「っえーーーーーッッ!? まだ伝えてないの!!??」



「…………」








重い荷物を抱えて自分のマンションへ帰ると、私の部屋の前に座り込んでいた杏子と遭遇。


そして、私の顔を見るなりこう叫んだ。







…つーか。






アンタここまでどうやって入ってきた?































































The reason for being.

     The value of being.






  ――41st.














































































「そんなの解るよー、だって両思いになってたら、忍足君なら絶対お持ち帰りするか家まで着いてくるかするでしょ?」


「お持ち帰りて…」





どうやら他の住人がオートロックを解除して入ったのを見計らって一緒に中に入ったらしい杏子を部屋に招き、


私は久しぶりに自室のソファーに座った。





「で、今どんな感じなの?」


「どんな感じって…」


「えーと、何だっけ…瀬川 莉古、だっけ?」


「ああ、それなら仁王がどうにかしてくれるでしょ。あと…」


「うん?」


「……歌、えるようになった…かも」


「嘘っ!?」






身を乗り出して言う杏子。その瞳は期待のまなざしできらめいている。






「あー…悪いんだけど、何か感情が高ぶってる時じゃなきゃ歌えないっぽい」


「そっかぁ…でも歌えるようになったんじゃん! 良かったぁ…」


「でも…何が足りないんだろう」


「何がって?」


「完全に歌えるようになるの」







今は、リオよりも…忍足への気持ちの方が大きい。


でも、それだけじゃ私の『歌』はいつでも応えてくれない。






「皆の前でリオ君の事、話したんでしょ? 後は…」


「これも、言わなきゃ駄目なのかな……」






私はそう言って、右目に手を当てた。


その手を、杏子が掴んで下ろす。






「それはまだ、早いよ。……だってそれを言うなら…」


「…あの時何があったか、詳しく全部語らなきゃ、駄目か…」


「…………」






杏子は私の手を離すと、自分の座っていたソファーまで戻った。






「あたしは、そんな急ぐこと無いと思うなぁ。ちゃん、この三日で疲れたでしょ?


 …しばらくややこしい事忘れて、休憩しようよvv」






そう笑って言う杏子。


……うん、最近の私、ちょっといろいろ動きすぎた。





「…そうだね。しばらくは普通の学生に戻りますか」


「そうそう! そうしようよ〜! ほら、もうじき学園祭の準備も始まるし!」


「へぇ…」


「なんか今年は跡部君が面白い企画考えてるらしいよ?」


「………へぇ」






………嫌な予感、たっぷりなんですけど。







































































「体の調子はどうだ?」


「全く問題なし。…って言いたいとこだけど、相変わらず不健康みたい」






次の日の放課後、音楽準備室に呼び出された私。





「…それでも一人暮らしはやめないのか?」


「当たり前でしょ」


「日本に来るときも言ったが、私の家に来ても…」


「年頃の娘に同居を勧めるなんて何考えてるんですか?」


「お前が何を考えている」






話をそらそうと試みたが、軽くあしらわれてしまった。





「全く…変わらなくていい所まで変わったな」


「お生憎様。何事もそう都合よくはいかないものよ?」


「いや、それもまたいい変化だろう」





優しく微笑んだ太郎さんを見て、何だか心が温かくなった。


これも、一つの変化なのかな?


だったら…嫌な気はしない。







「…太郎さんが私の父さんだったら良かった」






気付いたら、思わずそんなことを言っていた私。


何だか気恥ずかしくて、太郎さんの座るピアノの椅子の端っこに、ちょんと座った。


太郎さんはそんな私に少し驚いたような顔をしたけど、すぐに私の好きな笑顔で応えてくれた。






「私はお前の事を、本当の娘のようにいつも思っているのだが?」


「…そうだったわね」






心が、満たされていく。



身体の底から、音楽が、溢れてくる―――…









「―――Cher pere.



 Merci pour m'aimer.



 J'aime pere, aussi.―――」








自分でピアノを演奏していることに気付いたのは、歌い終わった後。


昔太郎さんに少し教わっただけなのに、まだ手が覚えていることに少し感動した。






「…いきなりフランス語で歌うから、びっくりしたじゃないか」


「私の中で『親子愛』って、欧州フランスってイメージなの」








―――親愛なるお父様。



 私を愛して下さって有難う御座います。



 私もお父様を愛しています。―――









「…ちゃんと、伝わった?」


「ああ、充分だ」






太郎さんにもたれかかり肩に頭を乗せると、太郎さんも私の頭を抱き寄せてくれた。


こんなゆったりした時間を過ごせるのは本当に久しぶりで、私はだんだんと眠たくなってきて……







「失礼します、跡部ですが」


「ん、ああ。入れ」







ドアの向こうからの声に、あっさりと起こされた。(軽く殺気)






「……はっ、すっかり可愛くなっちまって」






準備室に入ってきた跡部は私と太郎さんを見て、にやっと嫌な微笑を浮かべた。





「…あら。私は初めから可愛いけど?」


「そうだな」


「……ツッコミを入れてほしかったんだけど」


「事実を否定する必要がどこにあるってんだ? アーン?」


「で、跡部。…何か用があったんじゃないのか?」





太郎さんのその言葉に、跡部は何故か眉をひそめた。






「…何かじゃありません。を生徒会室に送るから準備をしておけと言ったのは監督でしょう」


「ああ、そういえばそうだったな」


「送る? 準備? ……何?」






何だか、杏子から『跡部が何かをたくらんでいる』と聞いたときと同じ嫌な予感がするんですけど。






「合宿から帰ってきたばかりで悪いが……実は、頼まれてほしいことがあってな」


「頼まれてほしいこと?」


「もうすぐ学園祭の時期だろう?」


「今年は趣向を変えて、俺と榊監督主催、合同学園祭を決行するすることになった」






……合同?





「参加校は関東域のテニス部のある学校だ。つまり、青学、立海。他に山吹、聖ルドルフ、不動峰、六角といった学校が参加する」



「………それってつまり…


 またあの濃い人らと会わなきゃいけないって事?



「そういうことだ」






やっぱり嫌な予感は的中していたみたい…。


しかも、他のテニス部のある学校が4校も追加されてしまった。


既に私の中では、テニス部=変な人の集まりという式が出来上がっているせいか、若干気が重い。






「そこで、各校から一名ずつ運営委員を選出している。


 氷帝の運営委員は。お前がやれ



「何の嫌がらせですか」



「むしろ俺の補佐だな」



「ねぇ、私あんたに何かした? 本当に、もう、謝るから






これ以上忙しくなったら、私本当にぶっ倒れるよ? 死ぬよ?





「そういうことで、…これがお前の初仕事だ」


「まだやるって言ってないし。…何よこれ……」





跡部に手渡されたのは、A4サイズの茶封筒。


結構重たいと思って中を覗くと、かなりの数のプリントが入っていた。






「合同学園祭の詳細を書いたプリントだ。これを各校に配ってきてほしい」


「6校も嫌よ」


「いや、お前には面識のある青学と立海に行ってもらう。他の4校は手の空いていた生徒会役員に今行かせて…


 …ん。ちょっと待て」






部屋の中に携帯の音が鳴ったと思ったら跡部のだったらしく、跡部は電話に出た。






「ああ、そうか。……アーン? お前、今何て言った?


 ……………馬鹿が。お前に頼んだのはそれ以外だ。そっちはに頼むって言っ……もういい。とっとと帰って来い」






眉間に皺を寄せていかにも怒っている跡部は、私の手の中の茶封筒の中をちらりと覗いてきた。






「チッ…マジで2校分しか持って行ってやがらねぇ」


「跡部、どうかしたの?」


「ああ…生徒会役員が間違えて、青学と立海にプリントを配りに行ってしまったらしい」


「………は?」


「そいつには山吹、聖ルドルフ、不動峰、六角に行って貰うはずだったんだが、悪いな」


「…ねぇ、これって、私が残り4校行かなきゃいけないって空気?」


「俺にはそう見えるぜ?」


「へぇ、そう。面識も無い変人の集まりのところへしかも4校も回って来い、と?


「残念だが、俺様は忙しい身分でな」


「私もこの後職員会議がある」


「今日はテニス部の練習もあるしな」


「私はそのテニス部のマネージャーだったはずですけど?」


「行ってくれないのか?」


「……………行くけど、さ」






何だかこれ以上言っても無駄な空気がしたので、私は観念する事にした。


この二人に畳み掛けられると、何か圧迫感があるというか…何というか…。







そうして私は合同学園祭の簡単な説明を受けた後、茶封筒と地図を片手に学校を出た。


テニス部対抗の催し物があるってのが一番不安だったりするんだけど…まぁ、学園祭とかそういうのは好きだ。







「まずは……どうしよ、ここから一番近いのは……聖ルドルフ学院、か…」





この時の私は、『今日中に全校回ろうと思うな』という跡部の言葉の意味を、全く理解していなかった。











































































TO BE CONTINUED...











 「ちょっ、俺出てへんやん!!   この話が面白かったら俺を押してな?」