改めて思うけど……
『…というわけで、こいつが今日からレギュラー専属のマネージャーをやってもらう、 だ』
200人って、多いって。
The reason for being.
The value of being.
――25th.
放課後。
今私は、広い体育館の舞台の上に立っている。
『まずは軽く挨拶して貰う。…』
っていうか、これって、ツッコむべきポイントだよね?
『……初めまして。… 、です…。
何で体育館で集会を行う必要があるのか誰か教えてください。以上です』
『それは挨拶とは言わねぇ』
『それ以外に何を言えと』
跡部がもう一つのマイクでさらにツッコミを返してくるから言い返す。
同時、体育館内がざわざわと騒ぎ出した。
『200人集められるのはここくらいだろーが』
『コートでいいじゃない』
『声が通らねぇ。いいから挨拶しやがれ』
『はぁ……解ったわよ』
私はもう一度前を向きなおし、約200人の部員を眺める。
その最前列には、跡部以外のレギュラーが並んでいた。
『………さっきの説明の通り…先日の鬼ごっこの一件で、マネージャーに決まりました、です。
正直、ちゃんとできるか不安でもありますが……頑張りますので、よろしくお願いします』
拍手が起こり、私は少しほっとした。
歌手をしていた頃だって、あんまりスピーチとかしなかったから、緊張したんだ。
『お前ら、しっかり顔を覚えとけ。それと、こいつに余計な手ぇ出してみろ、レギュラー全員が黙っちゃいねぇからな』
『部長が部員を脅さないの』
そう言って私がマイクをおろすと、隣に居た太郎さんが手を差し出してきたから、私はマイクを手渡した。
『…今日ここに集まって貰ったのは、の事だけではない。
急な話だが、明日からの連休を使って他校との合同強化合宿が行われることになった。正レギュラーだけだがな』
太郎さんの言葉に、いきなり体育館内が騒がしくなった。
そんなに気になることなのかな、と思っていると、最前列のジローがひときわ大きな声で叫んだ。(今日は起きてるんだ…)
「うっわーっ何処とやるんだろ!? 丸井君に会えるかな!?」
そっか。合同だもんね。
みんな、どことやるのか気にしてるのか。
ちらっと太郎さんを見ると、太郎さんは言葉を発する瞬間だった。
『静かに。……今回参加するのは、
青春学園と立海大付属だ』
ざわめきは一瞬の沈黙の後、
すぐに勢いを取り戻した。
「…で、ここがレギュラー専用の部室だ。この隣がマネージャー室になる」
「…………」
「ここに入れるのは、レギュラー以外ではお前だけだ。光栄に思え」
「…………」
「何黙ってやがる」
「いや……後ろの人がめちゃくちゃ気になるんだけど」
集会の後、跡部達に部室まで案内してもらっていたのはいい。
でも何で…
「…ああ、気にするな。それは幻だ。存在してねぇ」
「了解、心得た」
「いやおるっちゅーねん」
私は忍足に後ろから抱きつかれているんですか。
「じゃぁ存在は認識してあげるから。…何がしたいの」
「気に食わん」
「は?」
「何でがマネージャーなった途端に合宿やねん。またいらん敵増えるやろうが」
「アンタまたそんなどうでもいいことを…」
「それは俺が監督に提案したからだ」
「「は?」」
思わず忍足とはもってしまった声。
意味の解らない跡部の発言に、私たちは目を丸くする。
「監督からお前の事を相談されていてな。…お前、前に忍足からの告白で顔真っ赤にしたそうじゃねぇか」
「忘れたい過去の一つですね」
「酷ッ」
「それを見た監督が、『の情緒を開花させるためにはどうすればいいだろうか』と悩んでいてな」
「…はい?」
「だから俺が、『合同合宿を開いてにもっと異性と関わる機会を作ればどうか』と提案した」
「じゃなくて、何でアンタが太郎さんと繋がってるのよ?」
そう言うと、跡部はニヤリと笑って腕を組んだ。
「欲しい物()に所有者(榊 太郎)がいるんなら、それに取り入っておくに越したことは無いだろーが。アーン?」
「跡部…!! は俺のモンや!!」
「どうも監督は、お前にだけはを渡したくないらしいぜ?」
「とりあえず私はモノじゃありませんから」
あー、本格的に太郎さんを殴りたくなってきた。
私は怒りの矛先を忍足に定め、一気に身体を引き剥がす。
「太郎さんとは後できっちり話をつけるわ。
……マネージャーを引き受けると決めた以上、合同合宿にはちゃんと参加します。で? 私は何をすればいいの?」
「ああ、合宿で使用するものを買出しに行って欲しい。いるものはこの紙に書いてある」
跡部から手渡された紙を一通り見る。
…量が尋常じゃなんですけど。これ、私1人で持てと?
「荷物持ちなら好きに選べ」
「! じゃぁ俺が一緒に…」
「それなら岳人と一緒に行ってくるわ」
「えぇっ!? 何でなん!?」
「鬼ごっこのご褒美に丁度いいし」
「一日デートじゃなかったのか?」
「岳人なら放課後デートでもごまかされてくれそうじゃない?」
「ああ、確かに」
「何でや…何で岳人が捕まえれたんや…」
打ちひしがれている忍足を放置して、私は岳人を呼びにコートへ向かった。
「で? 次は何買うんだ?」
「えっと、ドリンクの粉、56袋。…………………粉?」
「ああ、水に溶かして飲むヤツだよ。それならこっちだな」
岳人を引き連れ、スポーツショップ巡り。
今までこういうお店には興味なかったけど、中々面白いもんだな。
「う〜っ、やっぱ店回ってるとテニスしたくなってくるぜ。、跳んでいい!?」
「その瞬間他人のフリするけどいいなら」
「クソクソ!!」
「ほら、さっさと買出し終わらせるよ。終わったらどっか遊びに行くんでしょ」
「おう!」
岳人は両手に持った荷物など気にせずに、軽やかな歩調で隣を歩いている。
小柄なナリだけど、やっぱり男なんだな。
「…岳人って、私と背変わんないよね」
「……お前、人が気にしてることを…」
「気にしてたの?」
「そりゃそうだろ。(好きなヤツと同じくらいの背なんて…)」
「ふーん」
「…なぁ、って、結局誰が好きなんだ?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだ、この人。
「…一連の話、聞いてた?」
「おう」
「だったら誰にも恋愛感情が無いことくらい解るでしょう?」
「そうじゃなくて、好きになる確率のあるヤツ」
「……そんなの知らないよ」
不確かな感情なんて、何よりも頼りない。
はっきりとした感情があっても……伝わらなければ意味は成さない。
「まぁ、これはゆっくり考えればいいと思うけど。…俺らはの味方だし!」
「何それ」
「いつでも側にいるっつー意味」
ぽんと頭に置かれた手。
不機嫌な顔でそれを振り払うと、岳人は笑いながらさらに頭を撫でてきた。
「もー、岳人! 滝君並にうっとうしい」
「マジで悪かった」
…滝君効果って、もしかして高いの?
岳人の両手に買出しの袋。私の片手にゲーセンの戦利品(ぬいぐるみとか)を抱え、私たちは学校へ帰ってきた。
「あ。あれ…」
「ん? 侑士じゃん」
ふと前を見据えると、校門の前でそわそわうろうろしている忍足がいた。
「! !!」
「忍足、何やってるの? 気持ち悪いよ」
「岳人ちゃんと働いとったか? むしろ変な事されんかったか!? 俺はもうそれが心配で心配でまともに練習できんくて…」
「私はアンタの頭が心配だ」
「つーか侑士じゃあるまいし」
「ちょい待ち岳人。それやと俺がいつも女の子に変な事してるみたいやないか」
「へー……」
「ちっ、ちゃうで! え? はめられた?」
「誰もはめてねぇし、あえて言うなら自分から墓穴掘ったんじゃねぇの?」
「せやから墓穴も何も俺は」
「岳人、女ったらしは放っといて行こっか」
「ちょっ、ー!?」
今日はよく忍足を放置する日だ。
私はそう思いつつも特に気にせず、荷物を置きに部室へ向かった。
「あははっ、忍足君も寂しいんだよ。ちゃんったらずーっと音信不通なんだもん」
「その反動でああなるの? ケジメって言ったのに」
明日から3日間合宿に行く。
どこから情報を仕入れたのか、しばらく会えないという理由で杏子は私の家に遊びに来ていた。
「愛されてるねぇ。杏子ちゃん嫉妬しちゃう」
「どっちも困る」
「あははははーw」
冷蔵庫にあったもので作った夕飯を机に並べながら、私はため息を付いた。
まぁ、心配かけた私も悪いんだけどさ。
「いっただっきまーすw」
「…そういえば、聞きたいんだけど」
「美味しい〜っw へ? 何?」
「合宿に参加する学校の人たち。どんな人なの?」
「お? 珍しいねぇ、興味あるの?」
「無いけど。…興味とはちょっと違う。要注意人物っぽいのには近づかないようにしようと思って」
「あはは、無理だよーw まともな人いないもんw」
「どうなってんの、最近の中学生テニス界は」
テニスって、おかしな人がやるスポーツだっけ…。
「えっと、立海は前に調べてるんだけど、青学は詳しく知らないや」
「まぁ、どんな人がいるのか教えてよ」
「オッケーw まずは立海ね」
杏子はポケットから手帳を取り出し、ぱらぱらとページをめくった。
…あそこにどれだけの情報が詰まっているのか…。
「えっと……部長、幸村 精市。温和で優しい魔王」
「初っ端からそう来ますか」
「笑顔の裏の黒オーラで部活を牛耳る裏ボスです」
「っていうか部長なんだから裏って…」
「裏ボスのほうが合ってるよ、この人は」
どんな人よ…。何か先行き不安なんですけど。
「副部長、真田 弦一郎。老け顔。絶対王政。年相応に見えない。私とは絶対気が合わない」
「えらく貶してますね」
「嫌いだもんw …次、柳 蓮司。参謀。通称『達人(マスター)』。目が開いてるのか閉じてるのかよく解らない人」
「…それでテニス出来るんだ」
「次、柳生 比呂士。眼鏡。通称『紳士(ジェントルマン)』」
「眼鏡って、そんな簡潔な」
「この人興味ないんだよね。で、次が仁王 雅治。通称『詐欺師』。どこか解らない方言を喋る。変装する。たまに奇声を発する」
「中学生で詐欺師ですか。ってか奇声!?」
「次、丸井 ブン太。甘いもの好き。常にガムを噛んでいる。赤髪。ジロー君のお気に入り」
「あー…って事はこの人にも期待できないね」
「次、ジャッカル 桑原。ハーフ。立海テニス部のワリに目立たない。あらゆる意味で犠牲者」
「ここは笑う所でいいの? 笑うべき? ねぇ?」
「最後に切原 赤也。二年エース。目が充血すると凶暴化。口癖は『潰す』」
「二年が一番危ないってどうなの」
…うん、よく解った。
立海は危険だ。ものすごく。
「で、次は青学ね? こっちは噂とかしかメモしてないけどいい?」
「うん。なんか立海聞いてたらこっちも不安になってきたから」
「りょーかいっw
まずは部長3年。眼鏡。左利き。堅物。中学生に見えない」
「そんなんばっかだな、どこの部長も」
「で、副部長3年。水泳キャップ」
「………何それ」
「これはあたしもよく解んない。次、3年の王子キャラ。魔王。他校テニス部に弟あり」
「魔王何人いるんですか」
「次、3年の猫。口癖が『にゃ』。よく跳ぶ。岳人君のライバルっぽい」
「じゃぁこの人も期待は無駄か」
「次、3年のデータマン。逆光メガネ」
「不思議なセンスね」
「次、3年のすし屋息子。ラケットを持つと性格が一変する。『バーニング』とか言う」
「…燃えるの?」
「次、2年の大食い。必殺技『ダンクスマッシュ』。バスケ部に入ればいいと思う」
「…それって杏子の意見だよね?」
「次、2年の蛇。フシュー」
「…人間?」
「次、1年レギュラー。生意気。小さい。帰国子女」
「一番どんな人か解らない情報だわ」
……………うん。
今回は身を守ることに徹しよう。
これはマネージャーとかやってる場合じゃないよ、気が重くなってきた。
「まぁ、忍足君たちが守ってくれるよw 不肖ながらあたしの弟もいるしw」
「ああ……お宅の大型犬ね……」
少し冷めてしまった夕食に手をつけながら、杏子とテニス部について話し続けた。
青学の、1年レギュラー。
「一番どんな人か解らない情報だわ」
それが、私のよく知る人物だと知るのは、明日の朝のお話。
TO BE CONTINUED...
「何でや…何で俺今回こんな扱いなんや…。 この話が面白かったら俺を押してな?」