PIPIPIPIPIPI………





「ん………」





毎朝聞きなれた目覚ましの音。


少し肌寒い部屋。


すぐに意識は覚醒しなくて、二度寝しないように目覚ましは切らないまま身を丸める。






PIPIPI…カチ。





軽い音と共に、ベッドから這い出る。


一度身体を伸ばして、時間を確かめた。






「………朝ごはん…何食べよ…」





食欲が無い。


私バス酔いするしなぁ…。





「…いっか」






























































The reason for being.

     The value of being.






  ――26th.
















































































「時間だ。全員そろったか?」





校門前にとめられた大型バスの前で、私は点呼を始めた。


が、何度数えても一人足りない。





「1人いない」


「誰だ」


「えーっと…」





いつも寝坊してくるらしいジローはいるし。


遅刻しそうな感じの岳人もいる。


じゃぁいないのは…






「……あ。忍足がいない」






よく見れば、いつも必ずいる忍足がいなかった。





「珍しいな、あいつが遅刻か」


「じゃぁ先に出発しますか」


そうしたい所だが。…おい、誰か忍足に連絡を入れろ」


「! 太郎さん、あいつから電話来た」






ポケットの中で震えるバイブに反応して画面を見ると、そこには『忍足』の文字。


私は通話ボタンを押した。





「もしもし? 今どこ?」


『ああ、もうすぐ着くから、先に出発せんといてや』


「先に出発していいそうです」


『せんといてってッ!!』



「…嘘だから早く来なさい」





それだけ言って電話を切ると、曲がり角から走ってくる忍足が見えた。





「本当にすぐそこだったのね」


「はぁ……すんません、遅れました」


「遅刻の理由は?」


「忘れ物取りに帰ってて」


「…まぁいい。全員バスに乗りなさい」





太郎さんを先頭に、ぞろぞろとバスに乗り込む。


全員乗ったのを確認して最後に私も乗った。


…さぁ、どこに座るかが難題なわけだけども……って、






「…何?」






乗り込んだ瞬間、全員が私を見つめてきた。






! 俺の隣に座れよ!!」


「あっ岳人ずるいC!! お前昨日と放課後デートしたじゃん!!」


「阿呆、は俺の隣に座るに決まっとるやろ」


「てめぇら何騒いでやがる。は俺の隣だろーが。これは部長命令だ。文句あっか、アーン?」


「…激ダサ」





言い争いに発展する彼らを放置して、私は助けを求めるように太郎さんを見た。


太郎さんは一人用の座席に座り、見て見ぬフリを決め込んでいる。


…どうやら跡部とのやり取りは本当らしい。






「…長太郎、隣座るね」


「はい、どうぞw」





「あっ!! いつの間にか鳳がっ!?」


「クソクソっ!! 話に入ってこないと思ったら計算かよ!!」


「外野、うるさいよ」






私の声で静まり返る車内。


やっと一息ついて、窓の外を見つめた。





「あ、窓側座って良かった?」


「はい、俺、車酔いしないほうですから」


「そっか。私バスだけは弱いんだよね…」





まぁ何と言うか基本的に、自分以外の力で動かされるのが嫌いなんだけれども。





「全く…太郎さんも後ろの連中も、何考えてんだか」


「皆さん、さんの事が好きなんですよ」


「本当、やっかいな連中に好かれたもんね……」





小さくため息を着いて、景色に目を移した。


あまり学校近辺に詳しくない私。外はすでに見知らぬ景色が流れていた。







「……どこから、狂ったんだろうね。


 私の人生って」






長太郎が反応したのを視界の端に捕らえながら、


私は顔を外に背けたまま瞳を閉じた。






「親に殺されかけた時から? 親を殺した時から?」


「…さん…?」










「…リオに、出会っちゃった時からかなぁ………」










その時、頭にコツンと何かが当たった。


何かと思って、見上げてみる。





「…忍足」


「何アホな事言うてんねん」





後ろの席から覗き込むように、私を見下ろす忍足と目が合った。





「…全部あっての、今のやろ。……一つでもなかったら、俺らはに会えてなかった」


「うん。…大丈夫、解ってるよ。冷静に考えられるようになっただけ。私だって何もせずに一ヶ月、ただ寝てたワケじゃないんだから」





軽く微笑んであげると、忍足は一瞬呆けたような顔をしたあと笑った。








でも、最近の私は事あるごとにリオを思い出している。


夢にも見るし、こうやってみんなといる時だって。







私の中で、前よりもリオが息づいている。






何かよく解らない、予感のようなものを感じながら、


私はいつのまにか深く眠りに落ちていた。
































































「……たで…


「……………」


さん」


「ん……」





ぼうっとした意識を覚醒させながら、私は目を覚ました。





「着いたで。降りる準備せな」


「ん…、有難う」





一度大きく身体を伸ばした後、ぞろぞろとバスを降りる一同に続く。




「……お前…」


「?」





降りる直前、外から聞こえた跡部の声。


何かあったのかな。





「青学の1年レギュラーじゃねぇか。ご丁寧に1人で出迎えか?」


「別に。あんたらを迎えに来たんじゃない」


「!」





この声は………





「どいてっ、通して!!」


「うわっ!?」


さん!?」





まだバスから降りてない数人を追い抜かし、急いでバスから降りる。


外の空気を充分に吸う間もなく、跡部の向こう側にいる人を見つけて、私は思わず満面の笑みを浮かべた。






「っリョーマ!!」






そのまま駆け寄り、私は一目散にリョーマに抱きついた。





「! !?」


「何して…えぇっ」


「何で越前リョーマが…!?」






急いで全員がバスから降り、呆然と私たちを見つめていた。





「…久しぶり、思ったより元気そうじゃん。あ…少し顔が青い、酔った?」


「かもしれない。けど全然大丈夫よ」






手馴れた動作で、私の頬にキスを落とすリョーマ。


同じように、私もそれを返す。





「ちょ…何してんねん!?」


に触っちゃ駄目だCー!!」






それを見て、不満に文句を叫ぶ氷帝陣。


もっと大人しくできないものか。





「挨拶じゃない。そんな大げさに叫ばないでよ」


「挨拶ってそんな、アメリカやあるまいし…」


「だいたい、何でソイツと知り合いなんだよ!! クソクソ!!」









「リョーマは私のアメリカにいた頃の幼馴染よ」







「「「「幼馴染………!?」」」」







「…そんな事より、


「ん?」





リョーマの『そんな事より』に怒りを漂わせる連中を放置して、私はリョーマの手招きで耳を傾けた。





「…ごめん。

 のおじさんやおばさんの事とか……リオの、事とか…全部、知った」



「………そう。構わないわ、リョーマには話すつもりだったから。

 それに、あいつらも全部知ってる」



「! 何で…」


「色々、あって」





私の発言に、リョーマは後ろのみんなに目線を向けた。





「…あんたら、全部知って、それでもに付きまとってんの?」


「アーン? 何だテメェ」


「ちょっとリョーマ…」


「神経おかしいんじゃない? 普通そっとしとくでしょ、好きなら逆にさ」


「…何が言いたいんや」


















「俺にはリオの代わりにを守る義務がある。





 あんたらみたいな人達が、に関わって欲しくない」


















確実に、空気が変わった。




誰一人、何も言えずに。









……私も、そう。














は渡さない」













強く、握られた手が。




懐かしい幼馴染が、











まるで知らない人の様に。












「……行くよ、



「っリョーマ……!!」





引かれた手は、私の言葉なんかじゃ止まってくれなくて。


振り返った時、視界に映ったのは、






「…………」





忍足の、感情の見えない、瞳。





































































は渡さない」










その一言がきっかけで、崩れていく何かと、



そして、起こる出来事を、








私はまだ、知る由も無い。


























不穏な空気の漂う、








合同強化合宿、一日目の、朝。


























































































TO BE CONTINUED...











 「は、俺が守るから。   この話が面白かったら俺を押してよね」