「これ職員室運ぶん? 手伝うわ」
今日は、侑士がやけに構ってくる。
私はその理由を、知っている。
「、昼一緒に食べようや」
……知ってるからこそ。
素直じゃないあたしは、言ってあげれそうにない。
『おめでとう』、なんて。
< simple is the best >
きこきこと、夕暮れの中に音が響く。
当たり前だ。もうこの自転車、3年は軽く乗っている。
なのに……なんであたしは侑士を乗せて二人乗りしてるんだろう。
普通さ、男が前で女が後ろじゃない?
街中でこうゆうカップル見たら本気むかついてたけど、まさか自分がそんな図になるとは思わなかった。
「悪いなぁ、乗せてもろて」
「そう思うなら侑士が運転して」
「こっちがええ」
そう言う侑士の腕は、あたしの腰にしっかりと回されていた。
「…なんか、あんたと同じマンションに住んでるのってすごい損した気分」
「何でやねん。酷いなぁ」
「残念な事ですね」
「…さすがにショック受けるで?」
回された腕に力が篭る。
…なんだか、悪い気がしてきた。
せっかくの誕生日なのに…あたしは素直に祝ってやれない。
しかも、貶してるし…
解ってる。
知ってるの。
侑士が、あたしに誕生日を祝ってほしがってる事くらい。
…それくらい、解ってる。
「……あのさ」
「何?」
「………その……」
「…………おめ、でと……」
つぶやくように、一言。
風に消え入りそうな声。
「…………」
「!」
侑士はそのまま、あたしに抱きついてきた。
背中にぴったりとくっついた身体が温かくて、あたしは鼓動が早くなるのを感じた。
「…聞こえんかった。もう一回言って?」
「………!?」
それは、とてもいじわるな声で。
見えなくても、侑士が今どんな顔をしているのかあたしには解った。
「…聞こえてるくせに…」
「聞こえんかった」
「………」
全身が心臓になったみたいに脈を打っている。
これも当然、侑士には聞こえているに違いない。
「…おめでとう!!///」
耐え難くなって、声を張り上げた。
やっぱり、予想通り侑士は笑いをこらえている。
殴りたくなったけど、今日は誕生日だし…我慢することにする。
「…もっと、いろいろ気の利いたこと言えたらいいんだけど…あいにく、そんな素直じゃないんで」
「いや、俺には充分。…よくできました」
侑士が後ろからあたしの頭を撫でてくる。
あたしは顔が火照って、うまく運転ができなかった。
「なぁ、プレゼントくれるやろ?」
「……部屋にある」
「じゃぁ今日泊まってええ?」
「絶対いや」
「…………」
シンプルな言葉で、
あたしは今日も、不器用な愛を綴る。
end.