「げっ………」
らしくもない声を出してしまったとは思いながらも、見つけてしまった相手に顔色を変えないわけにはいかなかった。
宍戸を捕獲した後、その校舎の屋上から下を見下ろせば、
一番遭遇したくなかった、滝が歩いていたのだから。
The reason for being.
The value of being.
――15th.
「さて…どうするべきか……」
姿を見られないように、数歩下がってから考え込んだ。
今、長太郎と日吉はいない。
他の仕掛けがあるポイントに配置している。
「滝君は、二人と合流してから始末する予定だったのに……ん?」
は何かに気づき、もう一度下を覗いた。
辺りをきょろきょろと見渡している滝。そして校舎の場所。
「…いける、か?」
確信とまでは言えない。
だが、不穏分子を放置しておくわけにもいかないと思い、は賭けに出た。
「…………」
息を殺して、校舎の角から滝の後姿を覗いた。
は気づかれないように校舎を抜け出し、滝の背後を取ったのだった。
(チャンスは一度だけ……失敗したら、確実に捕まる…)
向こうは現役のテニス部員。体力や脚力など確実に相手が上を行くだろう。
「………」
は息を落ち着けた後、わざと音を立てて角から飛び出した。
ざっ。
そんな音がして後ろを振り返ると、
「! ちゃん!!」
「うわっ…」
いかにも嫌そうな顔をしたちゃんが、角から飛び出してきた。
逃げてる立場の割に、無用心だね。
「悪いけど、あんたにだけは捕まらないからね」
そう言って、踵を返し走り出すちゃん。
簡単に捕まえるのは勿体無い。
せっかく、こうやって君を追いかける真っ当な理由ができたんだ。
「いつまで逃げるの? その内捕まっちゃうんだから、自分から俺の胸に飛び込まない?」
「そんなおぞましい事絶対しない」
振り向かずに言うちゃんを見て、俺は微笑を漏らした。
ずいぶん余裕が無いみたいだね。こんな姿が見れただけでも大収穫だよ。
でも、俺の願いが叶えば、そんな君の姿も写真に収めることができる。
だから、絶対、逃がさないよ。
(何だか後ろからおぞましいオーラが……っ
…あ、よしっ!)
その時、ちゃんがピタリと足を止めた。
観念したかのように、息を落ち着かせながら振り返る。
「し、しつこいな……っ」
「そういうゲームでしょ? 見つかった時点で、ちゃんの負けは決定してたんだよ」
「へぇー……」
「何で宍戸は捕まったんだろうね? それだけ彼が間抜けだったのか…ちゃんの策が良かったのか」
「そりゃ、私の策でしょう」
それまでと全く違った声色に、俺は少し反応した。
「…………あぁ、それ以上そこに居ると、危ないわよ?」
「え…―――――!」
ふいに、自分の身体が深く沈んだ気がした。
いや、気のせいじゃない。
気づいた時には、俺の視界にちゃんの姿は無かった。
「……落とし穴っ…?」
「あ、一応聞くけど、大丈夫? 大丈夫よね? テニス部員さん」
上を見上げると、ちゃんが顔を覗き込ませていた。
穴は丁度俺の背の高さくらいだ。
「随分見事に引っかかってくれたじゃない。…見つかった時点で……誰が負けてたんだっけ?」
「…参ったな。どこから演技してたの?」
「決まってるでしょ。…初めから」
俺は苦笑いをして頭を掻いた。
「で、解ってると思うけど追加ルール。アンタの負けを、全員にメールして?」
「解ったよ」
俺は携帯を取り出して、ちゃんの言う通りのメールを打ち、そしてある事を思いついた。
とりあえずメールを保存して、ある画面を開く。
「…ねぇちゃん、俺の負けってもう決定してるんでしょ? だったら手、貸してくれない? 足ひねったみたいで、1人じゃ出れなさそうなんだ」
「嘘っ、ごめん大丈夫?」
「大した痛みじゃないから、心配する程じゃないよ。(だって嘘だし)…ただ、ここからは出られないかな」
「解った。はい」
素直に手を差し出してくれたちゃん。
俺は一瞬微笑んだ後、その手を必要以上に引っ張った。
「えっ…きゃぁぁっ!!」
予測通り落ちてくる彼女を両腕で抱きとめ、自然な流れを描くようにそのまま地面へ誘導した。
――カシャ。
びっくりしてまだ目をつぶったままのちゃんを、携帯に収めた。
その音に反応して目を開けた瞬間に、もう一枚。
あ、最後の一枚、やばい。
涙目で上目遣いって……しかも、状態は俺がちゃんを押し倒したような体勢で。
「…騙したのね……」
「おかげでいい写真が取れたよw」
「あらそう…? だったらもう思い残すことは何も無いわね?」
「…え? っぐは!!」
俺は腹に思い切り蹴りを喰らい、そう広くない穴の端まで飛ばされた。
「ちゃ…!?」
「ルール違反は許さないわ。さぁ、歯を食いしばれ」
「うわっ…!?」
やばい。完全に殺気を放ってる…!!
俺は確実に身の危険を感じ、ひらりと穴を抜け出した。
「待ちなさい!」
「えぇっ!?;」
軽い身のこなしで、俺と同様に穴を抜け出すちゃん。
殺気はどんどん増していき、捕まったら絶対殺されそうなほどだ。
これじゃ、さっきとまるで立場が逆じゃないかっ!
「あぁもうちょこまかと………携帯ごと血祭りにしてやる」
「ひぃ…っ!!」
一向に広がらない距離。
俺、本当に全力で走ってるよ!?
それについてくるちゃんて……やっぱり、そこら辺の女の子とはひと味違う。
でも今はそんな冷静な事言ってられない。
どうにかして逃げなきゃ殺される……!!
「……ん? ―――が、岳人っ!?」
すると、校舎の曲がり角から岳人が飛び出してきた。
このスピードじゃ、避けられない!
「どいてどいてどいて!!!」
「うわっ!?」
岳人は土壇場で俺の上を跳び越えた。
これでひとつの危機は回避した……そう思ったが。
「待てっ、この変態………って、岳人っ!?」
「えっ、茜…!?」
後ろから聞こえた二人分の悲鳴に、俺は頭を抱えた。
あぁ、あれは衝突してるだろうな……。結果的に、俺は岳人にちゃんを捕獲させてあげてしまった事になってしまった。
でも、とりあえずはこの場から逃げなきゃいけない。
俺は後ろを振り向かずにしばらく走った。
「ここまで、来れば……大丈夫、だよね…?」
俺はそろりと後ろを振り返った。
ちゃんはおろか、人影すらない。
「…よし、これでとりあえず命の危険は……」
俺は安心して、写真を撮ったままの携帯に視線を戻し……
「あれ……? 写真は……?」
何度も、何度も確認する。
画面は、メニュー画面のまま。
「走ってる時……クリア押しちゃった、とか……?」
俺はその場に立ち尽くし、とりあえず、保存していたメールを送った。
結局、俺に残ったのは、
無駄な浅知恵と、ちゃんの『ヘンタイ』の言葉だけ……
虚しくて、しばらく廃人と化していた。
TO BE CONTINUED...
滝がどこまでもヘンタイ臭い…!!
滝好きな人、すんませorz
そしてまたもや忍足が出てこないという…笑
「ははは…しばらく、立ち直れそうに無いよ…。 この話が面白かったら俺を押してね」