割に、あいつらとはやけに態度が違う気がするんじゃが?」
「だって雅治だもん」
「………」
「でもそんな雅治が大好きなんだよ?」
一瞬、息が、止まった。
「…え?」
「雅治がヤキモチ焼いてる時の顔…めちゃくちゃ可愛いの。普段そんな素振りないから余計に可愛いの。
でもね、雅治、めったにそんな顔見せてくれないじゃない? だから……」
「だから、ヤキモチを焼かせるような行動ばかりしました、か?」
「う………ごめんなさい」
「…ククッ…」
何だか、悩んでいた自分が馬鹿みたいだった。
「私ね、雅治のそういうギャップが、好き。何をされるより一番ぐっとくる」
「ほーう?」
「ブン太や赤也には、いつも可愛い可愛いって言ってるけど…それは例えるならショートケーキのクリームとかスポンジとかでね?」
「へーえ?」
「わっ…私にとってのイチゴは…雅治です」
「つまり要約すると、俺が主食であいつらがおかず?」
「んー、むしろ別腹…ってなんでそんな色気ない言い方するかなぁ!?」
そんなに笑いながら、仁王はそこでやっとを抱きしめ返した。
「照れとるの方が可愛い」
「なっ……//////」
「…で、見たかった俺のヤキモチ顔は堪能したかの…?」
「そっそりゃもう!! …いやぁ、可愛かったなぁ…vvv」
「そうかそうか。それは良かった」
「あははー♪ ……で、何ですかこの状況」
抱きついている腕を外し、校舎の壁に追いつめ拘束。
「俺のヤキモチ顔、堪能したんじゃろ? だったら今度は、俺の番」
「へ? え? ちょ、ちょーっと雅治さん知ってます? ここ学校でまだ部活も終わってなくてまだ日がこんな高い夕方なんですけど!?」
「知っとるよ?」
「!!///」
口封じと言わんばかりに、いきなりキスをする。
「俺の番って言ったじゃろ? ―――の照れた顔堪能するまで…絶対離してやらんよ?」
「う、嘘ぉぉぉッ!!!//////」
俺の彼女の好きなもの。
ヤキモチを焼く、俺。
end.
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こんばんわ!こんにちわ!おはようございます!
現在夜中の2:30を過ぎました、ハイテンション夜行性動物の皐月です!
今回は『仁王夢で彼女設定、ギャグ甘』ということで、74000のフリーリクエスト頂きました!
雛姫 十雅さん、有難う御座います!!
正直、フリーリクエストとかしても誰も申請してくれなかったらどうしよう!?とか思ってたんですけど、
こうやって何名かのお嬢様から暖かいメッセージ付きで頂けて、もう本当に嬉しいです…!!
この『キミが好きなもの』の仁王は、ちょっとリアルを目指してみました。
いくらペテン師と呼ばれた男でも、やっぱり中学生だし…こういう弱いとこも可愛いですよね!!
最後はこう…いつもの仁王になってしまいましたが///
お待たせしてしまってスイマセンでした!
気に入っていただければ幸いです^^ 拝。