「ねぇ、聞いた? あの女帰ってくるんだって」


「聞いたー。一ヶ月とか超早くね? もっと休めっつーの」





「ちょっと! さんの悪口なら許さないわよ!!」


「そうよ! ファンクラブが黙ってないからね!!」





「うわ、出たようるさいのが」


「あんたらみたいのがいるからあの女が付け上がるのよ!」





「わっ、私たちはひっそり活動してるんだから、さんに迷惑もかかってないし!」


「貴女たちみたいな存在のほうが、さんにとって有害なのよ!!」








よくもまぁ、こんな人通りの多い昇降口前で騒げること。


それにしても、こんな衝突初めて見たや。





周りの人は、騒ぎよりもこっちをチラチラと気にしている。


しかし、当の本人たちは気づかないご様子。









「ねぇ、とりあえず止まってくれない?」









騒ぎの元となった人物が、そこにいるのを。












































































The reason for being.

     The value of being.






  ――24th.






















































































「あ、あの! 有難う御座いました!!///」





赤い顔をしながら私にお礼を言う二人の少女。


顔も名前も知らないけど。


まぁ、杏子も加入している私のファンクラブの人だってのは会話から解った。






「えっと…その…先輩、かっこよかったです…///」





先輩、と呼ばれたということは、彼女たちは後輩なのだろう。


とりあえず会話の内容的に私を庇ってくれたようだったから、文句を言う女子たちに、











「文句があるなら直接言って。それさえできないような小心者の陰口なんか、私には痛くも痒くも無いわ」









私がそう言うと、苦虫を噛み潰したような顔をして足早に校舎へ逃げていったのだった。







「気にしないで。それより、私なんかのためにケンカしない事。いい?」


「え、でも…」


「いいの。ほら、早く行かないと、HR間に合わないよ?」





二人は顔を見合わせ、私に深く頭を下げてから、校舎へと駆けていった。


姿が見えなくなると同時、鳴り響くチャイム。


すでに、ここには生徒の影は無い。







「……痛くも痒くもない、か」






自分でも不思議だ。


こんな風に、思える日が来るなんて。






まだまだ乗り越えなきゃいけないことは多いけど。










「…さて。






 とりあえずは復学一日目のサボリを楽しみましょうかね」





































































































、今日から復学らしーな」






一時間目終わりの休み時間。俺は目を見開いて、今言われたことを頭の中で復唱した。





「…う、嘘やんっ!? マジで!?」


「何だよ、侑士知らなかったのか? 詳しいことは知らねぇけど、もう噂んなってるぜ?」





岳人がそう言ったんを聞いて、俺は教室の中を見渡した。


この一ヶ月、隣の席にの姿は無かった。


それは今日かて同じこと。






「まぁ、のほうから『会わない』つってきたからなー。知らないのも無理ないか。俺もさっき聞いたんだよ」





そう、はケジメの一つとして、復学までは俺らと会わんって言うてきた。


せやから、大まかなの様子は監督からしか聞けてない。


順調に回復に向かっているとしか言われんかったから、ほとんど情報は無いに等しかったし。





「でさ、今朝遅刻ギリギリの時間に昇降口で揉め事があったんだってよ。


 そこに、がいたらしいぜ?」





「ホンマに来てんの!? そういう事は早よ言え!!」





すばやく携帯を取り出し、番号を探す。


その時、思い出した。




「あ」




なんや色々あって、俺はすっかりの携帯の番号を聞くタイミングを逃してたんやった。


…あかん、後で聞いとかな。






「知ってるんは鳳か……」





あいつに聞くんは、何か嫌やな。


しゃあない、自分で探すしか……





俺がそう思った瞬間、携帯のバイブが鳴り出した。




「うわっ」




タイミングのいい名前が表示されてる。






「…何や?」



『あ、忍足先輩? 俺、鳳です』



「解っとる」






鳳はなんとも嬉しそうな声で話しかけてきた。


多分、の復学のことはもう知ってるんやろう。






さん、復学したって本当ですか?』


「らしいな。目撃情報ありや」


『目撃情報…? そこには、いないんですか?』


「おらん。どうせ一日目からサボリやろ…」


『あ、ならあそこにいるかも……』






鳳の言う、あそこ。


俺はその発言に少し苛立ちを感じた。





『知りたいですか?』


「……ええわ。自分で探すから」


『そうですか、頑張ってくださいw』






…なんや、めっちゃムカツク態度やわ…。






『あ、一つヒントです。




 そこは、とてもさんに似合う場所ですよ』







に、似合う…?」


『はいw じゃぁ、俺はこれで』


「ちょい待ち。……会いに行かんのか」







『…………さんにまず会わなきゃいけないのは、貴方でしょう?』






そう言って、鳳は電話を切った。


全て見透かしてるような後輩の行動に、俺は今度は素直に嬉しいと思った。






「…侑士、何微笑んでんの? 激しく怖ぇんだけど


「岳人、口は災いの元やで…? まぁ、今は機嫌ええから許したるけど。


 って事で次の時間サボるから、うまく誤魔化しといてくれな?」





俺は岳人の頭をぽんと撫でて、教室の入り口に向かった。









「……やっぱ、今日の侑士…激しく怖ぇ……。激怖?





























































































「ここか…」





目の前にそびえるのは、大きな温室の入り口。


学園の奥のほうにあるこの温室は、1年くらい前、校舎の近くに新しい温室ができてからはすっかり寂れてしまっていた。


けど、設備はちゃんと生きてて、新しい温室に移せんかった大きな木とかは、そのままここで庭師によって世話されている。




遠慮がちに扉を開けると、中から暖かい空気がもれてきた。


俺は身体を滑り込ませるように中に入り、一度目を瞑る。






(せや…は、こんな感じや)





周りがどんなに厳しい状況でも、心ん中はこんなにも暖かい。


たった一人、寂しい思いしてたって、こうやって誰かがお前の側に来てくれるんやで?





いろんな色、形、大きさで咲き乱れる花や木は、ホンマにの心の一つ一つみたいで。





俺が思う、『によく似合う場所』は、此処しかなかった。







「…?」






入り口近くには居らんらしい。


俺もここには初めて来るから、こんだけ広いと迷ってしまうかもしれんな。






熱帯植物のアーチ、イチョウの雑木林を抜けると、辺り一面が花畑に変わった。







「……コスモス…」






ピンク色のコスモスが咲き乱れたそこは、温室の最奥。


…もしかして、ここに、おらん?






その時、











―――がさっ。











「!」





コスモスの中から聞こえた音に反応して、俺は一目散にコスモスの中へ飛び込んだ。


此処だけ手入れされてないんか、縦横無尽に咲き乱れたコスモスは、俺の背丈に届きそうな長さのもんまであった。


そのコスモスを掻き分けるように進んで……








視界が、開けた。








「…………」





直径2mくらいの輪。


そこだけは、真緑の芝生が生えてて、


その真ん中に置かれたベンチの上に、








「…………」








が、寝転がっていた。








俺はを起こさないように、ベンチの空いている所に腰掛けた。


そこからの景色は、360度コスモスで、何とも幻想的で。


コスモスがむちゃくちゃに生えてたんは、手入れされてなかったんやなく、この場所を隠すためやったんやな。







「ん…………」






くぐもった声が聞こえて、俺は視線を落とした。





一ヶ月前、ずっと見とったの寝顔。


今はもう、頬は元の白い肌に戻ってて、傷は無かった。







「…会いたかった。ずっとや」






俺はの頬に唇を落とした。


何度も、何度も、を確かめるように。






そして、唇にキスしようとした瞬間、






「!」


「…………何してんの」







不機嫌そうな顔のの手のひらによって、それは遮られた。







「…久々に会ったっちゅーのに、第一声がそれかいな」


「久々に会って速攻キスですかこの欲求不満






あくびをしながら身体を起こす


いつも通りのが、俺は一層愛しく感じた。






「……ただいま」




「…お帰り」






俺は軽くの腕を引っ張り、腕の中へ引き込んだ。


は俺の背中に腕を回してくれへんかったけど、抵抗は無かった。





「傷はもう平気なん?」


「顔と肩は治ったけど、銃の跡は少し残ってる。たまに傷口が引きつるの。まぁ、傷はふさがってるし大丈夫」


「そか」


「うん。だから離して。人の温度って眠いの」


「寝てええよ?」


「嫌な予感しかしないからご遠慮します」






ぐいぐいと胸を押してくるに少し苦笑いしながら、俺はゆっくり腕を離した。






「相変わらずやなぁ……」


「変わるとは言ったけど、この性格を変えるつもりは更々無いからね」


「それがやからなw」





はため息を付き、視線を前に向けた。


その視線を追うように、俺も前を見る。






「……ここ、素敵でしょう」


「ああ…綺麗やな」


「和むの、すごく」


「……」


「忍足?」








「何や俺は………落ち着かん」



「!」







気づけば口にしていた言葉に、俺は思わず口を抑えた。






「あ、いや…」


「そうだと思うよ」


「え?」




は、微笑みながら言った。





「なんだか、神秘的な景色でしょう? ただのコスモスなのに。……『聖域』みたいで、とても素敵。


 でもね、聖域って、この世のモノではないの。だから、現実離れしてるって意味でもあって。


 普通の人はきっと落ち着かないと思う」




「それって…は普通やないって言いたいん」




「そうよ。


 …それは、私がこの世界の住人なのか…それとも、この世界を『綺麗』だとは思っていないのか……解らないけど」






は一度目を伏せると、静かに俺を見つめてきた。






「でも多分、後者だと思う。私の中の価値観は、あの日を境目に歪んでしまっているから。


 ………でもいつか、この景色を素直に『綺麗』と思える日が来るって、私は信じたいんだ」






真っ直ぐな瞳は、気圧される位に強い。






「きっとその時………私は、また歌えるようになると思う」






すると、は微笑んだ。


一気に雰囲気が変わって、俺は一瞬呆けたような顔をした。






「…何馬鹿面してるの。


 それより私、少し考えたい事があるから、もう忍足帰って?



「ええっ!? 感動的再会これで終わりなん!?」



「しばらくしたら行くから」



「……解った。帰ったらあかんで! 今日からマネージャーやってもらわなあかんからな」






軽く手を振るを一度だけ振り返って、俺はコスモスの中を掻き進んだ。



が見えなくなった頃、もう一度振り返る。





「…………」





見えへんことに、今は不安は無かった。






































































綺麗に、見えない。


多分じゃない。私は確実にそう思っている。




だけど。……きっと前者でもある。









「…それは、私がこの世界の住人なのか…」









隔離された空間。


現実離れした感覚。






それは、





全ての感情を拒絶し、


現実を認められなかった、





あの日の私と同じだから。









「リオがいなくなって……私は愛を喪った…」









『聖域』は、『楽園』。


そこに愛や恋は無く、全てのものが神の御許で日々を過ごすという。




だから、私はここが居心地いいんだ。



現実に飛び交う、色恋沙汰には無縁な世界だから。







「リオを忘れることなんてできない。


 だけど、私はもう一度、誰かを愛さなければ…、その気持ちを思い出さなきゃ、元に戻れない」













もし、


もしも、






新たな愛に生きることが、リオを忘れることでは無いというのなら、

















――――――………

















「……忍足」

















どうか神様。




もうしばらく、この気持ちを見定めさせて下さい。






















































TO BE CONTINUED...






*** あとがき ***



季節も時期も咲いてるものとかも全無視でお送りしていますw


だってこの時期、跡部たち引退してる…


けど、マネージャー編のためにその辺も無視で。




ここではこいつら一生進級できないね……。orz











 「久しぶりやな、。   この話が面白かったら俺を押してな?」