「…全部無視して自分のしたい風にやらせるつもりなんですか」
初めて、伯母さんの食事する手が止まった。
ゆっくりと、その視線が俺に向き、初めて目が合った。
第一印象からして、最悪なイメージの人やった。
香水の匂いは部屋中に充満してて、髪型はデ●ィ婦人みたいで、
おまけに人が喋ってんのに食べる手止めへん。
今かて、その人を見定めるような目線が気に食わんねん。
がクソババアて呼んどったんがめっちゃ納得できる。
「……当たり前でしょう?」
「っ!!」
その言葉に、俺は思わず席を立った。
The reason for being.
The value of being.
――21st.
「っふざけんなや! あいつは人形やない!!」
ばんっ、と音を立てて、忍足は机を叩いた。
その音に誰もが動きを止め、本人はやってしまった、と、席を立ったまま硬直していた。
「…礼儀知らずな子どもね。榊、貴方の教育方針はどうなっているの?」
「忍足、座りなさい」
「せやけど監督…っ」
「…座りなさい」
榊に言われ、忍足はおずおずと席に着いた。
「…瑞穂、確かに今、の親権を持っているのは貴女だ。しかしよく考えてくれないか。
このままを連れ回す事が、にとって良い事だとは私は思えない」
「何が良い事かは私が決めるの」
瑞穂は手元の布巾で口元を拭き、榊を見た。
「…貴方こそ、を上手く利用したいだけじゃないの?」
「何やて…!?」
「忍足! …どういう意味だ」
「親権が欲しかったんでしょう? を好きに扱いたいんでしょう? …だったら私と同じよ」
「私はをどうこうしようと考えた事など一度も無い。
いつでも、あの子の意思を尊重したいと思って……」
「そんな偽善、たくさんだわ」
こちらの意見を全く聞かない瑞穂に、誰もが苛立ちを募らせていた。
「………何で、ちゃんを苦しめるの」
「姉さん…?」
「何でちゃんばっかり、いつも辛い目に会わなきゃなんないの。何でちゃんが泣かなきゃなんないの!
親権とかそんなの関係ないっ、伯母さんはちゃんの保護者を名乗る資格なんて無い!!」
「資格なんていらないでしょう。私とには血の繋がりがあるんだから」
「保護者って意味解ってるの!? 子どもを育てなきゃいけないんだよ!?
伯母さんはちゃんを育ててない! ちゃんの未来を潰そうとしてるだけ!!
…もうやだ、ちゃんに会いたい……っ、会わせてよぉ…………っ」
ついに泣き出してしまう杏子を、隣に座っていた長太郎が宥めた。
「には会わせない。明日の便で、アメリカに帰るわ。私にもあの子にも、仕事がたくさんあるんだから」
「……話にならんわ」
忍足は席を立ち、入り口へ向かった。
「待て、どこに行く」
「を探す」
「勝手な事をするな、馬鹿が」
「何でお前はそんな黙ってられるんや、跡部!!」
「跡部…?」
忍足の叫びに、瑞穂が反応する。
「へぇ、驚いた。貴方、あの跡部グループの一人息子の…?」
「…跡部 景吾だ」
「そう……先日は、よくも私の取引先を一つ、奪ってくれたわね」
「跡部さん、そんな事を…?」
「あーん? たまたまだ、んなもん」
「こちらはとんだ被害を被ったの。
…そうね、決めたわ。跡部グループが私の会社と契約してくれたら…―――貴方たちの命だけは、助けてあげる」
その言葉に、誰もが言葉を失った。
「…な、に……!?」
今、何を言った?
まさかあいつ……皆を…!?
『瑞穂、ふざけるな! ここはアメリカじゃない、日本だ』
『そうよ、日本。日本の、私の別荘よ。…ここでは私がルール、何か間違いでも?』
『アンタ、どこまでも性根が腐ってんだな』
『黙りなさい。…言葉を間違えないことよ? 坊や』
カチャ、という音が聞こえた。
……間違いない、拳銃だ。
『さぁ、どうするの』
『…………』
お願い、跡部。
命を大事にして。
悔しいだろうけど、嫌だろうけど、
そいつの言う通りにして。
あんた達まで、私のせいで死なないで…。
『…断る』
「っ!!」
どうして……
やめてよ…!!
『俺たちはテメェに殺されるつもりも黙って帰る気もねぇんだよ。……さっさとを出しやがれ』
そんな事したって、私はあんた達の所には帰れない。
もう、戻れないのよ。
なのに……!!
『……ボブ、ローズを呼びなさい。隣の部屋に待機させてあるわ』
『はい』
銃を仕舞う音、扉を閉める音がして、誰かのため息が聞こえた。
一体、ローズに何をさせるつもりなの?
『お呼びですか』
『ええ、こちらへ来なさい』
しばらくして、ローズの声が聞こえた。
『………貴方たちはご存知かしら。の恋人に手を下したのは、ローズだという事を』
『…………』
『あの子の父親…私の弟は、ローズを使って、自分の手は汚さずにの恋人を殺した。
……私も同じ事をしてあげる。
――ローズ、彼らを殺しなさい』
「!!!」
は……?
何、を……
『アナタ…正気ですか!?』
『見苦しいわよ。最期くらい静かにできないの?』
『見苦しいのはそっちだクソババア!! 汚い真似しやがって、その面あたしがぶん殴ってやる!!』
『うわっ、姉さん危ない!!』
ガシャンっ、という音や、机か椅子がガタガタする音が響く。
きっと、杏子は机を乗り越えようとしたんだろう。
……お願い、今ならきっと間に合う。
早く、……早く…っ!!
『……俺らの意思は変わらへんで。……………、返せや』
忍、足………
『……ローズ!!』
『……………』
―――――――――パァァァァン……!!
「……っあ………………」
耳が痛くなる程の音が、
狭い部屋の中に、響き渡り、
同時、
私の視界が、揺らいだ。
何だろう、
とても、とても寒い。
まぶたが重い。
痛い……。
胸が、潰れそうなほどに…痛い。
「忍足………」
意識が途切れる、ほんの一瞬、前。
最後に脳裏に浮かんだのは、忍足の声。
「俺らから、状況から、そいつらから。……逃げるつもりなんか」
そうだよ。
逃げたかった。
………こうなって、しまう前に。
私はまた、
大切なものを、失った。
TO BE CONTINUED...
「え、嘘やん………まさか俺、死んだ…? この話が面白かったら俺を押してな?」