午後、割り当てられたブースを確認してみるとあきらかな職権乱用がそこにはあった。
「…なに自分の模擬店だけ規格外のスペース取ってんのよ」
「俺様の喫茶店に必要最低限のスペースを確保しただけの事だ」
「はぁ…じゃぁもう勝手にどうぞ」
学園祭って…………何だっけ…?
The reason for being.
The value of being.
――48th.
テニスコートへ軽く打ちに行った面々から離脱し、私は一人で会場内をブラブラしていた。
「暑い…」
模擬店スペースから本館に帰ってきたものの、火照った頬はすぐには収まらない。
夕方にはたこ焼きのブースを見なきゃいけないし…それまで会議室で休んどこう、うん、そうしよう。
面倒な人に会ったらそれこそ…
「あ!!せんぱーい!!!」
「久しいのぅ」
「……」
…それこそ面倒くさいしって…思ったところなのに…。
「迂回すればよかった。入り口のすぐ側って、立海の模擬店スペースだったんだ」
「あいた。面と向かって拒否られちゃったよー雅治」
「相変わらずで何よりじゃ」
「おかげさまで。…ってかりぃこ、なんか前より可愛くなったんじゃない?」
「えぇっ、先輩に褒めて貰えるなんて嬉しすぎですぅ〜っ」
「いい恋をしとるからじゃろ。…な」
「雅治…」
「…イチャこくなら他所でやってねー」
すっかりバカップルぽくなった二人をあしらいつつも、少し微笑ましくて私は微笑んだ。
良かった。りぃこ、幸せそうで。
「あ、そういえばさっきシークレットライブの噂聞いたんですけどぉ、あれってって、先輩の事ですよねぇ?」
「何で解ったの?」
「お前さんを知ってる人間なら想像がつく。跡部が考えそうなことじゃしの」
「りぃこ先輩の歌初めて聞くから楽しみですっ」
「…ありがとう」
「……何か問題でもあるんか?」
少し表情を変えたことに気付いたのか、仁王は意味深な雰囲気で私に問うた。
「んー…実はまだちゃんと歌えてないんだ。たまにしか、歌えなくて」
「えっ間に合うんですかぁ!?」
「どうだろ、歌う曲もまだ手をつけてないし…」
「大変じゃのぅ…」
「……どうすればいいのか、解ってるの。でも、…それは私には難しくて、そして、怖いことなの」
忍足に、………全て話せば…きっと…。
「…逃げても構わんぞ。無理して歌うことはない」
「逃げたくないの。今逃げたら…きっと一生歌えない。…だから自分を追い込んでるのよ」
まだ時間はある…ちゃんと、覚悟は、決めてるんだけど。
一歩…出ないだけ。
「…心配してくれてありがとう」
「りぃこたち、何があっても先輩の味方ですから。お役に立てることがあったら、いつでも駆けつけますっ」
「そういうことじゃ」
「…いい友達が出来てよかったわ」
お互い少し気恥ずかしそうに微笑みを浮かべる。
そんな空気を壊すように、遠くから声が聞こえてきた。
「…パーィ…仁王センパーイ!! っあーこんなとこにいた!! 副部長カンカンっすよ!?」
「全く、赤也はすーぐ俺と莉古を離したがるんじゃから」
「なっ別にそんなこと…っ」
「それよか、お客サンに一礼もなしか?」
「え…っあぁー!! 氷帝のさんじゃないっすか!!」
「こんにちわ、切原君」
「ちわっす。……ってじゃなくて!! 仁王センパイがサボると何でか俺が副部長に怒られるんすよ!! 早く行きますよ!!」
切原君はどうにかして仁王をどこかに連れて行きたいらしい。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「雅治はこっちの模擬店じゃなくて、外でやってるもう一つの模擬店の担当なんですぅ」
「こっち担当の莉古と逢引しとったんじゃw」
「だぁぁぁぁッッ!! もういいから行きますよ!!!」
「…はいはい、うちの若いのは怖いのー。…それじゃな、莉古、」
遂にキレて瞳が若干赤くなり始めている切原君を見て、仁王はやっと重い腰を上げた。
「ドタバタしててごめんなさぁい、先輩」
「ううん、むしろ私も邪魔しちゃったわね」
「そんなことないですよぉ!」
「ありがとう。…じゃぁ私もそろそろ行くね。模擬店頑張って」
「先輩もっ! …歌、楽しみにしてますからぁ!!」
元気に飛び跳ねるりぃこに手を振り、私はその場を離れた。
氷帝の会議室を探すけど、いつもと違う道を通ったせいか場所がわからない。
見知った制服はあれども見知った人がいない。…りぃこの所に戻って場所を聞いたほうがいいのかも…。
「…お。あれっぽい」
見慣れた扉を見つけて中に入る。
…なんだか最後に来た時より散らかってる気がする…岳人かジローが暴れたのかな。
「もー、散らかしたら片付けなさいよ…カバンも床に置きっぱなし…何のためのロッカーだっての…」
近くにあったカバンを引っ掴むと、どさどさと音を立てて中身が流れ落ちていった。
「ちょ…ちゃんと閉めといてよー…。って、アレ? こんなカバン…見た事無い気が…」
「――おい!! お前そこで何してんだよ!?」
「え? っ!!」
いきなり入ってきた人に腕を掴まれ、私は顔をゆがめた。
とっさに顔を見上げると、知らない制服の男子が私を睨みつけている。
「ちょっと…痛い、離して」
「お前そのカバンどうするつもりだったんだよ!!」
「どうって、床に置いてるからロッカーに入れようとしただけよ」
「はぁ!? そんな嘘誰が信じるかっつーの!!」
「は? 何で私が嘘つかなきゃいけないのよ。つーかあんた誰」
「お前こそ誰だよ!?」
「こっちが聞いてるのよ。質問を質問で返さないでもらえるかしら」
「なっなんだと泥棒のくせに!!」
「誰がいつ何を盗んだっていうのよ、片付けようとしただけじゃない」
「…何騒いでんの? 騒々しいなぁ…」
「神尾、どうした」
キタローみたいな髪型の男と口論しているうちに、どうやら男の仲間がやってきたみたい。
もう、ぞろぞろとなんなのよ。
「どうしたもこうしたもないっすよ!! この女が俺のカバンから財布取ろうと…!!」
「だから誰がいつそんなことしたっていうのよ」
「ちょっと待て神尾。彼女は委員会で見たことがある。…確か、氷帝の実行委員だろう?」
「そうよ。氷帝3年、 。あなたは?」
「不動峰テニス部部長の橘だ。…とりあえず神尾、その手を離してやれ」
「何でっスか!? だってコイツ…!!」
「彼女の腕を見ろ」
「!」
橘さんの言葉に私も掴まれている自分の腕を見た。
…うわ、痛すぎて気付かなかったけど赤いの通り越して鬱血してる。
「事情も聞かずにそこまでするんじゃない」
「…………すんません」
ゆっくりと離された腕は重力のままに落ち、しばらくは指先の感覚が消えていた。
「…で、、だったか。どうしてここにいたんだ」
「どうしてって…ここ、会議室でしょう?」
「ああ、不動峰のな」
「………………え?」
ここ…氷帝の会議室じゃ、ないの?
「…ご、ごめんなさい、私…てっきりここが氷帝の会議室だとばかり…入り口一緒だったし、中のつくりも一緒だし…」
「じゃぁこのカバンは何だよ」
「床に置きっぱなしだったから、また岳人…あ、向日あたりが放っといたままどこかに行ったんだと思って、ロッカーに入れようと…
そしたら持ち上げた瞬間、ファスナーが開いていたみたいで中身が出てしまったの。…本当に取ったりとか、そんなつもりじゃなくて。…ごめんなさい」
「なるほど。神尾、カバンに関してはお前が悪いな」
「橘さん!?」
「彼女は自分の会議室をきれいにしようとしただけだ。…実際は違ったが、それはちゃんと謝っていただろう。
お前も彼女の腕について謝るべきじゃないか?」
「う……」
「いえ、私が疑われることをしたのがそもそも悪かったから、えっと…神尾君は、悪くないです」
「なんだよ、今度はいい人ぶるのかよ…だいたい部屋間違える時点でなんか抜けてるよな、氷帝の運営委員のくせに…
氷帝って偉ぶっててやな感じだけどこういうタイプもやな感じだよな…」
…なんだと?
「こら伊武、ぼやくな!」
「ちょっとそこの人」
「…なんすか」
「言わせておけば好き放題言ってくれるじゃない。確かに私は部屋間違えるし人のカバン触っても気付かないし抜けてるわよ。
だけど偉ぶってって何よ私がいつ偉ぶったっていうのよ。私は自分が悪いと思ったことを謝って相手に非がないから庇っただけよ。
あんたにそんな事言われる理由はないしそもそもあんたには迷惑かけてないじゃない。
この腕の事は私が悪いから謝らなくていいわ。私もさっさと自分の会議室に戻ります。
じゃぁ橘さん本当に申し訳ありませんでした。私はこれで失礼します。もし私に何かありましたらいつでも氷帝の会議室にいらして下さい。では」
バタン!と大きな音を立てて閉められた扉に、一同は口を開けて見入っていた。
「……口挟む隙なかったぜ…すげぇリズム…」
「なんだよ言い逃げかよ…卑怯だよな…」
「…あの」
「「「!!」」」
再び開いた扉に驚きつつも、三人は再び顔を出した私に気付くと胸をなでおろした。
「な、なんだ?」
「…その、非常に申しにくいんですが…
氷帝の会議室って、どっちに行ったらいいですか…?」
「………ぷっ…」
「あはははははっ」
「…何よ…」
「ははは…いや、勢い良く啖呵を切った割に可愛らしく帰ってきたから」
「可愛らしくないし…」
一通り笑われて場所を教えて貰った後、私は恥ずかしくなってその場から逃げ去った。
くっそー、不動峰め、絶対吠えずらかかしてやる。
「…ん、やん。どないしたん、眉間にしわ寄せて」
「忍足…。別に」
しばらく歩いてると、廊下で忍足に遭遇した。
テニスを終えた直後のようで、額の汗をタオルで拭う姿になんだかイラッとしてしまった。
「別にて…なんかあった顔やろ。…ってどしたんやその腕!?」
「別に。それより忍足」
「別にやあらへんわ!! すぐ医務室に…!!」
「模擬店、絶対勝つわよ」
「………へ?」
見てろよ不動峰。私を本気にさせたこと後悔するがいい。
TO BE CONTINUED...
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お待たせしました!!『reason〜』48話!!
これで全校ヒロインちゃんと絡ませました…!
一校はヒロインちゃんと仲悪くさせたかったので満足です。…まぁセオリー通り不動峰のメンツには気に入られたようですが(笑)
そんなこんなで次回からは本腰入れてライブに向けての活動も始まっていきます。
忍足との進展は…?
それは書いてみるまで解らない!!←
もうしばらくこのノロマにお付き合いくださいませorz
ではでは。
「ど、どないしたんや…? この話が面白かったら俺を押してな?」