「えっと……聖ルドルフ……ここ?」






地図を見ながらたどり着いたのは、氷帝とはまた違うリッチな感じの学校。


ミッション系の学校だって聞いただけあって、下校中の生徒はどこか大人しい感じ。


でも……






「氷帝よ…」


「氷帝の生徒がいるぞ…」


「偵察か?」


「不審者…?」







「……………」







この今すぐ帰りたくなるような視線の嵐は何なんですか。














































































The reason for being.

     The value of being.






  ――42nd.














































































「………」





何とか校内に入ったものの、さらに視線は痛いものになった。


ほんとに何、このアウェーな空気は。


この学校には『他者は排除せよ』みたいな校則でもあるのかってくらいに視線が突き刺さる。


用事が終わればすぐにでも帰りますって……






「っきゃ…!」





急に強い風が吹き、私は手に抱えていた封筒を落としてしまった。


風に飛ばされなかったものの、中の書類が辺りに飛び出してしまい慌ててその場にしゃがみこみ、





「!」




見上げると、3人の男子生徒。


……どこか嫌な感じの笑みを浮かべて、立っていた。





「大丈夫? 手伝うよ」


「あ…どうも…」


「その制服、氷帝だろ? 何かお使い?」


「テニス部の部長に会いたいんだけど…どこにいるか知ってます?」






散らばった書類を封筒に入れ、男子生徒を見上げる。





「ああ、俺たちテニス部なんだ。……連れてってやるぜ?」


「そうそう、コートはこっち……」






「――貴方たち、何をしているんです?」



「!!」






背後から聞こえた声に、男子生徒は顔色を変えて振り返る。


私もそっちを振り返ると、腕を組み微笑む男がいた。






「げっ…観月っ!!」


「誰がテニス部なんです? それに、コートはそちらでなくこちらですよ」


「はははっ…ま、間違えちまった…だよな!?」


「そうそう! 俺たちは善意でこの子を…」


「善意で、何です?」


「…っ!! い、行こうぜ…」






途端、脱兎の如く走り去っていく男子生徒。


…えーと…テニス部じゃなかったんですか?






「失礼しました。…大丈夫ですか?」


「あ…はい。ただ、いまいち状況が解らないんですけど…」


「あの3人はテニス部の部員じゃありません。貴女をひと気のないところに連れ込もうとしたのでしょう。…危ないところでしたね」


「はぁ……」






うーん、こういう学校でもそういう人っているもんだなぁ。






「ところで…テニス部に何か御用だったのですか?」


「あ、はい。氷帝の跡部から、ルドルフテニス部に書類を預かってきました」


「それですか?」


「はい。…あの…」





よこせとばかりに手を差し出す男を不審な目で見ると、彼は微笑を返した。





「ああ、すみません。僕は3年の観月 はじめと申します。…本当の、テニス部員ですよ。んふっ」


「(んふっ…!?)…私は氷帝3年の です。一応、テニス部マネージャーです…」





何か変な笑い方が聞こえた気がしたけど、スルー。


テニス部員だと解ったから、私は観月さんに書類を手渡した。





「…ほう…また中々面白いことを考えますね」


「そうですか…?」


「おや、さんは乗り気でないんですか?」


「嫌な予感しかしませんけど、何か?」


「んふっ。面白いことを言うんですね。

 …そうです、美味しい紅茶が手に入ったんですよ。せっかくですしご一緒にいかがです?」


「え、あの、私まだ……ああ…」






いかがです、と聞く割に、すでに歩き出している観月さん。


呆然としていると、すでに声が届かないほど遠くにいっていた。


……私まだ3校も回らないといけないんですけど。


































































「―――どうぞ」


「どうも……」






…………どうしよう。


居心地が悪い。






「………」


「………」


「………」






どうやら今日はミーティングだったらしく、案内された部室には何人かの部員が集まっていた。


そして…ここに来てかつてないほどのアウェーの空気が漂ってます。


いくらなんでも皆さん見つめすぎです。ガン見はやめて下さい。






「お味はいかがです?」


「なんかもう、多分美味しいんだろうけど…視線が気になって味が解らない


「…そりゃ、説明もなしに氷帝の生徒がいたらみんな見ますよ…」






あきれた顔で、坊主頭の人が私を見て言った。





「それもそうですね。…彼女は氷帝テニス部マネージャーの さん。

 …どうも今回、跡部君が合同学園祭を開くという事で…我が聖ルドルフにも参加要請が来た、ということです」


「ほう…他にはどこが参加するんだ?」


「…赤澤部長? その前に、皆さん自己紹介するべきじゃありませんか?」


「おう、そうだな。じゃぁ俺から…」





部長と呼ばれた人は、すくっとその場に立ち上がる。





「俺は3年部長の赤澤 吉朗だ」


「どうも。…あの…なんか観月さんの方が部長っぽいのは気のせいですか?


「なっ……!!」






「3年の、木更津淳です」


「はぁ…えらく普通ですね


「っ…!! ハ、ハチマキ巻いてるのに、普通……」






「俺は柳沢 慎也、3年だーね!!」


「は?」


「だから、柳沢だって言ってるだーね!!」


「いや、『だーね』って…。え、何?


「……お前見た目と違って毒舌だーね…」






何か大半が机に突っ伏してる中、さっきの坊主頭の人だけ機嫌の悪そうな顔をしていた。





「後は裕太君だけですね」


「……」


「裕太君? ちゃんと挨拶なさい」


「…………不二 裕太。2年っす」


「不二…?」






不二って確か、青学にもいたような…。





「裕太は青学の不二の弟だーね!!」


「ちょっ、柳沢さん!!!」


「へぇー、そう」


「…え?」


「…で、学園祭について細かい質問がなければ私はもう帰りますけど…」


「ちょっと、あの!!」


「はい?」





裕太君は少し驚いたような顔をして私を見てくる。





「何か…無いんすか…?」


「何かって、何が?」


「…『あの不二の弟か』、とか…」


「そう言われたいの?」


「そんなわけ…!!」


「だったらいいじゃない。裕太君は裕太君よ。あの不二じゃない」


「………」





私がそう言うと、途端に裕太君は瞳を輝かせた。





「んふ……やはりさん、貴女は面白い方ですね。…あ、さんとお呼びしても?」


「ええ、構わないわ」


「で、。どこが参加するんだ?」


「氷帝とルドルフ以外に、立海・山吹・不動峰・六角…あと裕太君には残念ながら、青学も参加校よ」


「いや! 俺はもう兄貴なんか気にしないっす!!」






さっきと変わらず輝いた瞳の裕太君。


私は何のスイッチを押してしまったんだろうか…。






「んふっ…。詳しいことはこのプリントに書かれてあるようなので大丈夫ですよ」


「そう、じゃぁ私はこれで…」


「…さん、一つ宜しいですか?」


「何?」








「貴女は…あの""ですか?」








席を立とうとして、止まる。


周りはどういう意味かよく解っていない。





「…あら? どこかで会ったのかしら?」


「僕は賛美歌を歌っていまして…ゴスペルには精通しているんですよ」


「あー、そういえば一度歌ったわね」


「観月、どういう意味だーね。お前らの会話の意味が全然解らないだーね!!」


「だーねだーねってうるさい」


「…!!(何で俺嫌われてるだーね…!?)」


「まぁまぁさん。…彼女はアメリカで歌手をされていたんですよ」


「歌手!?」






だーね(名前覚えてやれよ)が落ち込んだり裕太君がまた目を輝かせたりする中、私は小さくため息をついた。





「まぁ、ね」


「いつか僕のピアノを伴奏に歌って頂きたいと思っていたんですよ」


「…私のギャラは高いわよ?」


「おいくらですか?」


「…嘘よ。でも歌わない」





今度こそ席を立ち、封筒を手に出口へ向かう。






「私、榊先生のピアノしか認めてないの」





振り向いて微笑みながらそう言い、扉を閉める。





「……………ってああ!! ちょ、さんっ、俺送りますって!!」






呆気に取られていた裕太君が慌ててその後を追いかける。





「…認めてないんだとよ、観月。…観月?」


「ふふふ…」


「み、観月が壊れただーね…」


「失礼ですね、壊れていませんよ」


「でも楽しそうだね」


「ええ、まぁ…。テニスをしていない方で興味を持つのは珍しいですから」





「合同学園祭ですか………楽しみですね。んふっ」



























































「うわっ、思ったより時間かかったなぁ…」





学校の入り口まで裕太君に送ってもらった後、駅までの道で腕時計に目をやった。


ホント、跡部はこうなること解ってたみたい…。





「えーと…次はどこが近いのかしら…」





封筒の中から地図を取り出すと、





「って、ちょ…!!」





またあの風が吹いて、私の手元から地図を吹き飛ばしていった。





「ちょっとちょっとちょっと…!!」


「よっ…と!」


「!」





風に流されていた地図。


その方向にいた人が、ジャンプしてそれを見事にキャッチした。





「あ、スイマセン、それ…」


「ラッキー!! ルドルフの近くで氷帝の子見つけちゃった!!」


「は…?」






オレンジ頭と、白い制服。


何も知らない私は、きっと一番厄介な学校に行くことが決定したことに、まだ気付かないでいた。



































































TO BE CONTINUED...











 「中々楽しめそうですね。   この話が面白かったら僕を押すんですよ?んふっ」