っ待って! 待って忍足…!!
どうして止まってくれないの…? 話だけでもいいから聞いてよ…!!
ねぇ、どうしちゃったのよ!! もう、友達でも、ただのマネージャーでも、何でもいいから…
私の方…見てよ…っ…
―――…自分、鬱陶しいんや。
「っ忍足…!!」
頭の中をこだまする声。
覚醒する意識。
「…………夢…?」
窓の外を見る。
まだ暗い。いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
ふと周りを見渡せば、床の所々で寝転がっている面々。…わざわざ自分の部屋から毛布を引っ張り出してきたんだろうか…。
「…………」
私はみんなを起こさないように、静かに部屋を出た。
The reason for being.
The value of being.
――38th.
「ふぅ……」
合宿所の裏手にある少し広い庭園。その中心にある噴水を囲むベンチの一つに、私は座っていた。
頭上には満月とたくさんの星が輝いている。
その光だけでこんなにも明るいんだから、自然の力ってすごいんだなって、漠然と思った。
「………」
ベンチに足を乗せ、三角座りをして頭をうずめた。
さっきの夢のせいか、胸がズキズキする。
「しんどい……」
明日…合宿が終わったら…私、どうなるのかな。
ちゃんと、笑えるかな。
忍足と一緒のクラスで、隣の席で、同じ部活で。
…一緒に、居られるのかな…。
「…?」
「っ!!」
その声に、思い切り顔を上げた。
「お、した…り…?」
「…なんちゅー顔してんの」
苦笑いしながら、確かにこっちを見て、そこに、立っているのは、
忍足。
「…こんな所で何してんのよ」
「そりゃこっちのセリフや。こんな時間に、女の子が一人で出歩くもんやないで?」
「私がどうしたって私の勝手」
私はもう一度顔をうずめた。
何が起こってるのかよく解らなくて。っていうのもあるけど、それよりも、
……泣きそうで。
「…仁王みたいなこと言わんと。ホラ、部屋まで送ったるから」
「まだここにいる」
「…、ワガママ言わんといて?」
「っ私がどこで何してたって、もうアンタには関係ないでしょ!?」
「!」
「お願いだから…放っといて…っ…惨めな気分になるから…っ」
「……………」
そんな私の頭に、忍足は手を伸ばして―――
「そこまで」
「!」
その手は、どこからか現れた仁王によって阻まれる。
「にお…っ」
私は思わず、仁王に抱きついた。
気が動転していたのもあるけど、何より頭に浮かんだ言葉。
―――忍足を私から放してあげなきゃ。
多分、それが真実。
「…どうした? 今夜は積極的じゃの…」
「………」
「さて、そういう訳じゃから、そこで突っ立ってるお邪魔虫には退散してもらいたいんじゃが?」
「…はいはい」
忍足のその言葉に、胸が痛んだ。
私の事、やっぱりもう、どうでもいいんだ…。
「…」
「っ…」
去り際に呼ばれ、ばっと顔を上げる。
「……今の気持ち…忘れんといてな」
「!」
「じゃぁ、お休みやで、お二人さん」
そう言って、忍足は垣根の向こうへと消えていった。
「……こんな時間に出歩くもんじゃなかよ?」
「起こしちゃった…?」
「いや、初めから起きてたから追っかけてきただけ」
「そう…」
「ところで」
「え?」
「そろそろ離れんと、そこのベンチで襲うぜよ?」
「っ!!///」
私が慌てて仁王から離れると、彼はクスクスと笑っていた。…ちくしょう。
「…ねぇ、さっきのどういう意味か解る?」
「ん?」
「さっきの…忍足の言葉…」
―――……今の気持ち…忘れんといてな
「忘れられるわけ、ない……でも、覚えてたってどうにもならないじゃない…」
「…………」
「アイツが何考えてるのか…解んない…っ」
再び涙を滲ませる私を、仁王は無言で抱きしめた。
さっき座っていたベンチに誘導され、二人で座る。
「しんどい時にしんどいこと考える必要はなかよ? 休める時に休んどかんと、人間の頭なんかすぐパンクしよる」
「でも…」
「お前さん忘れとるな? …俺はの彼氏じゃよ?」
「…………」
「…俺には、甘えていいんじゃよ」
「…は、はは…っ…」
乾いた笑い声。必死に笑おうとする口元。
でも、涙だけは止まってくれなくて。
私はどれ程の時間か、泣き続けた。
「……………」
そうしてしばらく経った頃、私は泣き疲れてその場で眠りについてしまった。
「…よっと……ってなんじゃこら、軽すぎじゃろ」
仁王は私を抱きかかえると、部屋へ戻るためにその場を後にした。
「……………」
―――お前さんに協力してもらいたくてのう
―――ほう……なるほどな
―――悪い話じゃなかろう?
―――ただ…に辛い思いをさせちまう。それだけは避けたい
―――何を言っとる。お前さん、意外と解っとらんな。…このままアイツを放置し続けるほうが、にとっては苦じゃ
―――…………
―――莉古はお前さんが思っとるより強敵じゃぞ? 合宿が終わろうと、狙った男が落ちるまでは諦めん
―――…解った
「…お前さんの言うとおりじゃったな…跡部」
仁王は私の顔を覗き込んで、少し表情を変えた。
「まさか、ここまでになるとは思わんかった」
まるで壊れ物を扱うかのように、慎重に私を運びながら。
「…すまんの、…」
未だ頬に零れる涙を、そっと、拭った。
「―――ん……」
身体が、重たい。
暑い。
腕がダルい。
そんな感じがして目を覚ますと、窓の向こうから明るい光が差し込んでいた。
朝か…。
「私…どうやって帰って…ってか動けな……。
…………………は?」
やっとはっきりしてきた視界。
その先には、私の腕に頭を乗せて眠っている岳人。
「……ちょっとそこの岳人さん?」
「んぅ…」
「!」
そんな声がして布団を剥ぎ取ると、
「……ジロー……」
私に抱きついて眠るジロー。
岳人の頭の下から腕を抜き、ジローを引き剥がそうとするけど…まだ身体が思うように動かない。
頑張って意識を覚醒させると、何だか背中が暖かかった。
「!」
首だけで振り返った瞬間、
唇に、何かが当たった。
「…………」
慌てて離れると、眼前には、…仁王。
しかも、ばっちり目が合っていた。
「あ………ごめん、ぶつかった」
「クククッ…そんだけ冷静な態度を取られると、逆に寂しいの」
「だって、別にキスくらい何とも」
「…やっぱりいい女じゃな」
気を良くしたのか、仁王は自分から私にキスをした。
身体を反転させ、首元に顔をうずめようとして、
「…ん? 何じゃ、邪魔じゃな」
くっついていたジローを足で外した。
「こういうのは初めてか?」
「人前ですることじゃない」
「…会話が噛みあわないのぉ。……なら、また今度じゃな…」
そう言って首元から顔を上げ、もう一度キスをする。
もう、何でも良かった。
早く、忍足のことを忘れなきゃいけない。
例え仁王とは、この合宿の間だけの関係でも。
忍足を、忘れられるなら―――…。
「っから離れろよ!!」
「!」
そんな雰囲気をぶち壊したのは、蹴飛ばされてベッドから落ちていたジローだった。
ジローは仁王から私を引き剥がすと、無理やり身体を起こさせた。
「どうしちゃったんだよ!? 忍足もっ…!!」
そんなジローの叫びで、部屋に転がっていた人たちも起きはじめ、何事かとこっちを見ていた。
「ジロー…」
「一番おかしいのは忍足だよ!! 何で急にあんな子に…!!」
「ジロー!!」
「!」
「お願い…何も言わないで…」
「……」
「気にしなくて…大丈夫だから…」
「…………」
明らかにしゅんとなるジローの頭を一撫でしたあと、私はみんなの方へ向き直った。
「みんな、おはよう。…ほら、朝ごはんまで時間無いわよ? 着替えて食堂に集合ね」
何も言わずに、気まずそうな顔をして部屋を出て行くみんな。
…きっと私、笑えて、なかったんだろうな。
「…リョーマ?」
「…………」
リョーマは扉に向かわず、私の方へやってきた。
「…食堂で待ってるから…絶対下りて来なよ」
「…うん」
全員が部屋を出終わった後、私は一息ついてベッドに寝転がった。
…朝から疲れた、けど。
「………今日で合宿…終わりなんだよね」
明日からのためにも…何より今日一日耐えるだけの力、つけなきゃならない。
朝からこれくらいテンション上げていかなきゃ、私、きっと持たないから。
そう、今日は運命の、合宿三日目。
―――――最終日。
TO BE CONTINUED...
「心配だC…。このまま皆、壊れないよね…? この話が面白かったら俺を押してほCー!!」