「………………何だコレ?」
岳人は、宍戸から送られてきたメールを見てつぶやいた。
全く意味が解らない。
「『脱兎』…って何て読むんだ? だつうさぎ?」
兎をやめてどうするんだ。
The reason for being.
The value of being.
――14th.
岳人はそのメールから何も察することができず、携帯をポケットに仕舞ってしまった。
そのまま校舎沿いに道を進む。
「こんだけ広いと、なかなか見つけられねぇなー。でもデートしたいし。どこ探せばいいんだ?」
周りを見渡すが、辺りには誰一人いない。
そうでなくとも氷帝は広すぎて、ひと気の無い道がたくさんあるのだ。
ここは放課後になれば、女子の告白の場によく使われるが、今日はどうやら誰もいないらしい。
覗き見の趣味は無いが、岳人はあまりの静けさに、そんな状況を見て和みたい気持ちになった。
ここにがいれば和めるのに。
そんなことすら考えていた。
まず捕まえるべきだろうとも思うが、彼女の姿を見てほっとしたかった。
思えば、衝撃的な出会いだった。
初めて会ったのは、体育の時。
「お前ら、もっと高く跳んでみそ!」
体育は高飛びの授業。跳ぶのが大の得意な岳人は、調子よくバーを跳び続けた。
その時、隣で体育をしていた女子の方から歓声が聞こえ、振り向くと、女子がバスケをしているのが見えた。
そして、一段と高く跳ぶ、少女がいた。
自分と比べれば高さはまだ低い。だが同学年の女子に比べれば充分の高さで、もう少しでダンクができそうな程だった。
それが、だったのだ。
「……なぁっ、あいつ誰!?」
「え? 今の女子?」
「そうそう! 今跳んだやつ!!」
「確か…さんだったかな。 さん。ほら、何日か前に転入してきた特待生の」
「…、……」
ライバル意識、とは違うものが岳人の中にこみ上げてきた。
一瞬見えた横顔が、焼きついて離れなくて。
「あれ、確かこないだ転入してきた特待生じゃねぇ?」
自分で言って、驚いた。
鼓動が早くなるのを感じて、必死に抑えた。
その時やっと、自分はのことが好きなんだと気づいた。
「なかなか難しいんだなー恋愛っつーのは」
テニスのほうがよっぽど解りやすい。
そう思って、少し笑った。
……矢先だった。
「が、岳人っ!? どいてどいてどいて!!!」
「うわっ!?」
曲がり角を曲がった瞬間、岳人は必死な形相の滝と鉢合った。
びっくりしたが、その華麗な身のこなしで滝の上を跳び越える。
「待てっ、この変態………って、岳人っ!?」
「えっ、…!?」
その着地地点には…滝を追いかけていたが、いた。
「きゃぁぁっ!!」
「うわ…っ!?」
派手な音を立て、岳人はの上へ倒れた。
「痛っ……あぁもう、岳人に捕まっちゃったじゃない…」
「なっ、ななな……っ///」
「……な?」
岳人は自分の招いた状況に一人で焦っていた。
を、押し倒している。
(ち、近…っ、ってか、肌白っ。唇とほっぺた怪我してる……………ってそんなこと見てる場合じゃなくてっ///)
「岳人? ねぇ、どいて」
「…………」
「岳人!」
「あ、あぁっ、悪ぃ///」
岳人はの上から降り、に手を差し伸べた。
は不機嫌そうにその手を取る。
「あーっ不愉快極まりない。何あの人、ただの変態かと思ったら逃げ足速いし」
「た、滝のことか?」
「そう。まぁあの人はどうでもいいとして、とりあえずさん捕獲オメデトウ」
は棒読みのセリフとやる気の無い拍手を岳人に浴びせた。
「…つーかよ、お前が逃げる立場なんだよな? ……何で滝を追いかけてたんだ…?」
「もうその話題は流してください。頼むから。……で、追加ルール。ほら、さっさと携帯出しなさい」
「あ? 携帯…?」
「何、宍戸からメール無かったの?」
「来たけど、意味解んねーから無視した」
岳人の発言に、はため息を漏らした。
「……まぁ、早い話が『私が宍戸を捕まえました』っていう内容のメールよ」
「…逃げる側が鬼捕まえていいのかよ?」
「特別ルールよ」
宍戸が捕まったのか。
何だか人事とは思えず、岳人は冷や汗をたらした。
を捕まえたのは、本当に偶然に過ぎないのだから。
「ほれ、携帯。…なぁ、これで条件、実現だよな?」
「……………そうですね。はい、それは後にして、とりあえず今から言うこと全員に送って」
嫌々そうに言うに微笑みながら、岳人は携帯のボタンを押した。
―――ブー、ブー、ブー…
「携帯…鳴って、ます…」
「ああ、よこせ」
跡部は樺地から携帯を受け取る。
次は誰が捕まったのか、そう思いながら携帯をディスプレイを覗いた。
メールは、二件。
「………へぇ、やるじゃねぇか」
送信:滝 萩之介
件名:Attention
********************
第二の犠牲。
奈落へと静かに
鬼は転落する。
さぁ、迎え打とう。
兎は微笑み鬼を狩る。
送信:向日 岳人
件名:Attention
********************
舞い落ちる幸運。
一筋の希望。
鬼は兎に手を伸ばす。
鬼さん此方、
手の鳴る方へ。
「……滝が捕まって、向日が捕まえた、って事だな」
「ウス…」
「……楽しくなってきたじゃねぇの」
跡部は時計を見た。
まだ15分しか経ってない。
慎重に進みながら、跡部はにやりと微笑んだ。
―――必ず、お前を俺のものにしてやるよ。……。
TO BE CONTINUED...
「やったぜ!とデート♪ この話が面白かったら俺を押してみそ!」