さん…やんなぁ?」


「え?」










いつもと変わらない風景。


いつもと変わらない時間。









「俺の事、知ってる?」








いつもと変わらない人並み。


いつもと変わらない放課後。








「テニス部の…忍足、くん…?」







ただ、その日は何かが違っていて。







「せや。……さん、ちょお話あるんやけど」







今まで話したことも無かった人の、身長とか。


おっきいんだなぁ、とか。


上を向かないと視線が合わないとか。


そんな事を、頭のどこかで考えながら。









「俺と、付き合ってくれへん?」








私は、それを漠然とした気持ちで聞いていた。



……っていうか、
















ありえねぇ。




































































< ありえない、なんて事ナイ。 >





















































































「ちょっ…マジで言ってんの!?」


「信じらんなぁい……」


「つーかありえないっしょー…」







次の日の昼休み。友達に囲まれて質問攻めの昼食は、もちろんおいしくない。






「…ねぇ、それってさぁ。…私がアイツをフったのが? 私がアイツに告られたのが?」


「「「もちろん後者」」」


「…………」






自分で言うのもなんだけど、私は性格が悪いと思う。


言葉遣いも汚いし、腹黒いし、素行は悪いし。


男受けするほうだなんて微塵も思わない。それこそありえない。


そんな私に、アイツは、付き合って、だなんて言った。

















「俺と、付き合ってくれへん?」





「…………」


「…さん?」






「……ああ、新しいギャグ?」





「ちゃうわ! 俺めっちゃ真剣やって!!」


「だって、喋ったこと無い」


「一目ボレっちゅーやつや」


「いつ、どこで」


「おおっと、それはここでは言えんわ」


「…………」


「…や、黙らんといて欲しいんやけど…」


「…つーか」


「ん?」









「ありえねぇ。」
















「…ほんっと、忍足くんはのどこ見て惚れたんだかねぇー」


「ま、断ったのは偉いわよね。アンタが忍足くんと付き合った日にゃ、ファンクラブどころか学校中の生徒敵に回すわよ」


「…………」










ああ、だから、私は。









ちゃんおるー?」


「!!」






クラス中に響くような、低音の声。


それに負けじと、女子の叫び声がこだまする。


この氷帝学園では決して珍しくないその状況。今回それを引き起こしているのは、






「…忍足…」



「お。おったおった」






忍足は軽い歩調で私の所まで来ると、食べかけだったパンを袋ごとひょいっと持ち上げた。





「ちょっ…」


「このパンは預かったで? 返して欲しかったら俺を捕まえてみ?」


「…何がしたいのかさっぱり解らない上に面倒くさい」


「んー、アカンでちゃん? 何事もノリ良く、や」






パンを手にしたまま、そのまま忍足は教室を後にした。


後に残るのは静寂と、痛いほどの視線。






「…ダルい…」


「ならパンは諦めれば? 食欲なさそうだったし、いらないでしょ?」


「そうそう。んな事より、次の時間あたし当たるんだよねー。宿題見せてー」


「…………」








いつもと変わらない風景。


……私が存在しない風景。








「あ、そういえばさぁ、昨日のあれ見たぁ?」







いつもと変わらない時間。


……私が存在しない時間。







「……………」








…あー……なんつーか、もう、


















全部面倒くさい。
















「…行ってくる」


「はぁっ!?」


「あれ私のパン。まだ食いたい。だから行ってくるっつってんの。あんたら耳ついてる?」






席を立ち、すたすたと教室から出て行くと、さらに視線が濃くなった。


…解ってる。知ってる。






廊下に出てから、後方から微かに届いた声。












―――調子乗ってんじゃねーよ、バーカ!!











「…調子乗ってんのはどっちだっての。……バーカ」











さて、もう一人のバカはどちらにお逃げなさったのか。


















































































「お疲れさん」


「マジ疲れた。っつーわけでパン返せ」


が遅いから半分食べてしもた」


「…間接ちゅー…」


「アカンかった?」


「金取るよ。…つーか呼び捨て」


「好きな子は名前で呼ぶもんや」


「………」







忍足の跡をたどるのは簡単だった。


廊下の曲がり角のたびに、パンの袋が顔を覗かせていたからだ。


そのパン(忍足)の導く方向へと嫌々ながら着いて行き、着いたのはここ、屋上だった。





そんな暇人忍足は私の様子に笑うと、もたれかかっていたフェンスごしに腰を下ろした。








「…ああでもせんと、オトモダチのとこから抜けれんかったやろ?」


「!」


「まぁ、あんなん友達言えんやろうけど」


「………」






なんで、知ってる?






「…俺が初めて見たはなぁ、それはそれはカッコよかった」


「は……?」


「まぁこっちおいでや」







言われるまま、私は忍足の隣まで移動して、同じようにフェンスにもたれて座った。






「始めはイジメかパシリかと思った。女子が4人おって、だけ一歩後ろで全員の荷物持って歩いとって」


「…………」


「うつむいて泣いてるんちゃうか思ったら、よぉ見たらめっちゃダルそうな顔して荷物の一個にラクガキしとった」


「……あー…はい」


「あれはウケたわー。一緒におったがっくんにも不審者呼ばわりされるくらいに笑いこらえとってんから」


「知るか」


「まぁ、そしたら、急に全部荷物放り投げたやろ?」


「…………」


「ほんであいつらに言うとったやん」










―――そっちがそんだけ勝手やってんだから、私が何したって勝手じゃん。そろそろいい加減にしろ、ダルい。









「…あれ、めっちゃカッコよかった」


「……違う……」






違う、そんなんじゃない。


あれは、ただの…







「あんなの……ただの強がりだった」


「え?」


「あの時の私は…今ほどあの中で発言権なんか無くて。あいつらだって、そんな私が急にキレたから、びっくりして少し態度変えただけ」







あの日から、あんまりパシられなくなった。


相変わらず発言権はないに等しいけど、会話にはたまに入って。


……キッカケは、そう。







「…あんたが、いたから」


「俺…?」


「あんたが、言った。だから、私…」

























「科学の後藤、マジむかつく!!」


「ハゲのくせに。キモイよねー」


「マジ死ねって」


「キャハハハハハ!」






あいつらの中で、一歩後ろは一番楽な位置だった。


馬鹿みたいに低脳な会話も、そこにいれば他人のフリをして見ていられる。


カバンの後ろっ側に小さなラクガキをしたって、その時はもちろんその後だってばれない。馬鹿だから。







「あっ! 忍足くんと岳人くん!!」


「えっ嘘!?」


「ホントだいた!! や〜っカッコいい〜!!」







名前と顔は知っていた。


だけど、別にあいつらみたいなミーハー心は無かったから、私は顔も上げずにラクガキを続けていて。


その時だった。










「自分の好きなようにしたらええやん」






「!」










初めて、顔を上げた。


すれ違い際で、横顔しか見えなかったけど。


私じゃなくて、隣の友達に言ったんだろうけど。


そんなの解ってても、それでも、







「…………」







私には、一歩踏み出すための力になった。
























「忍足のその言葉が、私に、あんなこと言わせたんだよ」


「…マジで……」


「マジ」


「………なんか、めっちゃ嬉しいんやけど…どうすればええ?」


「んー…ちゅーでもされとく?」


「!」






私は少し身を乗り出して、忍足の頬に、キスをした。


触れるように軽く、だけど。







「ちょっ、!?///」


「間接ちゅーの仕返し…?」


「いや、疑問系で言われても」


「何でもいいっしょ」







そのまま私は三角座りしていた足に顔をうずめた。


それを見て、忍足はニヤリと微笑む。







「なぁ、照れてる? 照れてるんやろ?」


「うるさい死ね」


「嫌や。の口から聞くまで死なれへんやん」


「何を」













「何で俺が告白したとき、ありえへん言うたん?」












それはそれは楽しそうに、忍足は言った。






「…そんままの意味」


「色々あるやん。告白した事とか、告白された事とか、俺が好きなんがとか」


「言わなくても解ってんでしょ」


「せやから、の口から聞きたい」


「………」








ゆっくりと上げた顔は、



今まで生きてきた中で、一番、赤いハズ。















「……アンタが、好きだったから」
















瞬間、押し当てられた唇は、



熱くて、微かに震えていた。







「…死ねる」


「は?」


「俺、今のでなんや、キュン死にってやつ? できそう」


「いや、死ぬな馬鹿」








ぎゅうっと強く抱きしめられながら、私は火照る顔を手で仰いだ。



















ありえない、は本当は照れ隠し。


それと、信じられない、が混ざった感じ。





逃げてしまったのは、居場所の確保。


あんな奴らでも、私にとっては学校での居場所だったから。





でも、もういらないね。


必要がなくなったから。






今日から私の居場所は、


ここにいる、馬鹿の隣。
















「…、もっかい言っていい? ……俺と、付き合ってくれへん?」













ありえない、なんて事ナイ。













「…………ん」












だって私は、貴方を好きになった。

























































































end.





************************************************************************************




沙貴様、61000のキリリク有難う御座いました!


甘い感じでというリクでしたがどうなんでしょう、これ甘いですかっ!?(汗)


この設定は前々から使いたかったんですが中々書けなかったので、


今回使ってみようという事で書きました。


……本当どうなんでしょうね??(笑)


程よく甘め、なんではないかと(^^;)


ではではリクエスト本当に有難う御座いました!


またいつでも遊びに来てくださいねvvv