PIPIPIPIPIPI………
「…………………」
目覚ましの音が部屋に響く。
また今日も、朝がやってきた。
「8月…20日…」
まだ寝ぼけた瞳のまま、壁のカレンダーを見る。
今日は、合同学園祭のミーティングだ。
「行かなきゃ駄目か………運営委員だし……ダル…」
言いつつ全く体が動かない。
思考はそう、跡部の事。
…傷つけてしまったのに、これから彼の補佐なんて自分にできるのだろうか。
「……………ん」
その時、机の上に置いてあった携帯が震えだした。
私は重たい体を何とか起こして携帯を手にする。
「……はぁい…?」
『随分と眠そうじゃねぇか』
「っ跡部……?」
『下で待ってる。早く降りて来い』
「え、ちょっと…っ…」
それだけ言って切れてしまった電話。
私はベランダに出て下を見下ろした。
そこには…
「…あ…」
跡部の車。
それを見つけて、私は無意識に微笑んでいた。
きっとこれは、跡部の優しさなんだと気付いたから。
私が気にせず、以前と同じように振舞えるように。
The reason for being.
The value of being.
――46th.
「で……何でアンタまでいるの?」
乗り込んだ車には、何故か忍足の姿があった。
「当たり前やん! …つーかこのままやったら主役の座を跡部に取られそうな予感がしてやな…」
「は?」
「てのは冗談で、昨日跡部の家に泊まっただけや」
「帰れっつってんのにしつこくてな。全く、害虫駆除でもしてやろうかと思ったぜ」
「またまたー。景ちゃん俺の事好きなくせにー」
「今すぐお前を車から放り出してやってもいいんだぞ」
「スイマセン」
その様子を見て、私は何だか笑ってしまった。
…本当に、前と変わらない。
昨日はあの後、忍足は跡部の元へ行ったんだろう。
二人がどんな会話をしたのか、それを私が知る由はないんだけど、
私としては、この空気がすごく嬉しいんだ。
会場に着くと、そこはどこぞの遊園地の一角のような雰囲気だった。
見知った制服や知らない制服の学生たちも同じように呆気に取られながら会場に入っていた。
「…どっからこんなの建てるお金が出てるのよ」
「、よーぉ考えてみ。主催は、誰や?」
「…………俺様トップ2」
「そういうことや」
「何をしている。とっとと行くぞ」
先を行く跡部に言われ、私たちは中へと足を踏み入れた。
通されたのは大きめの会議室。どこもかしこも一介の中学生が使うようなものじゃない。
「あ! たちもう来てるCー!! おっはよ〜!!」
「ジロー、おはよう。ちゃんと起きれたみたいね」
「だって俺スッゲー楽しみにしてたんだぜ!?」
「そう。会議中に寝ちゃ駄目よ?」
「おはようございます」
「さん、おはようございますvv」
「おはよう。若、長太郎」
「おい鳳、まずは俺らに挨拶するべきや無いんか…?」
「あ、おはようございます。スイマセン、俺さんしか目に入らないみたいで…」
「重症ね」
「というか、先輩本当に引き受けたんですね、運営委員」
「うん。みんなの邪魔はしないから気にしないで」
「そんなこと言ってません。むしろ先輩が跡部さんを下克上して仕切ってくれたほうが…」
「ごめん無理」
「眠ィ…」
「シャキッとしろよなぁー! なぁー樺地?」
「…ウス」
「宍戸に岳人に樺地君、おはよう」
「おう…あ、そっか、お前もいるんだったな」
「楽しくなりそうだぜ!!」
「ウス」
(……どうしよう私あんまり樺地君に絡んだことないから対応に困るんだけど)
それぞれと挨拶を交わすと、跡部がいきなり席を立ち上がった。
それに反応して、みんなもそれぞれ空いている席に着く。
「ふん……レギュラーは全員集まったようだな」
「えーと…ええ、いるみたい」
「ではミーティングを始める。
知っての通り、今回の学園祭は俺と榊監督の共同出資で実現した。
全国大会に出場するテニス部とその学校が参加する大規模な合同学園祭だ」
「参加校は、青学・立海・聖ルドルフ・山吹・不動峰・六角・そして氷帝の合計7校よ」
「これは関東大会の雪辱を果たすチャンスでもある。お前ら、気ぃ抜いてんじゃねぇぞ」
「……雪辱って?」
「俺らは関東大会で青学に負けたからなぁ。ここで勝負、ってことやろ?」
つまりこの学園祭は、自分たちのプライドが崩れた氷帝がわざわざお金積んでまで作った復讐のステージ…。
…うわ、なんか一気に幼稚くさくなってきた。
「具体的に、他校とどういった勝負をするんですか?」
「今回の学園祭に参加するテニス部には、模擬店に参加する義務がある。
その模擬店はコンテスト形式になっていてな。テニス部単位で出店し、売り上げが多い店が勝ちだ。
青学や立海に負けんじゃねぇぞ」
「模擬店とは別に、自由参加のアトラクションもあるわ」
「アトラクション? 何だソレ」
「歌とか演劇とか、そういう出し物のこと。これは他校の生徒と組んでも構わないって」
「そっちの方は、まぁ息抜き程度にやれ。一応優勝組には賞品を用意したがな」
「賞品? 何ですか?」
「大したもんじゃねぇ。ウィンブルドンのチケットと航空宿泊券だ」
『ウィンブルドン!?』
みんなはともかく、私まで一緒に叫んでしまった。
何その豪華な賞品…。
「何でお前まで驚いてんだ。プリントに書いてあっただろうが」
「賞品とか興味ないから飛ばして読んでたもの」
「ふん。まぁそういうことだ」
他校と組むっていうのはいい案だと思う。色々刺激になるだろうし、
……ほら、すでに下克上とかいってる人いるし。
「…えっと…で、これが学園祭までのスケジュール」
私は備え付けのホワイトボードにこれからの予定を書き写した。
「8月22日から9月1日までが準備期間になる。9月2日は慰労会だ。学園祭は9月の3日と4日に開催される」
「28日は日曜で休み。あと、31日も一応休みになってるから間違えないようにね」
「31日は、宿題が残っとる奴の救済措置か?」
「そういうことね。あ、9月1日は午前中は始業式があるから、準備は午後からになります。
…あとの詳しいことはこのプリントに書いてあるから、各自確認しておいて。質疑応答は私か跡部に言えばいいから」
プリントを回し終えると、隣で跡部がふっと笑った。
「……何?」
「いや。中々様になってるじゃねぇか」
「別にそうでもないと思うけど」
「ー!! これってどういう意味ー!?」
「これってどれよ……。ちょっと行ってくるね」
「ああ」
忙しく動く私を見て、跡部が満足そうな顔を浮かべたことは、誰も知らない。
8月22日。模擬店ミーティングに集まったのはいいものの、また跡部が変な企画を持ち出してきた。
「俺たち氷帝が負けることは許されねぇ。となれば、俺の提案する喫茶店を「却下」
跡部の言葉を遮るように私が言うと、跡部は眉間に皺を寄せて詰め寄ってきた。
「俺様の提案に何か文句でもあるのか? 運営委員?」
「ええ大有りです。せっかくの学園祭なんだからもっとみんなの意見取り入れて企画練ったらいかがですか? 運営委員長?」
「まーた始まった…」
「跡部にあそこまで物言える女子ってだけだよな」
「………」
そんな私たちの様子を見て、忍足はふっと笑って割り込んでくる。
「まぁまぁ二人とも落ち着きって。プリントやと、一校で複数の模擬店出して構わんのやろ?
跡部の喫茶店でいいって奴はそっち行ったらええし、嫌やって奴は違う模擬店やればええ。な?」
「俺はそれで構わねぇぜ」
「でも、具体的に何をするの?」
「だったらたこ焼き屋やろうぜ! 侑士、たこ焼き好きだろ?」
「がっくんベタやな…」
「じゃぁ喫茶店とたこ焼き屋で最終決定。異議は認めません」
「決まってるし」
結局跡部の喫茶店に参加することになったのは、樺地君、宍戸、長太郎、ジロー。
そして忍足のたこ焼き屋には、岳人と若が参加することになった。
「…そっち人数少ないけど大丈夫なの?」
「あんな大掛かりな喫茶店と違って、こっちは屋台でやるからな。人数おっても動きづらいだけや」
「そう。まぁ私はどっちも手伝う感じだから忙しい時とかは言ってね」
「じゃぁ俺専属の応援係りに…」
「私運営委員辞退していいですか」
うっとうしく張り付いてくる忍足を剥がして、私は報告書に出店内容を記入した。
「…じゃぁ、私はこれ本部に出してくるね」
「頼んだ」
会議室を出て本部に向うと、今朝よりもたくさんの生徒が通路にいた。
氷帝以外にも、私がプリントを配った学校とか、見たことのある制服がある。
……そうそう、あの白い学ランは確か山吹……………………山吹?
「あの髪の色……ヤバっ…」
「あ! ラッキー!! ちゃん見つけちゃったー!!vvv」
初日から、鬱陶しい人に見つかってしまいました。
TO BE CONTINUED...
「何や楽しいことになりそうやなぁ。 この話が面白かったら俺を押してな?」