「じゃぁ…最終的にこのメンバーでオケ?」


「かなぁ…」





バンドメンバーを決めるにあたって、やっぱり頼るべきは情報通の杏子だろう。


ここ何日か私の家で夜通し話し合った末、やっと4人のメンバーが確定した。





ちゃんがボーカルでしょ?ほんでこっちは絶対ドラムだね」


「あー、似合いそう」


「そしたらキーボードは…」


「あ、それならこの子に任せたい」


「そうなるとこの二人はどうしよっか」


「ベースとギターか…じゃぁこっちベースでこっちギター」





テーブルに広げた沢山の紙を指差しながら担当を割り振っていく。





「これでバンドの方はいいとしてー…曲の方はどんな感じなの?」


「曲は出来上がったの。あとは太郎さんとこいつらにも渡して、練習、だけなんだけど…」


「…歌えなかったの?」


「…………」





私は首を縦に振り肯定を表した。


そう、何度歌ってみようとしても、駄目だったんだ。





「みんなの準備ができても…私が歌えなきゃ意味無いのにね」


「…そんなに落ち込まないで、きっと大丈夫だよ。…それより杏子ちゃん歌詞が見たいなぁ☆」





元気付けようとしてくれてるのか、急にテンションが変わった杏子に私は小さく笑うと、歌詞を書いたレポート用紙を手渡した。





「これがみんなでやる二曲目の歌詞で…こっちがラスト」


「…へぇ…良かった、ちゃんと自分の気持ち書けたんだね」


「なんとか、ね…」


「…あれ?一番最初は?」


「あー………それは、うん」


「なにーっ!?隠されると気になっちゃうよぉっ」


「………」





ごねる杏子に紙を渡すと、思った通り目を丸くして呆けていた。





「杏子って英語苦手そうだから」


「えへー、一文字も意味が理解できないや☆」


「…文字はアルファベットよ?」


「……単語が理解できなーいvvv」




…ああそっか、この子日本語も駄目か。

















































































The reason for being.

     The value of being.






  ――50th.







































































調理室にはいい匂いが漂っている。





「やっぱ侑士うめーな!!」


「任しとき」





私たちは忍足の指導の下、たこ焼きの焼き方を練習していた。


うまくひっくり返せずにぐちゃぐちゃにしてしまう岳人、几帳面に周りを剥がしている内に焦がしてしまう若。


そんな二人にお手本を見せる忍足はさすが関西人、きれいに丸いたこ焼きを作っていた。





「…………」





私はそんな様子を見ながら意識はどこか違う方向へ飛んでいた。


頭の中にあるのは昨日の夜杏子と話していた、私がまだ歌えないことについて。


一応シークレットだから、練習は早朝とお昼休憩、あと退館時間までの2時間だけ許可をもらって、部屋を用意してもらっている。


今日の夕方にはメンバーを集めて楽譜渡したいし、もう時間もない。一分一秒でも早く歌を取り戻す必要がある。


だとしたら……そう思うと自然に私の視線は忍足に向いていた。





「…ん?どないした?」


「!」





どうしてほぼ背後から見たのにすぐに振り向けるんだ。





「…んーん、お腹すいたなぁって」


「何や、飯食うてなかったん?」


「考え事してたらたこ焼き練習の時間になってたから」


「じゃぁ先輩、俺のたこ焼き食べてみてください」


「俺のも!!」





そう言って差し出された二枚のお皿。出来はどっちもさっきよりは上手くいっているようだけど…。


まずは若のを食べてみることにした。





「…いただきます」


「どうぞ。………どうですか?」


「んー……」


「正直な感想で構いません」


「……たこ焼きってこんなに弾力あったっけ」


「日吉のは焼きすぎなんだよ!!、次、俺の食ってみそ!!」





岳人からお皿を受け取り、また一つ頬張る。


けど…





「…………岳人」


「うまいだろ!?」


「何入れたの」





私そんなにたこ焼き食べたこと無いけど…明らかにたこ焼きの味がしないんですけど。





「え?納豆」


「馬鹿か」





納豆は何かに入れると失敗する食べ物ランキング一位って知らないのかこのおかっぱは。





「がっくん、納豆はアカンってあれだけ言うたのに…。すまんな、コレ食べて口直しし?」


「…忍足のたこ焼き?」


「心配せんでもちゃんと普通に作ってるから」


「あんたのは心配してないわよ。…いただきます」





私の言葉に小さく微笑む忍足。そのたこ焼きをつまようじに差すと、もうその感触が二人のものとは違った。


迷わずに口に頬張ると、カリッとした周りとは違い中はトロトロで絶妙の焼き上がりになっていた。





「…おいしい…」


「せやろ?」





無意識に零れた声に、忍足は満足げに笑った。


その顔を真っ直ぐに見てしまい、私はごまかすようにもう一つたこ焼きを食べる。





「クソクソ!やっぱ侑士のたこ焼きには叶わねぇか」


「岳人のは論外や」


「…忍足先輩、特訓してください。(こんな中途半端な扱い…下克上だ)」





みんながまた鉄板の方へ向い、私は一人忍足のたこ焼きを食べていた。


その様子を見ながら、私は決意を固めるのだった。





(……今日…話そう)





あの日の真実を、忍足に。




















































































「もう話は回ってると思うけど…今回は私のシークレットライブに出演して頂く為に集まって頂きました。…本当に有難う」





夕方。用意された教室にメンバーを呼び、私はその顔ぶれを順に見渡した。





「じゃぁ、楽器の担当を発表するわね。まずギターは…




 ―――仁王、よろしく」



「任せんしゃい。…には合宿で迷惑かけたからのぅ、力になるぜよ」








「次はベースに…




 ―――ジローね」



「嬉Cー!!俺ベースってやってみたかったんだよねー!!」








「そしてドラムは…




 ―――宍戸がお願い」



「おう、よくゲームでやってるからな、任せとけ」








「最後にキーボード……




 ―――リョーマ、頼めるかしら?」



「………」


「リョーマ?」





リョーマはちょっと不機嫌そうに視線を逸らしている。





「…なんか、ちょっとだけ悔しい」


「え?なんかやりたい楽器あった?」


「そうじゃなくて。………今回ばかりは、見てる側に意味がありそうだから」


「!」





さすがだな、リョーマは。


ここに忍足がいない意味をちゃんと理解してる。





「…リョーマには、支えて貰う側にいてほしいんだもの」


「知ってるし、そうするし。…それが俺の役目でしょ」





そう言ってやっと笑ってくれたリョーマに安心して、私は用意していた楽譜を手渡した。





「これが各楽器の楽譜ね。キーボード以外は楽譜の読み方とか書いた紙もあるから確認してね」


「まずはコードを覚えにゃならんの」


「難しそうだC…でも練習時間めいっぱい使えばできそうだよね!」


「へぇ、ドラムの楽譜ってこんなんなんだな。何とかできそうだぜ」


「俺は惹いてれば指も慣れてくるだろうし、大丈夫」





各々が用意されていた楽器の方に向ったのを見て、私も自らの役割につこうと息を着いた。





「じゃぁ…退館時間、忘れないようにね」


「え!歌ってくれないのー!?」


「…歌うためにしなきゃいけないことが一つあるの」


「!まさかお前さん…」


!!」





察しのいい二人が私の元へ駆け寄ってくる。


私は二人に笑いかけると、扉に手をかけた。





「…私ね、また誰かのために歌おうだなんて…そんな日が来るなんて、思わなかった」


…」


「知って欲しいの。知って、どうするのかが知りたいの。…私がどう変わるかも、知りたいの」


「…決めたんじゃな」





振り返らずに頷くと、頭と左手に同時に温もりを感じた。





「…明日は朝から練習じゃろ?話し込んで遅くならんようにな」


「無理したら怒るから」





そう言って離れた温もりは、まるで「いってらっしゃい」と言われたような気がして暖かかった。





「…行ってきます」





一度だけ振り返り微笑むと、みんな安心したみたいにそれを返してくれた。


その顔を見渡して、私は部屋を後にした。





「………こんなに笑えるようになるなんて…それも思ってなかったな…」





廊下を歩きながら、携帯で忍足のメモリを探し、発信ボタンを押した。


そうコールも鳴らない内に、忍足の声が聞こえてくる。





『もしもし??』


ですよ」


『どないしたん?えらいご機嫌やな』


「ちょっとね。ところで忍足どこにいるの?」


『俺は会議室で帰る準備しとった』


「了解、じゃぁそこにいて?すぐ行くから」


『ん、一緒に帰るか?』


「ううん、帰る前にね…―――話したいことがあるの」


『…………』





何かを察したのか、急に返事がなくなった忍足。


だけどすぐ、さっきの声のトーンで話し出した。





『解った。じゃぁ待ってるからな?』


「うん、またあとで」





電話を切り、一度大きく深呼吸してまた足を進めた。


忍足に……あの日の真実を、全て、この口から伝えるために。
























































































TO BE CONTINUED...



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メンバーお披露目の回ですた*

次からはいよいよ過去編でございます。。。



ではでは投票結果を公表します!




No name vote comment
1 仁王 雅治52票  ダントツ一位やの。俺のギターさばき、期待しちょって?
2 越前 リョーマ33票  ここでも二位、ね。ま、この位置は誰にも譲らないし。
2 宍戸 亮33票  お、俺が二位!?なんつーか、その…サンキュ、な。
4 芥川 慈郎30票  うそうそ!俺も入ってるの!?やった〜嬉C!!


5 丸井 ブン太28票  芥川と2票差かよ!?ちくしょー、惜しかったぜぃ。
6 向日 岳人24票  クソクソ!俺もバンドやりたかったぜ!!
7 日吉 若14票  また越前に負けたのか…。次こそ下克上だ。
8 鳳 長太郎9票  俺も貴女を側で支えたかったけど…残念です。
9 柳 蓮二7票  なるほど…いいデータがとれた。感謝する。
10 不二 周助3票  僕が3票…ね。どういうことか説明してもらえるかな?
10 柳生 比呂士3票  大事なのは数より気持ちですよ。有難う御座いました。
10 切原 赤也3票  全員潰す!!…え、あ、いや、仁王センパイは…その…。
13 菊丸 英二2票  残念無念また来週〜。仕方ないにゃ〜。
14 桃城 武1票  まぁあんまし絡んでないっすからね。頑張って下さい。
15 海堂 薫0票  0票…だと…?桃城に負けてんじゃねぇか…!!



総投票数は242票でした!

たくさんのご投票、コメント有難う御座いました^^










 「幼馴染の役割は、側で支える事でしょ?…支えてやるよ、全力で。   この話が面白かったら俺を押してよね」