強い。私は強い。誰よりも強い。



何だって耐えてきた。何だって一人で耐えてきた。だから。









―――だったら何故、泣いてるの。








弱いから。私は弱いから。


自問自答する心。葛藤。






どこからが間違いだった?


何をどう間違えた?


解らない。どうやったって、もう、戻らない。







きっと目を覚ませば、



せっかく取り戻した旋律さえ、私は失っているのだろう。

































































The reason for being.

     The value of being.






  ――37th.












































































「―――――………」






ぼんやりとした視界。


はっきりしない意識。






ただ、少し向こうで椅子に座って本を読む銀髪が見えた。






「…に、お…?」


「ん、ああ…起きたか」





仁王は椅子から立ち上がると、私の方へとやってきた。


ここは…私の部屋?






「気分はどうじゃ?」


「ボーっとする……。…なんで、仁王がここに…」


「お前さん、水道場で倒れたんじゃよ。…覚えとらんのか?」


「…………」






…ああ、そうだ。


忍足の…告白、聞いちゃって…。





はぁ、やだなぁ。私この合宿中に何回倒れたら気ぃ済むんだろ。






「今、何時…?」


「4時。もう夕方じゃ」


「嘘」


「本当」


「って、まだ練習時間じゃない」


「俺はの彼氏じゃよ? 許可とってここにおる」


「…彼氏、ね…」






ってことは、みんなに言ったってことよね…。


当然…忍足だって…。






「何があった?」


「…………」





「…たりが……」


「ん?」








「忍足が……りぃこに、告白、…してた…」








言葉にしてみたら…何だか余計、空しくなってきて…。







「ほう…気になるのか?」


「………」


「知っとるよ。お前さんが忍足を好きなこと」


「!」


「俺と同じで無関心のくせに、りぃこと忍足の奪い合い…。

 それだけならまだ気分や遊びとも取れるが、お前さんは忍足の告白シーンで倒れた。

 それはつまり……」


「私が忍足を好きってことに、なる」


「そう言うことじゃ」


「…それが何なの? 私をどうしたいの。……彼氏さん?」


「そう刺々しい言い方しなさんな」






仁王は横になったままの私の頭をポンと撫でると、部屋の出口に向かった。






「どこ行くの…?」


「窓の外見んしゃい」






そう言われて視線を180度変えると、窓の外には雨が降っていた。






「あいつらももう帰ってくるじゃろ。夕食の時間が早まるかもしれんし、様子見てくるな」





優しい口調でそう言い、扉の向こうへ消える仁王。





「……解んない…」





仁王。


何がしたいのか、私をどうしたいのか。






解らないけど。






私は、この合宿が終わってからの事が心配で、それどころでは無かった。






…忍足。






もう、この手を握ってくれないのかな。


私の歌、聴きたいと思ってくれないのかな。


私に……







「……っ…」







私に好きって、言って、くれなくなるのかな…っ…。









――――コン、コン…。







少しためらいがちに聞こえた、ノックの音。


何だか泣きそうだった私は、それを無視して目を閉じた。







――――コン、…ガチャ。






って、今ガチャっていいませんでした?






「…何だ、起きてんじゃん」


「……誰も入っていいなんて言ってないわよ」






いつもと変わらぬ歩調で部屋に入ってきたのは、リョーマ。


タオルを首からかけて、頭からはまだ少し水滴が零れていた。






「雨で練習無くなっちゃった。…あーあ。せっかくサル山の大将と試合できると思ったのに」


(跡部だな。)…雨、急に降り出したの?」


「そ。…は、どうしたの」


「…………」







「仁王さんと付き合ってるって……マジで言ってるの」






どこか低い声で言うリョーマに、私は少し気押されて身体を起こした。


だけど、力強い瞳を見ることができなくて、目を背ける。






「……らしい、ね」


「何それ」


「解んない…」


は仁王さんのこと好きなの?」


「そういう好きじゃ、ない」


「っじゃぁなんで…!!  っ!」






気づけば私は、また、涙を流していた。





「ごめん、ごめんねリョーマ…っ…ほんとは私、一番にアンタに相談しなきゃいけなかった。だからこんな事になっちゃった…!!」


「ちょ、ちょっと、…!?」






心配して私に駆け寄り、肩を掴むリョーマ。





「忍足がっ…忍足が告白してたの、りぃこに…っ!! でも、でも私…っほんとは気づいちゃって……言えなくて…っ」


「忍足さんが…? で、何を気づいたの」






「私…忍足のこと好きになってたのに…っ…」





「っ!!」






そう言った私の肩を、リョーマはぐっと掴む。





「何だよそれっ!! どういうことだよ!?」


「い、痛っ…」





「だったら何で忍足さんにすぐ言わなかった!? 何で俺にすぐ相談しなかった!? 


 …っ何で仁王さんと付き合ったりしてんのか、ちゃんと説明してよ、!!」





「そこまでじゃ」



「!」






ふと見た入り口には、仁王の姿。





「…どういう事か、説明してくれるよね?」


「ああ、一から十まで手取り足取り教えちゃる。……お前さんにも協力してもらわんといかんからな」


「……」


「まぁそう怪訝な顔をしなさんな。……、お前さんの幼馴染、借りるぞ」


「え…あ、うん」







仁王はとぼとぼと歩くリョーマを部屋から出した後、一度だけ振り向いて、






「ああ、夕食は通常通りの時間にあるそうじゃよ。…あと、うるさい奴らが見舞いに来るそうじゃから、それまで休みんしゃい」





そう言って、扉を閉めた。

































































ー!! お見舞いに来たよー!!」


さん、具合はどうですか?」


「っていうかお前倒れすぎだろ。ちゃんとメシ食え!!」


「クソクソ何だよこの部屋!! 俺らの部屋の3倍はあるんじゃね!?」


「先輩は病人なんですよ、騒がないで下さい! …なんかこのセリフ、前にも言った気が…」





ざわざわと騒がしい氷帝陣が駆けつけたのは、数十分後。


…忍足の姿が無いのは解ってたけど、跡部と樺地君もいない…。






「お邪魔するよ?」


「氷帝が先に到着している可能性100%。…やはりいたな」


「へぇ〜…さんの部屋、広いね。VIPルームみたい」


「こんな大勢で押しかけてしまい、申し訳ありません」






続いて、青学の不二君、乾君。


それに、立海の幸村さんに柳生も来てくれた。





「みんな…そんなに心配しなくても、もう平気よ?」


よく倒れるCー……俺はいくらでも心配するよ?」


「俺だって!」






口々に俺も俺もと言うみんなを掻き分けて、幸村さんと柳生が私の元へ来る。





「どうしたんですか?」


「…もうすぐ、莉古が忍足を引き連れて此処に来る」


「!」


「寝たふりをしていて構いませんよ」


「幸村さん、柳生…何で…」


「いいから。…でも、俺の事は呼び捨てで呼んでくれる? 敬語もだめだよ」


「は、はぁ…」





言われた通り、私はベッドに身体を倒し、入り口に背を向けるようにして布団を被った。


…その時。






――――コン、コン…。






ノックが、した。





「お邪魔しまーす……って、何でみんないるんですかぁっ!?」


「人口密度高いっちゅーねん…」





「っ!!」





甲高い声に、大阪弁。


…来た。





「お、侑士もりぃこと一緒にのお見舞いか? おい、侑士が…って、寝てるし」


「さっきまで起きてたんですけど……やっぱり辛かったんですかね。俺たちも騒ぎすぎたし…」


「何やそれ。病人の見舞い来て騒いどったんかいな」


「もー、駄目ですよ! 先輩をゆっくり休ませてあげてください!」


「りぃこ。声、少しでかいで」


「あっ……ごめんなさぁい……」


「じゃぁ、俺らは行くわ。も寝てるし」







―――






「っ……」







「それじゃぁ、失礼しまーす」







扉が閉まり、静まり返った部屋に二人分の足音が響く。


やがて聞こえなくなった頃、誰からといわず口を開きだした。






「…にしてもびっくりだよなー。あんなににべったりだったくせによ」


「見損ないました」


「しぃっ!! に聞こえるかもしれねぇだろ…!! ……って」






「…………」





私はすでに、みんなの方へ寝返りを打って一部始終見てます。





っ!? あ、いや、その…!!」


「いーよ、別に。…どーでもいいよ」






そう、どうでもいい……。





そうしてる内に夕食の時間になり、みんなは何故か私の部屋で夕食を食べた。


リョーマも来てくれたけど、さっきとは態度が違っててよく解らない。もう怒ってないみたいだけど…。


私も食欲が無い中、仁王が選んで持ってきてくれたおかゆとかヨーグルトとかを食べていた。


…お見舞いに来てくれた人以外の青学と立海(ついでに跡部と樺地君)、そして、忍足とりぃこの姿は、無かった。



















































































―――その日、午後4:30。






「で、一体どういう事なんスか」


「せっかちさんじゃの」


「ふざけてんスか?」


「まぁ、黙って着いてきんしゃい」






そう言って仁王がリョーマを連れて来たのは、跡部の部屋。





「入るぞ」





扉を開けると、そこには跡部、樺地、幸村、柳生、


そして、忍足がいた。





「忍足さん…っ!! …アンタって人は…!!」


「落ち着け越前。今から全部話してやる」


「…何を」


「作戦や」






忍足は終始ため息をつき、あらぬ方向を見ている。






「…そんなにが気になるなら様子を見てくればええじゃろ。今頃団体が押し寄せとるよ」


「今の俺がに会えるかいな」


「瀬川でも連れて行きゃ不自然じゃねぇだろ。アーン?」


「………でも、それやと余計」


「だったら俺と柳生が根回ししておくよ?」


「ええ、行きましょうか」






そう言って先に部屋を出る幸村と柳生。


忍足はため息をついた後、ゆっくりと重い腰を上げ、追うように部屋を出て行った。





「…どういう事っスか?」


「黙って聞け」






そう、その作戦のステージは…











明日、合宿最終日。











「うるせぇメス豚を、黙らせるんだよ」















































































TO BE CONTINUED...











 「作戦って…これ以上を泣かせたら許さないっスよ?   この話が面白かったら俺を押してよね」