「あれ? 侑士、は?」
「知るかボケ」
「…何かよく解んねーけど、俺に当たるなよ…」
昼休み、岳人がの辞書を返しに来た。
けど当のはいない。
「まぁ、いないならいないで丁度いいや。…ちょっと聞きたいことあんだけどさぁ…」
「何やねん」
「…お前ら、どこまでいってんの?」
「………」
何やと思たら…そんなことかいな。
岳人もそういう話好きやな…。
「なぁなぁなぁ! 勿体つけずに教えろよー!」
「…岳人、自分はまだ大人の世界に足突っ込んだらアカン」
「なっ…まさかお前ら…!!」
「がっくんはいつまでも清いままでいてや…」
「ちょっ、もっと詳しく教えろよ侑士!!」
適当に岳人をあしらって、俺は窓から空を見上げた。
…青い、青すぎる。
「…あー……返せアホ部…」
「何だよ、跡部が連れてったのか?」
アホ部で解る岳人に乾いた笑いを送り、俺はもう一度机に突っ伏した。
The reason for being.
The value of being.
――45th.
「いつも思うが…お前は何でもかんでも決断が早すぎねぇか?」
「手間が省けていいじゃない」
生徒会室のテーブルに昼食を並べて、早速跡部に返事を返した。
「まぁ、それはそうなんだが…」
「で、学園祭の進行はどうなってるの? それも込みで私を呼んだんでしょう?」
「ああ。…学園祭は8月22日から準備期間に入り、本番は9月の3日と4日。
4日の夕方に、模擬店の売り上げ順位の発表でステージを使用するから、
その後キャンプファイヤーと平行してお前のシークレットライブを予定している」
「…そんな最後のイベント邪魔していいの?」
「キャンプファイヤーの準備は模擬店発表が終了してから行われるからな。火がちゃんと燃え上がるまでの時間は充分ある」
「へぇ…」
「それにシークレットとは言っても、何の予告も無しじゃ反応も悪ぃだろ? だから当日の朝からシークレットライブの告知はする」
「出演者を伏せて?」
「プラス、開始時刻と場所もな」
跡部はテーブルの上の缶コーヒーを開けて一口飲む。
それをまじまじと見ていた私に気付くと、いつもの調子でフッと笑った。
「アーン? どうした、間接キスで満足なのか?」
「勘違いも甚だしいので缶を差し出さないで頂けますか」
「はっ、相変わらずいい性格してやがる」
「…お昼コーヒーだけなの?」
「いや、財布を忘れてきた。コーヒーは貢がせた」
「(誰に…)…へー、忘れ物なんて跡部らしくない」
「俺に完璧を求めるな」
「…まぁ、そうだね。…完璧な人間なんて、この世に居やしない」
「…………」
「ねぇ、だったら私のお弁当あげる。私あんまり食欲ないし、いつも残しちゃうか……―――」
お弁当の包みを開けて、顔を上げた、瞬間。
「!」
少し身を乗り出した跡部と、唇が重なっていた。
「…やめて」
「………」
胸を押し返し、少し距離を取る。
跡部の手はまだ私の顎に添えられたままだ。
「…いつものセクハラにしてはタイミングおかしくないかしら」
「いつだってセクハラじゃねぇよ」
「余計迷惑」
「……前はこんな反応じゃなかったのにな」
「何が言いたいの」
「忍足の事、好きになったんだろ」
「!」
私の顔を見て、跡部は少し口角を上げた。
……無理して笑おうとしている風にしか、見えなかった。
「…跡部」
「いいか、よく聞け。俺様はアイツからお前を奪うなんて、簡単すぎてつまんねぇだけだ」
「………」
「いつだってお前に変化を与えるのは、忍足だ。…俺じゃねぇんだよ」
「………」
「だから……」
もう一度、顎をくいっと持ち上げられる。
「……これで最後だ」
だんだんと近づいてくる跡部の顔。
……私は抗う気が起きなかった。
「…………」
「…………」
跡部のあの表情が、自分の中のどういった感情と決別しようとしたか、私にはよく解ったから。
「…じゃぁな」
唇が離れた後、跡部は私のお弁当箱をひょいと持ち上げ、生徒会室を立ち去った。
お互い一度も目を合わせなかった。
私に残ったのは、目の前の缶コーヒーだけ。
「―――っ!!」
「……忍足…?」
しばらくして、いきなり忍足がやってきた。
「何、どうかしたの?」
「あ、いや……え? 跡部は?」
「もう行ったよ」
「そ、そうか…」
「…跡部に何か用事?」
「いや、跡部がまたに手ぇ出してへんやろか思ってな」
焦って走ってきたのはそのせいだったか。
「…何にもないよ」
「!」
私は、跡部と同じ表情を浮かべた。
きっと今まで、した事のない顔。
「……さよか」
何があったか解ったのか、解ってないのか。忍足は私の側までやってきて、頭を撫でた。
「………やめてよ…」
「嫌やー」
「………っ…」
思えば私は、今まで一度だって跡部と向き合わなかった。
何かあった時は、いつも裏から手を回してくれていたのは跡部だったのに。
…その根底にある想いに…私は気付かないフリをしていたんだ。
ねぇ、跡部。
貴方は『私に変化を与えるのは忍足だけ』、そう言ったけど、…そんな事ない。
私が忍足に見せたあの表情は、貴方が私にさせた顔だもの。
……何より、
「…全く跡部の奴…。変なとこで不器用なやっちゃなー…」
「………そう、かも…ね…」
今、この頬を流れている涙は、―――全て貴方のためのもの。
「……ごちそーさん」
思えば、屋上に一人で上がるのは始めてかもしれない。
しかも、女の手作り弁当片手に。
跡部はそんな自分に心の中で笑った。
「…こんなとこおったんかいな」
音を立てて開いた扉から現れたのは忍足。
…今一番見たくない顔だ。
「もう五時限目、始まってるぞ」
「んな事解ってるがな」
「…何しに来た」
目も合わせずに弁当を片付ける。
忍足は拒否的な跡部を気にもせずに隣に腰掛けた。
「…あーあ。俺もまだ手作り弁当は食べたことないのに」
「ケンカ売ってんのか」
「こんな穏やかにケンカ売る奴がおるかいな」
「じゃぁ何しに来た。笑いに来たか?」
「…お前も泣いてるんやないか、思てな」
「!」
何を言い出すんだ、この阿保眼鏡は。
そう思ったが、声が出なかった。
…代わりに溢れてきたのは、
「…俺も末期だな」
ひとすじの…なみだ。
「…と同じこと言うてるし」
「はっ、やっぱ似たもの同士、俺がもらったほうが良かったんじゃねぇの?」
「嫌や〜、あげへん」
「…………」
「…………」
「…っくくく…」
「…っはは…」
二人で少し笑い合い、やがて、広がる青空を見上げながら跡部が口を開いた。
「…らしくねぇな、俺」
「何がや?」
「好きな女の為に我が身を引いて、挙句その女が気にしている奴と一緒に笑ってんだからな」
「何や、そんな事かいな」
「そんな事だと? この眼鏡」
軽く鼻で笑う忍足を肘で小突く跡部。
「…はは…まぁ俺はお前にとってそういう身分やから、何も言えんけどな。
……跡部が友達で良かったー思てんねん」
そんな忍足の笑顔をまともに見てしまい、跡部は目を丸くさせた後フッと笑って視線を逸らした。
「…馬鹿が。……泣かせたら承知しねぇぞ」
「そんなん言うて、さっき自分が泣かせとったくせに」
「アーン? 俺様はいいんだよ」
「何やソレ」
「…おい、忍足」
「何やねん?」
「………これからも、はお前が見ててやれ」
「……当たり前やん。
…おおきにな、跡部」
突き出した二つの拳は、青空の下で静かに重なった。
TO BE CONTINUED...
******************************
これ以上さんに重い感情を背負わせない為に身を引いた跡部……。
ぐはっっ!!(吐血)
いいんでねーの萌えるんでねーの。←
最近べ様好きです何となく。
「、お前の惚れた男と幸せになりやがれ。 この話が面白かったら俺様を押しな!」