「ちゃんじゃん!久しぶり〜!!元気そうで良かったよ、あ、相変わらずキレイで「ウザイ」
「うぅ…相変わらず手ごわい……」
しょぼくれる千石に小さくため息をつく。
ああ、書類の提出遅れるんだろうな……。
The reason for being.
The value of being.
――47th.
「ねぇ、私この書類持って行かなきゃいけないの。暇じゃないの。忙しいの。アンタに構ってるこの一分一秒がとてつもなく勿体無いの」
「…ちゃんさ、そんなに俺の事嫌いなの?」
「嫌い」
「うーん、厳しいなぁ」
苦笑いする千石を見てると段々不愉快な気持ちになってくる。
なんかほんとイライラしてくるわこの人。
「…俺がこんなに嫌われるのってさ、本当に珍しいことなんだよ?」
「それが何」
「俺って結構ムードメーカーだから嫌われることって今まで無かったんだよね」
「自慢?」
「そうじゃなくて。……だから俺にとってちゃんて、すごーく攻略心くすぐられるんだよね」
「………………」
…ああ、なんか、何でこんなにイライラするのか、解っちゃった。
「千石さ、女遊び激しそうだよね」
「そんなヤな言い方しないでよ〜。そりゃ女の子は大好きだけど、向こうから来てくれるんだもん♪」
「……それ」
「え?」
「そういうの」
「ど、どういうの?」
「そういう浮ついた気持ちで言い寄られるの、気に食わない」
強い瞳に、千石は完全に押し黙ってしまった。
まるで金縛りにあったかのように動かない千石を尻目に、私はそれ以上何も言わずにその場を後にした。
「……完全に怒らせたな」
「!!…あっくん、いつからいたの…?」
千石が振り返ると、そこには仁の姿。
「はテメェじゃ絶対に落とせねぇぞ」
「なんでなんでぇ!?」
「昔あいつから聞いたことがある。あいつは『0か全部しかいらない』んだと」
「どういう意味…?」
「んなこと自分で考えろ。つーかお前はこれ以上に近寄るんじゃねぇ。女なら他にいくらでもいんだろーが」
「うーん…俺、結構本気だったんだけどなァ。ダメ?」
「知るか」
「ちぇー」
「今は…あいつの邪魔するな」
何かを悟ったような目で、仁は私が去っていった廊下を見つめていた。
「はい、OKです。ではこちらにブースの割り当てが書いてありますので、今日中に確認をお願いします」
「解りました。有難う御座います」
本部に書類を提出した後、お昼まで時間もあることだし私は会場をふらふらと歩いていた。
本館を出ると太陽がまぶしくて思わず目を細めると、少し蒸し暑い風が吹いた。
「暑……噴水の近くなら少しは涼しいかな」
正面の広場にある噴水まで来ると、心なしか気分が軽くなった。
風鈴と同じで水の音っていいって聞いたけど確かに涼しくなった気がする。
水面を覗き込むと、揺れる自分の顔が映った。
「………」
そうだ、学園祭で歌う歌、作らなきゃ…。
詩はまぁ、一日あれば書けるだろうし、曲は太郎さんと相談して…
…もしかして、時間ない?やばいな、学園祭の準備しながらできるのかしら。
「……ねぇ、そこの君」
「え?」
顔を上げると、知らない制服を着た人が確かに私を見ていた。
「…何か…?」
「いや、その…言いにくいんだけどね。その姿勢で噴水覗き込んでると…ホラ…」
「……ああ」
氷帝のスカートって短いから、危なかったのか…。
ふと振り返ると、何人かの男子が後ろでしゃがんでこっちを見ていたが、私の視線に気付くと足早に散っていった。
「…どうも有難う」
「どう致しまして。…君は…氷帝、だよね?何年生?」
「ええ、氷帝の三年。…あなたは?」
「六角の三年だよ。テニス部で、佐伯 虎次郎っていうんだ。良かったらサエって呼んでね」
「サエ君ね。私は氷帝テニス部マネージャーの、 です」
「へぇ、さん、あのテニス部のマネージャーか。色々大変でしょ」
「知ってるの?」
「そりゃ、大会とかでも会うし…ホラ、跡部君とか色々と派手なことするじゃないか?」
…やっぱりうちの濃さは有名なのか。
「今回の学園祭も、跡部君と榊監督の言い出した事だしね。…もしかしてさん、運営委員もしてるの?」
「ええ、結構忙しいよ。主にあの部員たちの世話とか世話とかあと世話とか」
「全部世話じゃないか」
ぷっと吹き出す佐伯君を見て、私もつられて小さく笑った。
なんか、優しい雰囲気の人だな。
「お〜い、サエさ〜ん、見つかった〜?」
「あ!忘れてた!ごめーん!!まだ見つかってないんだ!!」
模擬店スペースになる大きな運動場の方から、サエ君と同じ制服の団体がこっちに向って走ってきていた。
同じ学校の人だろうな…ってことはテニス部か。
………全員サエ君みたいなまともな人希望。激しく希望。
「あ?サエ、誰だ?」
「ああ、氷帝テニス部のマネージャーで運営委員の、 さんだよ。ちょっと話してたんだ」
「始めまして」
「始めまして!うわ〜すごいキレイな人ですね!!うちにもこんなキレイなマネージャーがいたらなぁ〜」
「剣太郎、まずは自己紹介だろ?」
「あ!そうでした!」
先頭にいた坊主頭の子が大きくお辞儀をすると、後ろの数名も前に乗り出してきた。
「六角テニス部部長、葵 剣太郎です!よろしくお願いします!!」
「黒羽 春風だ。お、ほんとに可愛いじゃねぇか」
「樹 希彦なのねー。あの氷帝のマネージャーなんてすごいのねー。大変そうなのねー」
「木更津 亮です。クス…本当、氷帝なんかやめて六角に来ちゃえばいいのに」
えーと、うん。
なんか最後の人が黒い事以外はみんな普通だ。
「天根 ヒカルだ。…黒髪美女の苦労が見える………プッ」
「ダビデ!!」
「わっバネさんタンマ…!!」
何かのコントのような光景の中、私は
ああやっぱり全員まともは望めなかったか、と小さく息を吐いた。
「よろしく……で、何か探しものでもあったの?さっき『見つかった?』って叫んでたみたいだけど」
「あ!そうそう、ダビデの…あ、天根のことね。手帳がなくなったんだ」
「良かったら一緒に探しましょうか?」
「え、いいんですか!?でも運営委員さんは忙しいんじゃ…」
「今はお昼まで暇なの。だから大丈夫」
「そう言ってくれると助かるのねー」
「どの辺りでなくなったか、見当はついてるの?」
「気がついたら無かった。だが、この会場のどこかにあるのは確かだ」
「そう。じゃぁ、手分けして探しましょう」
私の声に全員頷くと、バラバラと散っていた。
私もそれに続こうと歩き出すと…
「さん」
サエ君に腕を引かれ、立ち止まった。
「…駄目だよ、俺をフリーにしちゃ」
「え?」
「ホラ、みんな色んなトコ探しに行ったし、さんは俺とこの広場を探してよ」
「あぁ…うん…」
どうしよう、一瞬意味解らなかった。
「どんな手帳なの?」
「黒くて無地だったと思うよ。ちょっと目立ちにくいかな」
「ふーん…本部には行ってみたの?落し物とか」
「さっきみんなで言ったときには無かったよ」
「じゃぁ私、もう一回確認してくるわね。この広場そんなに広くないし、ちょっとサエ君探してて?」
「あっ、さん…!」
「へ?」
さっきよりも真剣な瞳で呼び止められ、私は思わず足を止めた。
「どうしたの?」
「あの…俺…!!」
「駄目だよ、サエ」
「!!!」
何かを言おうとした瞬間、サエ君の後ろから魔王が、否、青学の不二が顔を出した。
「やぁ、久しぶりだね、さん」
「不二じゃない」
「し、知り合い…?」
「合同合宿のときにね。…それよりサエ、さんは駄目だよ?」
「えっどうして…」
「僕が駄目って言ったら駄目なんだよ?サエ?」
「ッッ!!!」
「あとコレ。探し物でしょ?そこのベンチにあったよ、はい」
「あ、有難う……じゃ、じゃぁ俺ダビデに渡してくるよ…さん、それじゃ…」
「う、うん」
不二の黒オーラに当てられ、サエ君はそそくさとその場を退散した。
「…相変わらず、君は色んな人を惹き付けちゃうみたいだね」
「褒めてないわよね?」
「やだなぁ、ちゃんと褒めてるよ?」
「ってか何が駄目だったの?人の会話は遮るもんじゃないわよ」
「………そういう所が人を惹き付けちゃうのかな」
クスクスと微笑む不二を眉間に皺を寄せながら見つめると、不二は皺をはじくように人差し指で眉間を刺してきた。
「……君は、君が選んだ人と幸せにならなくちゃ駄目だよ」
「!!」
不二はそれだけ言うと、微笑みを残して本館の方へ歩いて行った。
その後姿を見ながら、私はしばらく呆然としてしまった。
……私の周りには、こんなにも私を見ていてくれる人がいたんだと、しばらくしてから思った。
TO BE CONTINUED...
「クス…サエ、残念だったね。 この話が面白かったら僕を押すんだよ?」