「…なぁ、最近お前、変わったよな」


「……変わった?」


「何か充実してるって感じだぜ?」






別れ際に、岳人はそう言った。






「…そう、見える?」


「おう! 俺にはな!」













「そう………









 眼球腐ってんじゃない?


























































The reason for being.

     The value of being.






  ――16th.
































































長太郎・若との合流ポイントへ向かいながら、私はさっきの岳人の言葉を思い出していた。






「何か充実してるって感じだぜ?」






確かに、そうかもしれない。


しれないけど。






私は今、目先の目標に向かって動いているだけ。






小さいものから順に言えば、



合流地点へ行く。

二人と合流する。

残りの鬼を捕獲する。

勝負に勝つ。




ただそれだけの事であって。







「………生きる理由も解らない私が、こんなちっぽけな日常に充実するはずがないじゃない…」







それが終われば、次もまた、その場その場で目標を定めるだけ。


最終的な目標も、理想も、定義も。私には存在しないから。


一番自然な答えは、――ただ何となく生きてるだけ。









誰か、


私にも生きる理由があると云うなら、






…教えてよ。












「!」




目の前を横切った何かに、私は一瞬で意識を覚ました。




「………誰?」




姿は見えない。


だけど、見えたのは間違いなく、テニスボール。




念のため、ボールが飛んでいった草むらに視線を置く。


ある。黄色いボールが。




となれば、当然ボールは今身体を向けている校舎側から放たれたことになる。






「…誰なの? 跡部、樺地君、ジロー、……忍足…?」





返事は無い。


こちらの出方を伺っているんだろうか。







「面白いじゃない…」






全神経を研ぎ澄まして、構える。


どこからでも来い。そう言うかのように。









「…………」











がさっ








「っ!!」


「あーっ」






音に気づき、私は振り返りながら距離を取った。


するとそこには、






「ジロー…!?」


「あたた……失敗したCー…」





苦笑いをしているジロー。


…何で、木の上から落ちて…






「……ボール、校舎の方から飛んできたよね?」


「あ! そうそう、これ引っ張ったら飛ぶように機械を設定してたんだー」





そう言ってジローが見せてきたのは、少し細めのロープ。


機械、とはピッチングマシーンみたいなものだろうか。ジローにしては考えたものだ。






「でね、がここ通ったらこれ引っ張るつもりだったのに、気づいたら俺また寝ててー


「は?」


「何かの拍子に引っ張っちゃったんだと思うけど、その音で目ぇ覚めて……。

 しかも下見たら臨戦態勢に入っちゃってるがいるでしょ? 心の準備も何も無くて、落っこちちゃった!」


「落っこちちゃったって、そんな軽々しく…」





少し見直した私が馬鹿だった。


やっぱりジローはジローだ。うん。





「……って、納得してる場合じゃない…」





そう、鬼は目の前。


しかも今回は滝君みたいなヘンタイじゃない。追う時は力の限り追ってくるだろう。


逃げ切れる可能性も無ければ、近くに罠を張った覚えも無い。





………どうする?






「…今、丁度30分経ったみたい。後半分で終わりだね?」


「…そうね」







「……ねぇ。――おとなしく、捕まらない?」






ジローからは、それまでの雰囲気は残されていなかった。


まるで別人…。口元は微笑んでても、目は確実に笑ってない。





「冗談。…そんなの今更聞くことじゃないでしょう?」


「そっか。そうだよね」





ジローの一挙一動に、目が行く。


視線が、はずせない。





「……」



「!」





ジローの右足が、一歩、踏み出された。











その時。






「一・球……入・魂ッ!!!」







「なっ……!?」








声のした方…校舎の屋上を見上げれば、落ちてくる落下物と、長太郎。








「わ…っ!?」






落ちてきた袋が地面に叩き付けられた瞬間、辺りに砂埃が舞った。





(チャンス…!!)




私は迷わず真っ直ぐ走り、砂埃の中咳き込むジローの姿を見つける。


瞬間、ポケットに潜ませていたあるものを取り出し、構えた。





カシャン!





そんな音がして、私は微笑んだ。


同時、ついに私の目にも砂埃が進入し、周りが見えなくなる。






「やば……」



「――先輩」



「!」





いきなり、後ろから抱きしめられた。


そのまま砂埃の外まで誘導され、私は目をこすりながらその人物を見上げる。





「若…!」


「先輩、こすると目を傷つけますよ」


「!」





その言葉に、私は少しの反応を見せる。


若はそれに気づかない。





差し出されたハンカチを受け取り、私は、迷わず右目を抑えた。







「………」





さん!」


「あ…長太郎」




砂埃が収まって来た頃、長太郎も校舎から降りてきた。




「時間を過ぎても来ないんで心配して来てみたら…危ないところでしたね」


「うん…二人とも有難う。助かった」






「げほっ、げほ………って、何これ!?」





やっと自分の姿を確認したジローは、自分の手元に光るそれを見つけ、叫んだ。


それは、――手錠。







「逮捕しちゃうぞ!………みたいな?」







私は『行ってよし!』のポーズでジローを指差した。


その微笑みに、ジローはおろか何故か両隣の長太郎・若までもが顔を赤くする。






「ちょっ……さんっ、可愛すぎですって…///」


っ、もっかいやって欲Cー!!」


「せ、先輩、もっと時と場を考えて下さい…///」






「とりあえず一番ツッコみたいんだけど、若。いつどこでならやっていいと言うんだ…?







ちょっと調子に乗ってしまった自分が恥ずかしくなってきた。




















































































「…捕まったんは宍戸と滝、捕まえたんが岳人。…俺、跡部と樺地、ジローがまだ生き残り、と…」





忍足は携帯を覗きながら、現在の状況を確認していた。





いくらサポートに男が二人ついていたとしても、それはあの2年生だ。


完璧な策が無ければ、サポートが鬼に直接手が出せない状況でそう簡単に捕まえられるはずがない。


となれば、やはりの策が決め手であるという事。


加え、は慎重に行動でき、的確な観察能力を持っている。





こちらも、同じように行動しなければ、決して彼女を捕まえることはできないだろう。






「岳人は捕まえとるんか……これは多分、マグレやな」






ほぼ同時に送られてきた、滝と岳人のメール。




これはが滝を捕まえる際に、岳人が隙をついたか。


それとも、それに巻き込まれてたまたま捕まえたか、そのどちらかだろう。




岳人のメール、『舞い落ちる幸運』からして、後者だろうか。


とにかく、岳人が単独で勝負に及んだ可能性は限りなく0に近い。








「…んー…とりあえず、らがどこおるかやなー……って、お?」








忍足は、携帯の着信音に笑みを浮かべた。



さて、今度は誰がどうなったか…。



















































 送信:芥川 慈郎
 件名:Attention

******************** 

 第三の犠牲。
 訪れる闇。
 兎は構わず飛び跳ねる。

 さあ、
 牢獄への切符は如何?

 兎の時計は止まらない。























































「次は、ジローか……」





忍足は文面に少し微笑むと、腕時計に視線を移した。


残り時間は、あと半分を切っている。






「あと半分……どないする、? 手ごわいのが二つも残ってんで…?」








呟き、忍足はその場を後にした。












残る鬼は、忍足と、跡部・樺地ペア。





















































TO BE CONTINUED...











 「久々の出番やのに、と絡み無いやん…。   この話が面白かったら俺を押してな?」