フラッシュバック











強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合に、後になってその出来事が、




突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、同様に夢に見たりする現象。













「ゃ………っいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」



!?」











鮮明に見える景色を霞ませながら、私は一気に意識を手放した。































































The reason for being.

     The value of being.






  ――6th.

































































あの日は、雨。



風は無かった。







ただ、ただ何度も冷たいものを抱えていた。


否、冷たくなったものを。






大事な、大事な………………
















私が唯一、愛した人。
















………ねぇ、目を覚ましてよ。



名前を呼んで。



声を聞かせてよ。



俺のために歌えって、言ってよ。










ねぇ――――――……












































































「…………」





目を覚ますと、そこに忍足はいなかった。


時計を見る。3時間近く寝てたのか、後15分で4時間目が終わる。




………まだ保健の先生は、いない。




この学校、保険医本当にいるの?







「………」





私は手のひらをぎゅっと握り、保健室を後にした。





































































…広い。



ここ、どこよ?







「これだから金持ち学校は……あー、嫌だ嫌だ」







中等部を抜け高等部を抜け、さらにその奥に庭園らしきものがあった。



此処に来るまでに、校舎の抜け道を通ってみたり、鍵のかかってる扉を乗り越えてみたり、



とにかく、人が来ないことは確実だと思った。






「……いい風」





庭園の真ん中に、大きな桜の木がある。


夏の終わりのこの時期は緑の葉っぱが生い茂っている。毛虫は、いないな。






私は軽やかに桜に飛び乗り、太い枝に座って葉っぱ越しの空を見上げた。





静かに木漏れ日が揺れる。


私は幹に身体を預けて、静かに瞳を閉じた。








(………忍足に、告白、されたや)








解らない。


どうして、アイツの存在が重く圧し掛かるんだろう。






……あの人に、似ても似つかないのに。





どうして、あの人を思い出すんだろう。








(とにかく、頭を冷やそう)






私は深い眠りに着こうとして………














「おい、そこで何してやがる」










下から、声がした。








(この声……跡部?)






何で跡部がこんな所に……


思ったが、眠りに着こうと決め込んでいた私は狸寝入りについた。






「…チッ、寝てんのか」






いつでもアンタの思い通りになると思うな?






「忍足が必死に探してんのに、何気楽に寝てんだコイツは…」






探してる?


ああ、勝手に抜けてきたからな。






「…にしても、アイツ今回はマジだな」






クク、と笑う声が聞こえる。


…独り言多いなぁ…寝させてよ。







「…………」





ん? 今、なんか振動きた。


同時に、ギシッと桜がしなる音がする。






(……何で登って来るかな…)






すぐ側に、人の気配。


多分跡部は、私が座ってる枝より少し下の枝に立っていると思う。


左手で腰を支えられて、私の顔のすぐ横で幹に右手をついているのかな。


目ぇ開けてないからホントのとこは解んないけど、多分粗方あってる。






私が、そんな風に冷静な状況判断をしていた瞬間。







「………」






唇に、やわらかい、感触。



何度も何度も降ってくるソレに、私は目を開けて跡部の胸を軽く押し返す。






「起きたか?」


「…何してんの?」


「あーん? 眠り姫には目覚めのキスだろーが」


「許可してない」


「言ったろ。拒否権はねぇ」






……もうこの男どうしてやろう。


すると跡部はさらに調子に乗って、私のネクタイをするりと外した。





「あのさ、ここまで来たらさすがに拒否権云々関係ないよ?」


「ここまでもどこまでもねぇ。俺様の前でお前には拒否権なんて存在しねーんだよ」


「じゃぁもうどうでもいいけど、何でアンタがこんな所にいるわけ?」


「後ろからつけてきた」


「最悪」






シャツのボタンが3つほど外され、一日経ったアザが黒い顔を覗かせた。







「暴れるんじゃねぇぞ。落ちても知らないからな」



「……………」







跡部の唇がそのアザに触れる、ほんの一瞬、前。







「―――!」







私は、両手で跡部を押し返した。


しっかりと身体を支えている跡部がそれで落ちる訳も無く、







跡部が目を見開いた時には、私の身体は半分落ちていた。











「…私を――嘗めんなよ」









何が起きたか解らない跡部は、はっとして下を見下ろした。





っ……!!」







すとんっ。


そんな軽い音を響かせて、私は軽やかに着地する。








「何で二日連続脱がされなきゃなんないのよ、面倒だわ」








外されたボタンを留めなおすと、まだ木の上で呆然としている跡部を見上げた。









「悪いけど、私貴方に興味の欠片も無いの」







そして、庭園を後にした。










「………興味の欠片も無い、か…」







庭園には、跡部の笑い声だけが響いた。
















































































さて、どこに行こう。



忍足にも跡部にも見つからない場所。







……………って、どこ?



むしろこの学園内にそんなものありますか?







「無さげー………だよね」








…………あ、一つだけあった。





















































「……何があったか知らんが…避難か」


「うん、避難」





音楽準備室。


そう、この学園には、太郎さんという避難所がある。





「私に聞けることなら、聞くが?」


「…んー………」






太郎さんのピアノに耳を傾けながら、机に伏せる。





「『好き』っていう感情について考えてた」


「ほう、中々深い題材だな」


「考えてたら、何故神様は『男』と『女』を作ったんだろうって議題に行き着いた」


「………深いな」








神様は、男と女……アダムとイヴに、恋をさせたかったの?



違う。だったら知恵の実を喜んで食べさせたはずだ。






最初に作られたのは、アダム。男。


そしてアダムの骨から作られたのが、イヴ。女。


2人は何のために作られた?







「…………ああ、そういう事か…」


「何か解ったのか?」









「人は寂しいから……他人を求めるんだよ」









私は、寂しくなんか、




無い。








「寂しいから、他人の温もりが欲しくなる。独りが怖いから、側に誰かがいて欲しいんだよ」


「ほう……?」







「私は寂しくなんかない。独りだって怖くない。…他人の温もりなんか、いらない」







いつか失くすくらいなら……そんなもの、いらない。









「……だ、そうだ。





 …――忍足」







「え……?  !!」









がたん、と音がして、私はピアノの向こう側にある棚を見つめる。




後ろから出てきたのは―――忍足。









「…太郎さん、裏切ったのね?」


「私は別に、『忍足から逃げている』等聞いていないが?」






…はめられた。






……」


「何? 私の本音が聞けて満足した? だったらもういいでしょ」


、そんな言い方は無いだろう」


「太郎さんは黙ってて」





私の言葉に、太郎さんはピアノを止めた。






「…が嫌なんやったら、俺は必要以上に近づかんよ。


 の言う通りや。寂しいから、怖いから、他人を求めるんやと俺も思うで」



「………」



「けどな、それは誰でもええワケや無い」



「は…?」











「俺はやないと嫌やねん」











―――――――――……







「……!?」


…?」









何、これ、


信じらんない。






顔、熱い。



ちょ、ちょっと……心臓ウルサイって…。








「…保護者の前で告白とは、いい度胸だな。忍足」



「げ」





太郎さんは忍足にそう言うと、私の様子を見て微笑んだ。














「……どうだ




 ――テニス部のマネージャーになってみては?」









「……………………は?」




















一気に、熱が引いて、











青ざめた。



























































TO BE CONTINUED.......









 「、マネージャーなってくれん?   この話が面白かったら俺の事押してな」