激しい絶望感が襲う。


いや、喪失感、だろうか。


足元が一瞬で崩れていくような、ただ、現実を認めたくなくて、あがく力もなくて。





「幸村……」





仲間の声が遠くに聞こえた気がした。


病魔に打ち勝って臨んだ全国の舞台、立海の優勝をかけた勝負で俺は、―――負けた。





「…ごめん、負けちゃったよ」


「…そうだな」





いつものように微笑んでみせると、真田はそれだけ言ってベンチの荷物をまとめ始めた。


…殴られるつもりだったんだけどな。





「…ねぇ真田、覚えてる?」


「何をだ」


「…俺が入院していた病院の、…あの子」


「……ああ」


「会いたいな。なんだか今すごく、…会いたいんだ」





今あの子がいたら、こんな俺になんて言うかな。


きっと怒るだろうな。その次は対戦相手の悪口とか言い始めて、だけどきっと…最後には「お疲れ様」って、言ってくれるんだ。


…なんて、おかしいかな?


君はもう…―――いないのに。























































































< バニラ・フレーバー >

























































































急に、身体の力が抜けて、その後すぐに激痛が走った。


切れ切れに聞こえる声や感覚で、仲間が走り寄ってきて自分に声をかけているのが解った。


その日のうちに入院して検査。結果は、いいとは言えないものだった。





「…………」





なかなか思うように動いてくれない身体を引きずりながら、俺は毎日病院内を歩き回っていた。


手術の日取りはまだ決まらない。だけど動いていないと余計に身体が固まっていきそうな気がして、俺は時間があれば歩いていた。





「……っ!」





調子よく歩いていても、それは発作的に現れては足や支えている腕をさらい、俺を地に這いつくばせる。


その度につのる苛立ちが、俺の中で限界に近づいていた。




「…くそっ!!」


「ひぁっ…!?」


「!」





ひと気の無かったはずの廊下に、そんな声が響いた。


すぐ目の前の曲がり角から、女の子がこっちを見て驚いた顔をしていた。





「あ、の…大丈夫?」


「………」


「立てないの?あたし看護師さん呼んでくるよ」


「あ、いや」


「じゃぁこれ持ってて!」





そう言ってその子は、手に持っていた何かを俺にずいっと差し出した。


目で見るよりも早く、鼻先に香るバニラの匂いでそれがアイスだと認識させる。





「食べかけだけど食べていいよ。甘いもの食べるとイライラも飛んじゃうでしょ?」


「え……」





顔を上げると、もう彼女は走り出していて声は届かなかった。


俺は手渡されたカップに視線を落とし、スプーンでバニラを一口頬張った。





「………甘い」





多分売店で買ったであろうそのバニラアイスは、特別美味しい味ではなかった。


だけどなぜか、その味は身体に染み渡っていくかのように優しくて。





「甘いものはイライラを飛ばす、か…」





彼女の言葉通りだ、と苦笑しているうちに、心が軽くなった気がした。


そのあとすぐに看護師さんが来てくれて、俺は車椅子で病室に送り返されたけど、そこに彼女の姿はなかった。





「あの…さっきの子は?」


「ああ、ちゃん?検査の時間だったからもう部屋に戻ってるんじゃないかしら」


「そう、ですか」





それが、俺と彼女の。…との出会い。


次の日、俺はに会いに、またあの廊下まで歩いていた。


相変わらずひと気はなくて、彼女の病室を探そうかと思った矢先に、背格好の似た後姿を見つけて俺は声をかけた。





「…ねぇ、ちょっといいかな?」


「ん…?あ、昨日の!」





振り返りこっちに駆け寄ってきた彼女からはまたバニラの香りがして、見ると手にはアイスのカップが握られていた。





「昨日大丈夫だった?ごめんね、あの後行けなくて」


「大丈夫、有難う。昨日はさん検査だったんでしょ?聞いたよ」


「え…あー看護師さんに聞いた?」


「うん」


「そっか…」


「……知られたくなかった?」


「えっといや、そっちでなくて…じゃなくて、名前はいいの!全然!」





複雑そうな顔から一変して、不自然なまでの笑顔を見せる。なんだかおかしくて、俺もつられて笑った。





「ってか、さん付けとかいらないよ?あたしもそうするし。名前、なんていうの?」


「俺は幸村 精市だよ」


「おっけ、精市ね!…今日はイライラしてない?大丈夫?」





おずおずと俺の口元にスプーンを運ぶ。昨日は驚かせてしまったからだろうその仕草が可愛くて、俺はそのままスプーンを口に含んだ。





「…これで大丈夫」





そう言って微笑んであげると、も同じように微笑んでくれた。


その時の俺はそれだけでなんだか幸せで、彼女といると身体の動かない苛立ちは起こらなかった。










それからというもの、俺は毎日と会っていた。


その日も二人で病院の中庭に出て、芝生の上に座って二人の事を沢山話していた。





「今日ねぇ、ロビーでテニスバッグ担いでた人たち見たよ」


「ああ、それは俺の部活の仲間だよ」


「なんだ、じゃぁ精市の部屋探してたんだ。

 受付でなかなか場所教えてもらえなくて大変そうだったから、あたし連れて行ってあげればよかったね」





の気持ちは嬉しかったけど、なぜだかテニス部のみんなにを会わせるのを戸惑う自分がいた。


独占欲、なのかな。特に仁王とか危険だし。





「そっかー、精市テニスするんだね。早く退院してまたテニスできるようになったらいいね」


「……は?」


「へ?」


は入院する前、何かしてたことあるの?」


「あたし?あたしは何も無いよ。部活だって帰宅部だしー、習い事とかもしたことないしー…。

 …もうずっと入院してるから、最近じゃ誰もお見舞いになんか来てくれないしね」





だから一人で部屋にいてもつまんないからいつも病院内を遊び回っているんだ、と彼女は付け足した。





「…聞いていいかな?」


「さっきからいっぱい聞いてるじゃん。どしたの、いきなり改まっちゃってー」


「………は、どうして入院してるの?」





瞬間、の笑顔が固まった。どんどん笑みを解いていくその表情を見て、俺は聞いてはいけない領域を侵してしまったことに気付いた。





「あ…ごめん。聞いちゃまずかったかな」


「あたし、心臓が悪いの」


「え…」





ふと彼女の顔を見ると、苦笑いをしながら、すでに空になっていたアイスのカップを覗き込んでいた。





「だけどね、どう悪いのかよく解らないんだって!よく解らないって何だよって感じじゃない?」


…」


「あれだよ、医者がさじ投げたーってやつ。あ、でもね、みんな一生懸命治療法探してくれてるんだよ!」


「…そっか」


「だからあたしね、絶対に破っちゃいけないルールを作ったんだ」


「ルール?」


「……悲観的なこと考えない、弱音をはかない。あと、いつも笑顔でいること、とか…

 それと、『絶対に泣かない』」





そう言った彼女の横顔は、悲しさとか、寂しさとか、そんなものは微塵も感じさせないくらいに強いもので。





「だってさ、そんなの失礼じゃん!あたしのこと助けようって思ってくれてる人、たくさんいるのにさ、本人が暗ーいままでいたらさ、ね?」


「…は、強いね」


「そんなことないよ。周りの人が優しいだけ。…お母さん達がお見舞いに来ないのも、あたしのために必死で働いてくれてるの、知ってるから。

 だからあたしも、頑張れるんだよ。ひとりじゃないって、ちゃんとわかってるから」


「………」


「…まぁ、でも暇だからちょこちょこ遊び回ってるんだけどね」





くすくす笑うを見ていると、自分の不安とか、そういうのが薄れていくのが解る。


俺は手術の日が決まって、本当に治るのか、そんなことばかり考えていたから。





「…精市も、ね」


「え?」


「精市もあたしの支えの一部なんだよ」


「…





ちゃーん!検査の時間でしょー!」





口を開こうとしたその時、入り口の方から看護師さんの叫ぶ声が聞こえた。





「はーい!…じゃぁ精市、あたし行ってくるね。一人で戻れる?入り口まで一緒に行こうか?」


「…大丈夫だよ」


「そっか。じゃぁ、またね!」





芝生から立ち上がってその場を去っていくの後姿を、俺は見えなくなるまでずっと見つめていた。


彼女の残り香…バニラの香りに包まれながら、俺は心の中で言えなかった言葉を呟いた。


『俺も、が支えだよ』











そんな日々が続いたある日。


病室で眠っていたときだった。誰かの話し声が聞こえて、俺はゆっくりと意識を覚醒させていく。





「もう、テニスはできないだろうね」





それは、毎日のように聞いていた主治医の声で。


それは、紛れも無く自分の話で。


一瞬で、


それが現実だと、認識した。





「精市ー?だよー?」





どれくらいの時間が経っただろう。外からの声が聞こえた。





「精市?…いないのかなぁ」


「今日は…帰って」


「!…どうかした、の?具合悪い?」


「悪いけど…俺の事は放っておいてくれないか」


「…ねぇ精市、お願い、顔見せて?」


「帰ってくれ!!」





鍵をかけているわけじゃない。だけど、は許可も無く入ってくるような子じゃないことは理解していた。


だけど、扉はふいに開いた。





「!!………真田」





身体を起こし見ると、扉の前にいたのは真田の姿。はその後ろで、不安そうに真田を見上げていた。





「らしくないな、幸村。女にそのように声を荒げるとは」


「……」


「あ、あたし気にしてないよ?邪魔なら…あたし病室に帰るし…」


「真田、





踵を返そうとしたを止めるように、二人の名を呼んだ。





「…こっちに来てくれないか」





俺がそういうと、真田に続いても扉を閉めてベッド横の椅子にかけてくれた。





「…それで、一体どうした。何かあったのか」


「精市…?」


「………だって」


「え?」


「……もう、…テニス、できないんだって」


「!!」





自分で言葉にすると、その事実を自分が納得したように思えて胸が痛んだ。


二人がどんな顔をしているのか…それさえも見れないほどに。





「…テニスができなくなったら…俺はどこに帰ればいいのかな?何をしていればいいのかな?」





思考と発言は同時で、考えたことがすぐに言葉になる。





「だったらもう、手術だって受ける必要ないんじゃないか?テニスができないのに、そんな手術、無駄じゃないか」





自問自答でしかないそれを、俺は止めることもできずにいた。





「…無駄って、なに?」





遮ったのは、の、とても冷たい声。





「手術をするのが無駄?テニスができなかったら何するのも無駄なの?」


「………」


「…だったら、間に合うか解らない治療法を探しているのも、無駄?」


「!!」


「無駄なの?何て病気か解らないあたしの治療法を探してくれているお医者さんも、

 入院費やいつやれるか解らない手術費を稼いでくれてるお母さんやお父さんの苦労も無駄なの?」


…」


「精市はずるいよ!!」





勢いよく席を立ち、座っていた椅子が転げようとも気にせず、は涙がいっぱい溜まった瞳で俺を見ていた。





「精市は手術できるじゃん!!もしかしたらテニスができなくなるのかもしれない、でも生きていられるじゃん…!!」


「…っ…」


「今だってまともに動けないくせに、今だってテニスできないくせに、どうして可能性にかけないの!?

 手術すれば今よりはきっと動けるし、精市が頑張ればまたテニスができるかもしれないのに!!」


「お、おい…」


「あたしもね、言われたよ?『新種の病気です。治療法が見つかりません。このままだと助からないでしょう』って…!!」


「…一旦落ち着け、身体に障る…」


「でもあたしは信じたよ!?きっと助かるって、今にきっと治療法が見つかるって!…あたしの命は間に合うって!!」





初めて見た、の涙。


初めて聞いた、の弱音。





「貴方には可能性があるのに!!…なのに精市は…精市はずるいよ…っ!!」


「っ!!」





そのまま、は部屋を飛び出してしまった。





「…………」


「あの子は、それほど重い病気なのか」


「…ああ」





その瞬間、




―――パァァァン……!!





「…!!」





右頬に痛みが生まれて、視界がぶれて、





「そんな子にあれほど叫ばせて…お前は一体何をしている」





やがて、真田の制裁をくらったことに、気付いた。





「お前らしくも無い。やる前から諦める等、笑止千万だな。そんな腑抜けた心意気では、到底病には打ち勝てん」





真田は席を立ち、倒れた椅子を戻すと荷物を担いだ。





「…今日は帰る。…お前も、あの子に言わんといかんことがあるのではないか?」





扉まで行くと、真田はふと立ち止まり、振り返った。





「…仮にな、…仮にだぞ?…お前がテニスのできん身体になったとしても、だ。…俺たちは変わらずお前の帰りを待つ」


「!!」


「お前はテニスに関わって生きていくべきだ。コーチでも監督でもなんでもいい、必ず俺たちの元へ帰れ」


「真田……」


「で、ではな」





それだけ言うと、気恥ずかしそうに部屋を出て行く真田。


その途端だった。





「お、おい!!どうした!?」





真田の慌てた声に、何事かと俺も壁伝いに病室を出た。


そこには、





「あっ…ぅ、っは…ぁ…っ…!!」


ちゃん!?しっかりして!!」





床に倒れ、苦しそうにもがくと、医者や看護師が、いた。


俺は自分だけが時間が止まったように感じる中、ただ、が運ばれていくのを見ているしかなかった。


は、


の身体は、


……限界だった。





聞けば、初めて会ったあの日…俺のために看護師を呼んでくれたとき。


あの時もそうだ、走って呼びに行ってくれて…その後、本当は発作を起こしていたらしい。


今回もあれだけ叫んで、走って、…何も起きないはずがない。


俺は二度も、の寿命を縮めていたんだ。
















その夜、意識が戻ったに、特別に面会許可が出て車椅子で会いに行った。





「…





初めて入ったの病室は、質素で、何も物を置いてなくて。


目がうつろなの口元で、酸素マスクだけが静かな部屋に音を響かせていた。





「せー、いち…」


「喋らなくていいよ、顔、見に来ただけだから」


「…………」


「…ごめんね」


「え……」


「俺のせいで…ルール、破っちゃったでしょ」





悲観的にならない、弱音をはかない、…泣かない。





「ううん…あたしこそ…酷いこと…」


は悪くないよ。俺が間違ってた、ごめん」


「……ねぇ、精市……あたし…あたしね…」





差し出された手を取り握ると、も力強くそれを返した。





「ほんとは…すごく…すごく怖いんだ…」





流れ始めた涙をすくってやると、はゆっくりと目を閉じた。





「死にたくない…生きていたい…っ………発作のたびに、ほんとは怖くて怖くてたまらなくなるの…」





…どうして、自分はこの子を助けてあげられないんだろう。そんな事を考えていた。


だけど、俺が…俺が諦めなかったら?可能性にかけてみたら?


は…喜んでくれるんじゃないか…そんな風に思った。





「ねぇ、……」


「ん…?」


「俺、が好きだよ」


「…へ…?」


「手術、受けるよ。受けてリハビリして、自分の足で立って、歩いて、それでのところに行くから。

 …どれだけかかるか解らない。けど、は待っててくれるよね?」





尚も呆然とした顔で、は俺を見つめ続けていた。





「返事はその時に聞かせてほしい。……約束」





小指を差し出すと、は拳をぎゅっと握った後、その小指を俺のと絡めた。





「うん……頑張ろ、ね…お互いに…」


「ああ…」





そうして、俺は手術を迎えた。


仲間達がコートで戦う中、俺も、もまた、戦っていた。


手術は無事成功し、あとは俺のリハビリ次第ということだった。


があの日言っていたように、確かに身体は手術前よりも動いた。


俺は毎日毎日リハビリを続け、その間はには会わなかった。


自分の足で彼女の元へ行けるようになるまでは…それが約束だったからだ。


おかげで俺はなんとか日常生活が送れるレベルにまで回復し、遂に退院の日を迎えた。


ようやく…ようやくに会いにいける。





だが、そこにの姿はなかった。





「どう、して…?」





の病室はきれいに片付けられていて、少なくとも昨日今日出て行ったようには見えなかった。





「…あ、…幸村君…」


「!あの、は…?」





丁度通りかかった看護師さんに聞くも、その表情は浮かない。





「…ごめんね、個人情報の保護の問題で…私たちの口からは何も言えないの」


「それって……」





逃げるようにその場から立ち去った看護師さん。


俺はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


退院した?それなら一言、いや、せめてメッセージとか、伝える手段はいくらでもあったはずだ。


それなら…は、もう………





………っ…」





どれだけ呼んでも、病室から彼女が出てくることは無かった。







































































あの時に似た喪失感を感じる。


ねぇ、…負けちゃったけど、俺、ちゃんとテニスができるようになったんだよ?


この姿を誰よりも君に見て欲しかったんだ。


告白の返事とかもうどうでもいい、ただ君に会いたい。声が聞きたいんだ。





「幸村、いつまでそんな顔をしている。また殴られたいのか」


「…まさか。一回で充分だよ」





「幸村部長、真田副部長に殴られたってマジ話だったんスね〜…」


「まぁ、そのおかげで幸村が帰ってきたと思えばいいんじゃねぇーの?」





毎日、毎日君に祈りを捧げてるんだ。


約束より、最期に君の側にいてやりたかった、とか。


話したいことはたくさんあるのに。


ねぇ、


こんなに会いたいのに…










「―――ねぇ、知ってる?」










その時、ふいに鼻を掠めたのは…―――バニラの香り。





「甘いものって…イライラ以外も吹っ飛ばしてくれちゃうんだよ?」





その香りの先を振り返り、そこにいた人を俺はまっすぐに見た。





「…知ってた?」





変わらない、無邪気な声で、





「…………」





バニラアイスのカップを、俺に差し出して、





「…………?」





笑って…





「…ただいま。せーい、ち…っ」





の言葉を待たずに、俺はその小さな身体を抱きしめた。


部員たちの目も、アイスが地面に落ちてしまっても、気にせずに。





「ちょっ…精市、苦し…」


「今まで一体どこにいたんだ!!…俺がどれだけ悲しんだか…解ってるの…?」


「…ごめん…」





身体を少し離すと、は俺を見上げて微笑んでくれた。





「丁度、精市が手術をしているとき…見つかったんだ。あたしの治療法」


「!」


「アメリカの、すっごい有名な先生がね。あたしの症状に酷似した病気があるから、同じ手術で治せるんじゃないかって。

 でもすっごい難しい手術だからその先生しかできなくて、アメリカに行かなきゃいけなかったの。

 だから精市の手術が成功したって知らせを待ってからすぐに、アメリカに発ったんだ」


「どうして…教えてくれなかったんだ…?」


「…ほんとに難しい手術でね。ぶっちゃけ生きるか死ぬか、みたいな…心配かけたくなかったし」


「そのおかげ様で俺は君が死んでしまったのかと勘違いしたよ。その辺り何も考えなかったのかい?馬鹿


「ごめんってば…。そ、それでね?必ず成功させるように…精市との約束、勝手に変更しちゃったの」


「変更…?」





「必ず、テニスをしている精市のところに帰る、……って」





微笑みながら、その瞳には涙が溜まり始めていた。





「…試合、ずっと見てたよ。すっごい強かったじゃん、怖いくらいにさ。なんか話聞いたけど、相手がテニスしたくなくなるようにするんだって?

 駄目だよ、せっかくテニスできるようになったのにさ、もっと楽しんでやらないと」





ああ、そうだ、はこんな風に怒ってくれて、





「でも相手の子も強かったよねー…なんかこれも話聞いたんだけど、何とかの極み?だっけ?あれずるくない?ありなの?」





相手の悪口とか言い始めて…





「でも、素人目から見てもすごい試合だったし…二人とも強かったよ、あたしにはどっちが勝つか全く読めなかったもん。

 …負けたっていいんだよ。これから精市はいくらでも試合できるんだから」





でもきっと、言ってくれるんだ。





「……好きだよ、…精市」


「え……?」





予想と違うセリフに、一瞬俺は理解できなかった。


けどすぐに、その意味がわかって、


…たまらなくなった。





……」


「えへへ…」





もう一度抱きしめると、今度はも腕を回してくれた。





「はじめの約束だってちゃんと覚えてるんだから」


「うん…有難う…」


「…ねぇ、精市」





は少し背伸びして俺の耳元で呟いた。





「………おつかれさま」





地面に落ちたバニラの香りが、今もまだ鼻先を掠めている。


もう俺はどうしようもなくこの香りに虜にされてしまっている。


この香りを纏う…彼女に。






























































end.



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漫画を実家に忘れてきたので精市の手術前後の話をよく覚えていませんwww

ごめんなさいwww

医者の「テニスができない」発言が手術の前だったか後だったか…そんな重要なポイントを忘れてしまうという馬鹿です。ぶぁかです←

色々食い違っていてもそこはドリームクオリティということでお許しくださいwww



というわけで如何だったでしょうか??『バニラ・フレーバー』幸村様です。部長です。

突発的に思いついたネタなので夜中に書き始めて気付いたら日が昇っていました←

そして3日間熟成させて(どこの漬物レシピwww)本日蓋を開けて最終チェックしました。

幸村夢は始めて書いたので、またよろしければ感想などいただけると嬉しいです^^

あ、前後関係のツッコミはなしの方向でwww^^

ではでは今回はこの辺りでおいとましましょう、また会う日まで。。。