屋上から保健室までの移動は、耳が痛くなるほど静かやった。






授業中やからやない。













俺もも、一言も喋らんかったから。




































































The reason for being.

     The value of being.






  ――2nd.





























































「保健の先生、おらんみたいやけど。…安心しぃ、俺医者の息子やから」


「本人医者じゃないじゃん」


「これくらいの怪我なら手当てできるわ」






俺達が会話を始めたんは、保健室についてからやった。


鍵は開いとったけど、中は廊下以上に静まり返っている。






「これ絶対染みるわー…残念やけど、優しくできんで?」


「…脅さなくていいから、早くやっちゃって」




俺はできるだけ優しく、消毒液のついたガーゼでの頬の傷に触れた。





「っっ…た…!!」




やっぱり痛かったんか、は見たこと無いくらい顔を歪ませて痛みに耐えとった。


よく見ると、は手をめっちゃ握り締めてる。





「あかんあかん、今度は手のひら爪で傷つけんで。…俺のシャツ握っとき」


「……」




痛みがよっぽどなんか、珍しく素直になったは、きゅっと俺をシャツを握ってきた。


……不謹慎やな、俺。涙にじんでる、めっちゃ可愛い。





「…ほい、終わったで。よく我慢したな」


「子ども扱いしないで」


「そりゃごめんやで」





子ども扱いちゃうで? 、ホンマに頑張っとった。


俺は傷口を覆うように、ガーゼをテープで固定する。




「肩の方はちゃんと病院で見てもらわなな。を推薦した先生誰?」


「あ…太郎さん…じゃなくて、榊先生。ちなみ保護者でもある」



……え?



「…………監督が!? え、む、娘さん……?」


「違うよ。親が仲良かったの。ってか、監督って?」





は、監督が音楽の教師であるとしか知らんかったみたい。


俺かて、監督がの保護者やなんて思わんかったわ。





「保護者も監督なら話早いな。保健の先生おらんし、早退の手続きと事の報告しに行こ」


「やだな、これ以上心配かけるの」


は親思いやな。親ちゃうけど。…この時間は職員室おるかな」





そう言って、俺達は職員室へ向かった。

























































「――っ…!? この傷…何があった!?」


「い、痛っ!」


「監督!!」




の傷にびっくりして、監督はの肩を掴んできた。


俺が監督の腕を掴むと、監督は はっとして手を離してくれた。





「す、すまない……お前、右肩もどうかしたのか? 腫れてたぞ…?」


「……」


「…監督、事情を説明したいんですが、ここは人が多すぎます。どこか部屋で話させてもらっていいですか?」


「あ、ああ…隣の応接室へ来なさい」











































「…そうか、最近はそんな事をきっかけにこんな事が起きてしまうのか…」




監督は、俺との正面のソファに座り、ため息をもらした。





「…ごめんね、太郎さん…。私、太郎さんにだけは迷惑かけたくなかったのに…」


「そんな事は気遣わなくていい。それより、肩の方は大丈夫か? 激痛以外に何か違和感は無いか?」


「今の所大丈夫だよ。有難う、太郎さん」





…何や、ええ笑顔しよって。やっぱ俺への笑顔は偽りかいな。





「…で、葛木たちの処分はどうするんですか、監督」


「処分?」


「ああ。停学処分、あるいは、退学処分もありうるな」


「………退学は、やめて…太郎さん…」


?」




は急に席を立ち上がった。


何故か、乾いていた瞳が潤んでくる。




「私がここに来なきゃ…こんな事にならかった。だから…っ!!」







俺はそのセリフに、の左腕を引いた。




「それなら、お前に構っとった俺のが悪い。それに、俺らがどうしようが俺らの勝手やで? にこんな事したあいつらが処分受けるんは当たり前や」


「でも…っ」


、落ち着きなさい。…昔から、お前の悪い癖だ。どうしてそうやって自分を蔑む?」


「………」




監督の声で、は すとんとソファにつく。


…何か、悔しい。





「…被害者からの申し出だ。私からも口ぞえしよう」


「! 太郎さん、有難う…」


「ただな、お前を今すぐ病院に運びたいんだが…その…証拠がな、理事長たちに見せねばならん」


「あ…」




2人は急に表情を固くする。


俺はその時、ポケットに入れてたモンの存在を思い出した。




「監督、証拠ならこれ使ってください」


「これは?」


「あいつ等がを撮影してたデジカメの、SDカードです」


「! 拾ってたの…?」





がびっくりした表情で俺を見てきた。


俺が投げ捨てた時、いろんな部品と一緒に飛び散ったんやろ、SDカードは屋上の入り口の方で見つけた。





「そん中に、証拠は入ってます。……いらんくなったら、すぐにデータ消してください」


「忍足……」


「そのつもりだ。…忍足、お前も今日は早退していい。を病院に連れて行って、家に送ってやってくれないか」


「あ、そのつもりです」


「そうか。では、行ってよし!!


「!?」




俺は監督のいつもの合図で応接室を出た。


は面白いくらい困惑した顔で着いてくる。




「何…今の」


「氷帝名物、行ってよし! …知らんのか?」


「…知らないし」




ため息混じりに、けど、顔はちゃんと笑って、は言った。





「よし、俺かばん取ってくるから、は門まで行っててや」


「あ、うん。お願いしていい?」


「任せとき」





俺は少し小走りで教室に向かった。


















































今日は、晴れ?


それとも、曇ってる?


雨は…降ってないな。多分。


風が冷たい。これからだんだん寒くなるんだろうな…。




「………」








―――もう、歌えなくなっちゃったから……








歌えない。…歌えない?


ううん、きっと、違う。





……………歌いたくないんだ。






意味を失った、私の歌。


価値が曖昧な、私自身。





もう、あの声が出せない。


出す事を恐れているんだ。



だから。









「何で自分を蔑むか……って…?」





さっき、太郎さんに言われた言葉。





「太郎さんは……太郎さんなら、解るでしょう……?」




自嘲気味の笑いを浮かべる。


今の私、きっと醜い。





「………っっ!!」




思い切り、右肩を殴る。





「…ぅ……ふ、ぅぁ……っ!!」






これは、何の痛み?






!?」







肩のアザ?


頬の傷?






、どないしたんや!? 肩、痛むんか!?」













きっと、違う。
















―――自分の全てがもう、痛いんだ。

















































TO BE CONTINUED.......















 「、どないしたんや……!?  この話が面白かったら俺の事押してや?」