「ん……」
ぼやけた視線、だるい身体。ふと視界に入った時計は朝の6時を回っていた。
「……いつの間に寝ちゃってたんだろう…」
机の上にはぐちゃぐちゃに丸められたレポート用紙の山。
丸められていない用紙も自分の腕で潰してしまっていてよれてしまっている。
「………」
私はその一番上の紙をめくり、後ろのベッドに飛び込んだ。
それは、合同学園祭で歌う歌の歌詞。何度も何度も、一文字一文字納得するまで書き直してできた一枚だ。
…だけど。
「んー………どうしようかな…」
最後の一言だけ、どうしても埋まらない。
たった一言。本当に伝えたい、自分の気持ち。
「…準備しなきゃ」
紙をベッドに置いて、カーテンをシャッと開ける。暖かな太陽の光が、私も部屋も、歌詞も照らしていた。
The reason for being.
The value of being.
――49th.
「ふあ……ぁ…」
「…えらくでかいあくびだな…」
「あ…宍戸、おはよ」
会場のある駅に着くと、改札を出たところで宍戸と合流した。
「昨日眠れなかったのか?」
「ちょっとやることあって夜更かしはしてたんだけど…いつの間にか机で寝てたみたいで余計疲れちゃったわ。
ベッドに入ってたら睡眠時間2〜3時間でも平気なのに」
「…想像通り不健康そうな生活してんのな」
「そんな何ともいえない苦笑いしなくても…そんなに私、不健康そう?」
「よく言うぜ、そんな細い身体しといて」
「……まぁ、宍戸はいつも私をそんな目で…」
「ちっ違ぇよ!!!/// そっ、その腕だってよ!!」
面白いくらい顔を赤くした宍戸が指差したのは、昨日痛めた私の腕だった。
「それだって、もっと肉つけてりゃそんなに青くなってねぇだろ」
「そんな器用に腕だけ肉なんか付けらんないわよ。いい?女はまず腹に蓄えてしまうものなのよ」
「そ、そうなのか?」
「解ったらレディーに肉つけろなんてデリカシーのないことは言わないことね」
「いや、はもうちょい肉つけたほうがええやろ」
「!」
いきなり腰周りに回された手にびっくりして、私は対応できずにその場にへたり込んでしまった。
振り返ると、そこには驚いた顔をしているエロ伊達眼鏡の姿。
「えっ、大丈夫か!?」
「もう…寝不足なんだからそういう冗談やめてよ…」
「す、すまん……堪忍な」
いつもと違う流れについていけない雰囲気の忍足。私はとりあえずで出されたような腕を取り立ち上がった。
何となく突っ込みづらいのか、忍足はしばらく宍戸と他愛の無い話をしていた。
「そういえばよ、寝不足って言ってたけど…なにしてたんだ?」
「え?ああ、ライブで歌う歌の歌詞をね」
「へぇ、自分で作詞作曲するってほんまやったんやな」
「自分が歌う歌は自分で作らないと、気持ち入んないし。…特に今回は、ね」
「どんな風に作ったんだ?ちょっと聞かせてくれよ」
「だーめ。当日までのお楽しみ」
そんな事を話している間に、気付くともうすぐそこに会場の入り口があった。
「あ、私太郎さんにライブの話で呼ばれてるんだ。悪いんだけど会議出られないって跡部に伝えて貰えるかな」
「任しとき」
「有難う。じゃぁね」
「あ!!!」
急に大声を出して呼び止める忍足に驚いて、私は若干びくっとしながら振り返った。
「…昼ごはん。一緒に食べへん?」
「…いいけど…」
「よっしゃ♪じゃぁまた連絡するわ♪」
「う、うん…」
忍足の妙に機嫌のいい雰囲気に、私と宍戸はきょとんとした顔になった。
なんだか嫌な予感がして私は足早に会場へ入る。
「…忍足、お前なんかいいことでもあったのか?」
「別に?」
「にしては…なんかおかしいぞ……(キモチワリィ)」
「んー?ただ単にと一緒におれる時間ができて嬉しいだけや」
「………女みてぇ…(やっぱキモチワリィ…)」
「……榊先生、です」
「ああ、入りなさい」
こじんまりとした音楽室の中には、すでにピアノの前に腰掛けた太郎さんがいた。
「…久しぶりね。ちょっと疲れてない?」
「お前の復活ライブだ。私に出来ることは何でもしたいんだよ」
私も最近跡部に聞いたんだけど、太郎さんってば知らない間にアメリカに渡って、ツテのあるオーケストラグループに出演依頼しに行ってたんだって。
帰ってきたのも昨日らしいし、何かやることが太郎さんらしいっていうかなんていうか…。
とにかく、そこまでしてくれるのが嬉しかった。
「で、今日はライブの詳細について詳しく打ち合わせをしようと思ってな。…ここにかけなさい」
ピアノを離れて小さなソファーに誘導される。テーブルも書類を広げたらもういっぱいだ。
「まず、シークレットライブ…ということだったんだが、どこからか情報が漏れて、誰かがライブをする、という話だけが出回ってしまっているようだ」
「…ああ…そういえば知り合いにもばれてたわ。…そうよね、シークレットのはずなのに」
まぁ、りぃこはさらに私が歌うって予想を的中させてもいたけど。
「それは問題ないか?」
「ええ。大丈夫」
「では曲目だが…一応ライブと銘打っているから3曲は欲しいと思うのだが、どうだ?」
「1曲はほぼできてるの。あと2曲はそうね…どうせなら空気を変えていきたいな…」
「ほう…例えば?」
「初っ端は今書いてる曲でバラードなのね?で、間にこう…ガツンとくるようなロックっぽい曲持ってきたいでしょ。
フィナーレはしっとりとしたポップ系とかだとまとまりがつくんじゃないかしら。
あと一曲目は英語なんだけど、後の二つは日本語にチャレンジしてみたいな…」
私が嬉々として構成を考えていると、ふっと太郎さんが優しい微笑みを見せた。
「…なに?」
「ああ、いや…今父親の喜びを噛み締めていた」
「急にどうしたの?」
絶えずその微笑みを向けたまま真剣に話す太郎さんに、私も少し照れたように笑って返す。
「娘が今、自らが引いた一線から足を踏み出そうとしている…それを嬉しく思わない父親などいないだろう?」
「!」
太郎さんの言葉に、私は小さく俯いた。
「…そんなことない…」
「ん?」
「だって…だって父さんは…認めてくれなかった…」
「!」
リオの存在も……私に芽生えた感情も……何も認めずに摘み取ろうとした。
「父親がみんな、太郎さんの言うような人ばかりだったら…私、今こうなってないよ」
「……」
「ごめん、太郎さんに嫌な思いさせるつもりはなかったんだけど…」
「…、…無理な話なのは承知で言わせて欲しい。…あいつの最期の姿が、あいつの本当の姿だとは思わないで欲しい…」
「……………」
「あいつも追いつめられていた…もちろんお前にしたことは決して許されない行為だ。
だが…本当にお前を愛していたあいつのことも、忘れてやるな」
「太郎さん……」
…解ってる。ほんとは、痛いほど。
経営難で父さんが悩んでるの、知ってたし、
憎みたくても、憎みきれない。
だって確かに…父さんには私への愛があった。
私はそれを全身に受けて育った。
どれだけ豹変してしまっても…それを忘れることなんて、できるはずがないんだ。
「…あのね、太郎さん」
「ああ」
「………私、忍足に全部話そうと思うの」
「!」
「太郎さんも知らない…私だけの、リオの記憶。…それと………あの事も」
「…………もう、決めたのか」
「…うん」
歌を歌うためじゃない。
忍足には…全てを知った上で、決めて欲しいんだ。
本当に…私といることを選ぶのか。
「…選択肢はいくらでもあるはずだ。お前がまた、自分を追い込む手段としてそれを選ぶのなら、私は反対だぞ」
「追い込むつもりは、もうないわ。今までよりもずっと心に余裕がある。その上で決めたのよ」
「………そうか。なら、私が止める必要は無い」
太郎さんはソファーから立ち上がると、私の頭をぽんとひと撫でした。
「…さて。出来れば楽譜を先に仕上げて貰えるだろうか。編曲やオケへの郵送は私がやろう」
「…ん、了解」
それだけ言って、太郎さんは部屋を後にした。太郎さんだって立派な先生だ。ここでの仕事は山ほどある。
…まぁ先生とかいう以前に主催者なんだけど。
「………なんか楽しくなってきたかも」
その時、静まり返っていた部屋に携帯の着信音が鳴り響いて、私は自分の携帯なのにびっくりして少し飛び上がってしまった。
やっぱり夜更かしなんてするんじゃなかった、と一人で慌てながら携帯を開く。
忍足からのメールだった。
送信:忍足 侑士
件名:いまどこおる?
********************
もう12時やし、そろそろ
昼飯食いに行かん?
迎えに行くから
場所教えて♪
P.S.
会議におらんくて
めっちゃさみしかってん
で?(><。)
相変わらず馬鹿丸出しのメールに私は苦笑した。
後で会議の内容も聞いておかないとと思いながら、
私はまだお腹がすいてなかったので『は旅に出ました』なんて適当な返事を打って返信しておいた。
「腹減ってないならそう言ってくれたらええのに…」
30分後、結局忍足の全力捜索に見つかった私は会場の真ん中にある小さな休憩施設でお弁当を広げていた。
「からかいたくなるようなメール送ってくるからよ」
「本音やんか」
「女の子みたいだったわよ」
「まぁ、今の俺は恋する乙女みたいなもんやからな〜」
「は?何それキモチワルイ」
忍足は苦笑すると、一変して私の目を見て微笑んだ。
「…と一緒に弁当食えるってだけでドキドキしてんねん」
「!」
「どや?めっちゃ乙女やろvv」
「…………キモチワルイ…」
「…相変わらずズキズキくるわぁ…」
私が顔を背けたのを見て、忍足も自分のお弁当を一口頬張った。
キモチワルイ発言ばかりする奴だって、頭ではそう思ってるのに、私は自分の頬が赤くなるのを確かに感じながらお茶を口に含んだ。
「…で、会議の方は?」
「ああ、問題はなかったで。ただ必要なもんのリストとかあるから、跡部に確認とって発注とか頼むわ」
「ん、解った」
「そっちはどうやったん?ライブの話は」
「大まかな話しかしてないわ。ライブだから3曲歌おうってだけ」
「へぇ…じゃぁ3曲ともが作るん?」
「そのつもり」
「大変やなー…手伝えることがあったら何でも言うてな?」
「手伝えること……?」
忍足のその言葉に私は箸を止め、考え込む。
「…どないした?」
「…………いいコト考えたっ」
私はお弁当の中身をかっ込みお茶を一気飲みして、慌てて片づけを始めた。
「ちょ、どないしたんや!?」
「忍足ありがと!おかげでいいコト考え付いたわ」
「手伝えることか?」
「あーううん、忍足はいらない」
「え」
ガッカリしてる忍足には悪いけど、忍足には忍足に頼みたいことがあるから。
「……忍足はライブのとき、客席で私だけ見ててくれればいい」
「!!」
「じゃぁ、ごちそうさまっ」
忍足は開いた口がふさがらないまま、駆けていく私の後姿をしばらく眺めていた。
「…一回落としといて持ち上げるとか…反則やろ…」
一方、私は会場内を太郎さんを探して走り回っていた。
音楽室を見たけどいないし、テニスコートで監督もしていない。最後に本部を覗いてみると、奥の方の席に太郎さんが座っていた。
「たろ……榊先生、宜しいですか?」
焦る気持ちを抑えて、太郎さんに呼びかける。太郎さんはそんな私の様子を見て笑って手招きした。
「…どうした?随分慌てているようだが」
「すごくいい事を思いついたんです」
他の先生方や運営委員がいる手前、敬語で会話を続ける。そのむずがゆさと早く言いたい気持ちとで私の心は逸っていた。
「ライブの2曲目……テニス部の人たちにバンドをお願いしてもいいでしょうか?」
私の申し出に、太郎さんは一瞬目を大きく見開いた。
「氷帝か?」
「はい、あと青学と立海の人たちの中からも選びたいのですが…」
「そうか…」
「…だめ、ですか?」
「いや、構わない。2校の先生方には私から話を回しておこう」
「有難う御座います!メンバーはなるべくすぐに決めますので」
「ああ、そうしてくれ」
「はい。じゃぁ失礼しました」
本部を出て、私は胸の前で小さく拳を握った。
私が歌えるようになったおかげでもあるあの合宿でお世話になったみんなにも、一緒に出演して貰いたい。
「さてと…やることが沢山あって大変だぞっと…」
私は充実した生活に楽しさを感じ始めていた。
氷帝に転入した頃には微塵もなかった気持ちだ。
だからこそ…このライブは、必ず成功させたい。
「…よしっ」
私が、私に戻れるように。
TO BE CONTINUED...
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さぁさぁヒロインから爆弾発言飛び出しました!
ライブに出演するメンバー…このreason〜を呼んでくださっている皆様に選んでいただきます!!(拍手!←)
アンケートは当サイトのトップにありますので皆様どしどしご応募くださいvv
締め切りはまだ考えてません; 続きをいつ書けるか解らないので;
ではでは宜しかったらこの亀更新&馬鹿な管理人にまたお付き合いください。
皆様のご投票心よりお待ち申し上げます。
「何か日に日に可愛くなってくなぁ…。 この話が面白かったら俺を押してな?」